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Honey Fox 【連載版】  作者: むあ
1/5

Prologue

むあです、お久しぶりですor初めましてandこんにちは。

突発的に始めました。更新は不定期、でも以前よりは活発になると思われます。

Honey Fox読んだことのある方も、そうでない方も、いきなりやんわり性的描写に要注意です?





 ベッドのスプリングが軋んで音をあげたと同時に、彼女の口から抑えきれない小さな声が漏れた。男はそんな彼女の唇を自らのそれで塞ぎながら、細い彼女の腕を、肩口からそっとなぞるように触れる。


 女はじんわりと広がる痛みと、無意識のうちに流れおちる滴を止める術など知らず、ただ目の前の男の背中に回していた腕に力を込めた。


 どうしてこんなことになっているのだろう。


 女は幾度となく湧きあがる痛みも、初めて感じる不可思議なの感覚も必死に受け止めながらも、靄のかかったような思考の中で考え続けた。男の背中にまわしていた腕の力が抜けて汗ばんだ身体が布団の中に沈みこみ、不意に離れた唇から息を大きく吐き出す。


 靄のかかった思考が、少しだけはっきりした。


「……っあ!」


 しかし、沈み込んだ身体に覆いかぶさる熱は彼女を休ませはしない。

 彼女をまっすぐ見つめるのは、本能の熱に冒されてもなお透き通った瞳。彼のまっすぐな視線に射抜かれた彼女は、まるで彼の熱が伝染病のように再び自分を侵していくのを感じた。これではせっかくはっきりしたはずの意識も、すぐに溶かされてしまう。


「う……」


 男が小さく呻き声をあげたその瞬間、彼女の意識は薄れ、沈んでいった。意識を手放す直前、彼女の脳裏には、こんな状況に陥った原因ともいえる、“狐坂”での夕暮れの出来事が不意に蘇った。







 それは彼女、篠原まきが町の東はずれにある急斜面の坂、通称「狐坂(きつねざか)」を登りきって日課の休憩をしていたところから始まった。


「ふぅー! 今日も買ったわー」


 狐坂をのぼりきったその西側に広がるのは、フェンス越しに彼女のすむ小森町(こもりちょう)が一望できる空き地。彼女は両腕に抱えた大きめの買い物袋を一旦下ろすと、夕暮れの町が橙色の光に包まれていくのをしばらく眺める。


 これはまきの慌ただしい毎日の中の、数少ない楽しみであり、日課である。佇んでいたのも、およそ五分程度だろうか、彼女は満足げな表情を浮かべ、帰るか、とばかりに買い物袋を掴んだ。


「……あれ?」


 そして空き地の入口に視線を向けると、細身の男がそこに立っていることに気が付いた。この空き地を訪れる人など今までまきは見たことがなかったが、別段気にすることもなく、家路に着くべく買い物袋を持ちあげて足を進める。


 一歩。彼は微動だにせず、まきの姿もまるで目線に入ってはいない。


 二歩、三歩、四歩。まだ男は動かない。


 五歩、六歩、七歩、八歩。それでも男は動かない。

 彼の異変に、彼女はそこで気がついた。


「……え!? 血……?」


 その言葉でようやくまきの姿を認識したらしい男は、誰の目から見ても明らかな、嫌悪感を示し、一歩後退した。しかしその次の瞬間、彼の体は不自然に傾き、そのまま崩れ落ちるように地面に倒れ込んだ。


「えぇ!?」


 当然彼女は目の前で倒れこんだ人を見過ごしてなどおけない。狼狽しつつも、買い物袋をその場に置くと側に駆け寄る。じわじわと赤黒く染まっていく、男の白のTシャツに、痛みからか彼の口から洩れるうめき声。その流血量は医療の知識のないまきの目で見ても、明らかに多かった。


「ど、どうしよう……大丈夫ですかー?」


 混乱するまきの脳裏に、真っ先に浮かんだのは保健体育で習った内容だ。まずは意識があるかないか、呼吸の有無を確かめよ。絶対に必要になどならないと思っていたその知識が、ここで今生かされそうだ。


 男の肩を揺すり、口元に顔を近づける。うめき声が上がり、口から吐き出される息も頬に感じたまきは、ひとまず安堵のため息をついた。それでもこの出血量は多すぎる。あっという間に空き地の入口に生えていた緑の雑草が赤黒く染まり悲惨な状態になっている中で、まきは震える手で携帯のダイヤルボタンを押す。


「きゅ、救急車はひゃ、百十…なんだっけ、百十九番?……きゃっ」


 携帯を持つ左手首が、男によって不意に掴まれる。その力の強さに、彼女は小さな悲鳴を上げ、反射的にその手を振り払った。振り払った手の主が一瞬目を開けたような気がしたが、すぐにその瞼は閉じられる。


「キエロ……ニンゲン」

「え?」


 後退した彼女の耳に飛び込んできたのは、呻くように呟かれた、低い男の声。ニンゲン、この言葉に違和感を抱いたまきは、彼を凝視し、人間にあるはずのない「耳」を見てつぶやいた。



「あなた、狐だったのね」


 男は答えないが、呻きながらも再びまきの肩を掴み、ぎりぎりと力を込める。まるで自分に触るな、さもなくば痛めつけるといわんばかりの握力に、彼女は顔をしかめた。


「痛っ……でも」

「……っ!?」

「しんじゃだめだかんね!」

「っ!……」

「目の前で狐が死ぬのは≪もう見たくない≫わ!ちょっと……連れていくからもう少し小さくなれないわけ!?」

「連れて……?」

「怪我の手当てしなきゃ……君死んじゃうよ!?」






「ん……」

「おい、小娘」


 意識が沈んでいたのはほんの数分だった。女が重い瞼を持ちあげると、ぼやけた視界に、上体を起こした男の姿が映る。大丈夫か、と彼女を心配する彼は、彼女が小さく頷くと満足そうにその頬に口づけた。金色の髪は窓の外で輝く月に照らされ、彼女はその髪を純粋に美しいと思った。


「体は、辛くないか」

「あー……大丈夫。あ、ちょっと起こしてもらってもいい?」


 彼らがぼんやり座り込んでいるのは、女の寝床の端。シーツの皺や乱れ具合は、先ほどまでの行為の激しさを物語っている。彼女は一糸まとわぬ姿だったことをようやく気付き、近くにあった男のシャツで上半身を隠して俯いた。顔は見えぬとも、髪の隙間から見え隠れした耳は真っ赤に紅潮していた。男はそんな彼女の姿にくすりと笑い、柔らかな栗色の髪を手で軽く梳かす。


「どうして誘った?」


 低く、落ち着いた声が彼女の耳をくすぐる。彼女はその吊り眼気味の瞳でしっかりと彼を見据えると、小声で……「寂しそうだったから」。


「俺がか?」


 そう、寂しそうだった。瞳の中に彼が隠していた孤独と寂しさに気付いたからこそ、自らの意思で誘ったのだと、彼女はそう言ったのだ。そんな理由で経験もないのに身体を許した女を、世間は笑うかもしれないが、男は決して笑わなかった。馬鹿にもしない、そして笑いもしない、ただ真顔で女に再度問う。


「見ず知らずの、しかも得体のしれない男に抱かれたというのに。お前は怖くないのか?」

「怖くないわ。優しかったもの、貴方」


 行為のせいか、あわただしく動き回った日中で蓄積された疲労のせいか。激しい睡魔が彼女に襲いかかってきたが、これだけは言っておかなければと彼女は彼の頭に手を乗せて、ふにゃり、口元を綻ばせた。


「私は……」

 悪い人はいたとしても、悪い”狐”なんていない。そう、信じているのだと。



「……ふっ……化かすのが得意な狐を信じるのか」

「わ、笑わ、ない、でよ……」


 とうとう勝てなくなって睡魔にその身をゆだねた彼女を、そっと抱き寄せた彼は、そのままその小さな体を横たえ、このままでは寒いだろうと毛布を引き上げてそのままかぶせてやる。


「……不思議な、娘だ」


 彼女の額に手を当て暫く考え込んでいた彼だったが、結局何をするわけでもなく、笑みを浮かべたまま闇夜に消えていった。






あらためまして。むあと申します、お読みいただきありがとうございます。

神様な彼氏を持つまきの物語、連載版で公開します。


以前執筆しており微妙な未完のままだった なろう連載版 と公募に出すつもりで断念した 公募版。この2作品を合体させるので時間を少々いただくかとは思いますが、完結を目標に書きますので、興味がありましたら続きもお読みいただけたらなと思います。


(※以前お読みいただいていた方は、もうしばらく物語の展開にお付き合いください。)


それではまた機会がありましたら。



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