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異世界生活21日目、午前。
門前で律義に待っていたティナちゃんと合流し(ちなみに一度見失った)、とりあえず相手の力量を知ることがまず前提、ということで草原にやってきた。
いつも俺が採集に乗り出すくらいの近場である。ちらほらと初心者っぽい冒険者は見える。
「うーん」
「どうしたのです?」
「いや、ここで戦闘すると目立つな、って思ってさ……」
何せ横にいるのは二度見してしまいそうなくらい可愛い美少女様である。
狩りの合間どころか、初心者が手を止めて横目でちらっちらっしているし、横にいるのがなんとも弱っちそうな俺、ということで歩みを止めたら何かすり寄って来そうな気配がぷんぷんする。
弱者テンプレ冒険者の襲撃とかデートに必要ないから!
一応ここ魔物の出る狩場だから!
そう声を大にして言いたいが、そもそもそんな空気を読む初心者冒険者なんてあんまりいないっていう……。
「別に問題ないのでは?」
「いや、ぶっちゃけギルドからついてきてる出刃亀もいるんだよね……」
「……」
同方向に出ているだけ、と言い切るにはいささか数が多いような気がします。
ティナちゃん自身もついてきていること自体は気付いていたようだが、草原に出る冒険者は多いためたまたまと思い込んでいたか、思い込みたかったようだ。
でも、俺の視界には見えてるんだよね…!
あなたに敵意を持っている人間が近くに8人います。
っていう索敵結果が!
だんだん俺の鑑定眼が千里眼どころか便利鑑定眼に変化してる気しかしないんだけど、まぁそれはそれ。
どう見ても乱入する気満々の輩がまだいるよ…!!
「んー…低ランクの魔物は帰り道でも十分狩れる、よな?」
「勿論なのです。腕試し程度の数しか受注してきていないですし、この辺りの敵なら数分で狩れるのです」
「じゃ、オークとかいる方の森に行かない?」
前回オークを乱獲したときに思ったけど、オークは動きが遅いし俺の魔法で十分狩れる。
というかむしろ、魔法乱発するならめっちゃいい的だし、初心者がついて来れないという意味ではすごくいいところだ。
難点といえば、しばらく近寄る予定がない処だった、ってことだけど……。
敵意の数では現状どっこいどっこいにしか見えないんだよなぁ。
さすがに低ランク狙いの犯罪者軍団もAランクのティナちゃんに喧嘩を売ることはないだろう。
……たぶん。
「オーク、なのです? 一応受注はしてあるですけど、最終日にする予定だったのですが……?」
その目は倒せるの? とこちらを見ている。
なので俺は、火魔法が使えるのでむしろオークは餌レベルだと話してみた。
使える魔法は聖魔法よりレベルが高いのだ。一撃で倒せることを明かすと聖魔法の威力を知っているティナちゃんはひとつ頷き、少し思案し始めた。
ちょっとバラしすぎかな?
ま、いっか。
どうせユニークスキル持ってることはバレバレだしね!
「……オークは私も数体までは行けるですし。行ってみましょう、なのです」
「おう」
ちらちら見る初心者の前を素通りし、俺たちはさらに森の方へ足を進めるのだった。
☆
俺が襲撃された場所を通り過ぎ、オークのいる森へ入る。
高ランク冒険者が乱獲していることもあるオークの狩場だから、遠くからオークの叫び等は聞こえてきたりする。
「……静かなのです」
「そうか??」
ざっと見まわす限りオークの姿は見えない。
だが、声は聞こえているしどこからか剣の音も微かに聞こえているので、静かとは言い難いと感じる。
そう伝えれば、ティナちゃんの目は丸くなった。
「……私にはまだ、剣の音が聞こえないのですが。サレスさんは耳がいいのですか?」
「へ? いや、ふっつーだと思うけど……?」
普通の聴力しか持っていないはずだが、レベルが上がったことで身体能力が上がっているのだろうか?
それとも鑑定眼に影響されて、聞き取りたい音声だけ聞こえているとかそういう特殊能力でもついたのだろうか?
とりあえず鑑定眼の情報と照らし合わせつつ、聴力の情報を確認してみる。
――この森には23匹のオークがいるようだ。
なお、俺に聞こえている音で考えるとせいぜい3匹と言ったところだろうか。
鑑定眼の情報の距離を絞るようにしてみると、5kmから3km四方のところで3匹まで数が減ったので、結構遠くの音まで聞こえていることはわかる。
さて、どこまで言うべきか?
「近くにいる感じです?」
「ん、いや、えーと。たぶん3kmぐらいじゃないかな…」
「……それは……おかしいのです。オークが遮音の魔法など使えるわけがないし……誰か、いるのでしょうか?」
ふむ。
通常3km程度の距離なら、ティナちゃんの聴力でも聞こえるって事か。
何かに遮られて音が聞こえないけれど、鑑定眼の前では意味がなかった、ってことかなぁ。
俺はいったいどこのオークの音を聞いてるんだろう。
ここはあれだ。
「ちょっと待ってね、人に絞って探索してみる」
「絞れるのです?」
「あ、うん」
ユニークスキルの内容である事は疑いがないだろうけれど、この辺りは少しバレ気味なところだからセーフだろう。
そう思いながらスキルを発動すると、3km四方にいるのは3人PTと2人PT、という結果が出た。
距離的には俺たちよりそちらのPT二つの方が近い。
「PTが二つあるみたい」
「なるほど、なのです。どちらかに魔法使いがいて、狩りをしているのでしょうね」
「音を遮るのって一般的なの?」
「森の中ではそうですね。音を立てすぎるとオークが集まってきてしまうので、風魔法を使える魔法使いがいると遮音がメインになるのです」
「へえええ……」
オークは水属性だから火属性の魔法しか使わないと思っていたら、意外に狩には頭を使ってるんだな冒険者。
ってか、魔法メインならint高いからそんなもんなのかも。
最近阿呆な子ばっかりみていたから俺の中で冒険者のイメージが馬鹿になってるのかなぁ。
「サレスさんは聖属性を使えるのでわからないかもしれないですが、基本的に二属性しか使えない魔法使いはどの狩場でも動けるようにするのが一般的なのですよ?」
「うん? 聖属性だと何か違うの?」
「何を言ってるのですか。回復出来て、どの属性の敵にもダメージが出せる聖属性は人気のある希少属性ですよ?」
「……」
なん……だと?
その発想はなかった。
そういえば相互属性が弱点ってのはわかっていたが、火属性に風と土で攻撃するとどうなるかとかその辺の検証も勉強もしてない。
もしかしてダメージあんまり通らないのか?
だから不得意な属性の敵が多いところでは補助魔法が主流になる?
「なあ、もしかしてその聖属性のほかに相対する2属性使えるとか言ったら、実は結構ヤバい?」
「? え? 聖と火だけじゃなくて他にも使えるのですか?」
「うん。水も火も使えるよ。聖属性が一番レベルは高いけど」
ぽかん、と開いた口が驚愕を示している。
え、なんなの?
普通に魔法使いは4属性使える人もそれなりにいるとかじゃないの??
「ホントにサレスさんは規格外なのです……」
「どの辺が規格外なのかよくわかんないんだけど」
親父さんの話では、相対する2属性じゃない魔法を持っていることもあるって話だったし、効率の問題から言っても相対する属性を使えるのが普通に思える。
でも、ティナちゃんの反応的に違うっぽいのが何とも言えない。
「聖属性持ちは基本的に、他の属性を覚えることはないのですよ?」
「え? マジで??」
「マジなのです。ああ……お父さんは、一般的な魔法使いの説明をしたのですよね? きっとお父さん、サレスさんが聖属性のみだと思ってさらっと流してしまったのだと思うのです。普通、2属性持ちも結構貴重ですし、相対属性を持っていると狩場で有利なので引っ張りだこになるはずなのです」
「マジかー……」
今、ホントに今までソロで良かったと思った。
下手に属性がいっぱい使える事とか、ユニークスキルがある事とか、踏んでも気づかなさそうな地雷が埋まりすぎてるだろ。
そこまでチートは求めてないよ!
ある程度は欲しいと思ったのは否定しないけど!!
「うーん。そうすると、人がいない方向へ動く方が良いと思うのです。ある程度近ければ私でもわかりますけど……誘導任せてもいいです?」
「あ、うん。PTがいなくてソロのオークのところへ連れていけばいいかな?」
「……相手の人数もわかっちゃうとか鬼なのです……」
「……」
てへ。
と誤魔化し笑いをしながら俺は、さっくりと殺れそうなオークの方向へ足を進めることにしたのだった。




