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7話【それはさておき】

 過去を振り返れば、たしかにちょっと、ほんのちょっとだけ思い当たる節もある。

 自分の欲しいものに対して、執着したこともあっただろう。

 でも、他の人よりちょっと物欲が強いだけじゃないか。


「あはは、その顔は自分が宿しているだろうモノに不満があるって感じだね~」


 面白そうにけらけらと笑うシャニアは、ひょっとしたら自分も《憤怒》とかいう大罪に適性があったことに不満を抱いたのかもしれない。


「まあ~適性があるとはいっても、わたしだって常日頃から怒ってるわけじゃないし。そんなに気にすることもないよ。たまたま妙なやつに気に入られちゃった、ぐらいに思っておいたらいいんじゃないかな?」


 転生の際に付与してもらった《盗賊の神技(ライオットグラスパー)》だが、これは隠しスキルだと言われていた。

 あんなやり方で発見したものだし、もしかすると俺に最適なスキルが自動検索されて表示されたのかもしれない。


 まあ……いいか。

 まだ人として超えてはいけないラインの手前に位置しているつもりだ。

 ちょっと人よりも欲が強いだけ。ただそれだけの話だ。

 七つの大罪という心躍る名称を冠する極大スキルを宿していたことを、今は素直に喜ぶことにしたい。


「悪いけど、まだ少し混乱してるんだ。俺が何を宿してるのか……とかって、自分でわかるものなのか?」


 いや、まあ、もうほとんどわかってるんですけどね。

 シャニアがどういった立ち位置にいるのかを知らないうちは、全部を話すのも危険だろう。


「そう? 自分の使える能力――スキルについて理解してるなら、該当するものがわかると思うけど」

「極大スキルは、宿る人によって様々な形に変化するんだろ?」


 それなら、このスキルを所持しているから、この『大罪』に該当しますと断言はできない。


「ん~、でもさ。《憤怒》なら怒ると発動するスキル、《色欲》なら他者を誘惑するスキル、《怠惰》なら誰かを堕落させるスキルとか……それっぽいのにはなるはずなんだよね」


 ……なるほど。


《強欲》なら誰かから何かを奪うスキルとかになるのだろう。けしからん。


 ……ん?

 しかし、仮に俺以外の誰かに宿った場合はどうなっていたんだ?


 『眼を合わせただけで持ち金を巻き上げることが可能な凶悪スキル』

 『触れただけで持ち物の所有権が強制的に自分のものとなる極悪スキル』


 などなど。

 おそらく、それっぽい極大スキルに変化していたことだろう。

 そこで、一つの疑問が生まれる。


「大昔に紅竜帝ブレイズから極大スキルを奪おうとしたヒューマンは、どうやって奪おうとしたんだ? なにか特別な方法とかってあるのか?」


 仮に、他者から『スキル』を奪うことができるという特性が、俺に宿ったからこそ生まれたものであるならば、極大スキルをどうやって奪おうとしたのか。

 そもそも、極大スキル同士が反発するのなら《盗賊の神技(ライオットグラスパー)》でも奪い取ることは不可能だ。


 気になります!!


「んとね、極大スキルを宿している者が死んじゃうとね、フワァ~ッと出てくるらしいのね」

「え、何が?」

「それっぽいのが」


 なにそのフワフワした感じの答え!!


「それで近くに適性のある者がいたら新しく宿る……みたいだね。だから竜を殺すことで極大スキルを奪おうとしたって記録されてたよ。もし適性者がいなければ、どこかにいっちゃうらしいけどさ」


 ふむ……どうやら俺は、適性者不在の極大スキルを引き当てて付与してもらったようだ。


「じゃあ、相手を生かしたままスキルを奪うみたいな方法はないってことか?」

「わたしが今まで訪れた遺跡には、そんな方法は記録されてなかったかな~……どうして?」

「いや、戦争が終わってから紅竜帝ブレイズが七つの大罪スキルを集めたって聞いたから、どうやったのかな……って」

「死んだときにフワ~ッて出てくるのを、さっき言った封印の宝玉にシュッと回収だね!」

「あ、うん、まあそうなんだろうけど、相手が拒んだ場合とかってさ」


 死んだら出てくる。

 うむ、実にわかりやすい。

 でも、誰だって死にたくないよね。


 そこで途端に沈黙するシャニア。


「……幸いなことに竜の寿命は長いからね~。宿している人が危険人物じゃなく、話し合いで納得してもらえれば、死ぬ直前あたりに回収に訪れるとかいう例もあったらしいよ」

「え、危険人物だったら……?」

「そりゃ、まあ……その場で回収?」


 少女は可愛らしくはにかんで見せた。

 おや? 穏やかじゃないですね。


「仕方ないと思うよ~。相手のスキルを奪うなんて便利なものがあればいいけど、記録に残ってる極大スキルにもそんなのはなかったもん。あ~、でも極大スキル同士だと反発するから結局意味ないか」


 ……よし。わりと貴重な情報を得たぞ。

 少なくとも、当時の《強欲》を冠する極大スキルは、他者から『スキル』を奪うという能力ではなかったようだ。


 あまり突っ込んだ質問ばかりしていると、俺が持っているスキルの内容が知られてしまうため、話題を次に進めたいと思う。


「そういえば、シャニアはどうやって俺が極大スキルを宿しているってわかったんだ? ここに連れて来たのも、さっき怒らせたのも、そうだと確信してたからなんだろう?」


 でなければ、俺は今頃周りの床と同じようにペシャンコ肉ミンチに変化していた。

 まあ……それは言い過ぎだとしても、骨の二、三本は軽く折れていただろう。

 はにかんで見せたところで、許されるものではない。


「むぅ~~、さっきからそっちの質問ばっかりだね。わたしの質問には全然答えてくんないくせにさ~。隠し事する男の人って嫌いだな~」


 いや、まあ、俺がどの『大罪』に該当しているかぐらいは言ってもいい気はするが、口に出すと完全に認めてしまったことによるダメージを受けそうなのだ。


「待ってくれ。今日ここに突然連れて来られたんだから、わかんないことだらけなのも仕方ないだろ。しかも半ば無理やり、心にも思ってないことを言わされてシャニアを怒らせちゃうしさ……」

「だよね!! わたしそんなに小さくないよね!?」


 食い気味に話しかけてくるシャニア。

 あ、やっぱり気にされてたんですね。

 大丈夫です、はい。そういう需要もあると思うんで。


「……こほん。極大スキルを宿す者は、他にも何かしらの恩恵が与えられてる場合が多いんだよ」


 少しばかり機嫌を良くしたシャニアは、先程の俺の質問に答えてくれた。

 何かしらの恩恵、か。

 俺の場合、たぶん《盗賊の眼(ライオットアイズ)》がそれに該当するのだろう。


 相手の顔を見るだけでステータスを読み取ることが可能で、簡単なアイテムの識別もしてくれるという便利な特殊能力である。


「わたしの『それ』が、君には通じなかったからね」


 ……なるほどな。

 俺が盗賊の眼でシャニアのステータスを見ようとしたのと同じように、彼女もどこかのタイミングで俺に何かを試したのだろう。


 そして――――失敗した。


 盗賊の眼は顔を見るだけで発動させられる代物だ。相手だって発動条件はそう難しいものではないだろう。


「へぇ、ちなみにそれってどんなものなんだ?」

「ふっふぅ~~、さすがにわたしだって何でも答えてはあげないよ~だ。君が色々と話してくれるんなら考えてもいいけどさ」


 そりゃね、そうだろうね。

 自分の能力についてなんて、誰にでも話していい内容じゃないものね。


「でもさ、結局はシャニアだって肝心な部分を話してくれてないだろ」

「んん? 色々と教えたじゃん」


 たしかに、真実の歴史とか、極大スキルについては色々と教えてはもらった。

 でも、一番知りたいのはそこじゃない。


「……もう一度言うけど、シャニアは何で俺をここに連れてきたんだ?」


 一瞬の静寂。

 磨き込まれた石版に文字の羅列が映り、それらが時折パパッと切り替わるのが視界に入る。


 ――実際のところ、シャニアは俺をどうしたいのか。

 何か目的があって一緒に連れてきたはずなのだ。


 もし先祖である紅竜帝ブレイズがしたように、ふたたび七つの大罪スキルを全て封印するために世界を旅しているのなら、目の前に目的の人物がいるわけだ。

 彼女から見て、俺が極大スキルを宿しておくのに不適切だと判断されれば、先程の話にあったように穏やかじゃない方法で再封印しようという流れになりかねない。


「あれ? なんだか警戒してる感じ?」

「その場で回収とか言われたら、困るからな」


 とは言っても、シャニアがこちらを害する可能性は低いだろう。こうして俺に色々と説明してくれたのだ。

 殺して極大スキルを封印するつもりなら、他にやりようがいくらでもあっただだろう。


 シャニアがこちらとの距離を縮め、手を伸ばせば届く位置で微笑む。


「自分に宿っている力が一体何なのか、知りたいと思うのが普通じゃない? わたしもそれで遺跡に残ってる記録に興味を持ったわけだし」


 だから俺にも教えてくれたと? いや、たしかに皆がいる場所でこんな話をされても困るけども。

 各地にある遺跡を回ろうとするシャニアの護衛として、またお目付け役も兼ねてベルガが一緒に里から出てきたってところか。


「でも、里から外に出たら驚きだったよ~。珍しいものが山ほどあるし、美味しいものも食べきれないぐらいたくさんあるからね!」


 それでお目付け役であるベルガから離れて別行動に走ったわけだ。

 あの人……やっぱり結構な苦労人だなぁ……大事にしていたお守りも誰かさんに半ば無理やり没収されちゃったし。


「……七つの大罪スキルを、再封印しようとかは思わないのか?」

「ん~……まあ、わたしはそこまで使命感に突き動かされるタイプでもないし。適性がある人に宿ったんだから自由に使えばいいと思うよ。さすがに君が世界征服する! とか言い出して極大スキルを悪用しまくるなら考えるかもだけど」


 ……お、おう。

 オラ、世界征服なんて考えたこともないぞ。


「これでさっきの答えになった? 君ってそんなに悪人に見えないし、教えてあげといたほうがいいかなって思ったんだ~。遺跡を見せたほうが信憑性もあるし」


 古代竜言語とやらは、さっぱり読めませんでしたけどね。


「正直、俺も最初に会ったのがシャニアで良かったと思う」


 いきなり極大スキルを所持している者が敵として現れたら、混乱していたことだろう。

 そうして話を終えたシャニアは、操作盤上で指を動かし、遺跡の機能を停止させようとした。


「――ところでこの遺跡ってすごいよな。長年放置されていたはずなのに内部は綺麗なままで、機構もちゃんと生きてるし」

「そだね。居住区とか、少し手を加えればまだ人が住めるんじゃないかな~」


 さっき小部屋がたくさんあった場所が、おそらく居住区だろう。


「ん~と、あ、まだ結界魔道具も作動するみたいだね」


 なん……だと?


「あの、すみませんが、勉強不足で至らぬ私に教えていただけないでしょうか?」

「いきなり口調変わったけど!? なんだか怖いよ!? え~と、結界魔道具は魔物なんかを退ける効果を持ってる魔道具だね。仕組みは全然わかんないけど、大型のマナ結晶体さえあれば作動するはずだよ。この遺跡周囲を丸ごと覆うぐらいの結界をはれるみたい」


 はい、きました。

 失われし遺産(ロストテクノロジー)です。

 危険な魔物が多いこんな場所だと、非常にありがたい魔道具だ。


 ここなら、例の鉱山までの距離もそう遠くない。


「……シャニア様、一つお願いがございます」

「普通の喋り方でいいってば。なんだか気持ち悪いよ~?」


 いかんいかん。あまりにテンションが上がったせいで変な感じになっていた。


「それじゃあ、率直にお願いするけどさ」

「ふんふん」


「この遺跡――――俺にくれないか?」


「え?」

「くれないか?」

「何で二回言ったの!? え~と、言ってる意味はわかるんだけどさ……そもそもこの遺跡はわたしの物ってわけでもないし」

「今は使ってないとはいっても、昔はドラゴニュートの人たちが住んでたんだろ? さすがに勝手に利用させてもらうのは悪いと思うし、誰かに断りを入れておくべきかなって」


 シャニアが紅竜帝ブレイズの直系の子孫であるというのなら、実はかなり身分が高い人なのではないかと推測される。

 もし誰かに『勝手に使ってんじゃねーよ』的なことを言われたら嫌だし、シャニアから形だけでも許可をもらったほうがいいと思ったのだ。


「そういうことか~、うーん、もう誰も住んでないわけだから問題はないと思うけど」


 俺は心の中でガッツポーズをきめる。


「ありがとう、シャニア」

「なんか変だけど、どういたしまして。ん? でも、君はこの遺跡の機構とか動かせないんじゃないの? 竜言語読めないんでしょ? それだと結界とかはれないよ~」

「ありがとう、シャニア」

「あ……これ、わたしがやる感じだね。なんだか君に宿ってる大罪がどれかわかってきた気がするね」

「文字とか操作の仕方は、可能な限り早く自分で覚えるから!」


 頭を下げるこちらを無視することのできなかったシャニアは、しばらく思案してから頷いてくれた。


「う~ん。リムへの恩返しが終わったらまた旅に出るつもりだけど……それまでなら」



◇◇◇◆◆◆◇◇◇



 ――その後、俺は遺跡内部の様子を見てから外に出た。


 いくつか小部屋の中も覗いてみたが、頑張って掃除して、必要な物を運び込めば住めそうな感じだったのでありがたい。


 いくらドラゴニュートが希少種とはいえ、大昔はそれなりの人数が暮らしていたのだろう。

 かなり大きめの調理場なんかを発見したときは、ここで生活していた人たちの歴史を感じた気がして胸が熱くなった。

 太古の食材なんかが残されていないか漁ってみたものの、おそらく全て処分してからここを放棄したのだろう。何も発見できなかった。


『なんだか妙にテンションが高いね。帰りに背中の上で暴れないでよ』


 などとこちらに語りかけてくるのは、お留守番をしていたルークである。


「あははは。今なら鉱山からアモルファスに続く道にある全ての木々を、根こそぎ切り飛ばせそうな気がする」


 そうすれば、鉱山までのルート確保完了である。


『なにそれ怖い』


 クォォッと困ったように鳴くルークは、俺の服の裾を口にくわえて引っ張った。

 一緒に遺跡に入ったシャニアはどうしたんだ? と言っているようだ。


「ん? ああ、俺が遺跡の中を探検したいって言ったから、途中から別行動にしたんだよ」


 どうやら俺のほうが先に出てきたらしい。



「――やっほ~。お待たせ」


 間もなく顔を見せた彼女は、片手を上げて軽めな挨拶をくれた。


「おつかれ、シャニアはどうしてたんだ?」

「ん~、わたし? 他に何か有益な情報が記録されてないか調べてたんだ。結局は何も見つからなかったけどさ」

「そっか。もしここで新たな発見があったら伝えるようにするよ」


 ともあれ、俺にとっては色々と新たな収穫があったわけだ。



 ……さてさて、しばらく忙しくなりそうだ。

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