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問題はカードをどう誤魔化すかというより、どうやってテイムした狼を連れまわすかである。
テイムスキルはあるが、この点についてはダグさんを通して領主と交渉すれば何とかなるような気がする。
なにより王に対して報告義務があるか否かについては、ないだろうという点な。
しばらく俺はここの領にお世話になるわけで、先だってのテイム問題を解決にもひと役買っており印象は悪くない。
なので、交渉次第と踏んだわけである。
「折りいって相談があるんですけど」
「なんだい?」
ということでダグさんを巻き込みつつ、領主様とガルサーさんに話すことにした。
リドさんを巻き込んでもいいんだが、脳筋リドさんに詳しい話をしてもな……というね……。
それに聞いたところ、領主館内であれば普通に聞き取れるらしいので同席しなくても伝わってるとのことだった。
ちなみにミルさんはやってきていた。
なんでも彼女、外交官らしいよ。
それは気付かなかったわ……!
「俺としてはこの子がテイムされてますという申請だけ出来ればいいんですけど」
ひらひらとカードで仰ぎつつ、恩を返してもらう感ばりばりで提案すると、ガルサーさんが何かを思案するように黙り込んだ。
どういう反応?
「テイムスキルを持っているって事は重用されるのに、申請しないのですか?」
「王への仕官は興味ないんで」
「……」
「むしろ百害あって一利なし」
間髪入れず回答してやると、ダグさんがうんうんと頷いている。
領主様があきれ果てているが、権力なんて嫌いな人間はいくらでもいると思うよ?
それに問題はそこではないのだ。
「大体俺、この領に来るまでに他の人間の嫁強要を王都の人間に食らいまして」
「……」
「王都へ行くのは死んでも御免なんですよ」
今度は領主様が深く頷いている。
よっぽどひどいのか嫁強要……。
いや、政治的に見りゃ仕方ないっての、あるかもしれんけどねぇ。
俺は王でもないし、一般人として幸せに過ごせればそれでいいので強要はごめんなのである。
「もともと俺は戦闘スキル的な意味では求められてませんしね」
「そうなのか?」
「ええ。ぶっちゃけ火力があるならこんな緩やかな感じでは来ないでしょう?」
よく見る設定であるが、権力者がスキル持ちを取り込むのは恐ろしいからである。
敵に回った時の戦闘力、恐れるのはまずそれだ。
その点俺は戦闘スキルがあるとは思われておらず、使い方も自分の危機のみ反応すると限定的。
つまりまだ誤魔化せる範囲なのである(と思いたい)。
あとギルド長であるダグさんが横にいるのもきっと大きいな。
ダグさんに強要すると冒険者ギルドが敵に回るので便宜を図っている節はあるしな。
っていうかダグさんが横にいないならとっくに俺はティナと森生活を始めていると思う。
いや割と本気で。
「申請だけって言うのは出来るのか? ガルサー」
「元々カード情報にまず雇い主の情報を入れた上で私がテイム、首輪で上書き……というのを取るので、首輪だけの申請で問題ないかと思います」
「そうか」
どうも首輪さえつければ情報に俺が主と名乗っていても大丈夫なようだ。
それなら安心だな。
しかしさっきからガルサーさんの言葉数が少ない。
彼は何かに躊躇った後、一言こう伝えてきた。
「ですが、カード化はテイマーしか出来ないので、首輪をつけた後のカード化はお勧めしません」
「OH」
カード化、俺のスキルだったらしい。
それは予想外だわ。
しかし躊躇って喋る内容じゃないんだけど、何か反応が変だな。
「あと狼の情報を見るに普通であればカード消失するレア度だと思うので、注目は避けられないと思いますが……」
「カード消失?」
詳しい話を訊いてみるとテイムには二種類あり、カード化するのはテイムのスキル使用の一種。
ガルサーさんのような種族限定のテイムに関しては、カードからのテイムのみなどの制限が大きい上、失敗するとカード自体が消失するそうだ。
俺の持っているカードはハイウルフでも大型のためカードのレベルが違い、一発テイムは難しいレベルとのこと。
「でもユニーク個体ではなかったですよ?」
「見させてもらってもよろしいですか?」
「どうぞ?」
手渡そうとしたが、カード自体が反発を起こしたのでそのまま掲げるようにして読んでもらう。
カードが反発するってどういうことなの。
と思ったけど、テイムで主を変えようとするとそうなるそうで、そのつもりが無くても狼のテイムスキルがあるガルサーさんは触れられなかったようだ。
「……カードの表示のレア度が違いますが、名称に変わりはないですね……。これなら申請も通ります」
「それはよかった」
レア度があまりに高すぎると主変更要求が起こるらしいので、危ないところであった……。
なお、首輪をつけてから一か月ほどたつと主の認識が入ってしまうのでテイム主変更が不可能になるらしい。
ならしばらくは領主館内で飼う感じかなー。
領主館は広いし、ダグさんの話だとごたごたが収まるまで数か月はここに住むらしいので問題ないだろう。
領主館らしく、狼も多頭飼いしてるらしいしな。
首輪は持ってきてもらっているので、その場で申請も書いて終了。
滞りなくハイウルフは俺たちのものになったのであった。
しかし、一つだけ気になることがある。
「ダグさん、ちょっと俺ガルサーさん追いかける」
「うん? 手助けはいるか?」
「今はいらない」
ダグさんが頷くのを見届け、俺はティナにハイウルフを任せるとガルサーさんを追いかけることにしたのだった。