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王謁見当日。
俺たちは待合室まで来ていた。
メンバーはエレンさん、ニック、ティナ、そして俺の4人。
他にも来るのかな? と思っていたが、最低限でないと警戒されてしまうとのことで
案内人→エレンさん
護衛→ニック
ということになったようだ。まぁ、エレンさんはニックより強いらしいので(ニック談)、実質は最強集団の気がしないでもない。
エレンさんに手を出そうものなら英雄ダグさんが王様しばき倒すだろうしな。
しかし待合室に来たものの、まったく呼びに来ないので俺たちは困っていた。
城の中はてんやわんやしているのが見えるのだが、俺たち今日くるって言ったよね?
なんでこうなってるの?
「遅いわねぇ」
「遅いですねぇ」
俺が感知する限り人がかなり動いてるのはわかるんだが、なぜ動いているのかがよくわからない。
ところどころの赤い点が王様までの道にそれなりにいたが、それが排除されている感じなので謎だ。
この赤点、何?
暗殺者か何か?
「まあ、謁見条件を突きつけたせいだとは思うんだけど」
「えっ? 今更?」
エレンさんに任せっぱなしだったので気にしていなかったのだが、今いきなり動いてるのはどうも直前に言ったからとかなのか?
驚く俺に、エレンさんはぱっちりとウィンクしてくる。
「最初から嫁あっせんはいらないって言ってるのに、お迎えから女性だったのでこれはだめねと思ってね」
「ああー……」
普通門番って兵士だと思うんだけど、なぜか数人の着飾った女性が迎えに来たので俺は思わずティナに縋りついたのだ。
エレンさんはちなみにそれを見て無言になり、一瞬だけにこやかな表情を消した。
冷気を発しながらちょっといいかしら?
と門番を端へ引きずっていき、話を付けた後に兵士にここまで案内させていた。
その間寄ってくる女性はニックが相手しつつ、ティナが動線を排除。
俺に声をかけさせなかった連携はなんかすごかった。
「だからさっき伝えてあげたのよ。これ以上女性に出会ったら帰ると」
「へ?」
「あたりまえでしょう? ティナとあなたの条件はもう突きつけていたのよ? それなのに偶然を装って出てくる女が出てくるなんて話にならないわ?」
怒っているような気はしていたが、表面上はにこやかだったエレンさん。
冷気が漂ってくる時点でこの人、やっぱりめっちゃ怒ってるわ……。
「あの宰相、どうして人の話を聞かないのかしら?」
「聞かないとは?」
「何か別意味で頑張ってるのよねあの阿呆男。なんでも、あなたたちを救いたいらしいわよ?」
「…………は?」
救うってどういう意味でですかね。
なんか察したけど、すごく聞きたくないというかなんというか……。
思い込みもひどすぎやしませんかね!?
常識的な意味で仕方ないのかなと思い込んでいたが、エレンさんやダグさんにまで言われているのに頑なに信じないってそれもう洗脳されてるレベルじゃん、どんな常識が蔓延してるのよこの国。
こんなこと言ってると俺が洗脳されてるせいだとか心配されそうだけど、ティナに洗脳スキルはないぜ……?
「あれ? まてよ?」
「どうしたの?」
「……あの表示、もしかしてそういうことか?」
謎のピンク色表示に、首をかしげていた俺。
青も交じっているから味方になるつもりがあると判断し、思い込みとばかり思っていたが……。
誘惑スキルがあるならもしかして洗脳スキルもある?
もしかして宰相って洗脳とかされちゃってる?
さすがに目の前に行けば詳細に鑑定できるから状態も見れると思うが、鑑定スキルを発動したらばれるかもしれないよなぁ?
鑑定もちってばれるのはまずいし、どうしたもんだろ。
「あの表示ってどういうこと?」
「あー……」
俺のスキルに関係する内容だと思ったのか、エレンさんの目が鋭くなる。
俺はあいまいに笑うと、宰相の状態がおかしく感じるのだと正直言うことにした。
「おかしい?」
「敵意と善意と同居してるんですよね。だから思い込みの激しい人なのかなってずっと思ってたんですが、宰相として有能な人がここまで徹底して阿呆なことするなら何かほかの原因があるんじゃないかと思って」
「…………」
エレンさんは壁に目線を向けると、一つ頷く。
その壁には何があるんですかね?
その壁の向こうに何もいる感じがないんですが?
「つまり何らかのスキルが動いている可能性があると?」
「俺が宰相の通常の状態を知らないので何とも言えないです」
「それもそうね。私も少しおかしいかなという気はしていたのよね。あの男、自身は愛妻家なのよ?」
「はっ!?」
それがどうしてこうなった?!!?
「まあ、お嫁さん自体は3人はいるけど」
「ああ」
「でも基本的に、双方の意思を無視して嫁取りをさせるのは忌憚するタイプに見えるのよね。むしろ女性蔑視が苦手で女性の社会保障を促進しているようなできる宰相なの」
「一応宰相の娘を嫁取りするのは【かたちばかり】という話は聞いたんですけどね」
「ええ。そのあたりはありえそうなのだけど。でもあなたはそれすらもいやと突っぱねたのよね?」
「はい。――俺は嫁は一人しかいりません」
形ばかりとかめんどくさいのすげーイヤ。
嫁という形をとる以上、俺が頼まれごとしたらイヤとは言えないだろうことは俺自身が自分の性格を考えてもわかってるし、どう考えてもデメリットの方が多すぎて考えたくもない。
そもそもカードにティナ以外の名前が載るのは絶対に嫌だ。
「そういうところは潔癖なのね」
「単純に譲れないラインなだけです。――線引きは誤ると、大惨事になるんで」
「サレスはそういう線引きは徹底してるっすよね。女に声かけられてもまず返事しないとか徹底しすぎっす」
「相手に悪意がなければ答えるよ?」
エレンさんとか。
まあ、大体において俺に声かけようとするやつは俺を知っててやってくるんで返してないけどね。
まれに偶然的なのはいるけど、そういう場合はティナに返事してもらうようにはしているか。
「その悪意の範囲が面白いんすけどねー……」
「あら、どういうこと?」
「サレスの面白いところはお嬢に対する敵意も反応するってことっすよ。どれだけ巧妙に隠してサレスに思慕を示しても、お嬢に対する感情だけで徹底して無視してるっぽいっす」
「まぁ。ティナちゃん、女冥利に尽きるわね?」
「えっ? えっ??」
ティナがいまいち理解していないようでビックリしているが、その悪意の範囲の判断は当然だと思うんだ?
どんだけ俺に好意があっても、ティナを排除しようとする女は敵です。
まあ、エレンさんが感心しているのは、ティナを中心にしてる生活が女冥利に尽きるわねって意味だと思うが。
いや、ある意味この国がはっきりしてるだけだと思うなぁ。
ティナが貴族の娘だったりしたらまた反応も違うんだろうけど、基本的に私のほうがティナより上だと考えてる女が多いのか襤褸が出やすいんだろうね。
俺のティナより上と思い込んでるとか帰れよって話だけどね?
「そろそろくるみたいよ」
エレンさんがまたちらりと壁を見てつぶやく。
あ、わかったかもしんない。
エレンさんもしかして耳がいいとかそういう系のスキルがあるのかな?
壁の向こうにはなにもないけど、壁5つぐらい向こうは確かに兵士の詰め所っぽいから、あの辺から判断してるっぽいなぁと思いつつ俺は迎えを待ったのだった。




