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OH、俺としたことがこのテンプレを忘れていたとは情けない。
「そんな頼りになりそうにないひょろ男より、俺と行こうぜ?」
「いやいや、白猫のティナっていえばA級だろ? 是非PTに」
わらわらと擬音が聞こえてきそうな人だかりに、ティナちゃんと俺は揃ってため息をつく。
どうしてこうなった。
ティナちゃんの家で待ち合わせ、やってきた冒険者ギルド。
ティナちゃんと一緒なら変な撃破記録がついても多少は何とかなるだろうと踏んでいた俺は、初心者講習してもらってるんですとばかりに冒険者ギルドでクエストを受ける気満々でPTを組みにやってきた。
クエストを受ける場合において、PTはギルドで登録していないとクエスト処理に問題が出る、という話だったからだ。
受付嬢は格上の冒険者が下の冒険者の指導したりすることについては前例もあるようで特に何も言わず、ティナちゃんは徐々に段階をあげるつもりでGからBまでの常設・もしくは定番クエをいくつか数日単位で受注してくれていたのだが……。
そこにやってきましたお邪魔虫。
はい。
前にティナちゃんがギルドに来た時に囲まれていたことを思えば、まぁ予想できる範囲の話だったのだがウザいわ!
「全部お断りするのです」
「はぁ?」
「あいにくわたしは指導で忙しいなのです。勝手にイケなのです」
イケが逝けにしか聞こえないのは俺だけであろうか。
るんるん気分でクエスト受注していたティナちゃんとは思えない不機嫌な声に、ビビったのは俺ではなく声をかけてきた冒険者たちの方だった。
「な、なんでだよ。あんたA級だろ? こんな初心者他のヤツに任せればいいじゃねぇか!」
「知り合いの指導をするのは普通なのです。むしろ放ってどうするのです」
「……」
ごもっともである。
PTを組みに来ている以上、知り合いかもしくは依頼者の関係である事は明白(稀にギルドを通して初心者指導も有償であるらしい)。
そこにぶっこんで来る冒険者たちの方が非常識、まさにわかりやすい構図だった。
受付嬢も黙って見てはいるが、どう見ても冒険者たちの方を非難している感じだ。
「し、白猫様が初心者指導をしてるならぜひ俺たちも!」
「お断りなのです」
「……何故!?」
「知らない人間に教える趣味はないのです」
白猫様ってなんだよ。
そして断るの早いな!?
いや、放り出されても困るしどうみても別目的ですというような男の群れの指導なんて確かにあの親父様が受けさせるとも思えないが、それにしたって扱いが俺でもビビるくらい冷たい。
どうもギルドにいい印象がないみたいだが、一体何があったものやら……。
「それに……」
ちら、とこちらを見てくる目が何かを訴えている。
ええと、俺にも何か言えと?
「でぇとだから二人で行くに決まってるよな?」
「!」
「あれ?」
え? 何故か目線が厳しくなった気が……する?
ええと。
でぇと扱いは駄目でしたか……!
「でーと……」
「でぇとだと……!」
ざわざわする外野うるさい。
「話がないならどいてくださいなのです」
ダン! とティナちゃんが足を踏み出すと勢いに飲まれて人ごみが分かれたので、肩を怒らせて通り抜けていく彼女についていく。
さすがに取り付く島もない彼女が追いかけられることはなく、俺たちはそのままギルドを抜け出ることが出来た。
「……ええ、と……」
しかしまあ、こんなギャグみたいな展開本当にあるんだなぁ。
どんだけおバカなんだよ冒険者って……どうみてもこんな絡み方したら逆効果に決まってるのに何故出てきた。
そういえば前、俺のことを頭が切れるとか言ってた冒険者いたっけ、か。
あれマジだったのかな。
「サレス、……さん」
「はい!?」
きゅ、と引き結ばれた口のままこちらを見る目はまだ厳しい。
何を言われるかと身構えるが、彼女はあー、とかうーとか、何か言葉にならないことを呟き始める。
「さ、さっきの、もっかい、言ってくださいなのです」
「さっきの?」
「で……でー……」
「デート?」
こくり、と頷く彼女に言葉を思い返す。
ええと。
「でぇとだから二人で行くに決まってるよな?」
「それ、です」
「……何かまずかったか?」
重々しく頷く彼女に、俺は首を傾げる。
一応初心者講習って名目はあるがペア狩だし、実質デートだよな?
っていうかそもそも、俺、ナンパしたぐらいだしティナちゃんが好みっていうことはバレバレだと思っていたのだが……もしかして動機が不純すぎてデート扱いは駄目とかそういうこと!?
「で、でででぇと、なのです、か?」
「え? うん。かわいい女の子と二人で狩りに行くならでぇとでしょ?」
「かわいい……」
「え、と。デートって思っちゃうの、駄目だった?」
初(?)デートはもっとロマンチックに行って欲しかったとかだろうか……。
いや、でもなぁ。両方冒険者なわけだし?
狩りも趣味の一致ってことで、十分デートだと思うんだけど……ティナちゃん割と戦闘狂っぽいところあるし。
「だ、ダメということはないのですが……サレスさんは、狩りがデートでも、いいのです?」
「うん勿論。俺たち冒険者なんだし、好きなことを二人でやるのがデートだし?」
ティナちゃんが何を聞きたいのかわからずさらに首を傾げるが、彼女は納得したのか大きく一つ頷いた。
「わかりました、なのです!」
「ふぁ!?」
「じゃあ、張り切っていきましょう、なのですよー!」
ぶんぶん振っている腕が不穏なくらいに風を切る音を醸し出しているが、その拳は別に俺に振り下ろされるわけではないようだ。
さっきと一転してにぱっと彼女は笑顔になったので、どうやら気になっていたことは解決したらしい。
……何に拘られていたのかはわからなかったが。
じゃあさっそく門にゴーなのですーと走り出す彼女の後を、俺は慌てて追う。
ところで足が速すぎるんだけど、初心者らしき俺が追いついていいものか悩むわ……。




