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王様との密談だよ前編。
別室。
ダグさんに案内されてきてついたその先は、質素な会議室みたいな場所だった。
「ここでちょっと待つぞ」
案内先にメイドがいなかったので、エレンさんがお茶を用意し始める。
どうやら秘密の場所というか――多分これ、王があとからこっそり来る流れなんだろうな。
質素ではあるが堅牢な場所で、メイド一人配置されていないのは秘密を守るためと思われる。
入ってきた扉の外には騎士がいたけれど、別方向になんかすごい頑丈な扉があるしね。
きょろきょろと周りを確認していると、お茶を入れ終わったのかエレンさんがダグさんに近寄っていく。
ダグさんはエレンさんに気付いたようだが、見なかった振りをして目をそらして横を向いた。
でも耳、赤いね?
すすっとエレンさんが身を寄せるのに、こっそり腰抱いてたりとか……なんか下手にオープンな奴よりよっぽどなんか見てるのが恥ずかしいなぁ。
ニヨニヨ。
あ、ちなみにティナは俺の左隣が定位置なので当然横に張り付いています。
周りの目? 知らんな!!!
俺らはくっついてるのがデフォルトだからいいんだよ!
ちなみにニックは空気のふりをしている。
いつも通りなんですねわかります。
「あー、その、だな」
「うふふ」
時間にして数秒程度だが、固まっていたダグさんは気を取り直したように俺に話しかけてきた。
「サレスは大体事情を理解した感じか?」
「たぶん? というか宰相、もしかしてティナの血縁だったりしますか」
「「「え??」」」
あれ? 違った?
ダグさん、エレンさん、ティナの不思議な声があがるのに気のせいかな? と思い直す。
でもあのピンク、よくよく考えたらもしやって思ったことがあったんだよね。
すなわち俺の敵でもないが、ティナの敵でもない。というか、俺にとってティナの味方は大体味方なので不可思議な表示になったんじゃないかと思って、そう考えたのだ。
「血縁って……どっからそんな発想が来た?」
「いや、最初は単純に獣人擁護の人なのかなと思ったんですけど……それにしてはティナに気を使いすぎというか、ティナの味方になりたそうにしているというか……。もしかしたらティナが誰かに似ていて、その面影でも見てるのかも? と思って」
「ふむ。ティナの両親のことは俺も知らんから、わからんでもねーが……」
ユニークスキル持ち云々言っていたところは切迫していたので、ティナ一人ぐらいならいくら獣人擁護でも無視していい範囲にも思えたんだよね。
でも彼はティナにこだわって、むしろ俺を試しているようなそんなところがあった。
ティナは戦場で拾われた孤児という話だったが、両親ともに獣人であるかとは確認したことがなかったし、そもそもティナの血筋が隣国のものかどうかというのも俺は確認していない。
もしかして鑑定したら出るのかな?
「しかし血縁……血縁なぁ? 娘……というのはまずないな。あいつは愛妻家だし、獣人に手を出したとしても放り投げる未来が見えん。確かにティナが生まれたころだとこの国もまだ獣人蔑視が蔓延していたころだから可能性は0じゃないんだが……うーん、そもそもが不幸になるとわかっていて手を出すかねぇ……」
「あの宰相ならこっそり囲いそうよねぇ」
「あの? あのあの、サレス? 一応、私、父は獣人だったことは覚えているのですが……?」
「そうなの?」
じゃあ勘違いだろうか。
ティナに確認してみると、生まれたときに母は亡くなっており、戦場で父を亡くしてうろついているところをディグさんに拾われたというのが正しい流れだったようだ。
やもめの獣人傭兵……みたいなもんだったのかな?
「そもそもどこで戦が起こってたかも俺知らないんですけど」
「あ? ああ。隣国とこの国がやりあったやつだよ。その時王太子と第二王子が死んで、王が病気に倒れてあいつが王太子になったんだ」
「つまり戦場に出ていた獣人ならこの国の人間?」
「そうとも限らんが、子連れだったなら犯罪奴隷とかじゃあなかったろうしな……」
うーん、結局謎なのか。
まぁ、分かったところでどう変わるかっていうと、特に変わらないけど。
むしろ宰相の血縁ってわかる方がめんどくさいかも?
「……確証はありませんが、あなたは妹の夫に似ているんです」
「え?」
一人納得していると、いつの間にか開いたのか豪華な扉の前に二人の人間が立っていた。
一人は王様。
そしてもう一人は……今喋った宰相である。
「妹? おまえそんなんいたのか」
「ええ。――流れの獣人に唯一と望まれ、勘当されて追い出された妹がね」
「!」
とすると?
ティナを生んで亡くなった母が、宰相の妹の可能性があるってことか?
「まあ、他人の空似かもしれませんし、獣人は子だくさんですから縁故自体はないかもしれません。妹に似ていればもう少し確証は取れたでしょうが、私も彼が妹とともに逃げたときにちらりと顔を見ただけですのでね……」
「……」
「もう……18年も前の話です」
18年前、か。
ティナの年齢としてはまあ、ありえる話だなぁ。
しかし宰相さんはどう頑張っても貴族のはずなのに、いくら流れ獣人相手とは言え勘当・逃亡とまるで犯罪者のような扱いが気にかかる。
男の獣人だと愛人とかにはならないってことはなんとなくわかるんだが、この人がその程度で妹との縁を切るのだろうか。
そのあたりを不思議に思ったのを察せられたのか、宰相の口元が薄く孤を描いた。
「当時我が家は獣人排除の先達だったのですよ。――私としては、身体能力の差ぐらいにしか思いませんが、一部の貴族にとっては脅威であり、奴隷候補でもあった。そのあたりから隣国と戦争が起こり、裏切りも多発――我が家がどちらについていたかは言うまでもないでしょう」
「……」
「まだ私も若かったものでね。――どうしても、後手に回った。父を排除したころには妹夫婦の足取りはつかめなくなっていたのですよ」
この人さらっと排除って言った!!
ちなみに妹が逃げたのは単純に夫を殺されないためですね、とか続けられても俺はどう答えればいいのか。
妹さんもきっと頭良かったんだろうな、これ。
ティナのお母さんかどうかはわからんけど。
「まあ、私が彼女にこだわった理由はそのくらいのものです」
「ふーん。まあ、俺もお前がなんか考えて動いてんだろーなと思って従っちゃいたが。それでどうしてサレスとティナの仲を裂くようなことをしたのかまだ聞いてねーぞ?」
「それも今から話しますよ」
王様をいつまでもたたせておくわけにもいかないので、宰相が王様を椅子に座らせる。
ってかダグさんと宰相がひたすらしゃべってたから王様空気だったけどいいのかな?
……いいっぽい。
なんかのんびり茶をすすってるよこの王様。
ちら、と見たら視線に気づかれたのかにっこりされた。
想像以上にフレンドリーな王様である。
こういうのは嫌いじゃないが、さすがこの破天荒なダグさんの上司といったところだろうか……。
とにもかくにも情報が大事。
俺たちも宰相に促された席に座り、密談(?)は始まったのであった。




