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「け、喧嘩を売るの?」


困惑するエレンさんを横目に、ティナはふんすと胸を張る。

いやそこ、胸張るところかなぁ。

ぷるんと動くものは眼福だと思うけど、言ってることかなり無謀だと思うよ?


「えーと、なんて?」

「『嫁なんていらないって言ってんだろ! 謁見してほしければサレスの今現在の婚姻以外を今後認めないって国内全土に告知しやがれ!』なのです!」

「「……」」


うわぁ。

沈黙、すげぇいたい。

ってかメイドさん、頼むから紅茶入れながら固まるのやめて!?

こぼれちゃうから!!!


「……それ、通じるのかしら?」

「一応伏線は張ってあるのです!」

「伏線?」


どういうこと?

という目線に俺はため息をつきつつ、作戦を打ち明ける。

ぶっちゃけ無視される可能性も高い作戦だと思うんだけど、どうなんだろうなこれ。


「俺たちがいた、獣人の街がありますよね?」

「ランティア領ね?」

「はい。そこで街起こしとして、『一夫一妻制』を推しているのをご存知ですか?」

「ええ、もちろんよ。いい案だと思ったわ。一夫多妻制はこの国でも浸透しているけど、獣人は基本的に一夫一妻だから、獣人の結婚式を挙げる場所として人気が出て、この半年で向かう人も多くなったと聞いているの」

「ええ。意外に多いのが人間と獣人の組み合わせで、獣人に限らず住めるってことで移住者も増えました」


話はここからである。


「……俺たちそこで、マスコット的な扱いだったんですよ」

「そうなの?」

「ええ。領主様とは仲良かったですし、人間の移住者は俺が世話したりしてね。なので今回、大々的に騎士が俺たちを馬車で連行していったので確実に噂になっていると思います」

「まあ……」


おそらく宰相は、嫁が複数いるらしいという噂を逆手にとって外堀を埋めるために娘を使ったんだとは思うんだけどね。

騎士さんたち、あの領を出るまですっごい居心地悪い思いをしてたんだよね。

俺は俺で別の噂を増長させるようにわざわざ外で宰相の娘を袖にしては、他の村の宿で『無理やり嫁を増やさせられそうで……俺はティナしかいらないのに』みたいな流れでさりげなく流してきたんだけどね。

もちろん故意に。後釜狙う貴族とかを避けるために時には大声で、わざと。

こっそりスキルに詐術とかついた気がするけど俺はなーーーんも見てない。

嘘は言ってないしー。

ティナしかいらないのもほんとだし―。


「なので謁見自体の要求に、その条件を出そうかと思いまして」

「王の直接の要請をそんな条件を付けるなんて聞いたことないけど?」

「謁見自体はしますよ。でもちゃんと来たんだから、話す前にその要求を呑んでくれないなら何も話しませんというつもりです」

「……無茶苦茶だわ」


英雄が世論で手出しできないのならば、俺たち自身にも世論を作ればいいのだ。

というのが今回の暴論である。

もちろん通じない可能性はあるが、ぶっちゃけ俺のスキルって監禁しようが何しようが意味がないんだよね。

監禁されてその気になるかっていうとそりゃ無理だろって話だし。

媚薬盛るってそれ、国上げて何してんのって話になるし。

そもそも聖属性魔法で何するって、治癒なんだよ。

無理強いしてどうするんだって話だよ。肝心な時にそっぽ向かれたらそれこそ物理的に命が終わるぞ?

ティナを人質に取るにしたって、強要内容を治癒した相手に漏らしでもしてみろ? 王家の信用なんて地に落ちるわ。


不敬だといわれるかもしれないが、俺は平民で身分なんてなんも持っちゃいない。

俺の立場で言えば、有用なスキルを持っているから徴用したいって話を持ってこられてるだけで俺自身が犯罪者なわけではない。

身に余る光栄? 嫁を強要されることが?

阿呆なこと言うな、平民に二人以上奥さんを持つ人はいるが、それは裕福で本人が望む場合のみ。

本人が拒否ってるのに言い続けられるのは、俺の場合は明らかに過剰な要求といえるんである。


そこに来て、一夫一妻の純愛物語が流れたらどうなるか。

さっき鑑定眼で確認してみたが、俺たちが思っている以上に獣人たちにとって俺の純愛物語は受けたらしく、なんかもうすでに悲劇的な話が出回っていた始末。

っていうかまだ心中はしてないよ? 犯罪者じゃないんだから。

でもそれくらいの勢いで純愛貫きそう、というところまで来ていた。

これを利用しない手はないよね、ということなのである。


まー。

平民の意思を、王様が無視したら道理は引っ込む話なんだけどね。

そこはそれ、そこまで嫌がってるのにダグさんの上官である王様が強制するかな、ということ。

で、こっそり王城のぞいてみた。

王様は青でした。うん、なんとかなるっぽいです。


ちなみに宰相はピンクでうっすら青いのが見えた。

真っ赤じゃないのはなんでだろう? あと青いのがあるのは善意があるせいかな?

貴族の何人かはアウトの赤だったし、なんか近寄っちゃいけないレベルで赤いのも1個あったけど、その辺は後でダグさんに言っておけばいいかなと思っている。

しかし特大レベルの赤って何だろうねアレ。ラスボス?


「王様は大丈夫そうだなと思うんですよね」

「それはスキルの恩恵でそう思うのかしら?」


ちらり、とみられたので肩をすくめて見せる。

肯定してもいいんだけど、あえて肯定しなくても良さそうなんだよな。

明らかにエレンさんが面白そうな顔をしてるもの。


「うふふー。サレス君は楽しい子ねぇ!」

「伯母様? この案、ダメなのです?」

「いいえ? すっごく楽しそうだから、伯母さんも一枚かんであげるわね!」


あ、なんか、すごい力強い味方が現れた気がする。

というかうん、強そうだなとは思っていたけど、この人絶対敵に回したらダメな人だ。

明らかに俺を見る目が変わったもん。

やっぱり品定めされてたのねこれ!?


「王には私から抗議してあげる。このまま無理に呼べば、この二人は心中しかねない。一体何を要求する気だと、それはもうだ・い・だ・い・て・き・に・ね?」

「うわぁ……」

「あの宰相の空回りの暴走っぷり、いい加減腹が立ってたのよねぇ。うふふふー。おバカ貴族ごと少し、懲らしめてあげるわよぉ……?」


……この人実は、ダグさんの拘束に関してすっげー怒ってたんじゃないか?

そう気づいたのは、館から嵐のように去っていくエレンさんの背中を見送った後であった……。




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