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ためしに息子に念話を飛ばしてみたが、帰ってこなかったので俺は森の中で女の子と二人考え込んでいた。

セレスに乗せてのんびり戻ってきながら説明を聞いたところ、やはりというかなんというか、女の子はこの国の王族の娘であった。


「ええとあなたは……?」

「俺? 俺はトールの父親」

「え、え、かの有名なサレス様ですか!!」

「有名かは知らんけどサレスだよ。顔のつくりは嫁似だから息子のがイケメンだけど、目元とかは似てるだろ?」

「あ、はい。というか雰囲気が似てらっしゃいます」


そうだねー。横に並ぶと親子にしか見えないらしいから説明省けて助かるよね。

それよりもかの有名なってどう有名なんだろうねそっちの方が気になる。


自己紹介を終えた後事情を聴いてみると、息子の暴走っぷりが明らかになった。


この犬の獣人の女の子の名前は、リリア。

この国の獣人差別を緩和しようと迎えた側妃から産まれた娘であるが、一部の貴族からは嫌われており、中でも正妃の娘からは虐げられて過ごしてきていた。

王は彼女を気遣っていたため表立った差別があったわけではないのだが、そもそもがこの国の王族はなかなか生まれにくいらしく、正妃の娘が王太子候補であったことが色々問題になった。

年齢はリリアのほうが下だが、獣人嫌いの正妃の娘が王太子になるとせっかくの緩和政策が無駄になるということでリリアを推す貴族もそれなりにいる。

そのため王宮内は敵だらけ、特に王位に興味がなかったリリアは目立たないようひっそりと暮らしていたらしい。


そんなところにやってきた息子、開口一番が酷かった。

会って数秒でリリアに求婚しちゃったらしい。

一目惚れかよ! さすが息子やること極端だな!?


「それで……トール様が王配になるのであれば、私が王位を継ぐべきだという声が激化しまして……」

「まぁ息子、一人でこの国くらい支えれちゃうからそうなるよねえ」


あの子頭脳派だからな。

リリアが望めば国の発展もさせるだろうし、俺をも使ってくるであろう。

俺も息子かわいいからなんだかんだ手伝うだろうし、まさに息子の求婚は水面下の王位継承争いに対しての爆弾投下に他ならなかったんだろう。


「それを聞いた姉上が……」

「うん」

「トール様にふさわしいのは私だと……」

「いや、獣人の嫁命を馬鹿にしすぎだよね? ありえないよ?」


きょとり、と目を瞬かせる彼女は獣人の本能について知らないのだろうか。

自信なさげに目を伏せる様子に嫁の昔がよぎり、話の続きを聞いてみると不穏なことがわかった。


「そう……なのですか?」

「うん。あの子、誘惑とか一切効かない子だからその姉上が何をやっても効かなかったと思うよ?」

「で、でも私は会ってもらえなくなって……姉上と結婚するって……そういう話を聞いて、私に求婚したのは気の迷いなんだと……」


はい、アウト―。

息子はおそらく必死でこのリリアちゃんに会おうとしたのであろう。

しかしリリアちゃんには会えず、それどころかリリアちゃんを盾に取られたに違いない。

王宮内であれば、おそらくリリア姉はどうとでもできる権力がある。

正妃の娘であるがゆえに、巧妙に罠にかけたのだろうと推測できる。


「その話を聞いて?」

「落ち込んでいたら……前に気の迷いで求婚された私がいると問題になるから出て行けと」

「いやいやいやいやいや、君王女だからね!? 出て行かせれないよね!?」

「出て行かないのであれば……出ていく気にさせてあげる、と……」

「怖いね君の姉上!?」


抵抗もそこそこに、あれよあれよという間に王宮内から連れ出され、馬車に乗せられてしまったらしい。

そもそもがひっそりと暮らしていたからこそ無事だったわけで、おそらく姉+獣人弾圧派貴族が幅を利かせてる部分があるんだろうなこの国。

それでも王が気づけば止められたんだろうが、ぶっちゃけると誘拐されちゃったんだねこの子……。

色々終わってんなぁ。


「しかしあんな森の中で襲うとか何考えてんだ??」

「?」

「いや、誘拐して連れ出したならもっと違うところで殺したりするもんでしょ。おねえさんが王位につくにせよ、妹にそんなことしたとなったら即位に泥がつくじゃない」

「え? いえ、目的はそこではなくて……」


青ざめた顔で言うリリアに、無神経なこと聞いたかなぁと思いつつ事情を聴いてみれば。

王位につくには、というかこの国で嫁になるには処女性が重要らしく、不慮の事故であっても正当性が損なわれるため通常は大切に守られるものらしい。

そのため、適当に襲ってしまえば脅威にはならんとしたのではないか、ということだった。

つまり妹が誘拐で襲われて処女なくしたので、トールにあなたの嫁にはなれませんと主張しようとしたってことだね。

さらに王位にも継げなくなって一石二鳥と。ちなみに王族二人だけらしいので、多少の無理やりは通せちゃうそうだ。というか通さないと、王家の威信が崩れるということらしい。



なるほど?

胸糞悪ィ。



「ちなみにリリアちゃんはおいくつ?」

「わたし、ですか? 12歳です」


おう、姉さん女房。

見た目年齢は完全逆なのに、トールのが年下かぁ。

それはそれでありだな!


「ところでサレスさん」

「ん?」

「どうみても城の壁が……派手に崩れているように見えるんですが……止めないんですか?」

「止まんないだろうねー……」



森の端で止まっているのには実は理由がある。

現在進行形で城が崩れているため、城下町がパニックになっているのが見えるからなのだ。

とはいえ、息子の魔法属性は聖。

よほどの暴走をぶちかまさない限り死人は出さないはずなので、もはや静観するしかない。


腕力でぶち壊しているであろう城の壁を見つつ、早く正気に返って念話に応えてくれんかな……と。

俺は現実逃避しながら城を見つめるのであった。




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