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13話【雷獣の咆哮】

「ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」


 雷獣ヌエは、当然ながら俺の言葉に怯むことなく鳴き声を上げた。

 鼓膜を揺さぶる甲高い音は猛々しい獣の咆哮とは違い、どこか不気味で……嫌な感じがする。硝子を引っ掻いたような音は、耳障りであるとしかいえない。


「今度はボクが先にいかせてもらおうか…………な」


 盗賊の親玉については俺に譲ってくれたセシルさんだが、どうやらヌエを目の前にして血がたぎっているようだ。

 敵は二匹。

 一匹は夜鳴きの梟の皆に任せるとして、もう一匹をセシルさんと協力して倒すとしよ――


「って、ちょっ、危な!」


 ガギンッ! と鈍い金属音を響かせ、真横から振るわれた槍の一撃を受け止めた。


「セシル、さん!?」


 突如として攻撃ターゲットを俺へと変更した彼女に、いったい何事かと問いかける。身体能力が強化されているとはいっても、獅子の半獣人であるセシルさんの攻撃を不意打ちで喰らえば、胴体が綺麗に真っ二つになるだろう。洒落にならない。


「いきなりどうしたんですか!?」


 見れば、普段は力強い意志を宿したセシルさんの瞳が虚ろなものとなっていた。

 だが、こちらの呼びかけに対して少しずつ瞳に色が戻ってくる。


「……え、あ。セー君? これって……どういう状況?」

「こっちが聞きたいですよ! まずは槍をどけてもらえると嬉しいんですが……」


 セシルさんはいつか俺と再戦したいと口にしていたが、まさかこんな時にこんな場所で戦おうとするほど戦闘好きなわけでは……ないと思いたい。


「気をつけろ! こいつらの鳴き声には幻惑作用があるらしい。気をしっかり持っておかないと同士討ちになるぞ!」


 団長が叫んで知らせてくれた内容で納得がいった。ヌエと距離が近かった俺とセシルさんはまともに鳴き声を聞いてしまったのだ。


 幻惑作用がある音波攻撃というのは、なかなかに厄介である。

 俺が平気なのは状態異常耐性スキルのおかげだろうか。もし幻惑が精神攻撃であるならば、精神異常耐性のスキルが必要となってくるので油断はできない。


「ボクにセー君を攻撃させるなんて……やってくれるね!」


 怒りの感情を膨らませたセシルさんが、全力でヌエめがけて駆けていく。


「ヒィーーーーーーーーーーーーーーーーーーン」


 またもや甲高い鳴き声が森に響き渡った。やはり単純に突っ込むのは危険――――


「ッッッッ――ウオオオオオオオオオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 大気を震わすほどの大音量の咆哮に、思わず肌が粟立った。

 

 ……お、おう。

▼ヌエは雄たけびを上げた。

▼だが、セシルの咆哮によって掻き消された。


 俺の目の前で起こった出来事をまとめると、こんな感じである。

 ワイルドだぜぇ。

 ……っていうか、こんなのアリかよ。力技にも程があるじゃないか。俺がか弱い女性だったら惚れてしまうぐらいに男前だ。


「まずは……一撃!!」


 セシルさんの槍がヌエの身体へとヒットし、巨体が空中へと舞い上がった。


 カッコつけた台詞を口にしたわりには棒立ち状態の俺の横を、今度はミラと呼ばれていた副団長が疾走していく。どうやら団長に言われていたように、倒れているレイとレンを回収しに行ったようだ。


 ミラさんが二人の傍へと駆け寄ると、獲物が餌にかかったとばかりに、もう一匹のヌエが襲いかかっていくではないか。

 だが、見事な体捌きでヌエの攻撃を回避した彼女は、掌底で相手の顎を突き上げて体勢を崩し、続けて回し蹴りを放って怯ませた隙に、負傷した二人を担いで一気に後退したのだった。

 体術、か。

 やはり身体能力に優れた獣人には、身体を武器とする戦闘スタイルが似合っているのかもしれない。リムもあんな感じで、自分よりも大きな魔物に対峙していたっけなぁ。


 ……などと思い出に浸っている場合ではなく、現実に目を向けようか、俺。

 あっちの一匹は団長達に任せておくとして、遅ればせながら俺はセシルさんが相手にしているヌエを退治すべく駆けだした。


 さすがにティアモが厄介な魔物と言っていただけのことはあり、セシルさんの一撃を喰らっても分厚い外皮がわずかに切り裂かれただけに留まっている。

 空中で一回転したヌエは器用に枝へと飛び移り、こちらに向けて人間を丸呑みできそうなほどの大きな顎をクパァッと開いた。

 ジ、ジジジ、ヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ――と青白い光の帯が空気を震わせるような音とともに発生し、だんだんと大きくなっていく。


 そうか……そうだよな。当然かもしれない。

 上方から俺達を狙い撃とうとしている魔物は――『雷獣』ヌエというぐらいなのだから。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

特殊:帯電体質

スキル

・爪術Lv3(5/150)

・チャージLv2(43/50)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 盗賊の眼で確認できた特殊とスキルは以上である。

 どうやら幻惑効果のある雄たけびは個体能力で、雷撃を放つのも魔法スキルを利用しているわけではないようだ。身体の内部に電気を蓄えているのだろう。


《チャージ》――溜め時間に応じて攻撃威力を増大させる。上昇限界や威力はLvに依存する。


 ……これは初めて見るが、かなり有用なスキルだ。

 溜め時間を必要とするのはリスクを伴うが、威力を底上げできるのならば素晴らしい。


「させる……かっ!」


 まさに雷撃をチャージしているであろう魔物へと、セシルさんが全力で槍を投擲した。


「ヒィ、ヒィーーーヒ」


 ヌエは素早く枝から飛び退いて槍を躱し、嗤いながら上空より帯状の雷撃を放つ。青白い鞭のような束がいくつも地面を這い回り、そのうちの何本かがセシルさんの身体を蹂躙した。


「く……あ」


 雷撃に身体を焼かれ、膝をついたセシルさんはわずかに硬直状態となる。レイの衣服にところどころ焦げた跡があったのは、この攻撃を喰らったからか。動きを止めた獲物の首を刈りとるべく、上空から落下してくるヌエの四肢の先には、鋭い爪が見受けられた。


「こんな……もの!」


 雷撃による硬直を強引に振り払ったセシルさんは、すぐさま投擲した槍を引き戻して迎撃体勢を整える。


「ヒィ? ヒヒ……」


 ヌエは面白くなさそうな声を上げ、枝を掴んで空中で軌道を変えたかと思うと大きく跳躍した。

 まったく、ちょこまかとよく動き回る魔物だな……って、おいおい、そっちは……


「ひあぁ……助けてくれぇ!」

「嫌だぁぁぁ! 死にたくねえ!」

「う、うおぁ! こっちに来るんじゃねぇ! やめろ! 俺様なんか食っても美味くねえぞ」


 なんと、縄で縛って捕らえておいた盗賊達のところまで一気にジャンプしやがった。

 始末できそうな人間から先に……とは、なんとも小賢しい。


「ヒ、ヒィーーーーーーーヒヒ」


 嗤いながら振り下ろされた爪は、筋肉の塊であるドルフォイの身体でも楽に切り裂くだろう。

 まったく……世話の焼ける話だ。

 先程まで剣を交えていた相手だというのに、無抵抗の者が無残に殺されるというのは面白くない。


 気がつけば、俺は駆けていた。

 可能な限り速く、両脚を交互に動かして地面を蹴り飛ばす。踏みしめる地面から返ってくる反動は力強く、まるで身体の重さなど感じないかのようだ。瞬間的な速度はルークの全力疾走にも負けていないかもしれない。


「お、お前……なんで」


 俺の背中へと疑問の声を掛けたドルフォイが、どんな顔をしてるかなんてわからない。

 視界に収まっているのは、獲物を仕留めようと振るった一撃を見事に防がれ、顔を歪めている雷獣の猿面だけだ。


「理由なんてないですよ。強いて言うなら、あなたが自分の武器に名前を付けていた……それだけです」

「いったい、どういう……?」

「ルーク! こいつらも運んでいってくれ」


 ドルフォイとの会話は強制的に終了させ、怪我をした兵士を安全な場所へ運ぶ作業をお願いしていたルークを呼び戻す。縄で縛ったのは俺達だが、身動きのできない者が近くにいれば集中できない。


「クォォ!」

『了解』と応えた騎獣の返事を聞き、俺は手に持っている双剣へと力を込めた。


「おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 オーガをも凌駕する体格を有している雷獣ヌエを、力任せに弾き飛ばす。

 小柄な人間のどこにこんな力が、と警戒した相手はまたもや距離を空け、雷撃を放つべく大きく口を開けて牙を覗かせた。


「セイジさん、援護します!」


 戦いに加勢してくれたのは、小さいながらも元魔法を扱うことのできる少女――ティアモだ。

 強敵である魔物を前にして、何もせず見ていることができないのは、いかにも彼女らしい。

 魔物を焼き尽くそうと燃え盛る火炎球を繰り出すと同時に、森の木々が被害を受けないように優しく水魔法で包み込むという高等技術は、素直にすごいと思える。


「ヒィーーーーーーーーーーーン」


 だが、ヌエは器用にティアモの魔法を回避しながら溜めこんだ雷を一気に放出した。

 無軌道な青白い閃光がいくつも走り、まるで何十匹もの蛇が襲いかかるように少女へと群がる。


「そんなの防いで……ぇ、嘘……きゃあぁぁぁっ!」


 魔法で防御しようと試みたティアモだったが、どうやら極限まで高めた集中力が限界を迎え始めたようだ。盗賊団を相手にしてから連戦というのは、負担が大きすぎたのだろう。思ったように発動しなかった魔法は、雷撃を防ぐ盾とはなり得なかった。




 ――雷撃。

 属性魔法の種類は、火・水・風・土・闇・光の六種類であり、雷という属性は存在しない。

 かつて、俺が必殺剣の訓練に明け暮れていた頃、元魔法の属性を駆使してなんとか雷という現象を具現化させようと試みたことがある。


 あの時は雷が発生する原理がよくわからずに中途半端で終わってしまったが、基本となる全属性を扱えるのならば、工夫を重ねることで雷を発生させるのも不可能ではないはずなのだ。

 そう……たとえば、他の誰かが放った雷撃を自分の身体で受け、雷とはどういったものかを焼け焦げるほどに脳に浸透させてやれば、あるいは雷という現象を正確にイメージして再現できるようになるかもしれない。


 とかなんとか、格好つけてみたけど……


 痛い、痛い痛い痛い痛い。

 身体中にある痛覚を伝える神経線維が強引に刺激され、筋肉が痙攣するかのように意思とは無関係に暴れまわる。雷撃にさらされた皮膚はわずかだが焦げ跡を残し、熱いという感覚が遅れてやってきた。




「セイジさん!?」


 普段は冷静な口調を崩さないティアモだが、さすがに戸惑いの色を隠せないでいる。


 ――結果的に、俺がティアモをかばってヌエの雷撃をまともに喰らう形となったのだ。咄嗟に双剣を盾代わりにしたものの、すべての雷撃を防げたわけじゃない。


「……痛っつつつ。だ、大丈夫ですよ。一回ぐらいは雷に打たれてみたいと思ってましたから」

「え……?」

「いや、こっちの話です」


 不思議そうな顔をするティアモはひとまずおいておき、まずは身体の具合を確認してみる。

 うん……ちょっと痺れる感じはするけど、動くのに支障はなさそうである。

 痛いのは初めの一瞬だけってことだな。いや……今もわりと痛いけど。


「でも、おかげさまで良いイメージが焼き付けられたよ」


 掌の上で、紫電の帯がパチパチと音を立てて弾けた。小さく産声を上げた雷蛇は、空気に溶けるようにして消えていく。

 ……あとは訓練次第、ってところか。


 地面に突き刺していた双剣を抜き取り、勝ち誇ったように嗤うヌエに突き付けた。


「いいモンを見せてくれたお礼に、今度は俺の剣技を見せて――やる!」


 一足飛びに相手との距離を詰め、剣を振りかぶる。


「ヒィーーー、ヒ!?」


 鎌のごとく鋭い爪で応戦しようとするヌエだったが、Lv4に達した剣技の前では児戯にも等しい。振るわれた爪をすべて根元から斬り飛ばし、無力化してやった。

 それでも諦めず、器用に枝を掴んでいたように俺の身体を鷲掴みにすべく襲ってくる。


 だが、無い腕ではそんな行為も不可能だろう。


 ボトト、ボトトト……と輪切りになった腕が肉塊となって地面に転がっていく。

 滑らかな傷口からは血が一滴も流れておらず、ヌエはなぜ腕を振るっているのに俺を掴むことができないのかと、しばらく不思議がっていたほどだ。

 ようやく腕が存在しないことに気づいたヌエは、さすがに恐怖に身を震わせたのか、声も上げずにジリジリと後退って逃げの一手を選択したのだった。


 しかし――


「逃がすわけ、ないでしょうがーーーーーーーー!!」


 森の中に逃げ込もうとしたヌエを跳躍して叩き落としたのは、さっき痛い思いをさせられてお怒りモードのセシルさんである。

 たしかに……あの雷撃はかなり痛かったもんな。

 俺は双剣を両刃剣に変形させ、こちらに飛来してくる魔物の姿をしっかりと捉えた。


「ナイスパス、セシルさん」


 ――――一刀両断。


「ヒ、ヒィ……ン」


 地面へと着地した巨体はしばらく身動き一つせず、数瞬後にズルリ、と歪んで崩れ落ちていく。

 正中線に沿って綺麗に二等分された身体は、地面へと倒れ込む前にゴォォッと勢いよく炎に包まれた。

 白銀剣ブランシュの特殊能力――《炎熱の抱擁(ブレイズフィナーレ)》は、斬った対象の身体を業火によって燃やし尽くす追加効果だ。


 さっきまでヌエと呼ばれていた魔物は、黒く炭化した物体となって転がり、砕け、割れる。

 呆気ないとさえ思える幕切れに、だが俺は満足していた。

 剣術で相手を圧倒できた優越感もさることながら、スキルで身体が満たされていく高揚感は極上の料理を頬ばった際にも得られないものだ。

 両断する瞬間に、スキルはちゃんと奪い取らせていただいた。


 ――《チャージ》か。

 きっと強敵との戦闘で重宝することだろう。

 今日は本当に収穫が多い日だ。

 しかし、これでスキル枠が十個埋まってしまったため、もし新たなスキルを入手しようとするならばどれかを譲渡するなり破棄するなりしなければならない。

 さしあたり、斧術なんかが候補に挙がるだろうか。


 ……いけない。

 一匹は退治したが、雷獣はもう一匹残っているのだ。

 夜鳴きの梟の人達が相手をしているはずだが、もし苦戦しているようなら加勢しなければ。

 俺は剣に付着したわずかな血液を払い落とし、意識を切り替えた。


◆◆◆


 ――どうやら向こうは数の利を生かして戦っているらしく、四、五人でヌエを取り囲むようにしていた。


「ヒィーーーーーーーーーーーン」


 すでに身体の数箇所から血を流しているヌエは、苦しみを混ぜたかのような声で高く鳴いた。

 すると何人かの身体がびくりと反応して、一瞬動きを止める。


「しつこい野郎だ。全員離れろ! トドメは俺がやる」


 幻惑効果を一蹴した団長が叫び、他の団員達は魔物との間に距離を取った。

 さすがに団をまとめているだけある。

 団長は所持している曲剣をだらりと構え、隙だらけの状態でヌエに近づいていく。


 きっと……あれは相手の攻撃を誘っているのだろう。剣術を達人の域まで極めた自分だからこそわかる。

 無我の境地から繰り出される反撃は、先に攻撃した相手の速度を上回り――


 ズパァァァァァン!!


 ――と団長の身体が真っ二つに裂かれてしまった。


 いや……え?


 嘘ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!

 じゃあ、なんでカッコつけてたんだよぉぉぉぉぉぉ?!

 俺もなんだかわかった気分になって解説しちゃったじゃないかぁ!!


 と叫びたくなる衝動を抑え、二つに分かれた団長を凝視していると、宙に舞った身体が幻のように掻き消えてしまった。


「……残念でした」


 悪戯を成功させた子供のような笑みを含んだ声を発したのは、腕を振り下ろして隙だらけとなったヌエの喉元へと剣を突き刺した、団長である。


「ヒ、ギ」

「縄張り荒らして、すまなかったな」


 そのままグルリと剣を回転させると、ヌエの首は綺麗に分断されて草むらに転がり落ちたのだった。



「――よぉっ! そっちはもう倒したのか? やるねえ」


 戦闘を終わらせ、こちらへと声を掛けてきた団長に俺はゆっくりと首肯する。

 さっきのは……何かのスキルなのだろうか。


「ティアモ嬢ちゃんはずいぶんとお疲れのご様子だが……さて、どうする? さっきの話の続きでもするか?」


 俺の傍には、オーバーワークのために疲労が隠せない少女が立っている。


「そう……ですね」


 それでもティアモは、視線を逸らすことなく団長を見返した。

 厳格な態度を崩すまいと頑張る姿は応援したくもあるが、俺が第三者的な意見を口にさせてもらえるのなら『こいつらそんなに悪い奴らじゃないんじゃね?』という感じである。

 『盗む』という行為は褒められたものではないかもしれないが、結果的にはティアモを駄目兄貴から助けたわけだし。

 いや、けっして誰かをかばってこんな発言をしているわけではなく。


「わたしの部隊は盗賊団との戦いで疲弊しています。それに、捕らえた者達もアモルファスまで連れていかなければなりません」

「そりゃあ大変なことで」


 少女の言動に、団長はおどけるように両手を上げた。


「――ですから、今は他の事に人員を割く余裕がありません」


 くるりと団長に背を向けたティアモは、疲労した身体でふらふらと歩いていく。


「あ……一つだけ、言っておかなければいけませんね」


 思い出したかのように、少女は振り返って言葉を紡いだ。


「なんだよ、やっぱり気でも変わったのか?」

「助けていただいて、ありがとうございました」


 貴族の令嬢らしく年齢にそぐわない気品のあるお辞儀とともに述べられた言葉は、領主としての立場を取り去った、彼女の素直な気持ちだったのだろう。


「……これはこれは、どういたしまして」


 ――対する夜鳴きの梟の団長は、これまた盗賊団のボスとは思えないほどに見事な振る舞いでお辞儀を返したのだった。

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