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翌日。

軽く痛む腰を抑えながら、足取り軽く俺は宰相の娘との待ち合わせである宿前にたどり着いた。

横に歩くティナはちょっと疲れているようだが、足取りはしっかりしている。

まぁ俺が回復したので身体的には問題ないはずなんだけどね。


「サレス……元気、すぎる」

「ははははは」


むう、と睨んで来るがかわいいだけなので笑って誤魔化した。

いやあ、かわいかったなぁ昨日のティナ。

何回戦まで挑んだかまでは言わないけど、もっとって言われたら張り切っちゃうよねやっぱり!!!


「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます、なのです」


ここ数日と同じように馬車に乗り込むかと思いきや、宰相の娘の横には護衛が増えていた。


「あれ?」

「お久しぶりっすよー」

「ニック?」


そこにはどこかで見たことのある男がいた。


「ここからは王都への道としても難所に入りますので、ギルドからも数名護衛を招きましたの」

「なるほどね」


そこでニックが来るのは、なんというかギルドのごり押しが入ったっぽい気がするな。

とはいえ、ニックを見る目はあまり好意的ではない。

……このニック、さっそく宰相の娘でも口説いたのか?

何かものすごく嫌そうな顔でニックを見ているんだけど、その理由はなんだろ?


「……ギルドから、どうしてもその、ティナ様を守りたいということでお招きしました」

「え、私?」

「ティナはギルドの大事な人っすからねー! もちろん俺にとってもっす!」

「は?」


え、このニック何言っちゃってるの?

と思ったのは俺だけではないらしく、ティナもぽかんとニックを見ている。

ニックとは半年ぶりに会うわけだが、ぶっちゃけるとこいつはティナを色眼鏡で見ないのも納得のA級冒険者だったはずだ。

そしてその外見も様子も変わってないのに、ティナに対しての態度がなんかおかしい。


「ここから先は任せるっすよー」


にっこり笑ってティナの手を取り、王子様ばりに口づけるニック。

すぐさま手刀で切って捨てたが、ひらりと離れたニックの様子はまるで変わりがない。

あー。

あー。

なんとなく理解したけど、理解したくない!

ティナに触んな!!!







ご機嫌を一瞬で解除されたものの、道中の馬車の中は相変わらず3人で進む。

ちらりと馬車の外に見えるイケメンは、さっきのにやけた顔はどこへやら、真剣な顔で回りを警戒している。


「ティナ、ここらへんって盗賊でも多いの?」


宰相の娘に声をかける気はないのであえてティナを名指しにするが返事が返ってきたのは宰相の娘からだった。

というかいい加減名前を聞くべきなんだけど、自分から聞くのもなんなのでずっと放置している。

まぁ鑑定眼使えばいいんだけどめんどくさいからやってない。

本人も自己紹介していないのに気づいていないあたり、まぁどっちもどっちかなって気はする。


「ここのあたりは山越えですので、盗賊のほかに獣も多く出ますの」

「魔物も?」

「ええ、一番強いものですとオーガも出ますわ。奥地はAランク指定となっております」


なるほどなあ、と思いつつこっそり外へ鑑定眼起動。

うん、確かにそこかしこに赤い点があり、オーガを指定して検索してみたらそれなりの数がいた。

まあ、近くにはいないからよってくることはなさそうだけど。

盗賊のほうも街のそばにいるのが多いらしく、近くには見当たらない。

どちらにせよどうみてもお貴族様とわかる馬車を襲うかというと微妙なところではあるか。

護衛用の騎士に、凄腕っぽい冒険者もいるから俺が盗賊ならまず敬遠する案件である。


……一応それでも手出しする貴族はいるかもってことなんだろうな。


まあ、実際いるっぽいのは知ってる。

ティナと別行動しようとしたときさりげなく寄ってこようとするのが何人かいたからな。

全部避けてやりましたけど。


風魔法って便利だよね。

匂いを追えないように風をコントロールしつつ、二人で気配を薄くしてれば大体見失ってくれるからな。

ちなみに隠密系のスキルは持ってないけど、二人とも体術レベルが高いので、ある程度忍者みたいなことはできるんだったりする。

まあ、ティナは獣人なので身体コントロール系は大の得意ということもあるけど。


そういえばこの半年あんまり自分のステータス見てないなぁ。

何か増えてたらとりあえず隠ぺいすると自動化してあるので問題はないはずだけど、そろそろステータス隠ぺいの変更もしておくべきかもしれない。

いい加減中級冒険者になってそうだしね。


「ティナはオーガって行ける?」

「んー……1:1ならサレスが支援してくれれば大丈夫だと思うのです」


ちら、と宰相の娘を見つつ思案するティナ。

戦力は低く見積もっても、高く見積もっても何が影響するかわからない。

ティナはあくまで俺と一緒なら倒せるというスタンスを崩す気はないらしい。


『仲良くするのは良くないです?』

『良くないわけじゃないけど、俺はいざとなったら彼女を切り捨てると思うよ。その時ティナが嫌な思いをするかもしれないことだけは覚えておいて』


ふと、昨日ピロートークで話したことを思い出した。

その時の答えは、俺の意思であればその時従うけどそれまでは好きにする、だったか。


『ティナはそれでいいの?』

『いいのです。――サレスが迷わないときは、もう考えるだけ考えた後だと思うから。だから、私も迷わないの』


うん、俺いい嫁持ったよな。

そういう形で決心を後押ししてくれるなら、俺も迷わず彼女を選ぶ。

実際俺は臆病者チキンだし、なるべくなら他人も巻き込みたくないと思ってる。

でもそれにカマかけて自分の大切な人間が害されるというなら俺は迷う気はない。


……できればそういうのは、なるべくなしの方向で行ってほしいけど。

世の中そんなに甘くはないだろうなとは思っていたりもする。

大体馬車の中、3人しかいないしね。

すでに決定事項として3人でイチャイチャみたいな報告されてる可能性あるしね。


最初に言ったんだけど窓を開ければ丸見えですし、とか言って受け入れてもらえなかった時点でアウトだよなーと思いつつ。

今日も馬車の中が良く見えるように窓を開ける俺たちなのであった。


ちなみにニックは時折こっち見てる。




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