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「おお……狼がたくさんいる」
「あれは繁殖した狼だ。テイムした狼同士が生んだり、傷ついた狼をそのまま調教したもので、テイムされたものとは違う」
「どう違うんですか?」
昼下がり。
お昼を食べた足で牧場(?)に向かった俺たちは、何匹もの狼にお迎えされた。
「こいつらは知能が低い」
「ほええ……」
全然低いように見えないんだが、テイムされている狼は能力値がそもそも違うので馬力が違うとのこと。
調教されている狼は掛け声などの一定の言葉にしか反応しないのに対し、テイムされた狼は言葉ごと理解するんだとか。
異世界のテイム、すごすぎないか?
テイムされていない狼は、絶対に人間のいう事は聞かず、単純に狼の獣人を上と見て従っている、とのこと。
ただこの街で使う分には問題がないため、一定量を飼っているそうだ。
よくよく考えたら一度殺さないと(しかもカード出た場合のみしか)テイム出来ないんだし、そのくらいの優遇はあってしかるべき、なのかなぁ。
ますますテイムスキルに期待がかかるね!
……いつ使えるかわからんけど(遠い目)
「おーい、ガルサー。いるかー」
「いらっしゃいませ。領主様の御客人ですか?」
「ああ、そうだ。カードは所持しているということで、テイムの様子を見せてもらえないかとな」
どうやって呼び出すのかなーと思いながら領主弟さんについていくと、唐突に建物の前で叫ばれた。
そして何事もなかったかのように出て来る狼獣人ガルサーさん。
え? いきなりすぎてついていけないんだけど、ある程度現在位置を獣人は把握できるってことか?
首をかしげていると、ガルサーさんと目があった。
そしてなぜか微笑まれる。
「人間の方ですと、会話がいきなりで驚きますか?」
「あ、はい。よくわかりましたね?」
「リドは前段階を吹っ飛ばしますからね。いつものことです」
ガルサーさんが肩を竦めると、領主弟さんはバツが悪そうに頭をかいた。
隣でミルさんが旦那さんを呆れたように見ている。
ってか弟さんリドさんって言うのか、初めて知った。
「リド、さん?」
「あー……」
「自己紹介すらしてないんですか?」
念のため確認してみると、名前はリードさんだそうだ。
出会いしょっぱなが土下座だったので名前を聞き忘れていたわ、そういえば。
荷物持ちだから説明はあれど、呼びかけるときはミルさん+α扱いだったしな。
で、唐突に話しかけられる理由を聞いてみると、単純に匂いらしい。
足音でも判断できるので、近くにいれば意識しなくても位置に気づくとのこと。
で、出てきたガルサーさんも足音が複数だったため、誰かを案内してきたことは見当がついていて敬語で出てきたのだという。
うん。
普通に責任者だな。
さり気にリドさんをたしなめることで、俺たちが口出しできないようにしてるし。
リドさんをフォローしてるのかな?
「まあ、貴族の方でしたら領主様が案内されてくるので、ある程度は大丈夫な方だという認識はありましたけど一応ね」
「……」
ちがった、単純に信用されてないだけだった。
ってか腹黒いだけだこの人……。
「それで、テイムをご希望とか?」
「あ、はい。カードはこれなんですけど」
「火属性ウルフですか」
この口ぶりだと火属性以外のウルフもいるんだろうか?
気になって聞いてみると、どうやら割と近く……近隣の領の境界近くの森にはハイウルフが出るらしい。
「え? そんなに近くに出るならもっとカードがあってもおかしくないのでは??」
「そうなんだけどね。冒険者ギルドに問い合わせても入ってこないって言われてね……」
「溜め込んだりするものなんです??」
「それはないと思うんだけど……近隣のギルドで高額で買い取られてる可能性はあるね」
あ、ガルサーさんは近隣の領の経済制裁の可能性はさすがに気づいてるんだ。
でも、この領の冒険者は獣人だろうし、わざわざ近隣の領へ売り払いに行くとは思えないんだけどな……。
多少安くても獣人ならこの領の冒険者ギルドで売ってる気がする。
ふーむ。
ますますこれ、ダグさんに問い合わせ案件の気がするなぁ。
経済制裁+何かがありそうな気がする。
勘でしかないけど。
「ところでウルフとハイの違いってどれくらいあります?」
「まず属性が変わるね。風がメインだから補助・輸送能力が高めになる。大きさもあるから女性ぐらいなら乗れるよ。君もその細さなら乗れるかもね?」
「乗れる……!?」
モフモフに……乗れる、だと……?
憧れの……狼、騎乗……!
テイマーとしては外せない案件なんですけど!?
「ティナ」
「ん? どうしたのです、サレス?」
「ハイウルフ狩りに行こう?」
俺の謎のカードドロップ率の高さなら数日間もすればカード一枚くらい行けると思う。
索敵ならお手の物だし、その気になれば狩りつくす勢いで狩ることもできる。
勿論もふもふ虐殺はちょっとアレなのでカード出た時点ですぐひきあげるけど、俺は愛玩ウルフにも魅かれるけど騎乗ウルフの方がひかれるのだ。
大きいのも良い。口ぶりからすると普通に申請も通るんだろうし、ハイウルフの方が魅力的だ。
よほど俺がキラキラしていたのか、ティナが苦笑しつつ頷いてくれる。
俺の意思は伝わったようだ。
「え、っと。ハイウルフはBランクとかなりランクは高いですよ? 単体はそれほどでもないですが、群れででて来るので人数が必要になるのですが」
「大丈夫なのか?」
心配そうにリドさんとガルサーさんが聞いてくるが、ティナは大丈夫だとあっさり頷いた。
「私とサレスの組み合わせならハイウルフ程度なら余裕なのですよ」
「程度……」
「これでもAランクなのです。サレスはランク更新していないのですが、私より強いので……」
「「強いんだ!?」」
そんなに驚くような事かなぁ。
まあ確かに見た目はまだまだなよっちいんだよね、俺。
筋肉はそれなりについてきてるし、ステータス上は怪力なんだけども。
納得させるならこっちを主張するのはおかしいかな。
「俺、聖属性の魔法使いなんで」
「なるほど……」
「それなら確かに、獣人との組み合わせは強いですね」
納得してもらったところでハイウルフカードが手に入り次第また来ることを約束し、手持ちのウルフのカードは税の問題があるのでギルドを通して売り払うことになった。もちろんハイウルフが手に入らなければウルフをテイムするのでしばらくは売らない。
カードについてダグさんに確認したいこともあるし、ギルドを通すのは逆に願ったりかな?
そう思いながら俺はリドさんについて牧場を後にしたのであった。
前話で修正ミスがあったので修正。
ネタバレしているのを戻しただけなので、アレ? と思ったら読み直してくださいorz
修正後→「ギルドを介してるはずじゃあ? ダグさんに確かめたいところだな、これ。」




