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13話【欠けた記憶】

 ――スーヴェン帝国。とある領地の洞窟にて。


 フードを被った女性が、見張りの男に一声かけてから内部へと入っていく。内部はゴツゴツとした岩肌が目立ち、人が住むには不向きであるといえる。

 もっとも、雨風が防げる仮宿としてはこれで十分だ。


「たまには柔らかいふかふかなベッドで寝たいなぁ……」


 『夜鳴きの梟(ハウル・オウル)』は神出鬼没である。

 活動範囲はスーヴェン帝国内に限定されているものの、帝国の領土が広大なために、その足取りを追うのは容易なことではなかった。

 団長が気まぐれということもあり、突然予定とは反対方向の領地に移動したりもするのだ。


 それが追跡者などを回避するための行動なのかと深読みする団員もいるが、本人に聞いてみると「なんとなく」といった気の抜けた答えが返ってくるだけである。

 気まぐれで人助けをすることも多々あり、実を言うと団員の非戦闘員である女性や子供は、悪辣な奴隷商人や貴族の逆恨みを買った者であることも多い。


 洞窟の奥にはやや大きめの空洞があり、そこから枝分かれするようにいくつかの小さな穴が続いている。そのうちの一つを奥に進んでいくと、小部屋のような場所に出た。


「まったく……団長には困ったものですね。また団員を勝手に増やすような真似をして」

「……んん? まあ、仕方ないだろ。なんていうかこう、放っておけないんだからな」


 大量の藁を紐でしばり、そこにシーツを被せただけの簡易的なベッドに寝転がっている団長が、振り向きながら子供のような言い訳をした。

 そんな返答を聞いて溜息を漏らした女性は、被っていたフードを脱いで顔を露わにする。


 頭部には獣人の耳がぴょこりと出ており、さらりとした栗色の髪は湿っぽい洞窟内部においても艶やかさを失っていない。


「団員がこれ以上増えたら、団そのものが動きづらくなりますよ」


 蒼い双眸が団長を捉え、副団長のミラが苦言を呈した。


「わかってる。わかーってるよ。機会を見て、当座の金を持たせたら孤児院なりに連れてくから」


 際限なく気まぐれの人助けをしていれば、団員は非戦闘員で満杯になってしまう。

 団長が口にしたように、戦えない女性や子供、戦う意思のない男性などは、本人が安全を確保できる場所にてお別れしているのだ。


「そんなだから、いつまで経ってもこの団は貧乏なんです」

「悪かった、悪かったって。そこらへんのとこをミラに丸投げしてる俺が全部悪かったよ。だからそう責めるな」

「……別に責めているわけではありません。そもそも団長のそういった気まぐれがなければ、わたしだって命が無かったところなんですから」


 ミラは現在のところ、副団長などという大仰な位置にいるものの、団員として長く在籍しているわけではない。


「おう、あれには俺もびっくりしたぞ。川に水汲みに行かせたガキが大慌てで叫びながら戻ってくるから何事かと思えば、血塗れのお前が倒れてるんだからな。どうだ……何か思い出したか?」

「いいえ……まだ何も」


 憂い顔のミラを見て、団長はわざと軽めの口調で話す。


「そっか、まあ焦ることはないだろ。こっちとしても団にミラがいてくれると助かるからな」


 重傷だったミラの身体が完治するには、薬や魔法を使っても数日を要した。

 だが――本当に問題となるのは表面的なものではなかった。

 彼女は……過去の記憶を失っていたのだ。


 自分の名前さえ満足に覚えておらず、特に知り合いや家族のことなどを尋ねられると不思議なほどに思い出せない。

 まるで最初から白紙だったかのように記憶が無いのだ。


 ただ、理知的で優しく、料理が上手く、腕っ節もそこそこ強いとなれば、素性が知れずとも問題はない。

 団長に足らない細かな配慮ができる有能な人材として、ミラが副団長に抜擢されるまでにそう時間はかからなかった。


「まあ、半分以上は雑用といった感じですが、助けてもらった恩は返さないといけませんからね。記憶が戻らないと動きようもありませんし」

「ふーむ。記憶なあ……ミラが流されてきた川の上流には何があったっけか、……と」


 地図を取り出した団長は、川を指でなぞるようにして遡っていく。


「お! ここらへんは、あの気の強い嬢ちゃんが領主やってるとこだな。えーと、ここからさらに南に続いてて……おっと、ここからは未開拓の土地ってか」


 地図の端まで指を進ませ、残念そうに溜息をついた。


「あはは、気にしないでください」

「んなこと言われてもな、お前を知ってるやつが心配してるかもしれないだろ」

「それはそうですけど……もしわたしに大切な人がいたとしたら、少しぐらい何か覚えてるんじゃないかと思うんです」

「あー……、まあ、そんなもんかね」


 寂しげな表情を浮かべるミラを見て、団長は藁のベッドを軽く叩いて笑う。


「ま、そんな暗い話はここまでにして。どうだ? 久しぶりに俺の横でぐっすりと寝ていくか? 今なら寂しさが紛れる特別サービスを実施中だぞ」

「誤解を招くような発言はやめてください。久しぶりも何も、団長の横で寝た記憶はありませんよ。わたしは記憶喪失ですが、これでも物覚えは良いほうなんです」

「はっは、冗談だよ。お前も疲れてるだろうから、ゆっくり休んでおいてくれ」


 団長は脱ぎかけていた服を一瞬で整え、いたって真面目な顔でミラに言葉をかける。


「はい、それでは失礼します」


 暗闇に溶けていく副団長の背中を見送り、完全に見えなくなってから、団長はボフッと藁のベッドに顔を沈ませた。


「……ん~~む。俺の腕も鈍ったかね」


 そうしてしばらくベッドの上を転がりながら、最後には仰向けになり、天井を見上げるかたちとなる。


「そろそろこの洞窟も飽きてきたな……」



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ――鉱山街アモルファスより南にある樹海にて。


 古代遺跡の周囲で、鍬を振るう男がいた。

 彼の名前はドルフォイ・ギブス。

 盗賊団の頭目をしていた屈強な巨漢であるが、今や心を入れ替えて農作業に従事する農夫である。


「ふぅ……あとは苗を植えて、と。あっちの畑には水を引く側溝も作ってやらねえとな。くふふ、俺様の畑が着々と大きくなっていくのがたまんねえだ」


 鉱山での強制労働の代わりに、ここで畑作業に従事している彼であるが、農作物に対する愛情は人一倍強いと言ってもいいだろう。


「おお、アンジェレッタにジョセフィーヌ、それにキャロルなんかはかなり育ったな」


 愛情を注ぐのはいいのだが、一つ一つに名前を付けるというのはやり過ぎな気もする。

 そんなご満悦中であるドルフォイの前に、人影が一つ現れた。

 黒と白の斑模様の髪が特徴的な獅子の半獣人、セシルである。

 暇だからアモルファスで傭兵の仕事でも探してくると言って出掛けたが、もう仕事を片付けて戻ってきたのだろうか。


「お~、すごい。たった数日でここまで作り上げるなんて、農夫としての腕前は相当だね」

「はっはっは、これが俺様の実力よ」


 素直な賛辞の言葉を受けて、ドルフォイは胸を張った。


「どれどれ」


 セシルが柵を乗り越えようとしたところで、大声が上がる。


「こ、こら! 畑に勝手に入るんじゃねえ! まだ芽も出してないやつらを踏んだらどうすんだよ!?」

「ああ、そっか。ごめんごめん」

「……ったく、これだから素人は困るんだ。少しは考えろってんだよ。そのでっかい胸にばっかり栄養がいっちまって、そっちばっか成長しちまってんじゃねえか?」


 愛すべき子供たちのような作物のこととなると、熱くなってしまうドルフォイ。

 そんな暴言を受けて、セシルは優しく微笑みながら手招きをする。


「ああん? こっちは忙しいんだよ。言いたいことがあんなら大きな声で……が……ぁ」


 セシルに近づいていったドルフォイの身体が、宙に浮いた。

 というのも、セシルが伸ばした片手で巨漢の彼を軽々と持ち上げたからである。


「ちょっ……苦し……」


 首元を掴まれたまま、足をバタつかせるドルフォイは自分の過ちに気づく。


「えーと、ちょっとよく聞こえなかったけど……君、何か言った?」

「や、な、なんにも言ってないだよ。お、オラが悪かっただ。農作物のこととなると、ちょっとだけ口が悪くなっちまうことがあるけんど、許してくんろ」


 トスン、とドルフォイの足が地面へと接地した。


「げほ……げほ」

「あんまり口が悪いとお仕置きしちゃうよ? 素直に言ってくれれば、ボクだってお手伝いぐらいするからさ」


 そう口にして、セシルは大型の槍を背負い直して遺跡内部へと進んでいった。


(……うう、とんでもねえ力だ。セシルとかいったな……今度からは気をつけるべ)



 捻りきられそうになった首元をさすりながら作業に戻ったドルフォイの前に、今度は二人組が通りかかった。

 森で捕らえた獲物を担いでいるのは褐色の肌の容姿端麗な少年であり、隣を歩く女性もまた顔立ちが整っている。


(あれは……たしか双子の姉弟だべか)


「お~、なんか畑っぽくなってるね。おっちゃん、盗賊なんかよりこっちの方が向いてたんじゃないの?」


 飄々とした口調で話しかけてくるレンに対して、ドルフォイはまたもや胸を張って答える。


「まあな。もう少しすれば、ここらへんは水々しい野菜で一杯になるぜ」

「へえ……ここらには何を植えたの?」


 興味があったのか、姉であるレイも話に加わる。


「色々と試してみてえんだが、この辺りには真っ白なカブが育つ予定だ。きめ細やかな白さは雪のようと言われてる品種でな。お前みたいに健康そうな小麦色の肌も悪かねえが、こいつらのすべすべした白さに比べればまだま――」


 ――――ズドッ! 


「……と思っていた時期が、オラにもありました」


 足元に突き刺さった投げナイフは、あと数センチでドルフォイの身体を地面に縫い付けていたことだろう。


(……ここに住んでる女性って、こんなんばっかだべ?)



 そうして双子が去ったあと、今度はドラゴニュートの少女シャニアと、獣人の少女リムが畑にやってきた。


「やほ~~、元気してる?」

「あの、今日の晩御飯で使えそうな食材って何かありますか?」


 前回の二人のこともあり、ドルフォイはやや警戒しながら返答しようと心に決めた。

 その判断は正しく、もしここでシャニアに対して『お前は小さいから(※胸を含む)もっと野菜を食え』みたいな発言をしようものなら、彼自身が畑の肥料にされていたかもしれない。


「そうだな……そこに炒めものや薬味にちょうどいいのが育ってきてるぞ。ただもう少し育ってから収穫したほうが甘みも強くなってお勧め――」


 サクッ。


「ジョッッッッセフィーヌゥゥゥゥゥーーーーーーーーーー!!」


 え? と不思議そうな顔をするリムの手には、ぐったりとしたジョセフィーヌが握られている。


「い、いや、別に今のままでも十分美味しいとは思うけんど、オラにも心の準備ってもんが……」


 サクッ。


「アンジェレッタァァァァァァァァッッッッッッッッーーーーーーーーー!!」



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ――その夜。


 遺跡内部にある厨房で、皆の食事の準備をしているリムの姿があった。

 調理の邪魔にならぬよう、少し長くなった髪は髪留めで後ろにまとめている。リムの肩にデデンッと鎮座しているヌコのほうが邪魔のようにも思えるが、そこは彼女にとって許容範囲内のようだった。


 トントントン、と落ち着いた包丁の音とは裏腹に、皆の共有空間となっている広間からは厨房まで喧騒が聞こえてくる。


「レン君! いける! まだいける!」

「やふ~、もっといいとこ見せろ~」

「まっかせろい! オイラの真の力を解放すればこんなもの!」

「ちょ! なんでオラまで……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 酒盛りでも始まっているのだろう。父親のアーノルドが酒に酔う姿を見てきた経験のあるリムにとっては、慣れたものである。


「まったくよぉ……あいつらときたら限度ってもんを知らないんじゃねえか? 俺が注意してきてやるよ」


 リムの手伝いをしていた獣人の少年テッドが、鼻息を荒くして広間へと向かっていった。


 少年はそのまま帰ってこなかったが、代わりに意外な人物が厨房に顔を出す。


「……なんか手伝えること、ある?」


 無愛想ではあるが、最近は彼女――レイがこのようにリムになにかと話しかけようとする光景がよく見られるのだ。


「えっ……と、じゃあそこに置いてある肉を適当な大きさに切り分けてくれますか?」

「おっけー、一口サイズでいいわよね」


 トントントン。

 サクサクサク。

 …………

 ……


 厨房内にいる人数は増えたのに、先程よりも静かに感じる不思議な空間で声を発したのは、レイのほうが先だった。


「……ワタシね、あんたに一度謝ろうと思ってさ」

「この前のことですか?」


 というのは、エリンダルにてレイがリムに喧嘩を吹っかけた一件についてだろう。

 あれ以来、互いに普通に接する努力はしているように見えるのだが、どこかぎこちない。


「そう。あと……もう気づいてるかもしんないけど、メルベイルでの件についてもね」


 レイは特務部隊としての任務で、メルベイルで領主の娘マリータを誘拐するという事件に関わっていた。顔は隠していたものの、その際にセイジやリムに危害を加えようとしたのだ。


「あれについては仕事だったから悪いとは思ってないけど、いつまでも黙っておくのは性に合わないからさ」


 レイの鞭の扱いや、水魔法で氷を具現化する戦闘スタイルは独特なもので、この前に喧嘩を吹っかけた際に同一人物だと気づかれた可能性が高い。


「ああ……やっぱり、そうだったんですか」

「ふぅん。あんまり驚かないんだね……っていうか、無理に敬語使わないでいいよ。殴り合いの喧嘩しておいて、いまさらでしょ?」


 リムは、肩に乗っているヌコが料理のつまみ食いをしようとするのを窘めながら、レイに向き直った。


「そうだね。最初はたしかにびっくりしたけど、どちらかといえば、あなたがセイジと一緒にいることのほうがびっくりだったかな」

「は、はあ!? な、なななにがおかしいのよ?」


 包丁の音が不規則になり、肉がまな板の上で細切れになっていく。


「ううん、別に変じゃないよ。セイジは優しいから、きっと自分が納得したら過去のことなんて綺麗に忘れちゃうだろうし」


 つまりリムが言いたいのは、敵対心の強かったはずのレイが、大人しくセイジと一緒に旅していたことのほうが驚き、ということだ。


 たしかにレイはセイジと再会したとき、彼を毛嫌いしていたと言っても過言ではない。

 こいつマジで消えろぐらいに疎ましく思っていたはずだ。

 自由奔放……悪く言えば自分勝手な性格がレイの父親とよく似ており、父親への嫌悪感も上乗せして嫌っていた。


 しかし、セイジに命を助けられて『こいつ本当に何考えてんの?』という興味を抱くことになり、現在に至っている。


「いや、まあ……そこは色々あったのよ」


 包丁でぐりぐりされる肉が、まな板の上で悲鳴を上げた。


 レイ自身、セイジに抱いている感情が何なのかよくわかっていない。

 気にならないと言えば嘘になるが、好意を抱いているかと問われれば絶対に認めたくない。

 セイジと父親を同一視しているわけではないが、一緒に旅をすることで、毛嫌いしていた亡き父親がどんな人物だったのか? という問題と改めて向き合おうとしているのかもしれない。


「ところで、あんたはあいつのことずいぶんと知ったふうに話すけど、どういった関係なのよ?」


 冒険者仲間という間柄にしては、親しすぎる。


「え……?」


 そんな質問に、リムは考えこんでしまう。

 メルベイルでは本当にお世話になった。元気がなかった自分を励ましてくれたし、命を助けてもらったこともある。一緒にいて安心できる存在だ。

 あと、よく美味しいものをくれる。


 なんと答えたらいいものか、悩んで首を傾けていくリム。

 肩に乗っていたヌコが、リムの顔と肩に挟まれて「ヒギュッ」と迷惑そうな声を上げた。


「えーと、お母さん……みたいな?」

「……はぁ?」



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 セイジが拠点としている遺跡よりもさらに南。

 地形は樹海から荒野へと変わり、さらに進むと黒ずんだ地面が続く景色となる。


 黒い大地となっているのはこの一帯に火山が多いためであるが、別に生物が住めない死の大地というわけではない。

 環境に適応し、分厚い皮膚に覆われた屈強な魔物なども生息しており、人型の生物の姿も見受けられる。


 ただし、それら人型の生物はヒューマンや亜人とは区別されている種――魔族である。

 血のように赤い眼が特徴であり、外見は魔物に近い異形の者もいれば、ヒューマンとさほど変わらぬ者まで様々だ。



 そのような魔族たちが暮らす小さな街ともいえる一画で、大声を張り上げる者がいた。


「ああ? 全ッ然聞こえねえな!」


 その男の身体は分厚い筋肉に覆われ、獰猛な魔物から剥ぎ取った皮で造られた衣服は野性的の一言に尽きる。

 浅黒い肌に、真っ赤な紅眼、燃えるような紅髪からは二本の角が突き出していた。


「が……は、ディノ……お、俺が、悪かっ……許し、て」


 ディノと呼ばれた男は、片手で持ち上げていた魔族の男を睥睨してから唾を吐いた。


「つまんねえなぁ……おいおい、つまんねえよ。さっきまで俺のことを族長の息子なだけで大したことないとか言ってなかったか? ああ? あの勢いはどうしたんだよ」

「お、い……お前ら、た、助け、ろ」


 締め上げられている魔族の男は、後ろにいる三人に助けを求める。


「ひっ、お、俺たちは関係ねえ! そいつが勝手にやったことだ!」


 だが、助けを求められた三人は脱兎のごとくばらばらになって駆けていった。


「はぁ……情けねえなぁ。子分にも一瞬で見捨てられやがって。てめえ……全然面白くねえよ。少しぐらい心躍るもんがあれば『喰う』のも悪くねえかと思ったんだが……全然ダメだ」

「おま、え……なに言って……」

「だからよ……てめえはつまみ喰いする価値さえ無いって、言ってん、だ・よ!!」


 グジャッ!


 と血袋が破裂するかのような音とともに、ディノは魔族の男を地面に叩きつけた。

 ピクリとも動かなくなった男を見下しながら、つまらなさそうに呟く。


「あ、死んじまったか? ……おお! 動いた! さっすが魔族たるもの身体は丈夫じゃなきゃいけねえよなぁ」


 子供のようにはしゃぐディノは、倒れている男の顔面を蹴りつける。


「……お前は、相変わらずのようだな」


 暴れるディノに上空から声を掛けたのは、グリフォンを騎獣としている魔族の女性だった。

 眼や肌の色こそディノに似通っているものの、尖った耳を除けばヒューマンとさほど変わらぬ外見で、綺麗な銀白色の長髪が風でなびいている。


「――やはり、私はお前が嫌いだ」

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