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翌日。

微妙な雰囲気で別れた俺たちは、ティナちゃんの家で落ち合っていた。

帰って来た時間は早かったがギルドが込み合うような時間だったため、翌日のすいているだろう昼にオークの清算をしようという話になったためだ。

結局オーク以外の敵は倒さずに帰ってきたので朝から他の敵を倒しても良かったのだが、とてもじゃないが言いだせる雰囲気ではなかった。

さすがに俺もティナちゃんに直接聞くのはあれだろうなと思い、こっそり親父さんに接触を図ることにする。


「今日は昼まで親父さんに勉強の続きしてもらうことにするよ」

「……わかったのです」


微妙な雰囲気でいるのはティナちゃんも辛いらしく、近くの友人の家に遊びに行ってくると出ていってしまった。

俺もそうなるとわかってて言いだしたのではあるが、なんとなく避けられているようで気まずい。

溜息をついて振り返ると、そこには何故か般若がいた。


……。


繰り返そう。

般若がいた。


「なんですかその顔!?」

「ほう、オレにそんな顔をされる心当たりがないと?」

「ないわけじゃないですけど、たぶんディクさんが考えているようなことでは全くないと思いますよ!?」

「ほう?」


ティナちゃんが狩から返ってきてずっとふさぎ込んでいたため、その理由は俺とわかっていた親父さんは俺を問いただす気満々だったようだ。

仕方がないので昨日狩をした後のことを、順番に話していく。

すると最初は殺気だっていた親父さんも、話の筋が読めてきたのか微妙そうな雰囲気に変化していった。


「俺、この国のことよくわからないから何とも言えないんですけど」

「うん?」

「何か、色々あるんですよね? この前ディクさんが毒仕込まれた経緯も結局よくわからなかったし……追及して聴くもんじゃないと思ってたから放置してたけど、ティナちゃんがあんな風に泣きそうになるような事情があるんですよね?」

「あの子は……泣いたのか」

「いいえ。でも、泣きそうになってました」


彼女が泣きそうになったのは、俺たち全員が生きづらいと言ったその一言の時だけ。

あれは、無力さに嘆く、そんな表情だった。

彼女の父は、冒険者でも指折りのS級冒険者だというのに。

彼女自身も決して弱くはなく、一人で立てるだけの強さは持っていると思うのに。


「……この国はな。人至上主義なんだよ」

「え。でも、街中でそういうの、見たことないですけど……?」

「ここは国境だからな。特に接している隣国は多種の獣人がいる国だから、表向きは全員平等を謡っている。実際王都からやってくる貴族はろくでもない奴が多く、獣人をはめようとしたりする馬鹿も多い。だからこそ、俺みたいなS級冒険者がこの国に派遣されていたりするわけだが……」

「派遣、ですか」

「ああ。俺が獣人の娘を育てていることは周知の事実だし、その娘の実力も高い。獣人だからで差別すればギルドの人間が黙っちゃいない、そう想わせることが重要なんだと言われて俺はこの国にやってきた」


誰に、というのは野暮なんだろうあこれは。

冒険者ギルドの政治的な判断で、くっそ強い親父さんがこんな国にいるという事だけはよくわかった。

少しだけ不思議だったんだよね。

勉強の途中でもこの国はろくでもない、って言うの何度か出てきていたからさ。なんで定住してんだこの人とは思っていた。

実際は定住じゃなくて期間を区切った滞在か何かだったらしい。

そういやこの人隣国の王族を助けたことあるとか言ってたな。そもそも隣国が活動場所とかだったんだろうか。


「あれ? じゃあもしかして毒のことって実は、超おおごとになってました?」

「うん? よくわかったな。ギルドが王族にすさまじい抗議をした、という話は聞いたな。そもそもこの国一回ギルドを怒らせてるからなぁ。俺みたいな獣人救済に派遣されてる人間を貴族がはめたって言うんで未だ抗議中のはずだぞ」

「ふぁー……」


間違いなく大事になっている感満載である。

どうでもいいような口ぶりなのは、多分この人、頭脳労働には向いていないからなのだろう。

言われたことをやってるとしか思えない。

勿論、娘や自分に火の粉がかからない範囲で、という限定はついていそうだが、ギルドの人間も馬鹿ではないのだから親父さんを怒らせるようなことはしないだろう。

この人本気出したら街一つぐらいぶっ潰せそうだしなぁ。やるかやらないかは別として。


「ああ、そのことで一つ相談があるんだった」

「え? 俺にですか?」

「うむ。実はそのギルドの抗議が上手くいってないらしくてな、下手をすると俺は隣国にひきあげることになるかもしれん」


ってさらにおおごとじゃねーかよ!

何いきなりいってんだこのおっさんは!


「それ、もっと早く言ってくださいよ!?」

「俺も聞いたのはつい昨日の話なんだよ。連続で手出しはないはずだと思っていたんだが、下手すると王族が証拠隠滅に動くかもしれんとそう言われてな。緊急性はまだないらしいんだが、ティナと一緒にいるんだったらサレスにも気を付けてもらおうと思ってな」

「ってティナちゃん外いっちゃいましたけど!?」

「ティナの友人の家は隣だ。さすがに何かあったらわかる」

「あ、はい……」


そういえばこの辺、獣人の家多いっぽかったもんなぁ…。

単純に住んでる人が多いだけ、と思ってたけどティナちゃんの知り合い限定で近くに住んでる地域なのかもしれん。親父さんが近くにいれば、と安心している人間も多かった中、この前の出来事があったからこそティナちゃんに近づいてる俺を皆が見てたのかも?

うん? なんかひっかかった。


「あれ」

「どうした?」

「いや、というかそれでよく俺がティナちゃんに近づくの、許しましたね……? 俺がこの国の王族と関係あってしらを切ってるとかはおもわなかったんですか?」

「思ってないぞ」

「ふぁー……?」


んー??

でも俺、素性すんごく微妙だよね?

登録したばっかりなのに、ユニークスキル持ちとかそんなんだし。

勉強教えてくれと言ったのも油断を誘ったとか、そういう風に考えられる気がするんだけど、何故この親父さんは俺を信用してくれたんだろう?


「そんな不思議そうな顔をされてもな……お前は視線が雄弁すぎる。だから逆に心配するくらいで、敵意があるとは思ってねーぞ」

「視線?」

「ああ。ティナが動くと、視線が動くんだお前は。それはもう、無意識っぽく」

「!?」


え、ええー……?

そりゃまあ、親父さんの前で口説くのとか自重はしてなかったよ?

してなかったけど、無意識に目で追ってるとか俺どんだけティナちゃん見てんだよ!

自分が正直すぎてにくい!?


「だから警戒するのも馬鹿らしいと思ってな」

「はあ……」

「まあ、ギルドの連中には気を付けろって言われたんだけどな。そうは言われてもサレスが本気出したらティナどころか俺もあぶねーだろうからなぁ。ティナとラブラブだから警戒するだけ無駄だ、戦力に数えとけと言っといた」

「!?」


ラブラブって言葉自体が死語だと思うよ親父さん!?

じゃなくてこの人何言ってんの!?

さすがに俺が親父さんをどうこうするのは無理だと思うんだけど!?

あと俺が戦力って隣国抜けるのに物騒なことになるの前提なのが気になってしょうがないよ!


「何言ってんだって顔、されてもなぁ。お前魔法使いだろ?」

「はあ」

「魔法使える時点で俺は相性悪いんだわ。状態異常起こされるだけでどうにもならなくなるし、そもそもお前の地力自体も相当高いのは感覚でわかる。だからむしろ事情話して、もしものことがあったらティナを守ってもらった方がいいと思ってな」

「それで相談、ですか」

「ああ。訊く限りこの国になんの思い入れもなさそうなサレスなら、ティナが隣国へ行くって言うならついてきてくれそうだからな。俺も病み上がりだし戦力は多い方がいい。国が封鎖してもギルドによって隣国の関門は開けるから、最悪そうなる可能性は言っとこうと思ったんだった」

「なんか決定事項に聞こえてきてる時点で相当な状態だと思いますよ俺……」


戦力って関門突破と追手からの逃亡っすか…。

そうか……王族とことを構えたら速攻関門抜けて隣国へ逃げる手はずになってるってことなんだろうなあ……。

うん、なんか親父さんにその話が来てる時点で割と秒読みだと思うよ? これ。

なんか駄目な王道パターンがやってきた気がする。


「まあ、確かにこの国に思い入れは全くないんで、もしティナちゃんが拠点移動するならついてきますよ」

「お、そうか。そう約束してくれるなら俺も安心だ」

「はいはい」


ぶっちゃけこの国……というか街にも未練はないし、ギルドの対応に思うことはあれど、王族に思い入れがあるはずもなく。

というかあれだな。

人至上主義って時点で俺的にアウトなので割とどうでもいいなこの国。

ケモミミは正義だ!

あ、勿論ティナちゃんは別格で。


何かあった時のために毎日顔を出すことを約束し、俺たちはとりあえずティナちゃんの帰りを待つことにしたのだった。

ティナちゃんの作ってくれたお昼は超美味しかったです。


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