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ちょいながめ



「おうサレス。遅かったな?」

「何故か変な噂に巻き込まれまして……」

「噂?」


領主館につくと、領主館の手前でダグさんがのんびり待っていてくれた。

門番と話しながら時間を潰していたらしく、俺たちを見つけるとすぐ寄ってくる。

そのまま門番の前を通り領主館へ向かいながら、遭遇した少年の話をダグさんに伝える。


「”領主様の弟”?」

「ええ。ラル君がそう言っていました」


ティナの友人のミルちゃんの弟君の名前はラル君。御年8歳。

ティナの手紙はラル君が毎日聞いていた話らしく、ティナのことをねーちゃんと呼んで慕っていたのは、ティナ自身も知っていたことだったらしい。

赤ちゃんから少年になっていたので、顔がわからなかっただけで。

で、その少年から聞けたことは領主様の弟様とやらが、俺のいらん噂を教えてくれたってことだけだった。

ちなみに近くに住んでいるというので途中で帰りました。さすがに領主館に子供だけで入ってくるわけがなかった。


「……はー、なるほどねぇ」

「何か心当たりが?」

「あー、あるある。あるっていうか、サレス連れてきた理由の一つでもあっからなー。まさか先手を取られるとは、迷惑な感じだなー」

「何故に棒読み?」


てくてくと応接間まで歩く間、ダグさんは周りを気にしているようだった。

そしてにやり、とこちらを見てくる。


「恐らく聞いてるだろうからな」

「高度な嫌味技術……!」


やる気のない棒読みはあえて聞かせるためだったらしい。

って、普通の人間じゃ見える範囲にいないと聴けない気がするのだが、そこはそれ。

領主様の弟って事は狼だから、あのくらいの雑談でも聞こえるって事なんだろう。


「ようこそ、わが領へ」


応接間に入ってほどなくしてやってきた領主様は、男盛り真っ盛りなイケメンだった。

30代ぐらい? ……若々しいけど、雰囲気がザ・領主様って感じだし40代もありえるのかな?

とにかく嫉妬するのが馬鹿らしいほどにイイ男だった。


「報告も聞いた。わが弟が迷惑をかけたようだな……」

「迷惑も迷惑だーな。もう少し弟の手綱はしめとけ」

「ああ……」


そして速攻苦悩塗れになった。

先ほどのイイ男っぷりはどこへ!?

いや、苦悩しててもイケメンだけどな!?


「それなんですけど、なんだってこの一夫一妻が多そうな領で、そんな噂をあえて出したんですか?」

「ああ、それはな……」


苦悩する領主様によると、どうやら王宮からちょろっと要求が来ていたらしい。

元々一夫一妻に関して貴族らしくないとチクチクと嫌味を言われていた領主様。

外から来た人間に対してだったら別に、ハーレム薦めてあげてもいいよねー、みたいなものだったらしい。

あくまで婉曲な内容だったらしいけどね!


「……いや、それ、言うこと聞いたら余計舐められるだけですよね……?」

「そう言ってもな……」


話を詳しく聞いてみると、一夫一妻の上好みが激しい種族である狼は、割と平民でもさっくりお嫁さんにしてしまう。

種族的に狩猟などにつよく、食料こそ豊富にある領であるが、嗜好品となると途端に弱い。

あと結婚外交が殆どないので、やはり輸入に関して無理を言われると多少の融通をきかせないとどうしようもないことが多いんだそうだ。

世知辛い。


「あと獣人は脳筋が多い」

「説得力がありすぎです……」


細かいことになると途端に駄目になる獣人たち。

もちろん人間も伴侶としてはいるのでそのあたりの人間を外交に使ってどうにかしてはいるが、事が深刻になったのはそれだけではなかった。

曰く。

領主が一妻で拘るなら弟の方に多妻にしろと圧力がかかったのだとか。


「いやムリだろ」

「無理なのでは」

「それを嫌がった弟が……来る人間を説得するというのを受け入れてしまってな……」

「交渉術から修行しなきゃダメな感じ……!!!」


相手が上手だったのかもしれないが、色々ダメな感じだった。


「一言言っていいです?」

「なんだ?」

「むしろ一夫一妻は売りにした方がいいですよ? 男性に受けは悪いかもしれませんが、女性に受けが悪いことはないと俺は思います。あと、俺みたいに多妻とか冗談じゃねー! って人間も、確実にいると思うので、そう言った人間の受け入れを積極的にしてはどうでしょう?」

「とは?」


俺は割合ハーレムに関しても読んでいるので知っているが、結構ハーレムって持続って難しいと思うんだ。

読み物でもドロドロなのはいっぱいある。

そもそもそんな趣味がないのにわざわざ背負いこむ必要って無い気がするんだけどなぁ。

だって出来ないもんは出来ないでしょ。


「んー、観光名所みたいなのを作るとか。『貴方だけを愛します』みたいな誓約出来るのって、結構女性には人気出る様な気がするんですけど」

「? 割と、この領ではそれが普通だぞ?」

「その普通が少数だから叩かれるんですよね? だったら、これが俺の領の特色だ!! って開き直って喧伝すればいいと思うんですけど」

「なんと!」


俺としてもその方が確実にココロ休まると思う。

通ってきた限り、この領は決して貧乏ではない。

どちらかというと交渉下手が影響して輸出輸入で影が出てるような気がするのである。

ちなみに食べ物が豊富であれば、街中がそれほど雰囲気が暗くないのも納得できる。


「大体俺に嫁薦めると、ギルドにそっぽむかれますよ?」

「そうなのか!?」

「おうよ。俺の嫁ががんばってっからなー」


冒険者ギルドとのごたごたを全無視して領主に直接勧誘(?)させるとか舐められ過ぎである。

俺のせいにしていいからとりあえず送ってきた貴族どもには忠告しとけー、とやる気のないダグさんが言っている。

惚気るのが楽しいので有って、変なのを押し付けられるのは本意ではないんだそうだ。


結局領主の弟の暴走である、という言質が取れたので素直に領主館に泊まることになった。

存分にイチャイチャして良いそうなので、これでもかといちゃつくことにしたのであった。





翌日。

ざ、土下座と言わんばかりに深く頭を下げてくる男性に遭遇した。


「……」

「すまなかった……!」


言われんでもわかるくらい、昨日会った領主様に似ている。

こちらの方が息子と言われても納得しそうなくらい若々しいが、そもそも領主様の家族は割と子だくさんで5番目の弟だとか。

腹が休まらんわ! とお嫁さんに拒否られることはあるらしいけれど、そもそも万年でらぶらぶしていたらそりゃあたくさん生まれますよね……。

奥さん複数とかマジいらないじゃん……。


子供が多くても跡目争いとかも、実際ほぼなし。

むしろ押し付け合いが多発するという脳筋がデフォルトの一家なんだそうだ。

不思議と大体嫁さんの頭が良くてなんとかなるらしい。

世の中よくできている。


ぴるぴると揺れている耳がなんとなく哀愁を誘うが、俺としては横でニコニコしている領主弟の嫁らしき人物の方が気になる。

笑ってるのにめっちゃ怖いんですけど!?


「ティナちゃん、久しぶりね~」

「ミルちゃん!?」


おい。

領主弟、ティナの友人の夫かい!!

そりゃなんか話が早すぎておかしいなとは思ったけど。

年齢的にも義兄さん、とはよばなかっただけでラル君と親戚だったわけだな……。


「悪気が無ければ許されるとは思ってないから、遠慮なくしばいていいのよー?」

「いえ、まだ噂の段階ですらなかったみたいなので大丈夫です」


真相を聞いてみるとこうだった。

嫁の友人が遊びに来ることを聞いていた領主弟。

その彼に、接触してきて無茶振りをする貴族が数人。

いくら相手が人間でもそれはどうなんだ? と悩んでいた処、嫁の弟ラル君が通りかかる。


試しにとラル君に相談した処、ティナ大好きラル君は『そんな男にティナねーちゃんは嫁いじゃったの!?』と泣きながら怒り。

件の襲撃とあいなったらしい。

うん、ただの言葉足らずじゃねーか!

俺はハーレムなんて築いてないし、築く予定も今後もないよ!


「むしろ根拠のない噂の方が怖いのよ~~」

「まあ、それは同意しますけど」


でも鑑定眼使う限り、そんなに俺への悪意を持ってる人いないんだよなー。

懲りずに追いかけてくる貴族女性とかいるのかなあ、と思っていたんだけど、この領はそもそも獣人が多い。

隣国ほどの差別はないとはいえ、そもそも一夫一妻の気風の街に、愛人志望の女性の相性が良いはずもなく……一人身で来るとなんか居心地が悪くなるそうです。

主に相手のいる獣人女性からの視線が痛くなるとか。

まあ、貴族だー→一夫多妻だー→何しに来たの?

みたいになるのはわからんでもない。無理難題を近隣の貴族から吹っかけられてるとしたら、貴族自体に忌憚感が強そうだもん。

ご領主様を困らせるのは何事だ! みたいな。


「まあ、噂なんてそもそも俺が一人でふらふらしたり、他の女性と接触しなければどうとでもなりますし」

「あらたくましい~。ティナちゃん、良い旦那様ねー?」

「はいなのです!」


いや、そこは思いっきり言いきらなくてもよくないかな?

さすがの俺でも照れるよ?


「あらー♪ ティナちゃんティナちゃん、今日は私もお義兄様の館に泊まることにしたから、後でいっぱいお話しましょうねー?」

「了解なのですよー!」

「それまではどうするー? 観光のお手伝いはいるかしら?」


ティナとミルさんがきゃっきゃと話し合っているが、そこの頭下げている男性はいい加減身体起こさせてあげた方がいいんじゃないかな?

腰が辛いのかピルピルふるえてた狼耳がさらに小刻みに震えてるよ?

さすがに同じ男として可哀想になってきたのでトントンと肩を叩き起き上がるように促すと、何故かすごいキラキラな目で感謝された。

何故だろう。飼い犬が目の前にいるぞ……。

あんた俺より確実に年上だよね……?


「あら、お優しい。一時間ぐらいそんな感じにしてもいいのよ?」

「いえ、さすがにそれはどうかと思いますし……俺も、観光はしたいですしね」


ご一緒にどうですか、と暗にダブルデートに誘ってみると、ミルさんの目がきらりと光った。


「うふふー。私だけー?」

「まさか。噂を増長させるような行為はしませんよ」

「そうよねー。いいわ、荷物持ちも連れてってあげる☆」


荷物持ちに確定した領主弟は絶望的な顔をするかと思いきや、何故かピンっと尻尾を立てた上でふりふりしていた。

調教され過ぎだろうこのイケメン。

くっ……嫌味の一つでも言おうかと思ったのに、和むとは不覚……。


後で聞いてみたら、獣人男は妻の要求に応えるのは至上の喜びだそうです。

それがたとえ荷物持ちでも。

お説教でもお仕置きでも。


く……っ、なりたいとは思わないけどその欲望のストレートさは嫌いじゃないというか。

くっそモフモフしたい。飼い犬がぶんぶん尻尾振って飼い主(奥さん)にくっついているのは萌える。

野郎だけどな!

うっかりテイム解禁したいと思ったのは、秘密にしとこうと思う。

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