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15話【空から女の子(?)が!】

※6/13(22:10)修正

アルバを笛で呼ぶくだりを修正しました。

王様に二度とアルバと会わないよう言われていたので、

再会のシーンから諸々変更しました。

 冒険者ギルドで謝罪を済ませ、メルベイルの大通りに出た。

 街中でも速度がゆっくりであれば騎乗して移動することが許されているため、ルークの背で変形したライムと一緒に揺られている状態だ。


 語弊があるかもしれないが、俺の股の前でぷるぷると揺られている姿は愛らしいものがある。

 擦れ違う人のなかには、ライムを二度見する人もいるぐらいだ。


「姿形を変えられるってのは便利だよな。その、人間みたいな姿にも変化できたりするのか?」

『人間の身体構造については詳しく知りませんが……複雑な造りを完全に再現するのは難しいかもしれません。もしご主人様が望むのなら、必死で練習しますけど……?』

「え!? あ、いや、まあ……とりあえずは今のままでいいかな。その丸っこくてぷるぷるした姿に癒されてるからさ」

『そうですか。それなら良かったです』



 ――さて、こうして火急の案件は一段落したわけで。


 俺は手綱をダリオさんが経営する満腹オヤジ亭へと向けた。

 明日には街を出発してマイホームに戻ろうかと思うが、今日ぐらいはゆっくりと休んでもいいだろう。


 宿に到着後は騎獣舎にルークを預け、ライムは俺と同じ部屋に泊まることになった。

 ライムがいるからといって二人部屋料金を取られるということもなく、もちろんツインかダブルかで悩むような事案も発生しなかったと言っておきたい。


 相も変わらず、胃袋を握り潰すほどに掴んでくる美味さの料理を堪能したあとは、部屋に戻ってうとうとしていた。


「……あ、そうだ。たまには道具袋の整理でもしておくか」


 テーブルの上に置いておいた魔法の道具袋を手元に引き寄せ、中身を床に並べていく。

 整理といっても、取り出そうと思ったものを取り出すことができる便利な代物なので、中身がごちゃごちゃになっているわけではない。どちらかといえば、中に何が入っているかの確認作業のようなものである。


「えーと、地図、水筒、保存食に、塩に砂糖に香辛料と……おわっ、ルーク用に買った餌の残りがちょっとやばいぞ! ……他には……念のための傷薬に、マナ結晶石だろ、あとは白魔水晶に――」

『あの、ご主人様。その道具袋って見かけよりもずいぶんとたくさんの物が入るんですね』


 床にずらずらと並ぶ物品を見て、ライムが興味深そうにしている。


「ああ、これは魔法の道具だからな。けっこう大きな物でも余裕で入るぞ?」

『そうなんですか? それならわたし、ご主人様と同じ部屋に泊まるだなんて恐れ多いので、その袋の中に入っておきますね』


 ピョンッと飛び跳ねたライムの身体がずぼっ! と道具袋にホールインワンしたのだが、袋の口の部分でぎゅむぎゅむと詰まっている。


『あれ? 変です、入れません』


 細い筒に軟らかいゴムボールを半分ほどねじ込んだような状態で、ライムが疑問の声を上げた。


「この道具袋には生物は入れないんだよ。別に一緒の部屋で問題ないから、とりあえず身体を道具袋から抜いてみようか?」


 シュポン! という小気味よい音とともに飛び出したライムの身体が、ベッドの上で弾む。


「えーと、これで最後かな……ん?」


 袋の中に手を突っ込むと、まだ何か指先に当たるものがあった。

 取り出してみると何かの骨で作られた笛が姿をみせる。その瞬間、インパクトのあった魔族の姿が脳裏をよぎった。

 なにせ殺されたかけた相手なのだ。そう簡単に忘れられるものではない。


「アルバさん……今頃どうしてるのかなぁ」


 リムと一緒にパウダル湿地帯へ訪れた際に、突然空から降ってきた嵐のような魔族の女性。

 好戦的な人で、最初は戦うことになったものの、そのあとに起こったマリータ誘拐事件では色々と協力してもらった。


 だからといってそう簡単に魔族が人間と仲良くなれるわけもなく、アルバさんもこれ以上の馴れ合いはお断りだと言っていたし、今度会ったら横腹を槍で刺し貫かれることだろう。


「借りたものは返しておきたいけど……」


 王様からも二度会わないようにキツく言われているため、きっとこれを返す機会はもうないんだろうな。


「あ……」


 パウダル湿地帯で思い出したが、今日は九月三週、闇の日である。

 つまり明日は元の日であり、週に一度プリズムスライムが姿を見せる日というわけだ。


 ライムの事件で大幅に俺の元魔法スキルが成長したのは嬉しいが、せっかく日帰りでパウダル湿地帯に行ける場所にいるのだから、少しぐらいスキル集めに精を出してもいいだろう。

 ライムは現段階においてはこれ以上の合体を控えてもらうことにし、俺が自分でスキルを奪うのも悪くない。


『ご主人様? どうしたんですか』

「うん。明日はもう一度パウダル湿地帯に行こうと思うんだ。出発は早朝になるから、今日はもう寝よっか?」

『あ、はい』


 ――さて、一緒の部屋でベッドは当然ながら一つ。まさかライムを床で寝かすような非道な真似をできるはずもない。

 どのような一夜を過ごしたのかは、ご想像にお任せすることにしたい。




 早朝、快眠を貪った俺は元気よくパウダル湿地帯へと出発した。

 おかげさまで太陽が中天へと至る前に現地に到着し、プリズムスライムの出現を願って湿地帯を徘徊する。


 その甲斐あって、昼飯時までに二匹のプリズムスライムに遭遇し、一回は上手く合体させてから元魔法スキル奪うことができた。


「平和だな……あのときもこんな感じでリムとのんびりしてたんだっけ」


 湿地帯には小動物や魔物の鳴き声が時折響くぐらいで、ダリオさんの特製弁当をむしゃりむしゃりと食べ進めていく。


『ご主人様、あのときというのは?』

「ああ、ライムは知らないよな。前にここで魔族に襲われたことがあってさ――」


 当時の出来事を簡単にライムに話してあげた。

 話しているうちに、段々とアルバさんとの戦いを鮮明に思い出してくる。

 今でも、あの真っ赤な眼で睨まれたら股間がキュッとなってしまいそうだ。

 勝てたのが奇跡と呼べるほどの内容だった。


 現状ならば互角……いや、実力的には俺のほうが有利に戦えるかもしれないが、油断はできない。

 アルバさんはこちらを殺すことに――人間を殺すことに躊躇いがなかったのだ。

 色々と交渉もできたし、けっして言葉が通じないわけじゃない。それでも、相手を殺すと決めたら容赦はしない。


 現時点でアルバさんと俺とで、決定的に差があるとすれば……そこだろう。


「レンのやつも言ってたけど、この剣の特性だっていまいち活かせてないからな」


 剣鞘から滑らせた漆黒の剣ノワールは、美しい光沢でこちらを魅了してくれるが、本来ならばもっと輝いているはずなのだ。所持者が自分と同種族の者を斬り殺せば切れ味が増していく特性を活かすには、俺はヒューマンを斬らなければいけない。


「でもなぁ……殺さなくて良かったと思うこともあるわけで……」


 実際、レンやレイと初めて出会ったときは敵同士で、こちらが手加減できる程度には実力差があったため、命を奪わずに動きを封じることができたのだ。

 今では、まあ……あの二人を殺さなくて良かったと思う自分がいる。

 そんなことを考え始めると、余計に躊躇いの気持ちが大きくなっていくわけで。


『わたしは、今のままのご主人様がいいと思います』


 ごちゃごちゃと考えていた俺に、ちょこんと前に座って(?)いたライムが話しかけてきた。


「ん……それって、これからも不殺を貫くってこと?」

『いいえ、そうじゃありません。もし必要となったときは、ご主人様が誰かの命を奪うこともあるでしょう。ご主人様ほどの実力があれば、きっと容易いことです。それはもうサクッと一瞬です』

「お、おう。なんだか物騒だな」

『たしかに、物騒ですね。ですから……そのときにはご主人様の好きなようにすればいいんです。相手を殺すのも、生かすのもご主人様次第です。それを自由に決められるのは、強者の特権ですから』


 強者の……特権、か。

 相手を生かすも殺すも自由……それに優越感を感じる人間もたしかにいるだろうが……


『ですから、わたしは今のままのご主人様がいいと思うんです』


 ライムは丸い身体をゆっくりと弾ませながら、言葉を紡ぐ。


「えっと、どういうことだ?」

『悩んで悩んで、出した答えが仮に間違っていたとしても、悩んだ時間は無駄にはならないはずですから。それは、考えることを放棄して殺すことに慣れてしまうよりも、きっとずっと良いことだと思うんです』

「ああ。そう、かもしれないな」


 ……やべえ。


 ライムの言葉に少しばかり感動してしまった。恥ずかしながら仲間にした魔物の尻に敷かれるのはルークやクロ子で慣れてきてしまっているが、こんなふうに健気に励ましてくれるライムに『ご主人様』とか呼んでもらっている自分が恥ずかしいし、情けない。

 なにこれ、新しい羞恥プレイ? 穴があったら入りたい気分だ。


『あの、わたし余計なことを言ってしまいましたか?』


 こちらを向いていたライムの身体が心なしか小さくなり、おずおずと尋ねてくる。


「いや、まったく、全然、一ミリもそんなことなく――て……」


 慌てて弁解の言葉を口にしようとして、俺は動きを止めた。

 視界の端に映っていた青空に、小さな影が見えたからだ。

 その影はどんどん大きくなり、すぐに人影として認識できるほどに鮮明になっていく。


「うっそ、だろ……」


 ちょっ! 待て待て待てぇっ! すんごいデジャブを感じるんですけど!

 わりとトラウマ的なデジャブなんですけど!


 バシャンッ! と荒々しい水音とともに湿地に着陸したのは、見覚えのあるグリフォンの騎獣(ルナだったか?)を駆る、銀髪の美しい魔族だった。

 紅玉(ルビー)のように綺麗な輝きを放つ双眸が、スゥっと流れるようにこちらを捉える。


 あ、やっぱり俺に用事ですか。突然の訪問お疲れ様です。


 ちょっぴりだけ懐かしい気持ちもあるが、油断はしないほうがいいだろう。

 協力するのはこれが最後で、今度会ったときは敵同士と思え。みたいな別れ方をしているため、再会した途端に攻撃される危険はゼロではないのだ。


 俺は動揺を隠し、できるだけ丁寧に挨拶するよう心がける。


「お久しぶりです、アルバさん。と、突然どうしたんですか?」


 アルバさんはこちらを見据えたまま、ずんずんと距離を詰めてくる。

 すわ、戦闘勃発かと焦ったものの、アルバさんは喜怒哀楽を掴みにくい不思議な表情を浮かべた。


「そうか……まだ無事だったか」


 ちょっと話がよく見えないな。無事? そりゃあ無事ですとも。危険があるとすれば目の前にいる人物が一番危険性が高いです、はい。


「……今はお前だけか? この前にいた獣人の娘はどうした?」


 ルークやライムは魔物だからカウントしないとすれば人間は俺一人。前に一緒にいた獣人というのはリムのことだろう。


「お前は、ずいぶんとあの娘を大事にしていたようだったな」

「い、いきなりなんですか? そりゃあ、俺にだって守りたいものはありますよ」


 リムだけじゃなく、この世界で守りたいと思えるものは、以前より増えた。

 お世話になった人たち、苦労して手に入れたもの……それは人が生きていれば自然と増えていくものだから、当然といえば当然だ。


「そうか……すまないが、私はお前との約束を破ってしまった。いや……喋ったわけではないから厳密には破ったとはいえないが……まあ、今はそんなことはどうでもいい。実は、お前を捜していたんだ」

「あの、ちょっと話が見えないんですが……」


 こちらが言葉を言い終える前に、アルバさんが手を差し出してきた。


「いいから、私の手を取れ。そしてお前が大切と想っている相手のところへ連れていけ。すべてが……壊されてしまう前にな」


 逆らうことが許されないほどの気迫に、俺は思わずアルバさんの手を握る。

 その手は一瞬だけ震えたように感じられたが、すぐさま力強く俺の身体を引き寄せた。


「私は……いったい何をやっているんだろうな。こんなのは……明らかに魔族に対する裏切り行為だというのに」



 ◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ――スーヴェン帝国南部。最南端にあるグラール砦にて。


 未開拓地域に生息している凶悪な魔物や魔族が侵入してこないよう、見張り台に立っている兵士が隣にいる男へと声をかけた。


「ふぁ~あ、夜の見張りも楽じゃないなぁ。魔族も最近は大人しいみたいだし、別に暇なのが悪いってわけじゃないんだけど……なあ、なんかこう面白い話とかないか?」


 隣にいる男は夜の警備だけ臨時で請け負っている冒険者であり、なにか暇を潰せる話ぐらいあるだろうと期待してのことだった。


「そうっすね。つい先日、異例の昇格を果たした若手冒険者の話とかどうっすか?」

「へえ、面白そうだな。若いってどれぐらいだ? お前だって二十歳そこそこだろ?」

「いや、俺よりもずっと若いらしいっす。なんでもアモルファスの南に広がる樹海を切り拓いて、有望な鉱山までの道を作ったとかで」

「そりゃすごい。あの樹海には凶悪な魔物が住み着いてるって聞いたぞ」

「そうっす。俺なんか瞬殺されるっす」

「おいおい、仮にも砦の警備として雇われてるんだから、瞬殺はマズイだろ。それで、その冒険者ってどんなやつなんだ?」

「いや、実は俺もアモルファスに立ち寄ったとき、冒険者仲間に話を聞いただけなんで、詳しいことは全然わかんないっす。わかるのは名前ぐらいっすかね」



「――――いやいや、なかなか面白そうな話してるじゃねえか」



 突如、冒険者の男の話はそこで途絶えた。

 言葉の代わりに、宙を舞う赤い液体が噴水のような水音を立てる。

 首から上が、巨大な魔物に喰い千切られたかのようにぽっかりと無くなっているのだ。


「あ……え?」


 何が起こったのかを理解するまでに数秒を要した兵士の男は、目の前の冒険者を襲った相手の姿をようやく視界に収め、恐怖で痙攣しそうな喉を小さく震わせてなんとか声を発した。


「ば、化け……もの」


 反射的に突き出した槍が化け物の外皮に命中したが、槍の穂先がベギッと嫌な音を立てて折れ曲がる。兵士は背中に嫌な汗を浮かべ、すぐさま応援を呼ぶべきと判断した。


 これは自分に敵う相手ではない。いや、そもそも相手が何者なのかもわからない。

 こんな魔物は見たことがないし、魔族だとしてもあまりに異形なその姿は、やはり最初に形容したように『化け物』と称するのが適当だろう。


「だっ……」


 助けを求めようとした男の声は、しかし他の誰にも届くことはなかった。

 しんっと静まりかえった宵闇のなかで、化け物が嬉しそうに声を上げる。


「くっくっく、顔と名前さえわかってりゃ、こうしてジワジワと追いかけていくのも面白えってなもんだ。まあ、魔族に自己紹介する酔狂なところなんかは気に入ったけどな」


 化け物の影は、音もなく砦から姿を消す。


「さて……メインディッシュも楽しみだが、一緒にいた女も楽しませてほしいもんだな。どんな反応をするか想像しただけで身体が震えてくるぜ。――わたしの可愛い娘に手を出したら許さない――わたしがいなくても夫ならあの子を守ってくれる――わたしの可愛いリム――どうか無事で――ね。健気だねえ。いいじゃねえか、母と娘の感動の再会といこうぜ。……っくっくっく、あっはっはっはっはっは! ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」

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