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9話【槍の使い手ベイス】

予約投稿です。

日間ランキングで一位を盗(取)れたことでもう思い残すことはありません。ぇ……


感想でヒロインの必要性について様々な意見をいただきました。

色々考えるところはありますが、一つだけ。


作者は昔の『週刊少年ジャ○プ』のような王道が大好物です。

 ――さて、どう攻めるか。

 正直なところ、対人戦は初めてなので俺だって緊張してる。

 だが、これが模擬戦なのは有難い。

 訓練用武器とはいえ、場合によって怪我はするだろうが……武芸のスキルは向こうのが上なんだ。

 下手に考えていてもしょうがない。


 まずは全力で――ぶつかってやるっ。


「フッ!」


 小さく息を吐き出し、一足飛びに間合いを詰めようと駆ける。

 どの位置から打ち込まれても対応できるように剣は腰の高さに構え、5mほどの距離を一気に喰らいつくしていく。


 初手は、相手側だった。

 両手に携えていた短槍を片手に持ちかえ、俺へと躊躇いなく突きを繰り出してくる。

 正面で相対すると、短槍は想像していたよりもさらに速く、そしてより長く感じられた。

 ……この距離で届くのか。


 線ではなく、点による攻撃。

 軌道が見えにくいために回避しづらい。

 ……が、大丈夫だ。躱せる。


 半身をずらすことで身体の面積を縮め、ベイスさんの一撃が真横を通過した。

 空気を裂く音が耳元を掠めるが、それを無視して懐へと潜り込む。


 相手は俺の回避に軽く驚いたようだったが、すぐさま冷静さを取り戻し、手首を動かすだけで短槍を器用に回転させたかと思うと石突で接近する俺を狙ってきた。


「うおぁっ!」


 それを剣によって軌道を変化させることで防ぐ。

 二度の攻撃を受け、一度距離を取るべきかと考えたが……ここで退くべきではない。

 もう一歩――踏み込めっ!


「おぉぉっ!」


 身体をさらに前へと押し出し、剣を握る拳に力を込める。

 やや腰を低く構え、下半身の回転をバネにすることでその力も腕の振りに上乗せしてやる。


 全力で逆袈裟に斬り払う一撃はしかし、相手の短槍の柄に防がれた。


 鳴り響く鈍い金属音。

 いつの間にか両手に持ち直されていた短槍は、なかなかに突破しづらいものがある。

 片手で攻撃したり、両手に持ちかえて防御と、厄介だな。


 両腕で短槍が薙ぎ払われるが、これは回避。

 さらに足元を刈り取るように斜めに振り下ろされた一撃を跳躍することで躱す。


 そのまま跳躍した体勢からの上段斬り落とし――


 ――それさえも、短槍によって止められてしまった。


 力と力が拮抗する。

 ギチギチと剣と短槍が噛み合うかのような唸り声を上げた。


 おそらく純粋な力のみなら、俺に分がある。

 が、こちとら片手用のロングソード、相手は短槍を両手持ちしているために、押し切ることができない。


 空いた左手はいつも強奪用に使用するのだが、さすがに今ここでそれをやれば自分で自分にどん引きである。

 こういう時に何か有効利用できる手段が欲しいところだ。

 俺としてはやはり魔法が望ましいけども。


 拮抗状態を崩すため、剣を短槍の柄上で滑らせることにより相手の指を狙う。

 ベイスさんはそれに気付いたのか、素早く片手を手放すことで攻撃を受け流し、片腕で操る短槍の石突でこちらの胴を打ち据えた。


 剣を振りきった体勢だったために完全に避けることはできなかったが、くらうと同時に後ろへと跳ぶことで衝撃を抑えることには成功した。


 しかし、結構痛いものがある。

 防具の上からなのに、少し効いた。


 武芸スキルはベイスさんの方が高い。だが身体能力はスキルの恩恵で俺がやや勝っていることで勝負にはなっているようだ。


 ――まだ、いけるっ。


 二度、三度と攻防を繰り返す。

 強敵との戦闘がこれほど神経を擦り減らすものとは思わなかった。


 それでも、俺の一撃が相手の防御をすり抜け、浅くではあるが肩へとヒットする。

 これでおあいこだ。

 ……俺も十分に負けず嫌いな性格なのかもしれない。



「――ここまでにしましょう」


 そこで、ベイスさんが構えていた短槍を下ろした。


「僕に勝てば試験通過と偉そうに言ったことをお詫びします。セイジさんは文句なしに一次試験通過です。まだ残りの方を試験しなければなりませんので、残念ですが手合わせはここまでにさせてもらおうかと」

「はっ……ハァ……ふぅ……分かりました」


 まだ頭の中が熱っぽい。

 白濁するような思考は興奮によるものか、なんか自分が危ない人みたいだ。


 右腕が、俺の右腕が制御できないっ!

 ふぅ……どうやら落ち着いてきたようだな。


 剣柄を固く握っている拳を、ゆっくりと緩めて壁際へともたれかかる。

 疲れた~。


「その若さであれだけの剣技を披露するとは……随分と鍛錬したのだろうな」


 俺に話しかけてきたのは、強面で獣面のアーノルドさんだ。

 感心したとばかりの視線を向けられると気恥かしいが、頑張って鍛錬(盗んだ)したことに間違いはないため、頷くことで返す。


「ありがとうございます。その……」

「アーノルドだ。こっちはオレの娘のリム」

「セイジです。お二人は獣人の方ですよね?」

「ああ。リム、お前も挨拶を」


 アーノルドさんに促され、リムと呼ばれた娘がおずおずと父親の背中に隠れながらこちらを見てくる。

 俺、何かしたっけか?


「……リム、です」


 囁くような小さな声。その後に何か言葉が続くのかと期待したが、特に続かない。


「――次の方、お願いします」

「ふむ……リム、お前が先に行きなさい」


 その言葉にコクリと頷き、リムは無言でベイスさんの方へと歩み出ていく。

 武器はなし。前腕部から上腕にかけて覆う手甲に……革のグローブのみ。

 防具は身体の動きを阻害しないように最小限のものとなっている。

 体術スキルが上がってるから……やっぱり――Lvを上げて物理(拳)で殴るスタイルなんだろうか。


 そんな姿を視線の端に捉えながら、俺はアーノルドさんとの会話を続ける。


「すまなかったな。あれはここしばらくオレ以外と会話をしていないのだ。無愛想だったとは思うが、気を悪くしないでくれ」

「い、いえ、全然気にしてないですけど……何かあったんですか?」


 ちょうどベイスさんとリムの試合が開始され、二人が動くのが見えた。

 なるほど、あの手甲は盾みたいな役割も担うのか。

 短槍を手甲で滑らすように弾き、懐へ――と。


「面白くもない話なのだが……もしこの話を聞いて興味を持ったなら、リムを少しだけ気にかけてやってくれないか」

「その、立ち入った事情なら無理には……」


 会っていきなり人様の事情に首を突っ込むのはどうだろうか。


「そこまで深く考えなくていい。ただ、ギルドや街中で顔を見かけたら軽く挨拶をする程度で構わない。リムも歳の近い者と話すことで少しは気持ちが晴れるかと思っただけだ」


 正確には二歳下なのだが、アーノルドさんから見れば些細な差なんだろうな。


「でも、俺が実は悪者だったらどうするんです? 娘さんが危険な目に遭うかも……」


 精一杯、悪そうな顔を演じてみる。

 可愛い愛娘の事情をどこぞの馬の骨な男に教えていいものだろうか。


「くはっはっはっ! そういう輩は自分でそうは言わんだろう。それに……こう見えてオレの人を見る目は確かだ。実際話してみた印象もあるが……まあ野性の勘だな」


 笑われてしまった。

 確かに野性味満載ですもんね。分かります。

 俺自身は、自分がそこまで出来た人間とは思わんが。


「まあ、そこまで珍しい話ではない。ここメルベイルの街から東へずっと行くと、レーべ山脈があるだろう」


 俺とて、ここしばらくの間でこの辺りの地理ぐらいは把握している。

 メルベイルの街はリシェイル王国内にある商業都市であり、その東には隣国スーヴェン帝国との国境ともなるレーべ山脈がそびえたっている。

 山々の切れ目となっている標高が低い箇所に関所が設けられているらしいのだ。


「オレとリムは国境を越えてずっとずっと南下した場所にある獣人の村で暮らしていた。そこが……魔族に襲われたのだ。リムを連れて逃げるだけで精いっぱいでな」


 珍しいことじゃないって……なにそれ怖い。

 やっぱり、魔族って実際いるんだな。

 能力は優れるけど他の種族と敵対関係にある、だっけか。

 アーノルドさんだって見る限りかなり強いと思うのだが、魔族どんだけよ。


「スーヴェン帝国は亜人を迫害する風潮が強いのでな。国境を越えてリシェイル王国に流れてきたわけだ。だが……村が襲われたショックから立ち直れず、リムはまだあのように塞ぎ込んでいる」


 一つ、聞きたいことがあるのだが……また今度にしよう。

 重い話は腹にこたえる。


「そう……ですか。まあ、俺が何かしてどうこうなる話ではないと思いますが、話すぐらいなら……」

「感謝するぞ、セイジ」


 アーノルドさんはその厳めしい獣面に似合わず、破顔して頷いた。



 話が一段落した頃、ベイスさんとリムの試合もちょうど終局だった。

 しばしば見ていた限りでは善戦していたが、リムの喉元に短槍が突き付けられ、勝負は決したのだった。


「――父さん、負けちゃった……でも合格だって」

「そうか。ではオレの番だな。せいぜい娘の無念を晴らすとするか」


 アーノルドさんは俺の肩をボスンと叩き、悠々と歩いて行く。


 ……あんまり期待はしないでくださいよ?


 アーノルドさんと入れ替わりとなったため、リムは俺の隣で無言の直立状態だ。


「……」


 まあ、俺だって対人コミュニケーション能力が0ってことはない。

 自分がある病気を抱えていることは理解しているが、それは心の中だけに抑え、外部に漏れ出すことは防げている……はずだ。

 普通の人という鉄壁の擬態を見せてやるさ。


「お疲れさん。その、リム……だよな。身体一つでベイスさんと勝負するなんて凄いんだな」

「……ぇ」


 俺が話しかけてくるとは思っていなかったらしく、やや驚きの声が上がる。


「や、さっきアーノルドさんと少しね。歳も近いから良ければ話してみろって」

「そう、ですか」


 うん、若干アレだが、意思疎通は可能だ……まあ当たり前か。

 初っ端に長々と話すのもどうかと思うので、挨拶代わりに――


「やっぱり激しく動くと疲れるよな。そんな時は甘い物でも食べるのが一番」


 俺が袋から取り出したのは、紙に包まれた物体。

 そう、何を隠そう、ダリオさん作の昼飯である。

 試験が何時までかかるか不明だったため、いつも通りダリオさんに昼飯を作ってもらったのだ。(※別料金)


 今回は昨晩の献立に使用した生地が余ったとかで、特別にデザートまで付いてる。

 パイ生地の中に蜂蜜に浸した果物を詰め込んで焼き上げたフルーツパイである。

 一口大であるため、そこまでボリュームはないのだが、疲れた時には非常に有難いものだろう。


 包み紙を開き、ふんわりと甘い匂いが漂うそれを、ゆっくりとリムの前に差し出す。


「ぇ……その、いいんですか?」


 戸惑う表情を浮かべているが、視線は素直なものだ。

 耳もピンと立たせ、そろりと手を伸ばしてくる。


「遠慮せずにどうぞ。絶対美味しいから。ね?」


 リムがパイを口に運び、何度か味を噛みしめた後の表情は、さっきと比べるとちょっと面白いほど違うものだった。


「ありがとうございます」

「別に普通の口調でいいよ。そう歳も変わらんし」


「ありが……とう」

「ああ、口に合ったようで良かった。甘い物好きなんだな」


 ……ん?

 なんか、つい最近これと同じ様なことがあったような……

 いや、気のせいか。



 その後、気不味くない沈黙が訪れ、俺とリムはアーノルドさんの試合を眺めていた。


 ――一次試験通過者


 セイジ・アガツマ

 リム・ファン

 アーノルド・ファン


リアルの都合で次の更新は三日後を予定。



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