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心中しかねないほど悲壮な決意をしている二人は現在、館の中で謹慎中である。
いや、普通にイチャイチャしてるだけだけどね。
エレンさんがそれは楽しそうに活動してるのが鑑定眼を通して伝わってきていたが、その辺は目をつぶろうと思う。
あの人の上手いところは、王ではなくて貴族の暴走であるというところを印象付けてるところだな。
前回の嫁騒動に関しても、王は静観したのにスキルが有用そうということで下っ端貴族が押し掛けたみたいな流れを作ってはいたが、今回はそれに合わせてあきらめてなかった貴族の暴走を受けている悲運な夫婦として大々的に使ってくれているようだ。
っていうか明らかにギルドの敵の貴族に絞って噂流してるよね?!
半分以上は嘘じゃないところがまた上手いというかなんというか……絶対敵に回したくねぇ。
まあ、俺としてはそんな有名になる必要はないと思うんだけども。
ちらっとエレンさんに確認したら、俺が聖魔法で結構ランティア領内で働いていたのも評判に繋がっていたらしく、俺の扱いはまるで聖女のようだった。
ってかなんていうかそれ、男女逆転してないかな……。
俺美男子でもなんでもないんで、見学しに来る人が来たらたぶんしょんぼりすると思うよ?
ティナは美少女だからいいと思うけどね。
「サレス」
「うん?」
「結局私たち――私、何もできていないと思うのですが、いいのでしょうか」
「いいんじゃない? 俺たちが動くよりきっちりしてもらえると思うよ?」
ティナはすることがなくイチャイチャしているだけなので不安になってきている様子。
でもなあ、下手に子供が大人の政治に口出すより信用できる大人に任せた方がいいと思うんだ。
俺はそれなりに事前予測をして対処できる方だとは思うけど、海千山千の大人と渡り合えると思う程楽観的ではない。
それにぶっちゃけ、俺たちは大人の事情に振り回されてるわけで。
大人たちが解決してくれるならそれでいいんじゃない、と思うわけである。
「でも、不安なのです」
「何が?」
「伯母様のことは信じているのです。でも、みんながみんな私たちの味方をしてくれるかというと、そうではないと思うのです」
「ああ、うん」
獣人にやさしいこの国とは言え、リドさんたちを騙すような輩が大勢いるのも事実。
獣人であるだけで卑下され、利用されることも多い女性であるティナは上手くいっているかもと思っている現在のほうが不安なのかもしれない。
俺には目に見えて状況が変わっているのが見えるんでそこまで怖くはないんだけどね。
でも、ここでこの不安をそのままにしておくのは逆に危なさそうだ。
「どっちにしろ最後は、俺たち自身で解決しなきゃいけないことだからそれまで力を蓄えればいいんじゃないかな?」
「そうなのです?」
「うん。最終的に俺たちが謁見することに対してはエレンさんたちも止められないだろうからね」
予定通り明日、俺たちは謁見することになっている。
どれだけ世論の声が強かろうと、それを反映させるのは王と貴族だ。
エレンさん曰はく、エレンさん自身も一緒に謁見の間にまでついてきてくれることは決まっているようだが、それでも大部分を話すのは俺たちの仕事になるだろう。
だからこそ、俺たちは自分たちの思いを再確認しておかなくちゃならない。
「ティナ、とりあえず俺たちは主張をする」
「はい、なのです」
「とりあえず妥協はしない。というか、妥協は多分許せる内容じゃないので絶対拒否だ」
「はい」
「提案もとりあえず拒否。ってか基本的に全拒否で帰る」
ぶっちゃけなにがあってもおかしくないから仕方ない。
特にティナに対して何を行ってくるかわからないので、そこだけが気がかりだ。
「もしかしたら俺が口出せない状況でティナに問いかけが来ることがあるかもしれない」
「……はい」
「その時は、自分自身が思うことを言っていいよ。ただ、俺のためという言葉は使わないでほしいかな」
「え? どうしてなのです?」
「国が『おれのため』と考える内容がどう考えても俺にとって一番の地雷でしかないからだよ」
「……!」
そのあたりからごり押されるんじゃないかなというのが不安なので言ってみると、ティナはビックリしたように俺を見た。
いやいや、知ってたよね?
俺の意思が無視されるっていうのはそういうことだと。
「宰相の娘さんの時も思ったことなんだけど、ティナは一番始末に悪いのって何だと思う?」
「始末に悪いもの?」
「うん。――俺はね、『善意』だと思うんだ」
「善意、なのです?」
善意。
普通に考えたら、相手にとっていいことを行うのが善意だと思うけど、この場合は違う。
「相手にとっていいことだと思うから押し付けられるんだよ、こういうの」
「ふぁー……」
「相手に悪気がないから対処に困るし、何より俺のスキルにも引っ掛かりづらい。というかおそらく引っかからないと考えられてると思う」
実際は俺は敵意に反応してるわけじゃなく、『未来予測』したうえで相手の危険度を表示するようにしてるんだけどね。
この辺のロジックはやっぱ転移者ならではなのかなと思わないこともない。
最初は使い方がわからず単純に害意ある人で使ってたけど、ユニークスキルはその人の使い方で仕様が変わるんだ。
ただ、これができるとわかられると強制的に国へ仕えさせようと考えるかもしれないんでばれない方向で頑張りたいところだけど。
最悪ばれても仕方がないかなという気はしている。
ばれたところで俺のスキルの強みは『俺にしかわからない予測』であることである。
人道的な扱いをしてくれさえすれば、どうにかなるだろうと思っているのだ、俺は。
……ステータスばれたらやばい気がするけど。
ちなみに隠ぺいステータスは更新して魔導士型に偽装している。
魔力は高めに設定しているので多少大掛かりな聖属性魔法を使っても大丈夫になったはずである。
ちなみに創世神の親愛の隠ぺいはあきらめた。
お互いにティナ:創世神の祝福 俺:武神の祝福 とついているため俺についてない加護の祝福がティナにかかっている状態になり、なんでティナに創世神の祝福ついてるんやってなることにやっと気づいたからだった。
結婚した当初からついていたのだが、うっかりダメじゃんってことには気づかなかったのである……。
切ない。
隠ぺいはさすがに嫁にまで使える便利スキルではなかったため、涙を呑んで親愛はそのままにした。
まあどっちにしろ鑑定スキルはレアなわけなので、国王の周辺にいる奴にはばれるかもしれないが一般的にはばれないので良しとした。
ちなみにティナの自分のカードの表示も通常時は消しておくようには言ってある。
まあ、冒険者の技能なんて隠してなんぼなので言うまでもなかったらしいけどね!
「後はうーん」
どれだけ策を用意しても、相手がどんな人間かは実際接してみないとわからないので何とも言えない。
一応保険としてセレスをカード化して持っていこうかな?
逃げるには足が必要だし、セレスが本気を出したら逃げるのはおそらく問題ない。
ニナを置いていくのは気が引けるが、どこかで連絡を取ってあとから回収すればいいだろう。
「ま、いっか」
「い、いいの!?」
「うん。考えてもドツボにはまるだけだと思うからもうイチャイチャしよ?」
「サレス……」
お前らこの二日間イチャイチャしかしてなかっただろというダグさんの突込みが聞こえた気がするが気にはしてはいけない。
一応鑑定眼で情報はちゃんとキャッチしてるから大丈夫だよ!!!
ところでいい加減鑑定眼じゃなくて総合情報ツールとかに改名した方がいいんじゃね?
と思ったのは内緒にしておく。
スキル欄に鑑定眼ってあるのが憧れだと思うんだ、俺……。
前のフラグを回収回収。
なんかダグラスさんの名前最初間違えてた……。
ので訂正しました。
兄・ダグラス
弟・ディグソン
のヘルディン兄弟です。混ぜるな危険。




