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異世界生活40日目。
俺たちの出禁が解除された。
正確にいうと首都への旅路がまた始まった、ともいう。
「結局なにがあったんだろうね?」
首を傾げるティナは、大分敬語が取れてきた。
俺に対してだけだが。
俺以外がいると相変わらず復活するが、それでも慣れてきてくれたみたいで嬉しい。
まあ、二人っきりでもへんてこ敬語が復活することはあるんだけどね。
わけわからなくなってる時とか(照)
「まー、あんまり知らなくていいことなんじゃないかなー……」
ダグさんの顔がアレだったしな。
たぶん政治的ななんかなんだと思う。
だったら俺は知らない方がいいし、とことん避けておく方が無難だろう。
俺が知らないところで何か始まってる可能性は否定できないが、俺が知る限りこの国でダグさんの地位はかなり高い。
というか割と貴族並に高くて貴族じゃないって言うのは理想的だと思う。
さすがに俺みたいな高校生が海千山千の貴族と渡り合えるとは思ってないしな。
下手に俺が考えるより信用できる大人に任せておいた方がいいと思う。
問題は、考えるの向いてる人なのかどうかってことだけど……。
「うん? 何か俺の顔についてるか?」
「いえ、これから首都に向かうみたいですけど、道中気を付けた方がいいことがあれば確認しようと思いまして」
「……今、か?」
「はい。状況が変わりましたよね?」
女冒険者がどうなったかは知らないが、暗殺者とかまざってたなら色々やらかしてることは想像がつく。
俺が動けるって事はあの女は動かないのだろうが、来るのはアレだけとは限らない。
そもそもあの女冒険者は視野が狭くて思い込みの激しいタイプだったから避けるだけでどうにかなったが、状況を利用してくる相手がいないとは限らないんだよなぁ。
想像するに、あれはイージーモードの敵だろう。たぶん。
「まあ、そうだなぁ。とりあえず女には気を付けろ」
「ハニートラップ系まだ来るんですか……」
「ああ。どうもユニーク持ちっぽいっていうのが、ばれた。首都へ行くまでに偶然を装って接触してくる相手が0とはいえん」
「……」
「……私がいるのに?」
振り向くと、般若がいた。
……。
……!?
「一夫多妻は、別に隣国に限った事じゃねぇしなぁ……」
「私は獣人なのですが?」
「サレスは人間だろ」
「……」
人間ですが、別にハーレム願望はないです。
むしろハーレムなんて滅べ。
だからそんなにじーっと見つめないでください。
照れちゃう。
「……サレスは奥さん複数欲しいのです?」
「いらない。俺、ハーレムは滅べばいいと思ってる」
真顔で返事すると、ティナがこてりと首を傾げた。
あれ?
意外な反応?
「獣人みたいなことを言うのです」
「別に人間でも一夫一妻でいる人多いんじゃないのか?」
っていうか、獣人って一人しか愛さないタイプの人種なのか。
初めて知った。
ということは、ティナが浮気する可能性はないって事だな、うん。
いいこと聞いた。
「平民でもふたり位奥さんいる人は多いのです」
「獣人同士なら別だけどな」
「ほうほう」
「興味なさそうな反応だな?」
獣人同士なら別って事は、獣人女性を奥さんに持ちつつハーレム形成するヤツはいるってことだな。
まあ、結婚は親が決める物ってティナの発言を見てると、若干女性蔑視があるのはわかってたので理解の範疇である。
むしろティナの気持ちを優先する親父さんが少数派の可能性もあるな。
「まったく興味ない」
「……サレスはやっぱり変人なのです」
「イヤ?」
逆にハーレムじゃないと駄目とかあったりするんだろうか。
ちょっと不安になり聞いてみると、ティナはふるふると首を振った。
そしてにっこりと笑ってくれる。
「サレスらしいのです」
「そう?」
「はいなのです」
思ったよりいい発言だったのか、ティナが上機嫌でするりと腕を絡めてくる。
周りの護衛冒険者が何か『こいつリップサービスしやがって』みたいな目で見て来るが、残念ながら本心なので痛くもかゆくもない。
逆に意外な反応だったのがダグさんで、喜んでいるような、ちょっと困ったような顔をしていた。
ティナ一筋で素って言ったら手放しで喜ぶような気がしてたんだがどうしてだろう?
「何か問題があるんですか、ダグさん」
「まぁちょっとな。次の街についたら話そう」
何か不穏な雰囲気に、ティナの指に力が入る。
俺は安心させるようにその指を撫でると、ダグさんの反応に思考を巡らせたのだった。
ハーレムさんが仲間になりたそうに見ている。
「お断りします」
み……。
「断固拒否で」
ハーレムさんは涙目でこちらを見ている……。




