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さすがにお貴族様は野宿前提の旅路は難しいらしく、翌日の出発にはついてくることはなかった。
異世界生活46日目。
というか、ギルドに来てたのは王都からではなく、近隣の領から来ていたお嬢様方だったようだ。
親のせいとはいえいい迷惑であっただろう。うん。
だから俺は道のど真ん中で立ち往生している馬車なんて見えません。
「なんつーベタなことしてくるんだ……」
関わりたくない。
自分達で車輪を壊してさぁ助けてと言わんばかりに『偶然』を装ってくる相手とか見たくない。
ということで俺は道から外れることを提案する。
「……ダグさん。道から外れてもいいかな……」
辛うじて遠目で見える程度だが、明らかに大所帯が道に見える。
俺の目には赤く見えるけど、ダグさんから見れば困っているだけの人に見えるだろう。
しかし、あれは関わりたくない俺……。
「森の中は結構魔物がいるぞ?」
「アレを迂回してまた道に出るだけなら大丈夫だと思いたい。向こうはきっと『偶然』を装いたいんだろうから、俺がいないコトに突っ込んできたりしないだろうしティナと狩デートしてくるよ俺……」
「狩なのです?」
「うん。横の森、俺たちなら大丈夫っぽいから。適正はCかBぐらいなんじゃないかな?」
つい森すら鑑定をし始めている俺には、ちゃんと適正レベルも見えている。
ペアであるならば微妙と言えば微妙だが、俺とティナなら恐らくAランク狩場までは問題なく対処できるだろう。
ということで逃げることにした。
もういいよ!
よくわかんないのは全回避に決まってるだろ!!!
相手がユニークスキルを疑ってるとかどうでもいい。持ってなくてもどうせ持ってると判断されて巻き込まれてるに違いないからどうでもいい。
よし! 狩りだ!
「はじけ飛んだっすねーサレス……」
「触れてやるな。俺たちは普通に進むぞ」
「適当に合流するんで動いてていいですよー」
森の中を進んだところであまり違いはないので、携帯食料と一日分の荷物だけ持ってティナと離脱である。
はぐれたらどうするんだ?
まあ、本気で走れば追いつくと思うから気にしない。
☆
異世界生活48日目。
離脱すること、8回。
いい加減にしよう? 暇なの? この国の貴族は。
しまいには歩いてくる人が来るたび離脱してたよ?
あの豪奢な格好でどこに旅に出るのか俺に教えてくれるかな?
ただし又聞きで。
「暇というか、そのBlessがあると下手すると王位まで手が届くからな……」
「待って!? 王族でも何でもないのにどうしてどうなる!?」
「この国を捕るって意味じゃなくてな。国が興せるほどの能力、って認識が貴族にはあるんだ」
何故その相手に不興を買いたいのか小一時間問い詰めたい。
うんざりしながらつぶやくと、ダグさんは肩を竦めた。
「認識違いだろ。多数いる妻の一人になれれば儲けものぐらいの認識で次女以下を送ってきてるんだ」
「一人でも送って来た奴とは絶対話さない」
「子供か!」
「子供だよ!!!」
俺、高校生。
まだ未成年だからね! この国では成人してるけどね!!
「まあ、一人でも送って来た奴は俺が抗議すると伝えてあるからいいけどな」
「ダグさんが抗議?」
「俺の姪の婿に、堂々と嫁候補あっせんだぞ? 俺が認めてるならともかく、俺が拒否は明言しているにもかかわらず、だ。貴族は面子が大事だからな。嫌味言って後で色々むしりとるって言ってたぞ」
「……」
副ギルマスさん、頼もしいな……。
素晴らしい手腕である。出来れば水面下で止めてほしかったんだけどね!
「頼りになりますねー……」
「まあ。ギルドの安定運営に命を懸けているような女だからな」
「……女性?」
「おう。俺の嫁だ」
「OH」
一瞬警戒したが、ダグさんのお嫁さんなら俺にとっても伯母さんである。
ならあん……うん? なんか寒気したぞ?
「ちなみに名前で呼んでやってくれ」
「了解です!」
女性におばさんよばわり、だめ、ぜったい。
☆
隣国は広く、首都まではかなり遠い。
異世界生活50日目。ようやく3分の1まで来ました。
交易の街、貴族様もいっぱいな街にやってきたよ☆
「……とりあえず、どこ行きますかね」
「ギルドだな」
「お貴族様がいるんじゃ?」
「いないはずだ。絶対に入れるなと前の街で通達入れてるにもかかわらずいたらこの街のギルマスの怠慢だろう。ここは商人の街でもあるし、ある意味最も安全だな」
「?」
商人の街とか言うと、逆にあっせんで金をとりそうなんだけど違うのかな?
首をかしげると、ダグさんは肩を竦めた。
「嫁候補の紹介なんぞした瞬間に、サレスは二度とこの街には来ないだろ」
「まあ、多分来ませんね。商人は何してくるかわかりませんし」
「だからだ。俺の不興を買い、さらに金づるになりそうな相手の不興を買ってまで貴族に媚を売るか否かってことだ。サレスが人間だからいいのでは? って意見を言われたので獣人並みの対応しねーと即切られるぞと伝えておいた。まあ、理解しただろ」
というのでギルドに近寄ってみた。
そして俺はギルドにたどり着く前で足が止まった。
「うん? どうした?」
「俺、宿行きます」
「……はあ。そうか。わかった」
「ここは俺が来たことあるんで、案内するっすよー」
ということで宿に移動。
ダグさんが目立つので俺の位置は把握されただろうが、宿に関しては何度も確認してあるので安心だ。
問題はギルドの方である。
「やっぱ舐められてるよなぁ……」
遠目から見ても、赤いどころか赤黒かった。
赤黒いって何!?
最早なんか別のものにしか見えなかったよ!
「……なんかごめんね、ティナ」
「サレスのせいではないのですよ……」
二人部屋にしてもらい、隣の部屋にニックが移動したところでティナにくっついてみると、ティナも俺の肩に寄り添うように頭を乗せてきた。
狩でストレス発散やイチャイチャはしていたものの、ティナの顔色もあまりよくない。
ずっと見られているようなもんだから、俺も常時鑑定眼発動してるようなもんで疲れてるし、気配に敏感なティナにしても相当の負担だったようだ。
まあ、そうだよな。
俺もティナと結婚することでここまで自分の情報バレが起こるとは思っていなかった。
何が悪いって、多分隣国の奴らが悪いんだと思う。
執拗に追いかけられる→男の方にも何かあるんじゃ?→Bless持ちっぽい!?
からのお祭り騒ぎなんだろう。
途中からティナがどうこうじゃなくて、完全に俺の問題になっているのも痛い。
「……俺はティナとのんびり過ごせるだけでいいのになぁ……」
目標はいくつかあったけれど、俺の最もたる目標は嫁とイチャイチャだった。
強くはなりたいと思ったけど、身分不相応に強くなりたいという気持ちはない。
ただ、二人で。
のんびり過ごせるだけの強さが持てればそれでよかったのだ。
「伯父様によると、上位貴族は王都で静観らしいのです。そういう意味では統制が取れているようなのですが……」
「それは逆に首都行ったら、確実に嫁もどきを押し付けられるって事だよなぁ……」
貴族の事情には疎いが、下級貴族がひっきりなしにやってきたりするのに何の意図もないとは思えない。
そもそも情報統制が取れていない時点で何かしらの意図を感じるし、首都へ行くのも俺は嫌になってきた。
だってこれ、逃がす気ないでしょ。
折衷案だとか言って何らかの制限を掛けられるのは目に見えているのだ。
「もうなんか、逃げよっか……」
「!」
「ティナがとりあえずこの国にいて俺が守ってるなら、ディグさんには迷惑かからないだろうし。もうずっと森の中とかで暮らさない?」
何度か狩に行って思った事だが、この国の資源は豊富だ。
比較的すごしやすい気候に、人間と獣人が一緒にいても目立たないだけの人種の多さ。
いかにも強者なダグさんといると目立つが、俺たち二人だと目立つ要素はあまりないのだ。
そもそも人里で暮らす必要があるか無で言えば、ないしね。
俺、水魔法使える。
火魔法も使える。
うん。シャワーとかも出来るし聖属性で回復も出来るし、もう森の中で暮らそうよホントに。
「……サレスは街に住んでいたいとかないのですか?」
「ないよ? ティナは街の方がいい?」
「え。ない、の?」
「ないよー。寝てても敵の襲撃は察知できるようになったし、生活に必要な魔法は使えるし、ティナとふたりでいられるならどこでもいい」
本心からそういうと、ティナが何故か固まってしまった。
不思議に思って顔を覗き込めば、ティナは泣き出しそうな顔をしていた。
「!? どうしたの!」
「さ、サレスは……私が、いれば、いいのです?」
「うん」
「どれだけ、美人な人が来ても?」
「興味ないよ。横恋慕前提で来る女の何を喜べばいいの?」
「!」
「どんな事情があろうとも、俺は、恋人のいる人間から恋人を奪おうとする人間なんて好きにならない」
ほんとにね。
どんなに美人でも、前提的に駄目だ。
無理。ましてやホレるとか絶対無理。
「サレスは、へんてこなのです……」
「駄目?」
「駄目じゃないのです。どんなへんてこなサレスでも、私は、好き……」
ぎゅう、と抱き付いてくる身体に手を回す。
変な事を言ったつもりはないんだけど、何故か泣くほどのことだったらしい。
泣かれたことに困りつつも、嫌がっていなさそうなので俺はただそのくっついてる感触を楽しむことにした。
……尻尾がこっそり腕に巻き付いてきてるのがなんか萌える。
なんだろう。
これ、独占欲とかなのかな……(照)




