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息子の暴走は30分ほどで止まり、城の方向が静かになった。

今度こそ届くかな? と念話ぽいぽい。


『おーいむすこー』

『……おやじ?』


べそ、という泣き声が聞こえた。

ええ、泣いてんの!?

俺の息子を泣かしたのはどこのどいつだ!!!


『どうした、男が泣くもんじゃないぞ?』

『だって……だって、ぼく……』


いつもは俺とか気取る息子なのに、僕になってるってことは相当きてるらしい。

泣く息子をなだめ、とりあえず近くの森まで来ていることを告げると、息子がべそべそと泣き出した。

完全にあかんやつだった。


まぁそりゃそうだった。

10歳なのに貞操の危機に陥って暴走って相当だったわすまん。


『とりあえず身体は大丈夫なんだな?』

『だいじょうぶ……腕輪、壊れちゃったけど。こんなのいらないやつだし。念話できないし、城から出れないし、リリには会えないし、もうやだー、やだーーー!』

『落ち着け息子!!!』


色々駄々洩れになっているが、まぁ半分パニックなのだろう。

また城の方でぴかっと光った気がするけど、許容範囲ということで許してもらおうそうしよう。


「とりあえず器物破損系は俺がどうにかするしかないなぁ……」

「?」


まだべそべそ言っている息子に対してぼやくと、突然呟いたことにリリアちゃんが首をかしげる。

あ、念話は俺にしか通じないやつだったわ。


『とりあえずそこにいると色々めんどうなことになりそうだから一旦合流しよう』

『うん。親父どこにいるの?』

『近くの森にいるー。城から西の方』

『スネーク君使ったの? わかった、そっち行く』


これで息子はまっすぐこちらにやってくるだろう。

ある程度まで近づけば、勝手に俺の気配を察知してくるので何も問題はない。


『あ、そうだ、ついでにちょっと服買ってきてくれ』

『服? なんで?』

『なんでって……さすがに女の子の服は手持ちにないんだよ。この子かなりちっさいな』

『!?』


あれ? そういえば俺リリアちゃん保護したこと言ったっけ?

あ、言ってないわ。


『……リリがそこにいるの?』

『おう』

『なんで?』

『なんでって……その、助けたから?』


襲われてたから、とか言ったらなんかやばそうな気がするので濁す。

だが勘のいい息子は何か分かったらしく、勢い込んだ返事が返ってきた。


『……わかった今行くから待ってて!!』





30分後。

リリちゃんはタックルしてきた猫獣人に泣きつかれました。






「息子よ親父を総無視とかひどくない?」



さらに10分後。

特に怪我がないことをようやく理解した息子は、俺に向き直っていた。

リリアちゃん?

息子の膝の上です、犯罪臭半端ない。

息子のが年下だからセーフと言いたい。



「うぅ……ごめんなさい」

「まぁ冗談だよ。ちょっと服が破れてるのは勘弁な、服以外は触れさせてないから安心しろ」

「うん」


女の子の腰にぎゅうぎゅう抱き着いている息子はこっちを見ていないが、まぁ泣き止んだので良しとしよう。

それよりも息子よ。

めっちゃ素直に俺に謝るとか幼児逆行している感じだけど大丈夫か?

嫁呼んだ方がいい? むしろ帰る?


あ、なんか行く前から問題起こして帰るんじゃねぇとか騒いでるダグさんを幻視した。

丸投げるなってことですねわかります。


「とりあえずどうすっかなー。リリちゃん連れて行くと誘拐犯になっちゃうし……」


個人的には何も見なかったことにして帰りたいところだけど、木にはりつけたまんまの犯人どもがいるから放置はあかんだろうし、そもそもが城壁ぶっ壊した息子がいる。

賠償問題に発展するのは間違いないので無視して帰るってわけにもいかないよねー。

そもそも俺はまだここにたどり着いてない(筈な)んだけどね!


「でも、帰したところでいい様に扱われるのは目に見えてんだよなぁ……」


そもそもが意思を総無視して襲った相手が悪いともいえる。

向こうは誘惑されただ許可されただ言うだろうが、誘惑して拒絶して城ぶっ壊すってそれどんなサイコパス。


「ちなみに壊れた腕輪は回収してきたんだろうな?」

「もちろん。そのあたりは抜かりはないよ」

「それでどうして無抵抗になるんだか……」

「だって、リリの命が危なそうで加減をミスれないから怖くて……」


王女が城内で死にかけるってどんだけやねん。

脅迫されていたことはどう考えても証明できそうであるが、それはりりちゃんが安全じゃないと成立しない案件なんだよなぁ。

息子的には向こうにリリちゃんを確保されると嘘をつかざるを得なくなるので、このまま帰すという選択肢がまるで取れないのである。

どうにもならん。


「いっそ熊にでも襲われたことにして死んだものとして……」

「この森に人を襲うような動物は出ませんが……」

「あ、そうなの?」

「はい」


それはそれで面倒だなぁ。

つーか、そんなたいそうな森なのここ?


「その……ここは王家の森ですから一般人は立ち入りが……」

「あー」


え、それであの男たち悠長に森のど真ん中に事に及ぼうとしてたの?

門番とかいるのかもしれないけど超グルじゃん。

どうして王家管轄の森でそんな無茶が通ると思ったんだよ。

あ、そもそも無茶なのは最初からだったわ。


「その……見えないかもしれませんが、あの方々は貴族の息子とその従者なので婚姻したとかそんな風に決着をつける気だったのではないかと……」

「え、めっちゃ木に括り付けてきちゃったけど大丈夫なの?」

「死んでいなければ大丈夫だと思います!」


大丈夫じゃないと思うけど、そこまでの意見を12歳の女の子に求めるのは酷か。

つかたぶん、獣人排除の貴族なんだろうね、あの男ども。

それで襲えるってどんだけだよとか思っちゃうけど、それがまかり通る国なんだね滅べ。


とりあえず顔も見られてることだし、あれを放置するのもダメなんだよなぁ。

うーん。


「何もいい案が思いつかんから、とりあえずあのバカどものところに戻るか。トール、殴ったり半殺しにはするなよ? OHANASHIしないとあかんからな?」

「うー……」


うなる息子に不安を覚えつつも、貴族とやらをどうにかしないといけないので俺は来た道を戻ることにした。

森の中で野営とか、王女様にできるのかな? と思いつつ。

まぁいざとなったらいったん家に帰ろうと俺はニナもカードから呼び出して森の奥へ向かうのだった。




数分後。

まさかの事態に頭を抱えることになるとは考えもせずに。





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