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異世界街生活16日目。
いつも通り冒険者ギルドを覗くと、何故かそこには人がいっぱいいた。
いっぱいいた。
うん。いやな予感がする。
ちら、と覗いた酒場には白い猫耳。
一人ポツンと腰かけたそこの周りには誰もいないのだが、その周りには人だかりが出来ていた。
なんって暇人なんだ冒険者ども……。
俺も人のことは言えないけどさあ。
さてここで問題が発生。
恐らく彼女の目的は俺っぽい。
まあ、一言も声をかけないということはまあない。
しかし、しかしだな。
ここでA級冒険者であるティナちゃんにこう、親しげに話しかけちゃうとか超目立っちゃう。
目立っちゃうよね。
うん。
「ティナちゃーん!」
「あ」
だが気にしないッ!
俺は本能で生きる男だ。
というか、声をかけようとうろうろしてる奴らにふふんと鼻で笑ってやるわ!
はーっはっはっはっは、雑魚どもめ!
軽く手を挙げていかにも知合いです、という顔をしてやるとティナちゃんは素直に寄って来た。
此処でスルーされてたら恥ずかしいところだったが、さすがに恩がある人間にはちゃんと反応してくれたようだ。
うむ、素直でよろしい。
遠巻きにされていたのはわかっていたのか、ここでは……という感じで外へ出るように促されたのでギルドの受付には寄らずにギルドを出る。
どっちにしろ今日はもう狩どころじゃないだろうしね。
ちらっちらっと見てくる野郎どもにはにっこりと笑いながら手を振ってやった。
不思議そうにしているティナちゃんには理由は言いません。
あのナンパ野郎が、という呟きが聞こえたのも気にしません。
ナンパしたのは事実だしー。
さてどこで話すか、となったのだが外で話す内容でもないと判断され、連れていかれたのは家だった。
家だった。
……いや、どうみてもお父さんいるからいいんだけどね!
「……ずいぶん元気に……」
「おう。あの時は世話になったな!」
ティナちゃんの部屋に行くということもなく、通されたのはリビングだった。
そこに待っていたのはどうみても元気になったガチムチおやじです。
いや、いいんだよ?
俺は事情を聞きに来ただけだしね!
少しお礼的な何かを期待したとかはなかったよ! たぶん!
……嘘つきました、ちょっと期待してたのに色気皆無な会談になっちゃったよ。
っていうかあの時ってまだ3日しかたってないよ、どんだけ回復してんだよ!?
とりあえず現状報告って事でティナちゃんが話し始める。
まあ、内容はおおよそ推測通り。
薬を持ち込んだ冒険者ギルドで事実確認がされ、病院の方に手が回り……と言ったかんじ。
さすがに入院履歴もあれば、毒薬の入った薬もある。
これで間違いでしたと言い張るのはさすがに無理があった模様。
それでも言いがかりだという貴族側の圧力はかかったらしいのだが、何せ現役でA級の冒険者とその上のS級冒険者(これ親父の方)が被害者。
冒険者ギルド筆頭の優良株だった親父さんに対する陰謀ということでギルドが張り切りまくり、さらに言えばあの貴族は金を持ってはいるものの身分はそこまで高くなかった+親父さんは昔隣国の危機を救ったことが有るとかで王族にも顔が利くというのがあったらしく。
あえなく御用となったらしい。
うーん。
なんてテンプレ馬鹿貴族だ。
親の方までは累が及ばせられなかったようだが、この街で好きにはさせんぞ!
と冒険者ギルドが面目躍如に動いてくれた模様である。
俺は知らなかったが、この街は隣国との国境近くにあるため王都の権威がなかなか及ばない場所。
だが交易が盛んでもあるため、末端貴族は結構おり、身分を盾にむちゃくちゃなことをしてたりするらしい。
しかしながら魔物が強い+隣国は好戦的、というところもあって冒険者ギルドが貴族より強い一面を持っており、そこでの恩恵もあったようだ。
ちなみに俺の鑑定能力や神聖魔法のレベルについて、だが……。
「何も言ってないのです」
「恩人の情報を売るなんてことはギルド相手でもすべきじゃねぇよ」
ガシガシ撫でられはしたが、どうも彼らの中で俺は恩人=訊かれても話すべからず! となっていたらしく、すべて毒が原因ではないかと疑ったティナちゃんのファインプレイ(薬をたたき割って証拠品として実際提出した)ということで済まされていた。
だが、助かったのは間違いがないので自分たちが応じられる分であれば報酬が欲しければ払うとのこと。
助けたというような名声が欲しければ報告も俺の希望する限りで行ってもいいとのこと。
ふむふむ。
昨日会った上級冒険者らしきゴレムさんといい、ランクが上の冒険者はやっぱすげぇなぁという感じだ。
なんていうの? 懐が深いというかなんというか。
大人だわー。
超大人の対応だわー。
「で? どうすんだ?」
「報告についてはこのままでお願いします」
「わかった。この家で行ったことについては覚えていないことにする。あ、恩は忘れないけどな!」
んでもって俺の要望は、だが……。
うーん、どうしようかな?
チラ、とティナちゃんを見てみるが特に何も反応がない。
さすがになー、あのお貴族様(笑)と同じようなことするのはやだしなー。
かといって口説く権利を下さいっていうのもなんかちが……あー。いいこと思いついた!
「じゃ、何個か頼みたいことがあるんですけどいいですか?」
「おう? 出来る範囲ならいいぜ」
俺が要求したこと。
それは――――。




