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「……今日の宿はご飯がおいしいと評判の――」

「いえ、俺たち屋台で適当に食べるんで夕飯いりませんから」

「!?」


「今日はこの宿に――」

「一番上がスイートルームらしいんで”ティナと二人で”泊まりますね。この宿の宿主は素晴らしい人ですね。高級宿らしくて複数はと言われたので”是非侵入しようとする輩は排除してくださいお願いします”と伝えておきました。ではまた明日」

「!?」


「今日は全員でこの宿に―」

「悪いんですけど嫁がいる身で誤解を与えかねないので、今日はあの宿に泊まりますね。明日迎えに来てくださいね」

「……」


「こ、この宿は平民は泊まれないのだけど私となら――」

「もちろん俺も平民なので嫁と二人で違う宿を取りますね。おやすみなさい」

「……」



……。



「サレス、ちょっとやりすぎなのではないのです?」


数日間のやり取りを微妙そうに見ていたティナが、宿に入るなり口を開いた。

今日の宿はここ数日と同じように、二人で泊まれて、かつ出入りが厳重になっているところである。

俺のスキルって便利だよね。

宿屋一つ選ぶにしても、自分に味方してくれそうでかつ高級宿、って基準で選べるんだもの。

ちなみに旅費は最初から交渉で頂いてある。それくらい譲歩してくれないと行かねーぞと言ってみたらその部分は許可が出たのだ。


「ティナ。ここは譲っちゃいけないところだと思うよ?」

「でも、あの女の子自体は悪くはないと――」

「悪くはないと思うよ。――でも、ダメ」


宰相の娘を送られた当初は、こいつ絶対俺を誘惑しに来ただろという態度で接したのは確かだ。

実際何か言い含められていたのか、積極的に誘うことはあれだけ嫌がったふりをしてもやめることはない。

ただ、俺の目に見えるあの子の色は基本的に青。

どちらかというと嫁一筋の俺を好意的にみているらしく、宰相の指示だけこなしましたという態を取りたいんだなというのは透けて見えている。


なのでティナはあの宰相の娘には同情を覚え、それなりに会話することもあるようだ。

俺は自分から話しかけることは一切してないけどね。


見た目おそらく15歳ぐらいなので、年齢差もちょうどいいのだろう。

けもみみこそないものの、美少女と言っていいくらいには整った顔立ち。

ティナほど健康的な雰囲気はないものの、貴族女性として教育を受けたのだろうすらりとした体躯と、上品なたたずまい。

今までやってきた女性とは一線を画す様子に、ときめかないかと言われるとまぁときめかないわけでもない。


でもな。

なぁなぁで受け入れるのはだめじゃないかと俺は思うわけだ。


「ダメ、なの?」

「うん、ダメ。少しでも好意を示したらあの子は巻き込まれるよ。――確実にね」


あの子自身の色は青だが、外側にうっすらと赤い警戒色が発生しているのだ。

ここ半年の検証で大体わかったんだけど、本人の意思関係なく何か俺に害なす可能性がある場合は警戒色がうっすら出るのだ。

ガルサーさんの時は斑だったのは、あれは脅されて彼の意思で俺を害するかを悩んでいたからだった。

彼女の場合はおそらく、彼女の存在自体が利用される可能性が高いということなのだろうと思う。

まぁそんなの見えなくてもテンプレなので、大体は想像がつくんだけどね。


っていうか、確実にあの子を嫁にすることで国に取り入れる算段つけてるよね宰相。

何の始末が悪いって、それがおそらく『善意』なのが一番の問題だ。

ダグさんが説得できなかったのも『防波堤として娘を形式上だけでも嫁にさせる』って言い張ってたかららしいんだ。

そんなの俺は望んじゃいないけど、貴族からの防波堤としてはダグさんじゃ弱いからと。


言いたいことはわかるよ?

しかも俺に好意的で、向こうも俺を見てまんざらじゃないっぽいよ?


でもダメ。


「巻き込まれる、の?」

「うん、確実にね。そもそもあの子を俺の嫁にして防波堤にしようって話、昔されたからね」

「え……」


当時そんな話をしたら悩んだ末に受け入れそうなティナがいたため言わないでいたが、今後そんな話は確実に出るだろうと思い告げる。

というかぶっちゃけ、ティナと仲良くしようとするのもその一環だろうなと思うので実は止めたかった。

でも、それを止めるということは俺がその思惑に気付いているのについてきていることを示すことになる。

だから止めなかった。

いや、止めずにこんな風に告げる機会を待っていたともいえる、かな。


「……防波堤」

「まあ、彼女は貴族だしこの国の宰相の娘でもある。おそらく婚姻を届ければ隣国のいざこざも引き受けてくれた上、俺がある程度自由に動けるようにもしてくれるんだろうとは思うよ。宰相自体は悪人でもないらしいし、そもそも俺は戦闘スキルが高いわけではないからね。国に通っている申請もどちらかというと聖魔法の使い手でサポートの側面が高いとなっているから、戦争とかの要請が来ても後方支援だろうから俺としても国を守る戦い程度なら参加しなくもないとは思う」

「……」


難しい顔をして黙り込むティナの頭を、俺はそっと触れる。

へにゃりと落ち込んだように折れ曲がった耳を撫で、彼女の口が開くのを待つ。


「……サレスは、」

「うん?」

「サレスは、それをしたくないのです?」


したくないといえば、おそらく嘘になる。

嫁と行っても形式上で手を出せともいわれているわけではないし、この話が出たときに手出しなんて無理だけどといったときも『戦力を確保するのには関係ない』と突っぱねられたレベルだという話も聞いている。

ちなみにこの部分でいう戦力は、実際の戦力ではなくてあくまでも『大きい戦力がある可能性』のことだという話を聞いているので、ぶっちゃけ俺自身も宰相の娘の意思も関係ないことまでは把握している。

難しいことは俺もわからないが、俺が頷きさえすれば大人が何とかしてくれるのだろうということもわかってはいるのだ。

信用できる大人を、俺自身が探し当てているのだから。


「……ティナは?」

「え?」

「ティナはそれでいいの?」


形式上とはいえ、ティナは第二夫人――下手すればそれ以下の扱いになる可能性がある。

俺は心のどこかで気づいている。

一人増えればなし崩しになるだろうし、俺自身常に横にいて誘惑された場合愛を貫けるかと言われると返答に困るということに。

なにせ無駄に絶倫スキルがあるらしいし。

ぐったりするティナを見て、思うことがないわけでもないのだ。


「わたし?」

「うん」


俺がハーレムをしたくないというのは、完全に俺のわがままである。

形ばかりならいいじゃんと思う心もどこかに存在するし、もしかしたら誘惑や誘惑のスキル、薬などに負けてしまうかもしれないとの思いもある。

まあ、今回の場合俺が一番大嫌いなテンプレに似ているので、ぶっちゃけ宰相の娘を受け入れる選択肢というのはないのだが――。

それと、ティナ自身の回答は別じゃないかと思って聞いてみた。


「……わたしが、決めていいの?」

「ちょっと違うかな。二人の問題だから、ティナの意見も聞きたい」


俺が今愛しているのはティナだ。

もし、他に結婚したい相手ができるというのであれば俺は追加という形は選ばないし、選びたくない。

だからこそ彼女に聞きたい。


「私は――」




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