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第二章*ドラゴン王国:ガルガドス*



「……」

「あ〜成功、成功」


 叔父はのほほんと青空を眺めながらつぶやいた。そしてその青空を、得体の知れない生き物が滑空している。……俺の視力が正常でなら、あれは間違いなく。











ドラゴンだ。













「……おい」

「なに?」


 暢気な叔父の顔に、今ほど殺意を抱いた瞬間はない。


「一体…何をした?」

「え〜と、ねえ」


 叔父は俺の気迫に、困ったように笑って見せた。


「簡単に言うと…異世界に飛んじゃった♪」

「へえ…飛んじゃったのかあ〜」


 俺はあはははは、と笑いながら叔父の首を締め上げた。


「りゅ、竜、ちょっと…僕死んじゃう…」

「1回そうして、頭の中浄化しろ―――っ!!」


 俺の叫び声は、突如放り出された草原地帯にむなしく響き渡った。


***


「…何、今の?」


 草原から風に乗って響いてきた叫び声に、少女は首を傾げてみせた。


「誰かが、叫んでいたような…」

「アデル!早くおいでよ!!分け前なくなっちゃうよ?」

「え!?ちょ、ちょっと待ってよーっ!」


 少女は今聞いた叫び声のことなどすっかり忘れ、大慌てで広場の中央へと駆け出していった。


***


 ドラゴン王国ガルガドス。それがこの国の名前らしい。

その名の通り、ドラゴンがうじゃうじゃ生息しており、おまけに人間を襲うときている。


「つまりそれは、人間を餌にしているってことか?」

「主食ってわけじゃあないけどね。たまに食べるよ。だってその辺にいる家畜だけじゃ足りないだろうし」

「…たしかに」

「おまけに、縄張り争いもあるからね」


 国の領土自体かなり広く、山、海、谷、川といった自然にあふれており、ドラゴンはそういった場所に住んでいるそうだ(つまり、全区域にいるってことだな)

 そして、ドラゴンが人間を襲ったときに備え、ドラゴン・ハンターというドラゴン退治専門職の人間が、日々ドラゴンとの戦いに明け暮れているのというのだ。


「あとはねえ…」

「まだあるのかよ…」


 俺は奇想天外なことを詰め込みすぎた頭を抱えて、草原にしゃがみこんだ。もともと叔父はわけのわからない人間で、突拍子も無いことをやるのはよくあることだった。

 だが、こんなにも常識を超えた出来事に巻き込まれたのは初めてだ。にもかかわらず、ぐしゃぐしゃと悩む俺とは正反対に、当の本人はのんびりと構えている。


「まあ、とりあえず…」

「とりあえず、で解決できる問題か?」


 恨めしそうににらむ俺に向かって、叔父はゆっくりとうなずいた。


「うん、できるよ。知り合いのところに行こう」


 そういわれて俺は、叔父の指差した方角を見た。指先にあったのは、比較的大きな町…のようだ。


「あんなところに町が…」

「竜〜、早く早く〜」


 俺たち2人はもくもくと草原を歩き、遠くに見える町へと歩いた。急いで町にたどり着かないと、いつ何時あの空を悠々と飛んでいたドラゴンの標的になるかわかったものではない(ついさっきドラゴンが人を襲うという話を聞いたばかりならばなおさらだ)

 ただしその間俺は、叔父に言いたい言葉を必死になって腹の中で抑え続けていたのだが。


(何で異世界に飛ばすようなことに?そもそも、何で異世界に知り合いが?てか、俺の夏休みは?どうなる?帰れるのか?一体……)


「何いろいろと考えてるの?」

「誰のせいだ!(怒」


 俺は噛み付かんばかりの勢いで叔父に食って掛かった。もしドラゴンのような牙があったら、本当に噛み付いてやるところだ……特に頭を狙って。


「まったく…何の前振りも無しに、こんな場所に連れてきやがって」

「ええ〜前振りしたじゃん。ちゃんと呼んだでしょ?」

「どこがだ!『竜〜ちょっといい〜?』の一言で俺はあんたの思考回路全てを悟れと!?」

「無理?」

「………行こう」


 これ以上言い争っていると、俺の身がもたなくなる。


***


 ようやく村に到着したときは、すでに夕日が地平線に傾き始めたときだった。


「もうこんな時間なのかよ…」


 俺は暗くなった町の様子を見てつぶやく。すでに人の姿はなく、家のところどころで明かりがポツポツと灯り始めていた。そしてその情景を見た俺は、ようやく異世界に来てしまったことを改めて自覚したのだった。


 なぜかというと、村の中が明らかに俺の住んでいる世界とことなる建物だからだ。

木や石、漆喰を基本とした家の造り。奥を見ると、大きな丸い広場があり、そこには手動式の井戸が慎座している。

 それに先ほど説明した家の中の明かりは、電気の明かりというより、蝋燭の明かりに近い色だった。


 つまりこの世界は、自分がいた場所よりもレトロだということだ。

生活水準でここが異世界と決め付けてしまうのは失礼だが、ここは明らかに自分達が知っている世界ではなかった。


「竜、こっち、こっち。」


 ぼんやりと辺りを見回して俺に、叔父の声が届く。そして振り返った俺は、その事をえらく後悔する羽目になった。

俺が背後に見たものは、白衣を着たままの叔父と、鎧を身に着けた屈強な男達。この状況はあきらかに…。


(不審者と間違われている)


「ええと、確か…」


 男達のするどい視線が注がれる緊迫な雰囲気の中、叔父は相変わらずのんびりとした調子のまま、白衣に着いているポケットの中をのそのそと探っている。


(何やってんだよ…)


 自分が怪しまれているという自覚が毛頭ないのか。はたまたそれ以前に、あの男達の存在に気づいていないのか。


(可能性としては、両方、だな)


「おい、貴様もこいつの知り合いか?」


 不意に声をかけられ、しまったと思った時にはすでに手遅れ。今度は叔父に視線を注いでいた俺に兵士達の視線が向けられてしまっていた。


(まずい…)


 一応俺も馬鹿ではない。話し合いあえばわかるなんで状況でないことぐらい把握している。そもそも、別の世界からやってきたなんて説明をしたら、たちどころにひっ捕らえられてしまうだろう。


(物語によくある馬鹿馬鹿しいパターンだが、現在の状況を見るとその流れになりそうなことは一目瞭然だな)

 

 俺はどうにかして言い逃れをしようと考えたが、頭に浮かんでくるのは余計な考えばかりだ。やっとのことで、なんとか話を切り出そうとしたその時。


「あ、あった〜」


 その場の空気に不似合いな叔父の声が響いた。


「いや〜なくしたかと思って焦ったよ。よかった、よかった」


 そういってポケットから取り出したのは、懐中時計のような丸い形をしたメダルだった。俺にとって話を打ち切ったそれは迷惑極まりないものだったが、なんとそれは俺たちにとって救いの手だったのだ。

 なぜならばそれを見せたとたんに、警戒していた兵士達は慌てて叔父に敬礼をしてみせたのだ。


「無礼な働き、申し訳ありません!!」


 しかも、敬語で謝罪を述べている。だがもっと驚いたのは叔父の態度だった。こういうことは初めてでもないかというように、こいつはニコニコと笑っていたのだ。


「いいですよ別に。僕もしばらくここに帰ってこなかったから」











――――――――――しばらく帰ってこなかった、だと?













硬直する俺にかまわず、叔父は俺の腕を取って兵士の前に立つ。


「しばらくお世話になりますから。あと、この子僕の親戚。怪しい人じゃないから安心して〜」

「はい、了解しました」


 背筋を伸ばした姿は、まるで森に聳え立つ大木そのもの。俺は叔父に半ば引きずられるようにしてその大木兵士の間を抜けていったのだった。


***


「…おい」

「なーにー?」


 俺は叔父に連れられ、村にあった古い(ぼろい)大きな一軒屋の中で憤然としていた。大きいといっても、中身はほとんど空に近いその家は、風呂場と台所とベット以外何もない。しかも風呂場だけ隔離されているような形になっているだけで、あとの家具はすべて得体の知れないガラクタとテンでバラバラにポンと置かれている。


「一体どうなって…そもそもここは何なんだよ」

「僕の研究所。昔ここに一時期棲んでいたから」

「……」


 疑問が多すぎて、どこから何を質問していいかまったくわからない。再び頭を抱えてうめく俺に、家の中の整理をしていた叔父はクルッと俺に顔を向けた。


「まあ、いろいろ混乱しているのも無理だろうね」


………ようやく気がついたのか、この人は。


「でも、ここにはいつか連れて来ようと思っていたんだ。兄さんとの約束もあるし」

「…親父?」


 突然父親が話に出てきたことに、俺は思わず悩むことをやめて叔父の顔をまじまじと見つめた。


「まさか、親父もここに来たことがあるのか?」

「うん。それどころか、竜はここに来るの初めてじゃあないよ?赤ちゃんの頃、兄さんが奥さんと君をここに連れてきたときがあったらしいから」

「らしいって…」


 赤ん坊の頃の記憶などあるわけがない。確証の無い話に顔をしかめていると、叔父は少し寂しそうに笑って見せた。


「その頃僕は、研究が忙しくて兄さんと連絡を取ることが無いに等しかったんだ。それに、僕の奥さんとの間も悪くなる一方だったし」


 たしか叔父は、たがが外れて変人になる直前まで結婚していたはずだ。その後叔父の奥さんは、変人になった叔父に愛想をつかして出て行ってしまったらしい。


「まあ、とにかく。しばらくここで暮らすから、いろいろ準備しないとね〜」

「……はあ!?」


 俺は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!すぐに帰るんじゃないのか!?」

「いいじゃん、せっかく来たんだし。それに、今すぐ帰るのは無理だし」

「何で!!」


 実はね、と叔父は家の中にある奇妙な塊に歩み寄った。覆いを取り外されたそれは奇妙な機械で、さっきまでいた叔父の部屋にあった妙な機械と形がよく似ている。


「これが向こうへ帰るための機械なんだけど、何年も使っていないから壊れているらしくてね〜。壊れていなかったら、さっきあんなだだっ広い草原に放り出されることにならなかったんだけど」


つまり、さっきの移動は成功でもあり失敗でもあるわけか……って、そんなことはどうでもいい!!


「…簡単に言うと、用は機械が壊れていて帰れないからしばらくここにいると?」

「そゆこと」

「……」









 高遠竜 17歳。平穏な人生をこの短い間で覆されました。













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