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翌日。

とりあえず二度と王とは謁見しないのを前提に、今後の計画を見直してみた。


「呼び出しは受けた、何事もなく帰ってきた。じゃ、終わりませんよね?」

「終わらないわねー。こっちも落としどころを考えているところだけど、サレスは何かいい案あるかしら?」


エレンさんと向かい合い、相変わらずのお茶会である。

獣人メイドさんはきっちりと仕事をしてくれているが、興味津々なのか目がこちらに向いている。

いや、そんな期待された目で見られても前回のようなぶっ飛んだことは言わないよ?


「俺としては事情は分かったんで大人しく帰しましたーでいいと思うんですけどね」

「そう?」

「ええ。親愛もちであることを否定してくれればそれでいいです。公開したら王様ほどじゃなくても『近くにいればきっと』とかそんな風に考えて湧いてくるのは目に見えてるので、そもそも持ってませんで通してくれた方が楽ですね」

「それだとさらに有象無象が来ると思うんだけど……?」

「あんまりひどいなら隠居すればいいんじゃないですかねー」

「隠居……」


隠居ですよ?

またの名を森の奥でスローライフという。


「……できるの?」

「割と余裕で出来ますね。そこら辺の魔物は二人なら問題ないですし」

「でも、あの領の奥って結構魔境なんだけど……?」


俺は黙って肩を竦めた。

出来る理由は言いません。


問題なくない魔物とかテイムしてしまえばいいし。

まあ、文化的な生活はちょこちょこ街に戻ればいいかなって思っている。

こそっと変装してもいいかもね。


「相変わらずなんていうか引き出しが魔境ねぇ」

「上手い事言いますね」

「正直に言って、なんで喧嘩売ろうと考えるのかと思うわね。親愛持ちへの認識がそもそも甘すぎるのよこの国は。隣国の悲劇を知っているだろうに、自分の娘が嫁になれば大丈夫だろうとか考えちゃうんだもの。目先の欲にとらえられるのがもうダメね」

「隣国の悲劇?」

「悲劇よ。王族の目が辺境に届かないのも、王族がその権威を減らしたからなの。しかもそれは2代前が全盛期を誇っていて、獣人迫害をこれでもとやった反動のせいだとわかっているのに、国の大きさのせいで獣人迫害の体制すら変えられないダメっぷりよ。この国だってそうよ。王太子を失ったのにまだ懲りないのかしらね」


最後は独り言のように言っているが、まるで自分に言い聞かせるような様子が気になる。

昨日のニックのせりふと言い、親愛持ちってある意味地雷でもあるんかな?

なんかやっぱり大ごとになっている気がするんだが……。


「親愛持ちは子供にユニークスキルを授けられるわ」

「はい」

「……さらに言えば、消すこともできるのよ」

「は!?」


なにそれ神様?

神様なの?

微妙な顔をする俺に、エレンさんは寂しそうに微笑んだ。


「それが隣国の悲劇。――あの国の親愛持ちはね。死ぬときに、戦場で活躍していた多くのユニークスキルを消したのよ」

「……そんな」

「うちの王太子が死にかけの王族のもとに乗り込んでね。目の前で死ぬことで、訴えを通したの。それが事の真相よ」


きっとそれすら隣国の貴族には告知されていないんでしょうけどね。

うちの王太子にユニークスキルを消されたと今も恨まれてるくらいだし。

そうエレンさんは呟いて、お茶のカップを傾ける。


「……」


想像以上の出来事に絶句していると、静かにメイドさんがお代わりをカップに注いでくれた。

無意識に喉を潤していたらしい。

隣のティナを見ると、食い入るようにエレンさんを見ていた。


「……サレスもそれが、できるのですか?」

「出来るでしょうね」

「……そのこと自体がサレスを危機にさらすことは?」

「!」


授けられるが、同時に消すこともできる。

それはぶっちゃけ、国がひっくり返るほどの能力なのではないだろうか。

まじか!?

俺のチート、加護が一番地雷だったの!?

それはさすがに予想外だよ!?


「ないわ」

「え? ないんですか?」

「ないわよ。――親愛持ちを寿命以外で害すれば、天罰が下るもの」

「!?」

「伴侶に手を出すなんて愚の骨頂ね。総じて親愛持ちは独占欲が強いの。確実に国が、下手すると数国巻き込んで滅ぶわね」


なんかだんだんひどい話になってない!?

そう思い、もう一度ティナの顔を見た。

さすがにちょっと手を出されたくらいなら――いやでも手を出すってそれ、どう考えても殺す云々だろうし、そうなるとどう考えても過剰に防衛する未来しか見当たらないわけで――。


「?」

「なんでもないよ」


あ、はい。

ティナを殺そうとか思う人がいたら確実に一族郎党でどうにかするな、俺。

確かに独占欲の強さはそうかもしれない。

エレンさんの口ぶりからすると、実際に国滅ぼすレベルで暴れた親愛もちもいたんだろう。うん。


「……今だから話すけど、王や宰相の態度とかで生きた心地がしなかったの、私」

「はぁ」

「いくら理性的でも、あんな失態の連続、感情としては面白くないでしょう? ティナが悲しむという理由で私やダグをどうこうするというのはないとは思っていたけど、あの王女のせいで根本が崩れていたのは予想外だったわ」

「えーと、俺、エレンさんのことも好きですよ? おか……お姉さんみたいで」

「ふふふっ。お母さんでもいいわよ? そのくらいの年齢差はあるもの」


いや、うん。

お姉さんにしときます、城の方からダグさんの忠告が聞こえるような気がするし。

実際見た目、若いしお姉さんでいいんじゃないかな。

位置づけはあくまでティナのおb……お姉さんだけど。


「まあ、そんなわけで私としてもこれ以上親愛持ちにど阿呆なことをするなと最後通告しておくわ」

「お願いします……」

「でも親愛持ちが貴族にばれないのが前提になると派手に動けないし隣国のちょっかいも防ぎきれないと思うのだけど、それはいい?」

「いいですよ。阿呆な貴族に手出ししても処罰されないようにだけしてください」

「そこは約束させるわ」


結局のところ、そもそも手出しすらしているのが間違いだってことがエレンさんの認識だったらしい。

道理でダグさんを通してとはいえ、ギルドは国に味方しないとか返ってくるはずだよ。

本来なら王が、ギルドが、貴族の手出しを最低限まで排除するのが筋だったってことなんだろう。

それでも手出しするのが野心家っていう感じなんだろうけどね。


「サレスが望むなら不興買った貴族とかどうせほぼ膿だから根こそぎ排除とかしてもいいけれど、そこまでの希望はないみたいだから適当に利用する程度にしておくわね」

「あ、はい……」


あ、でも利用はするんだ……。

公然の秘密的な感じで使っちゃうんだ……。

まぁいいか。

俺自身が手出ししなくていいなら全面的に任せよう。


その後話し合った結果、表向きはこうなった。


・サレスの親愛持ちはデマ

・デマだけど疑って手を出す馬鹿が多すぎるので、手出しをした者は身分関係なしに罰する。

・サレスは多妻を真に望んでいなかったので、一夫一妻で籍を固定することを国内告知(王の約束のため、王でも宣言撤回は不可能)

・獣人と人間の一夫一妻を国王が祝福した形に持っていく。(主に聖魔法で領を助けた的な流れで、領の結婚も奨励するような形にするそう)


「最後の必要ですかね?」

「いいんじゃない? 結婚をおすみつきにしただけで法的な効力はまったくないけど、獣人たちにとっては結構憧れになると思うわよ? それにこれで隣国の手は封じれるしね」

「あ、そっち忘れてた……」


いたね、そんな女冒険者。

一応貴族だからまだ生きてるんだろうな。


「サレスが親愛もちってばらせば処刑できるけど?」

「いえ、いいです。二度と会わなければそれで」


俺の顔色を読んだのかエレンさんが面白がって言ってくるが、そんな物騒なのは遠慮します。

積極的に殺そうと思うほどのことはたぶん……たぶん、されてないんで。

言葉が通じなかっただけだしな。


「後の問題は――あの王女ね」

「幽閉とかじゃないんですか?」

「幽閉でも城にいたら兵に影響が出るし、かといってユニークスキル持ちである限り殺すには惜しい、というのでみんな頭抱えてるわ」

「それもそうか……」

「職業意識が高い兵士を常に複数使ってようやく軟禁できているような状況ね」


考えたらあのスキル、すんごい厄介だよね。

あれ?

なんか嫌な予感がするんだけど、これ、きのせい……か?

あの王女、軟禁とかされたら危機感持って俺のもとに来ちゃったり……しない?

……。


「サレス?」

「……城内、に、いない、だと……」


いつの間にか思考から外れていたレーダー(鑑定眼)を発動させると、城内に赤点がなかった。

俺の台詞にはっとして、エレンさんが辺りをきょろきょろしだす。

俺は意識を集中させて貴族街からここまでの道のりを思い描くと、そこに赤点は……はい、ありましたー!!!

同時に視界の隅に踊る、警戒文さん。

うわぁ! また干渉うけてたー!!


「……馬車の音が、近いわ」

「やっべぇ……近い」

「えっ、えっ」


「急いでニックを呼ぶわ。でもこの距離じゃ間に合わないかも……」

「裏口はないんですか?」

「あるけれど……おそらく、無理ね。相手の手加減がないみたい。囲まれてる……これは、貴族の私兵かしら……」


言われて見回してみると、確かにうすぼんやりとした赤い点がたくさんある。

一人一人は脅威ではないが、ピンクっぽいのやら薄い赤となると……下手するとただの一般市民なんじゃないか? これ。

貴族街でないことが裏目に出て、獣人嫌いとかその辺の平民が集まってきてる可能性が高いかもしれない。

幸いなのは獣人っぽいのがいないことだな。

あの身体能力で封鎖されると逃げるのはつらい。


「いえ、たぶん一般市民ですね……」

「ええ? 一般市民が何故……ああ、そういうこと……?」

「恐らく俺にやっかんでるやつとか……ギルドにいい印象持ってないやつとかが彼女の能力にひっかかったんじゃないかと」

「大失態もいいところね。でも、一般市民がスキルの影響を受けるなんてさすがに本人たちも予想外でしょうし、どうしようもないわね……」



問題は今、どうするかである。



「……そもそもどうやって入る気かしら?」

「えーと、俺の意見を言っていいです?」

「?」


馬車がゆっくりと近づいてくる。

俺は視界の隅に踊る文を見て、ため息をついた。


「恐らく正面から訪ねてきます」

「「は?!」」





――貴方の自称恋人が近づいています。逃げられません。




鑑定眼さん、見捨てないで!?




戦闘回……にたどり着かなかった……。

永遠にたどり着かない?


き。きのせいだよ?

そしてこの先主人公には自称恋人が何人来るのか…←

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