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帰ってきたダグさんに、首都へ行かない方がいいのではないかと相談を持ち掛けた。
「なんか貴族たちの中で、『俺が誰かと結婚して隣国の貴族とは関係ないことを証明する』、が決定事項になってるんじゃないかと思うんですが違いますか?」
「……」
開口一番推測を告げると、ダグさんの顔がとても嫌そうになった。
なんか当たりらしい。
「最初から話すか、ギルドの通信を使って直接王と連絡を取った」
「はい」
「王にたどり着くまでにその話が決定事項として王に伝わって、王もまあ『その子が望んでるならいいんじゃないか』ぐらいの反応だった。俺の姪の婿だっていうのすら伝わってなかった」
「はぁ?」
「宰相がな。悪気なく取り込む算段をつけてて、俺とディグの意思が入るとメンドクセ―と思って、隣国に取り込まれかけてる男を救う方向としての決定事項として告げていたらしい。宰相はぶっちゃけいなくちゃ困る奴なんで今対処に困ってる」
「………」
まさかの老害の手腕じゃなくて、宰相の一人判断だった。
何してるの宰相さん!
いや、俺も一国の判断として間違ってるわけじゃないんだろうなってのはなんとなくわかるんだけど!
わかるんだけど相手にされる俺の意思はどこよ!!!!!
「つーことで、サレス」
「はい」
「ティナ」
「はい?」
「行ってよし」
「「!?」」
目が据わった状態で、ダグさんが一言そう告げた。
行くってどこへですかね。
「そもそもここまで来れば、隣国の奴らが騒いだところで強制送還は難しい。結婚主張してたあの女冒険者は暗殺依頼してたのが証明されて、貴族籍から除籍を求める方向で進めてる。他の人間との結婚履歴は今からねつ造はしたとしてもサレスがこの国内から出る予定がないとすれば向こうが証明するのは無理がある。つまり、首都まで行く意味が、薄くなった」
「暗殺の証明されたんですか?」
「濡れ衣だって隣国の抗議は来てるけど総無視だ。お前に紐つけるためだけに隣国の貴族を利用しようとするバカが出るだろうが、出た段階で首飛ばす算段もつけた。あの女を囮にしてどうにかする」
ふむふむ。
つまるところ?
「あの女は首都に護送するからな。逆に首都に行くのはおかしいだろって抗議して、通した。そもそも新婚の人間捕まえて押し付け嫁を10人も20人も送るとか、ギルドを馬鹿にしてるにもほどがある。サレスがギルドを避けたことで、俺らも腹をくくった。まさかにわか冒険者登録してギルドで張る元貴族籍女がいるとは思わなかったしな……」
なんか色々裏が動いているようである。
っていうか俺どんだけ重要人物化してるの? 疑惑段階だったよね?
これで実際のユニークばれたら本気で指名手配を食らいそうな気すらするんだけど大丈夫!?
「しかし行くとしても、俺たちこの辺の地理は疎いんですが……」
「それはまあ、何とかする、というか。行ってほしいところがあるんだ」
「行ってほしい処?」
「ああ。サレスが人間だから観光は避けようと思っていたんだが、いい場所があるからな、この国には」
「?」
いい場所ってどこだろう。
「ティナを育てるために一時期ディグが世話になった街でな。ディグ自身が未婚って事で居住を規律の緩い奥地に引っ越したが、考えてみたら獣人との夫婦の新婚ならありじゃないかと思ってな」
「?」
「あ、わかったのです」
「獣人が多い街だ。領主は大の一夫多妻嫌い。話、合いそうだろ?」
「おおー」
異世界でもハーレム嫌いはいるんだね。
っていか普通いるよな。
ここでいうなら貴族なのに奥さんを複数取らない人間もいるんだな、というところか。
「まあ、この国でも珍しい獣人領主なんだが」
「なるほど。だから文句が一切出ないってやつですか」
「その通りだ。獣人の男に複数の妻を持たせようとすると死傷者が出るからな」
どんだけ!?
でもちょっと興味あるな。
「獣人女性だとありなんですか?」
「難しいところだな。種族にもよるだろう。ティナと同じ猫族に関しては、総じて束縛を嫌うため比較的多妻の夫人としてはよく見る方だと思う」
「あー……」
ティナの種族が問題ってのは頭になかったなー……。
そうだね、猫って割と気まぐれだもんな。
話を訊く限り大分命令系統が混乱してる感じがあったし、情報の継ぎはぎがあった結果暴走した貴族がいっぱい出たってところなのかな。
「後は総じて親愛スキル持ちは絶倫」
「いきなりぶっこんできましたね!?」
「むしろ女たらし」
「個人差ありますから!!!」
前言撤回。
絶対建国者のあとから出てきた転移者がやらかしただろ!!!
建国者も大概だけど!
「貴族が隣国と違って割と街民と仲が良いのがこの国の特徴なんだがな」
「はあ」
「情報が早いのが裏目に出たな!」
「……」
とりあえず、獣人が領主の街に行くことに決定し、俺たちは身支度した。
ダグさん? ついてくるよ。
久しぶりに嫁談義でもするかーとかウキウキしてるんだけど、俺たちダシにされてない?
あとティナが微妙に嬉しそうなのは、文通相手がその街にいるかららしい。性別を確認した。今は3人ほど産んでる兎種の幼馴染らしい。
OK、挨拶に行こう。
「えー。俺もいきたいっす」
「お前は駄目だ。出禁食らってるだろ」
そしてニックは首都行きだった。
ニックが出禁食らう獣人の街か―……。
うん。
いいんじゃない?
イケメンは滅べ。
テンプレが息をしていないようだ。
どうする?
→たちむかう
→にげる
サレスは様子見をやめた。
「丸投げで」
大人にぶん投げた!
逃走モードはいったん終了。
次から獣人の街でいったんまったりモードに入ります。
そろそろストックが尽きるよー('-')




