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「わぁー……」

「おおー……」


とりあえず今日はゆっくり休めるところに行こうという言葉に従い、俺たちはダグさんが手配してくれた宿にやってきた。

スィートルームである。

うん、ベッドでかいな!


「さすが伯父様なのです。一見さんお断り宿でも余裕で手配できてしまうのです」

「そうなんだ?」

「うん。伯父様はこの国の王都のギルマスだから顔が利くので……きくの、よ!」

「いやだから無理して言葉変えなくていいから」


はっと気づいたように喋るティナに苦笑しつつ、俺はぽすんとクィーンサイズのベッドに転がった。

親父さんの部屋にもダブルサイズのベッドはあったが、さすがにこのサイズのベッドはこの世界では初めて見る。

あるところにはあるってことらしい。

日本基準のふかふかさはさすがにないけれど、上等な宿であるということは装飾品からもわかる。

どうやら本気で奮発してくれたようだ。


「しかし王都のギルマスって事は、この国で一番偉いギルマスってこと?」

「そうなのです。元々冒険者として有名な一家なのですが、伯父様と父はひとつ頭が飛びぬけてすごいのです!」


えっへん、と胸を張るティナが可愛い。

俺としてはその有名一家にティナ自身も入っているように見えるが、ティナにとっては『自分のパパすごい!』なのだろう。

自分には自信がないけれど、親父さんに関しては素直に自慢してくるので俺もそうかそうかと素直に反応出来るので助かる。

まあ実際、親父さん超強いしな。

俺としてはティナもすごいって言ってあげたいんだけど、なかなか納得してくれないからこの機会に少しでも自信を持たせてあげたいなと思っている。


「ティナも横においでよ。このベッド、寝心地いいよ?」

「ベッド……」

「ほら、おいで?」


ぽん、と赤く染まる頬に笑みが漏れる。

なんだかんだばたばたと結婚したし野宿も多かったので実は最後まで致していない。いちゃいちゃはしたけど。

だがせっかくのスィートルームだし、ダグさんは新婚旅行として護衛をしてくれるみたいだから俺もそれに沿って行動したところで怒られはしないだろう。


新 婚 だ し な……!


ちなみにちゃんと避妊その他のことは確認してあるぞ。

まあ、獣人は基本的に子供が大好きらしいのでその心配はいらないって話だったのだが、さすがに旅行中にティナの戦力を落とすのは微妙だろう。

そういう意味で親父さんにはすごくけん制はされていたので、ダグさんに訊くのはあれかなーと思っていたのだがあの親父普通に渡してきやがりました。

何をとか訊くな。必需品である。


なので準備は万端である。


「ま、ままままだ日が! 日が高いのです!?」

「夜の方がいい?」

「い……いいって、いい……。~~~~~~~!」


さらに赤く染まる頬を突きつつ、素直に寄ってきてぎくしゃくと座った彼女を抱き寄せる。

いや、さすがに昼からはしないよ?

でもいちゃいちゃはいいよね!

夜はしっぽりいくけどね!!


「~~~サレスのえっち!」

「えー? 今はいちゃいちゃするだけだよ?」

「!?」


何故そこで驚くんだろう。

さすがの俺もハジメテを昼間っからおざなりにする気はまったくない。

大体いつ呼ばれるかもわからんし!


「おーい、荷物置き終わったかー?」

「ぴゃっ?」


予想通りドアの外からかけられた声に、俺はにんまりとしながらティナを立たせるべく手を引いたのだった。

だってまだ夕飯も食べてないからねー。

さすがに夜は邪魔されないだろうけど、来るよね、うん(笑)






で、まぁ。

夜はしっぽり……の予定だったわけだが。

しっぽり……。


「悪いなぁサレス。なんかいっぱい来ちまってよ!」

「……」


部屋の中には宴会料理と、人、人、人。

辛うじてティナを横に確保することはできたが人がひっきりなしに来るので身動きは取れない。

どうしてこうなった!


「伯父様?」

「宴会とかいらんって言ったんだがなあ。副ギルマスから通信が来ちまってよ」

「?」

「『たまには顔つなぎぐらいこなしてくださいね』と」

「あー……」


まあ、見るからに親父さんと一緒で英雄風体だもんなぁこの人……。

宴会もきっと、関門と(隣国?)の顔つなぎを含めているってことなんだろう。

そして姪っこで獣人のティナが蔑ろにされるのはギルドの本意じゃないため、宴会になった……と言ったところだろうか。

っていうか口ぶり的に宴会みたいのもあんまり参加しないギルマスを、強引に宴会に巻き込んだって感じがするわな。

だって周り貴族っぽいのいるし。

ここ、玄関口だしなぁ? どこから湧いてきやがったんだこの人たち。


「やー、大人気っすよねー」

「ニックさん?」


俺たちに寄って来たもののまたあっさりと囲まれたダグさんに巻き込まれないように移動すると、いつの間にかニックが傍に来ていた。

さすがA級冒険者といったところだろうか。

着ている服装もしっかり吟味されているし、横に立たれるとそのイケメンっぷりがさらにわかって腹立たしい。

いいからティナの手を取ろうとするな。

既婚者に挨拶なんぞいらん。

え? 蔑ろにされてないことを対外アピールに必要?

いらないいらない、俺は新婚さんだからお嫁さんに手を出させたりはしないのだ!


「もう、サレスったら」


ささっと手を奪い返してさり気なく後ろへ移動させると、ティナから文句があがった。

だがまあ、文句を言っているわりに嫌がっているそぶりはないのでそのままにしておく。

周りの目線も咎めている感じはないしな。


「なんか不思議そうな顔してるっすね? ギルマスは割合どこ行ってもあんな感じっすよ?」

「そうなのか? 首都ならともかく、まだ関門からそれほど離れてないだろ? ここ。なんであんなにいるんだ?」

「ああ、なんでいっぱいるか不思議ってことっすか。単なるギルマスのおっかけがついてきてただけっすよ」

「は?」


おっかけ……だと?

ダグさんに? おっかけ?

いや何のおっかけっすかね!?


「ここに来るまでいろいろあったんすよー……」


遠い目をするニックに詳しく聞いてみると、どうやらここに来るまでの道中の行動が問題だったらしい。

ギルマスが移動というだけでも注目を浴びているというのに、ダグさんは掃除と称して色々やらかしたのだ。

可愛がっている姪っ子の結婚に華を添えるというのは最早言い訳。

遭遇した魔物をぶった切り、ついでに氾濫しそうなダンジョンの間引きやら踏破やら、襲われている貴族を助けたりとイベント目白押し。

え、どこにそんな時間があったの!?


「昔っから勘の良い人っすからねー……」

「それで済む話なのか!?」

「ココだけの話ユニークスキルじゃないかとも言われてるっすけど、とにかく昔から厄介事の遭遇率が高いんすよ。解決率も高いんで問題にはならないんすけどね」

「ふぁー……」

「そんなわけで解決してもらったギルマスのファンがついてくるってのは結構ある事なんす」


ユニークスキルって戦闘技能だけじゃないんだな。

話しぶりからすると超直感とか第六感とかその辺なのかな?

と、なんとなくダグさんのステータスをチラ見してみた。


……。

うん、見るもんじゃないなコレ。

こっそり閉じた。


「? なんでサレスまで遠い目してるっすか?」

「いや、きっと帰りの道中も普通じゃないんだろうなって思って……」

「あー……諦めてくださいっす。色々遭遇するけど身の危険があるわけじゃないんで……」


まぁそうだろうねー……。

この国では称号がいろいろつくのが流行ってるんかな?

ダグさんの称号とかすごすぎて俺見ないふりしたいよ。

『天災の解決者』ってなんだろうねホント。自然災害すら解決するって事なのかな!?

Blessが運命神の悪戯、武神の加護と二つあるのもなんつーか、いかにもダグさんらしいって感じである。

詳しく見てみたが、どうやら加護じゃなくて悪戯の方は後からついたものらしかった。

なんか呪われてるんじゃないかな、アノヒト。


「ま、目的はギルマスなんで適当なところで切り上げても大丈夫っすよ」

「それはありがたいな。いつまで付き合えばいいんだろうって思ったところだった」

「あー。じゃあ俺が言っとくっすから、抜けちゃっていいっすよ。開始2時間以上経ってから挨拶するヤツはただの遅刻なんで文句言わせないッス」


一応主役扱いなため意外に人が来るんで身動きが取れなかったのだ。

ニックの提案にありがたく俺は頷くと、ささっと客室に帰ることにした。

ちなみにこの宴会場、宿の一室を借り切っているものである。

なので出て客室に移動するだけで部屋に戻れるのである。


よーし。

ココからは俺の時間だな!


「じゃ、ティナ。行こう?」

「は、はいなのです……」


これからのことを予測したのか、着飾ったままのティナの頬がまた赤く染まる。

うん。

まぁ宴会はあれだったけど、着飾った状態の妻をこれから……ってのは……。


いいな!

うん!


俺ははやる気持ちを抑えつつ、ティナを連れてそそくさと客室に帰ったのであった。




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