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中編。
「そうですね。まずこの国のユニークスキル持ちの割合から喋るべきですかね」
「少ないって言ってましたけど……」
「ええ。相当少ないですよ。理由としては、基本的にユニークスキルは先天的なものが多く、遺伝で伝わっていくもののため途切れやすいという特徴があります。しかも伝わること自体は血統に出ますが、種類などが増える理由は先祖帰りで稀に出る神の親愛によるものである、と言えばその少なさはわかるでしょうか」
「……えーと、つまり?」
「この国で親愛持ちが確認されたのは建国者とその子孫のみであり、ここ最近出ていないということですよ」
……あー、はい。
なんとなくわかりました。
つまりユニークスキル持ちはうっすーい親愛もちの血統でも出るには出るけど、一回でも失われるとなかなか戻ってこない。
先祖帰りがありえなかったら俺への拘束はもっとすごそうだから、先祖帰りも出るけどごく稀ってことかな。
そのうえ親愛もち自体が出るのはもっとすくないが特徴は黒髪黒目と。
うむ。
「逆に隣国は先々代あたりに王族に出ましてね。そのせいであおりを食らって、獣人族排除が活性化してしまったのです」
「へえぇ……」
「まあ、王族自体はそこまで人族にこだわるわけではなかったのは救いでしたが、それでも王族から嫁いだ子供たちから貴族にユニークスキルが散ってしまったのが問題でした。しかも王族だけに、絶対数が増えましたから」
普通の人ならともかく、王族じゃなぁ……。
きっと親愛持ってる本人も間違いなく王様になったよねこの流れ。
でも先々代ってことは結構前だから、王様の時点では問題が起きてなかったのかな?
「その話で行くと、その親愛もちの王族が死んだ途端にいろいろ激化したとかなの?」
「ええ、ひどいものでしたよ。――結局人族至上主義の隣国の王太子と、こちらの王太子が相打ちして何とかなったわけですが」
「……」
淡々と語ってはいるが、その王太子って今目の前にいる王様の兄、だよな?
微妙に沈痛な面持ちでいるのは、やはりその王太子が優秀だったとかそういうオチ?
「……そのせいでうちの国の王族のユニークスキルは尽きてしまったわけです」
「! そっち!?」
「俺は持っていないからこそ、自由にできてたわけだからなぁ」
優秀以前の問題だった!
王様がしみじみ言っているところを見ると、ユニークスキル自体が継承に関わっていたような感じらしい。
「でも、テイムスキルはあるって聞いたような?」
「ええ、唯一と言っていいほどのユニークスキルですがありますよ。――我が家ですが」
「!?」
「ちなみに迎えに行かせた娘が私のスキルを継いでいます」
なん……だと。
お父さん排除したのに没落してないってのもすごいなと思ったが、宰相になれた理由も全部ユニークスキルが有用だからのようだ。
ってかその唯一のユニークスキル継承者を俺の飾りの嫁にってそれ何の冗談。
「なんかもう大体話は見えた気もする」
「そうですか?」
「”お飾りの妻”ってのもそういう意味でしょ? 俺とティナの子がユニークスキル持って人間だったらそっちの家から継いだと言い張るとかそんな感じだろ?」
「ええ。頭は回るようですね」
ぽかーんとダグさんが口を開けておいていかれているが、エレンさんは微笑のままだ。
ティナも話についていけなくてきょろきょろしているが、こんな話わからなくてもいいと思う。
俺もあんまりわかりたい話でもないし。
「だって王様が、ユニークスキルもちは求める事由がないと威力半減って言ってたからさ。――ある程度、相手を本人が選ばないと無理ってことなのかなと思って」
「ええ、そうですよ。――親愛もちは、神に愛されたもの。当然愛された伴侶も祝福をもらうので子供にスキルが出るわけです。こればっかりは政略的にやっても無駄な話で、押し付けられた相手を複数でも愛せるような相手であれば押し付けますが、ディグに聞く限りは微妙そうでした。貴方のような人にはおそらく逆効果もいいところだというのは初期にわかっていたことでした」
「じゃあなんであんなに押し付けたんだ……」
「あそこまで頑なとは思わなかったんですよ。様子見で数人、と思って手配したのですが誰にも手を出さないところか出会うことすら不可能。それを聞きつけた敵対貴族が私の失態としてそれはもうハッスルしましてね。結果ガンガン送りこまれました。ちなみに隣国の貴族も関与していれば、関係ない近隣の国もいます。良くも悪くもダグは目立ちますので、諜報の餌食になったのも失敗でしたね……」
あの謎の貴族の増え方はダグさんのせいでもあったのか……。
ああ、でもまぁ言われてみればそうだよなぁ。。。
ダグさん英雄だし、誘惑できるなら誘惑したい人の筆頭に決まってるじゃん……。
おっさんだからあんまり考えてなかったけど、俺とダグさん二人がいるって入れ食い状態だったのもしかして?
いや、ダグさんいないと対処もできないんでいてくれてよかったんだけども!!
「あまりに埒があかないもので、仕方なく娘との結婚を考えたわけですが……」
「政略は意味がないのに?」
「無理に押し付ける気はありませんでしたが、我が家くらいでないと3人4人と側室候補まで押し切ってきそうでしたのでね。ユニークスキル持ちにはユニークスキル持ちを、と強引に話をまとめたわけです」
「でも、サレスは複数の嫁自体が地雷だったわけだ」
「ええまあ。取り込もうとしたことは否定しませんが、複数自体がダメというのは私もさすがに想定できていませんでしたので……ややこしくなりました」
それで結局、各所が収まりつかないのでもう呼び寄せちまえになった、と。
宰相が俺たちのことを考えて最小限にしてくれようと奮闘してくれたのはわかった。
矢面に立って大騒ぎすることで他を牽制しててくれたわけだな。
もちろんあわよくばというのはあっただろうし、それも否定していないので割と正直には話してくれてるんだと思う。
「……ちなみにさっきの呪いの箱は何? あれはやり過ぎじゃない?」
「あれですか……」
ふう、と宰相が息を吐く。
何かお疲れなの?
「あれはあの場では誤魔化しましたが、おそらく王女あたりの差し金かと」
「……王女?」
「――すまん。俺は遅くに結婚したせいで、まだ息子や娘が小さくてな。俺の兄には王子はいなかったが、娘の王女は何人かいたんだよ……」
「王様の姪の王女……?」
「ああ。そして一人だけいるんだ。――嫁き遅れの、権力欲の強い、でも別に罰するほどのことはやっていないっていう王女が」
あ、なんかダメな感じの話が出てきた。
この王様の姪の王女様による差し金ねぇ。
ちなみにお名前は? ――イザベラさん。なるほど、覚えておこう。
「……ちなみに王位も諦められないので貴方を婿にしようと虎視眈々と狙っていますが」
「却下でお願いします!!」
「私もそれは阻止したいので協力します」
王族のグダグダに巻き込まれるなんてダメ絶対!!!!
しかも返り咲き考えて
そうな王女様とか絶対にいやだ!
「……はぁ。頭が痛い」
「ちなみに嫁いだ方の王女の一人は、こいつの嫁でもある。つまりイザベラはこいつの義姉なんで、基本的には庇うんだよな。捨ておいときゃいいのに」
「わかってて茶番するのは少しつらいんですけどね……」
「宰相には苦労を掛けるな……。我がもう少し諫めることができれば良いのだが」
あー、はい。
途中の騎士たちの生暖かい目は『あの王女またやりやがった……』みたいなやつだったんですね……。
戸惑ったように見えたのも半分あきらめてたからなんですね……。
よくわかったよ……。
普通にかばわずに明らかにしてぽいってして差し上げろという感じだ。
亡くなった兄王子の娘っていう立場だから、心情的に厳しいのかもしれんけど(王様の態度的にも)。
「しかし結婚して10数年経つんだし、いい加減あの王女を庇わんでもいいんじゃないか?」
「それはそうなんですけど、嫁にとっても悪い姉ではないのですよね……。時々我が家にも遊びに来ますので私も相手をしなければいけませんし……」
「え? それおかしくない?」
「「ん?」」
イザベラの話題に触れたせいなのか、宰相の色がまた少しピンクになったのに首をかしげる。
あれ、なんだろう。
うまく言えないけど頭の隅に何かかすった気がするんだが。
「どういう意味ですか?」
「いや、遊びに来ること自体もおかしくない? あなた王女に呆れてるのに、嫁に言われたらほいほい会うの? 間違っても宰相と王女が通じちゃうのは微妙な気がするのに、ぽこぽこ遊びに来るわ相手にするわって端から聞いててもちょっと首傾げるんだけど?」
「あ……あれ?」
「む……確かにそうだな。あれの妹に会うのは止めておらぬが、宰相とも会っているとは初めて聞いたぞ?」
え、王様にも内緒でこそこそしてるって本気でやばくない?
なんでもないようにぺろっと吐いたけど、なんかこの人警戒心がちぐはぐだ。
一国の宰相がいきなりこんな腹割って喋るもんか??
「うーん、これは俺の勘なんだけど、いい?」
「勘?」
「うん、なんかすごくちぐはぐ感が酷くてさ。俺には宰相さんがその王女様とやらに変な影響受けてるように見えるんだけど」
「「影響……?」」
こうやって話している間は徐々に青くなるのに、時々何か地雷を踏んだようにピンクになる宰相。
しかもなんか聞いている限りその王女様、ダメな感じじゃない?
庇う必要性が嫁の大切な姉だから、というのはやってる内容的にちょっと弱いように思うんだけど……。
俺が薄情なだけなのかなぁ?
「影響ってどういう意味だサレス?」
「うーん……」
上手く言葉にできない。
なんだろう。
ピンク色の宰相。
特に親愛もちという言葉に反応して赤くなり、でも本人はティナや俺に好意的……。
ううーーーん?
もうちょっと揺さぶってみるか?
「ところで話は変わるんだけど」
「はい?」
「俺が親愛もちってことはまぁ認めてもいいんだけど、それと俺がティナ以外と結婚しなきゃいけない要因が俺もわかんなかった。それ聞かせてもらえない?」
「親愛……いえ、数は必要かと……」
「いやいや待って? あなた今言ったよ? 相手に祝福がつかないと意味がない、と。数をもってしても意味がないと。なんでそれ放置してるの? それを全面に出して近づいても無駄だよって宣言すれば良い話だったよね? そりゃ確かに大規模にやられたくないと俺は思ってたからそれを汲んだのかも知れないけど、俺が持っているかは別としても『親愛もちにそんな阿呆なことすること自体がそもそも無駄』っていえば済むことだったよね? そしてティナはギルドの有力者の娘で、王様はダグさんと懇意なんだから少なくとも俺が敵に回る可能性が薄いことは、貴方なら確実に察してるはずだ。なんでそこでダグさんを拘束してまで呼び寄せたの?」
「それは……」
「おいサレス??」
「ダグさんはちょっと黙ってて」
認めたあたりでピンクになり、ダグさんの会話でやっぱり青くなる。
うん、やっぱりこの人何かちぐはぐだ。
影響……洗脳? 魅了?
……うーん、やっぱ、いいや。
ばれたらばれたでその時。鑑定!!!
Name -ディアルド・カレスティード-
Age 39
Lv 40
Job -カードティマ―Lv10(max)-
Status -閉-
Skill -閉-
Unique Skill
カードテイム
Bless
創生神の加護
status ailment:干渉中(このステータスは表示されません)
いやいや表示されてる。
表示されてるから何それ?!
もちょっと詳しく!!
status ailment:干渉中
――ユニークスキル・思考干渉により思考に干渉を受けている状態(1/3)
干渉スキル持ってるのって王女様あたり?
あとこの3分の1表示も気になるけどなんだろ……。
「今、何かスキルを使われましたか? 何かを感じたような」
「秘密だよ。ねえダグさん、自分の意思とは関係なしに、思考に何か影響を受けるようなスキルって知ってる?」
「? なんだその物騒なスキルは。あるとしたらユニークスキルだとは思うが」
「宰相さん、そのスキルの影響受けてる気がしない?」
「「は!?」」
干渉中って何か洗脳っぽいよね。
聖魔法とかで解除できないかな。
――ユニークスキルは基本魔法では解除できません。
うーん、じゃもうちょっと詳しく出して!
status ailment:干渉中
――ユニークスキル・思考干渉により思考に干渉を受けている状態(1/3)
制限距離以内であれば思考に干渉できるスキル。
単純命令しかできず、距離・時間経過により解除される。
(1/3)有効距離:5km・1か月(18日経過中)
お。
距離や時間経過で解除できるタイプのスキルなのか。
でもこれ単純命令といえども強くない?
いや、強いからこそユニークスキルなのか。
「ユニークスキル……まさかあの王女が、持っていると?」
「多分だけどね。何命令されてるかはわかんないけども」
ただ、直接的ではなく間接的に俺に作用してるってことは、王女の不利にならないようにとか王女の要求をできる限りこたえられるようにとか微妙な命令っぽいのかなぁ?
単純命令の単純の範囲もわからんけども。
あ、もしかしてこれ違う?
単純命令=俺と会えるようにするとか結婚できるようにするとかじゃないか???
遭遇したら俺に命令すればいいわけだから、なんかそんな気がしてきたかも??
もしかして必死で会おうとしてたのかもしれないけど、そんなユニークスキル持ちは当然ながら俺は全回避してるはずなので(特大の赤になっていそう)、会えなくて宰相さんに干渉してるとかなのでは。
もっと単純に私の命令を聞け→宰相さんなりに命令を聞いた結果くどくなったとかもありえそう。
「宰相さん」
「なんですか?」
「ちょっと外の門まで行って戻ってきてくれないですか?」
「「「は??」」」




