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異世界生活37日目。
爽やかな朝である。傍らの体温が温い。
えへへ。
なお、あの女冒険者は門を出た後首都の方角へ向かっていったようだ。
ごくろうさまです。二度とこないでください。
あとどこまで話が漏れてるのか問いただしたいな。
「内通者ってどこにいるんですかね……」
「あんまり考えたくねーが、ギルドだろうなぁ……」
首都へ迷いなく向かっていったことから、俺たちの予定がダダ漏れであることは間違いない。
ここで疑うならニックなのだろうが、残念なことに俺はニックが白という事には気づいていた。
勿論自覚なしで漏らしてるとかも考えたんだけど、どう鑑定眼で照らし合わせても奴が別意味で赤く警戒色になる事はなかったのだ。
至極残念である。
自覚なしで情報を漏らしたか否かー否定。
意図的に漏らしたか―否定。
こちらを護衛しているか―肯定。
どうみてもAランク冒険者としてまともに動いています。病気さえなければ超頼りになる奴です。
でもイケメンは滅べ。
能力を使えば内通者もわかるのだが、わかってどうするんだって話なので自重した(位置はこっそり把握したけど)。
なのでニックが内通者でないコトを前提に、彼にギルドへ動いてもらうことになった。
ダグさんも『ニックに限って内通はねぇなあ。アイツ隣国大嫌いだから』とのことだったので安心してお任せである。
行動理由は言わずもがな、国の対応を確認するため。
このままここでぼーっとしてても意味がないしな。
「とりあえず接触を控えてー……どうやったら俺が公式にティナと結婚してることになりますかね?」
「そりゃあ、王への挨拶だろうなぁ。こっちの貴族になって重婚してないことを証明するって手もあるといえばあるが」
「それはいやだ」
「……まー、提案はされる事は覚えておけ。断るがな」
いやそうにダグさんは肩を竦めている。
なんでも昔から有名な冒険者であったダグさんは、何度も仕官を提案されていたのだという。だが、貴族という体質にはとことんあわないがために妥協でギルドのトップになり『国との癒着ととられかねん貴族仕官はお断りする』ってカタチを取ったのだという。
親父さんも似たようなもので、兄が貴族じゃないのに自分がなるとか意味がわからんと通達し、外国へ派遣されて行ったという……。
うん。
なんか面倒事の予感しかしないね。
「まー、周りはうっさいが王はいいやつだから大丈夫だ」
「その口ぶりだと知り合いですか?」
「昔PTを組んでたんだ。その頃の奴は継承なんて考えてない第三皇子でな。――上の二人が戦争で亡くなったため、結局王になったんだわ。周りは臣下でもないヤツと付き合うなとうるさくて仕方なかったが、王本人は俺たちの自由を認めてくれてる。――なにせ王になったこと自体あんまり嬉しくなかったと言い切る奴だからなぁ」
懐かしそうな顔をしているが、王族のツテってそういう経緯だったんだなぁと思った。
聞いている限りは臣下にさえ気を付けておけば大丈夫そうな感じはするな。
うん。
「この騒ぎで臣下が騒ぐのは目に見えてるが、いい加減いい機会だから恐らく老害どもは首切ると思うぞ」
「ふぇ?」
「ギルドに内通者が出てるなら、恐らく上が動いてんだ。まあ、見てろ。隣国との内通なんぞ、あの王が許す筈もない」
にやり、と笑った顔が凶悪でした。
せんせい。
俺たちは一体何に巻き込まれているのでしょうか……。
一般市民なので帰らせてください……。
☆
視界の端で、警告文が浮き出た。
段々謎の進化をしている鑑定眼であるが、便利なのでもう考えないことにした。
内容はこう。
――危険が近づいています。
危険ってそんな曖昧な!
って思ったけどまあ、考え付くのは一つなのでとりあえずダグさんを捜しに行く。
俺の中でおっさんの横が安全区域になっているのは気のせいである。
「おう? サレス、どうした?」
「なんか危険っぽいので退避しに来ました」
「のです」
勿論ティナは横にいる。
ダンジョンにも潜れず、鍛錬も庭でしか出来ず、フラストレーションがたまる一方かと思いきや実はそうでもなかったのだ。
まあ、新婚ですしね。
主に愛を語らってました。部屋の中で。
ティナのお肌は今日もつやつやです。
高級宿っていいよね! 風呂入り放題だしイチャイチャし放題だし!
金はダグさん持ちだし!
「危険たー、また曖昧だな?」
「まぁ、勘ですから」
ちなみに部屋移動したところ警戒文が少し温厚になったので、ダグさんの横に行くのは正しかったらしい。
――危険が迷子になっています。
迷子なのか。
迷子になったのか、そうか……。
意味不明すぎるが恐らくあの部屋にいることがばれていたという事なんだろう。
ちなみに同じ宿内なのだが、ダグさんの居場所は逆に外側に近い場所である。
出入り口に近い方が退避しやすいし、と思って移動したんだけど実は宿内に侵入されかかってたのかな?
遠くで何か爆発音が聞こえるし。
「……って爆発音!?」
「何か魔法が炸裂した音がしたのです」
「……何考えてんだ? 宿内で火魔法とか」
しばらくざわざわと音がしていたが、爆発音は一度きりで終了。
何事もなかったかのように宿内は静かになり、やがてメイドさんが俺たちの元へやってきた。
「申し訳ありませんお客様。お客様のお部屋が水浸しになってしまいまして……」
「ああ、請求は王宮へ頼む。ふっかけていいぞ」
「……かしこまりました。そのようにいたします。新しいお部屋が整うまで申し訳ございませんが、こちらでお待ちいただけますか? 安全面は確保させていただきましたが、今外出されるのは得策でないかと思われますので……」
「わかった」
ぼーっと聞いている俺たちの横で、ダグさんがさっさとメイドさんと話を付けている。
ねぇ、どういうこと?
俺さっぱりわかんないけど、なんか王宮って聞こえたなー?
「ま、これでいけんだろ」
「「??」」
何か利用されたのはわかったが、さすがの俺も宿破壊が何に通じていたのかまではちょっと把握できない。
近づいてきてたのあの女冒険者だとは思うんだけど、表示が曖昧だったのも謎だったからな。
あと火魔法、部屋にぶっぱなされたの?
マジで? 何のために?
ちら、と俺は自分たちの部屋があった方角を見た。
――部屋には暗殺者と冒険者が仲良く倒れているようだ。
みなかったことにした。