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イチャイチャ回!
ニックがたどり着いたので馬車で王女は護送された。
ニックによると王女は振られたショックが大きかったのか誘惑スキルも使わず大人しいものだったという。
そして干渉スキルが完全に消去されたため正気に戻った兵士多数が誘惑スキルを危険視して王女を隔離することを提案。
彼女はユニークスキルをなくしたが表向きでも誘惑スキルの悪用は問題になり、完全に隔離状態で余生を過ごすことになると聴いた。
「さすがに……かわいそうなのかねぇ」
ぼんやりとつぶやいてみるが、反撃したことに対して俺は後悔してない。
甘い対応をして後悔する方がよほどいやだ。
幽閉がどれほど重い罰なのか俺にはわからないけど、自分のしてきたことが彼女自身に返ったのだと思うことにして俺は忘れることにした。
スキルの悪用がどれほど危険なことかわかっている王は、何も言わずユニークスキル自体がなかったという認識で済ますとダグさんから伝えられた。
王族の威信に関わるため表立って咎められないのを謝罪されたが、俺としてはおおごとにならなければどうでも良い。
むしろ何もなかったことになった方がありがたいので、二つ返事で了承しておいた。
連絡ついでにまた王城へ招待されたが、こちらはさっさと断らせていただいた。
行かないよ? 絶対にだ!
そして俺はといえば、ティナとそのままランティア領へ帰る……わけではなく、ティナの故郷へ向かうことを決めたのであった。
というのも、王都に彼がたどり着いたからである。
「お久しぶりです、ディクさん」
「おう。元気そうだなサレス」
そう、ティナのお父様ディクさんである。
元々ティナの実家へ直行しなかったのは王都を通らねばいけないためだったため、ここまで来たなら行きたいという話はティナから出ていた。
そこにもともと住んでいたお父さんが任期を終えて合流したわけなので、道中も危険なしということで3人で帰ることになったのであった。
ダグさんは王都に置いていきます。
エレンさんの目線が怖かったわけじゃないです! 本当です!
「まあ、ランティア領にはまた行きたいけどね」
「でも、長いこと空けていた家も気になるのです」
「俺もティナが育った家は見てみたいかな」
ってなわけで、実家に帰省確定である。
そろそろ腰を落ち着けたい気持ちもあるし、面倒にはなるだろうけどやっぱりその、うん。
いつかは子供を作るんだろうから、それも考えたら子育てがしやすい環境に移るべきであるというのが結論だった。
もちろんランティア領も住みにくくはないのだが、やはり獣人のほうが多いためティナがモテすぎるし俺目的で来る貴族も多すぎる。
そのため若干奥地に近いのんびりした土地柄である実家のほうが子育ては向いているといわれたのである。
まあまだ17……そろそろ18だけど、若いつもりだし?
いきなり作ったりする予定はないが、やはり近所づきあいも大切だよね。
ティナがもともと住んでいた場所は、独身のディクさんがティナを育てた土地なので過ごしやすさには定評がある。
最後の夜はダグさんとエレンさんと過ごしてから俺たちは出発することにした。
「いやあしかし、えらい息子を持ったもんだなぁディク」
「うん?」
似たもの兄弟であるディクさんとダグさんがきっつい酒をのんびり傾けている。
俺はといえば酒は飲んでいないので、ティナと二人でジュースである。
エレンさんは甲斐甲斐しく給仕しつつ、こちらはカクテルを呑んでいるようだ。
「サレスが何やったか大体聞いたんだろう?」
「ああ。まあ、心配はしてなかったが想像以上にやらかしていたな……」
苦笑しながらディクさんがダグさんに酒を注いだ。
あ、はい。
常識たたきこまれた割に常識外れなことをした自覚はあるんで苦笑しないでほしいな。
「俺には危険察知との違いがよくわからんが、サレスのあれは完全に鑑定系のスキルだろ? どうにも誤魔化していたから口には出さなかったが、アレは駄目なやつだ。カレスティードに誤魔化すのに苦労したぜ……」
「!」
「前、俺にもかけてたしな?」
あー。
出会った当初にそういえばちらっとやったなちらっと。
あんな遠くからやったのに気づかれてたわけか。
「俺は出会った当初にかけられたから知ってるぞ」
「なるほど? それで必死に誤魔化してたのか」
「ああ。隷属対象スキルだぞ、とな」
「隣国じゃ確かに地獄だろうな……」
のほほんと喋っているが、内容はだいぶ物騒である。
俺は身震いすると、会話に割り込むのはやめた。
絶対に藪蛇になる。
「ねえ、サレス。ちょっと頼みたいことがあるのだけどいいかしら?」
「? なんですかエレンさん」
兄弟で話しこんでいる彼らを放っておいてティナといちゃつこうかと目線を移せば、真剣な顔をしたエレンさんが目に入った。
「サレスは鑑定が使えるのよね?」
「まあ、そうですね」
「……わたし、一つだけ知りたいことがあるの。それを調べるってこと、できるかしら?」
「しりたいこと?」
なんだろう。
俺はエレンさんにスキルを使ったことがないので彼女が何のスキルを持っているかすら知らない。
だが、彼女の表情を見るといつものような明るさはなく、どことなく暗いものを感じて俺は眉をひそめた。
「普通の鑑定持ちにはわからなかったわ。でもサレスならわかるかもしれない」
「なんですか?」
「……子供のこと」
こども?
首をかしげると、エレンさんは悲しそうに微笑んだ。
その表情はあまりに悲痛で、俺まで悲しくなってくる。
「結婚して、10年は経つの」
「ああ……」
なるほど。
不妊の理由を調べられないか、ということか。
どうなんだろう?
「えれん、おばさま……」
「サレスはティナとの子供を前向きに考えてるみたいだから、調べられるのかなってちょっと思っただけなの」
「んー……ティナのステータス的に、問題があるようには思ってなかったんで詳しくは調べてないですが……」
ちら、とダグさんを見た。
前ダグさんを見たときに気になっていたスキルがあったんだよなぁ。
アレ調べれば解決すると俺の本能がささやいてるんだけどやっていいかな。
「? なぁに?」
「恐らく原因はエレンさんじゃなくてダグさんの方ですよ」
「え?」
「前見たとき一つ気になったのがあったんで。ダグさーん、ちょっとみせてくださーい」
スキル発動に気付いたのか、ダグさんが酒をひっくり返しかける。
俺は気にせずスキルを発動すると、やっぱりあった。
称号にも気になるのはいっぱいあるんだが加護のせいでついたらしきいらなそうなユニークスキルが1個あったんだよね。
『運命の因果律』っていうユニークスキルが。
――運命の因果律。
運命神によって与えられたユニークスキル。
全体の運がよくなる代わりに、望むものに対しての運がなくなる。
運、って、ねぇ。
これユニークスキルじゃなくて呪いっぽいよね、と見たとき思ったんだよねー。
エレンさんとダグさんが望んだものが子供だとしたら、なんかこのせいだって気しかしないよね。
ろくなことしないね運命神。
「ダグさんダグさん、悪運っぽいスキル消せるか試していいかな?」
「ああ? なんか後から湧いたアレか? あって困ることはあっても嬉しかったことはあんまねーから好きにしろ」
「じゃあ失礼して」
――該当ユニークスキルの持ち主によって消去を望まれています。消去しますか?
ほー。本人が望んでも消せるんだ、なるほどな。
ぽちっとな。
「お、なんか身体が軽くなった」
「すぐにとは言わないけど、スキルが発動しなくなったから正常になったと思うよ」
「おう。ありがとな」
念のためエレンさんのステータスも確認させてもらったが、まったくの正常だったので何も見なかったことにした。
ユニークスキル地獄耳ってなんだろうね!
レベルがダグさんに追いつくというか追い越す勢いとかどんだけなんだろうね!
怖すぎて触れたくない!
「あなた……」
「ん? んん?」
ダグさんがまだ飲もうとするのを、エレンさんが止める。
ディクさんは空気を読んだのか、明日も早いから寝るぞとさっさと片付け始めた。
あ、はい。
また会えないわけじゃないし、優先はあちらですねどうぞどうぞ!
元々客間で飲んでいたので、エレンさんとダグさんが退出していく。
ふり返ったエレンさんは、きれいに微笑みながらありがとう、という言葉を残していった。
……。
客間にはディクさんも泊っているのでこれ以上はいちゃつけないんです。
うわぁぁぁぁぁぁ!
あてられたつらい。
☆
「それじゃあいきますかぁ」
「はいなのですよー!」
翌日見送りに来たダグさんに手を振られながら俺たちは王都を出立する。
ちなみにエレンさんがいなかった理由は推して知るべし。
「ここから先はそれなりに魔物もまぁ出るが、この3人なら問題ないだろ」
「じゃあゆっくり行きますかねぇ」
ちなみに馬を借りずに、荷車はセレスとニナがわふわふとおしている。
ニナもそろそろ成獣になるだろうし、落ち着いたらこの子たちのことも考えなきゃなぁ。
そんなことを思いながら俺たちは徒歩でのんびりと進んでいく。
「ねぇサレス」
「うん?」
「本当に王女に未練はないのです?」
「は?」
今更過ぎることを聞かれて、俺は首をかしげる。
確かに美人ではあったのだが、俺の趣味ではなかったので何の問題もないと思っていた。
でも、ティナには何か感じることがあったのだろうか。
「これから先、何度だって言われると思うのです」
「何を?」
「サレスという人間に、『獣人はもったいない』と」
「ティナ……」
王女の台詞は、ティナに何かを残していたらしい。
それでも反撃していたから大丈夫だと思っていたが、やはり何かあったのだろうか。
そう思いティナの表情を見ると、口調のわりには吹っ切れたような表情をティナはしていた。
「……ティナは、イヤか?」
「言われるのは嫌なのですが……逆に考えるべきなのかな、と思ったのです」
「逆?」
「そんな風に言われてしまうほど、私の旦那様はすごいのだ! なのです!」
「ふぁ?」
何を言われたのかわからず瞬くと、ティナがふわりと笑う。
「エレン伯母様に言われたのです」
「エレンさんに?」
「じゃあそんなサレスに惚れられているティナは世界で一番素敵な女の子ね! って!」
「そうか」
俺が言っても伝わらなかったことを、エレンさんがちゃんと教えてくれたんだな。
やっぱり第三者の評価は、それが信用できる人間であればあるほど強い。
この旅を最初に始めたころよりも、ティナの表情は明るい。
自分に自信がなくて、それでも踏ん張って自分の意思を通したその強さに俺は魅かれた。
だけど、今はそんなきっかけがどうでもよくなるほどに自信を持ったティナもかわいい。
うん、末期だな。
「だから大丈夫、なのです」
「うん?」
「つらい時も、イヤになった時も、ちゃんと思い出せば大丈夫なのです」
「ティナ」
「大好きなのです、私のだんなさま」
えへーと笑いながら耳をぱたぱたさせるティナを思わず抱きしめた。
いきなりの抱擁にジタバタしているが、それでも衝動が抑えきれない。
お前ら何やってんだと遠くで見ているディクさんにはもうちょっと待ってもらうことにしよう。
今はこの言葉しか俺には浮かばないのだ。
俺の嫁は世界一かわいい!!!
ということで王都編、終了!
嫁いちゃらぶが終わりましたのでいったん完結にさせていただきます!
子供編の構想はあるのですが、ちょっと時間がかかるかもしれないので気長にお待ちいただければ幸いです。
ご愛読ありがとうございました!




