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異世界生活36日目。
最下層であったはずのダンジョンからさらに下層が見つかり大騒ぎになった翌日。
ギルドはある発表をした。
『どうやら腕試しダンジョンは成長型ダンジョンでもあったらしい』
俺たちが飛んだ76階層は、行き止まりであった。
あれは作成途中の場所に転移で飛んでしまっただけで、最下層であることに間違いはないそうだ。
なにせダグさんのレベルがレベルだからね。
このおっさん、親父さんよりはるかに高レベルなのだ。
そのため転移で一番最下層にふっ飛ばされた結果、知らない階層が出てきてしまった……のだそうだ。
「なんか大事になったっぽいんだけど、大丈夫なのか?」
「ギルマスのすることっすからいつもと変わらんっすよ」
「……」
いつも通りらしい。
同行者の俺たちにスポットが当たったらどうしようかと思ったが、発見者ダグさんの名前を見た途端全員がこう思うそうだ。
『またか』
ある意味信用されすぎである。
ま、下手に目立ちたくない俺たちにとってはいいことなんだけどね。
ギルマス自ら護衛ってどうなの、という感じもあるがそこはそれ、姪のティナへの溺愛(?)は割と有名な話なんだそうで隣国が危険だ云々の話は一切出なくてもスルーされるらしい。
それだと現在地はばればれで微妙じゃないか? とも思うのだがダグさんに一蹴された。
曰く。
「こそこそしてて攫われる方が面倒だろ? もし、俺が護衛中に何かしらのアクシデントが起こればこれはティナ自身の問題じゃない。『ギルド全体の面子』の問題になるから、逆に位置は喧伝した方がいいんだ」
とのことだった。
まぁ確かに、ティナは美人で目立つからこそこそというのは難しい。
また、俺が派手に反撃すると却って俺の戦闘能力的な意味で目立ってしまって、別意味で目をつけられてどうにもならなくなる可能性の方が高そうだ。
持つべきものは国とも渡り合える権力と言ったところだろうか。
「しかしまぁ、このダンジョンに留まると検証依頼だのダンジョン攻略だの頼まれる可能性があるから、早めに出るとするぞ。もう少し観光させてやりたかったんだがすまんな」
「いや、俺は別にいいですけど。中層で十分満喫しましたし」
「仕方ないのです……」
ティナはダンジョンに後ろ髪をひかれているようだったが、とりあえずは首都へ行くのが先決なのは彼女もわかっている。
隣国の影響が出るかもしれない国境近くよりは、王都近くの方が安全なのは間違いないので、そのあたりは涙を飲んで理解してくれたようだった。
小声で『もうちょっとだけダンジョンの敵の分布を……』とか呟いていた気がするけど俺には聞こえない。
冒険者にとってダンジョンはうん、ロマンだから仕方ないね!
俺は面倒事が起きる前に逃げる方に賛成だけどね!
☆
「あん、ダーリンみーつけた☆」
宇宙人に遭遇した。
あ、異世界人だった。
「……」
「やん! 何で逃げるのぉ?」
鳥肌が立つのを隠そうともせず俺は走り寄ってきた女を避ける。
避けるというよりむしろ逃げる。
そして俺がまずしたことは助けを呼ぶことだった。
「……ニック!」
「はいは―いっす」
ダグさんはギルドに情報を渡しに行ってるので俺の護衛はニックがついていた。
なので押し付ける。というか壁にする。
というか、この女なんでここにいるの!?
「何しにきやがったのですかくそ女」
「あーらご挨拶ねぇ。同じ嫁としてダーリンについてきただけなのに」
「寝言は寝てから言えなのです」
逃げ腰になる俺の前に出てきたのはティナである。
というか、ティナホントにこの人嫌いだね!?
ずずい、と彼女の前に立ちはだかるとすごく冷たい目で女冒険者を見ている。
ってか同じ嫁ってどういうこと?
「サレスってもう一人結婚してたっすか?」
「してねーよ!!」
「あん、ひどいわダーリン。あんな熱い目で私を見てくれたのにっ」
「……」
勢いで言葉を返そうとして、俺は口をつぐんだ。
これ、なんか駄目な奴だ。
問答したら駄目な奴に見える。
すさまじい勢いで警戒色である赤が女冒険者を覆ってるのだ。
鑑定眼さんがあなたを嵌めようとしていますというのを表示してくれているが、どうやって嵌めようとしているのかがわからないと対処のしようがないのだ。
「ティナ、逃げよう」
「え? え?」
「なんかわからんけどすごい嫌な予感しかしない。ギルドまで走ろう」
なので俺はダグさんを頼るべきという答えをはじき出した。
周りにまだ人はいない。
だがここで問答を続ければ人が集まり、目撃者が増える。
それはダメな気がするのだ。
「ニック! 任せた!!!」
「ええええええ!?」
俺は女冒険者の妨害をニックに任せて、ティナとふたりで冒険者ギルドまで走ることにしたのだった。
うちゅうじんが あらわれた!
どうする?
→はなす
→にげる
→にげる
だが、にげられない!
→にげる(生贄をささげる)
サレスは 無事 にげだした!




