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7話【獣人の親子】

一週間でだいぶんと強くなりました。

主人公は無事に昇格試験に合格できるのでしょうか。

 ――イモムシに初めてエサを与えてから一週間が経過している。


 五月二週の土の日。曇り。


 馴染みとなっている満腹オヤジ亭の205号室で、六時の鐘音に鼓膜を揺らされてベッドから転がるように這い出た。


「さて――今日は試験日か」


 試験前の体調確認も込めて、この一週間で鍛えた(盗んだ)成果を見やる。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクE+)

特殊:識者の心得

スキル

盗賊の神技(ライオットグラスパー)Lv2(5/50)

・身体能力強化Lv3(5/150)

・剣術Lv2(25/50)

・状態異常耐性Lv2(1/50)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 我ながら、頑張ったと思う。

 四日前にライオ……盗賊の神技がLv2に上がってからは効率が少し良くなった。

 基本成功率が20%に上がったからだ。


 ただし、使用限度回数は予想の斜め上……いや別に斜め上じゃない。

 言ってみたかっただけだ。


 予想と逆だった。

 つまりは、減ったのだ。


 確認のために戦闘していた俺の驚き様は、目の前にいたスモゴブが「どしたん?」と問いかけてくるほどのものだった。(※スモゴブは話せません。イメージです)



 思わず宿屋に引き篭もり、ダリオさんの料理に癒されて過ごすのんびりライフを一日味わったほどだ。


 使用回数は盗賊の神技の《スキルLv数に依存》するとあったので、増えると思うじゃないですか。


 やだ、もう~。

 スキルLv数に依存して『減少』してるじゃないの。

 あは。


 ……笑いごとではなぁいっ!


 今の合計成功率は28%である。(対スモゴブで)

 一日引き篭もった際に今後の予想を概算してみたのだが……


 Lv1の場合――(0.17×10=1.70)回

 Lv2の場合――(0.28×8=2.24)回

 Lv3の場合――(0.39×6=2.34)回

 Lv4の場合――(0.50×4=2.00)回

 Lv5の場合――(0.61×2=1.22)回


 二回ずつ使用回数が減っていくかは分からないが、計算上では一日にスキルを強奪できる成功回数はそれほど変わらない。運が悪いと一回も成功しないことはあるだろうが、何十回何百回と繰り返せば大体これに近づくだろう。


 Lv5が最も少ないが、Lv5になった時点で特典でもあるのかと密かに期待している。切実に。


 さて、強奪できる成功回数が変わらないのなら、Lv上がっても意味なくね? と思った。

 ――そんな時期が俺にもありました。


 大きく異なるのは、強奪できる《成功回数》ではなく、強奪できる《成功確率》だ。


 一回で強奪できる成功確率は、間違いなく上昇する。

 しかも他スキルのLvを底上げすることで更に合計成功確率は増していくだろう。


 つまり――雑魚ばっか相手にしてんじゃねーよ、ということになる。


 一度失敗すれば二度と同じ相手の狙ったスキルを盗れないという条件があるため、成功確率が低い内は無数に存在する相手に数撃ちゃ当たる方針の方が良い。


 だが成功確率が高くなった場合は、少数の強敵が持つスキルを強奪する方が格段に効率が良いだろう。

 それに、世界で一人しか存在しない者が持っているレアスキルを強奪失敗すれば、目も当てられない。


 ある意味、当たり前の話だ。


 ただ使用回数が減少する事態を受けて、このことをより顕著に認識させられた。


 成功確率が高くなった貴重なライオッ…………トグラスパーの一撃を、スモゴブに使用するより、ドラゴンロードウォリアー《剣術Lv3(100/150)》に放った方が良いに決まっている。


 ちなみにドラゴンロードウォリアーについては例えばの話。この世界にそんな生物が存在するかは知らない。


 なんで竜にこだわるのかは……

 言わせんな、恥ずかしい。


 しかしまあ、これは完全にバトルジャンキーの思考だ。

 強さだけを求めた先に幸せはない……とかよく聞く話である。


 俺は、この世界で究極にして至高、なおかつ不変の最強生命体になりたいだけなんだ。

 ……冗談だけど。


 ただ、俺の身分を証明してくれるのは冒険者ギルドであるため、この世界で生きていくためにランクは上げてみたいと思っている。

 それが必然的に強くなることに繋がるのだが。




「――しかしまあ、使用回数うんぬんを抜きにしても狂った成長率だよな」


 ジグさんとかを見るとよく分かるが、あれだけの年齢のドワーフが鍛冶一筋でやっとLv4であるのに、剣術だけにしても一週間でLv2中盤まで上げるとか。

 こんなこと告白したらファックされ兼ねない。


 アッーーーーーーーーー。



 ちなみにLvが上がるとスキル効果は飛躍的に向上する。

 熟練度ポイントが上昇することでも効果は薄っすら感じるのだが、剣術LVが1から2に上がった際に強くそれを実感した。



 そう、変わるのだ。

 

 これは、言いたかっただけというわけではない。

 初めて剣術スキルを習得した時にも似た感覚。


 本来であれば地道に鍛え上げて研鑽を積み、自らの身体で体現可能な動きを追求することで得られる洗練された剣技。

 そういったものが身体へと浸透する奇妙な高揚感。


 ――地面を踏みしめる脚から腰へ、下半身の捻りを加えた力を正中線に沿って無駄なく伝達させ、肩へ――そして最後には腕へと集約させる。

 おそらくある程度の身体能力を有していなければ、十分に発揮できないだろう。


 Lvアップ時には少々戸惑ったが、身体能力強化のおかげか今の自分には可能な動作のために問題はなかった。このスキルが武芸と相性が良いというのも頷ける。


 果たして、剣術がLv5になった時はオーバースペックになるのだろうか? それで剣が使えなくなるなんてことはないだろうが、過ぎた技術は扱いづらいだろう。

 並行して身体能力強化も上げるべきかもしれない。


 素の肉体だって少し引き締まった感はあるのだが、いかんせん他のムキムキ冒険者と比べると……ペラいかもしれない。

 しゅん。


 もし同Lvでほぼ熟練度も変わらない相手と戦う場合はどうなるんだろう? やはり身体能力やその人自身の咄嗟の判断力で勝負が決するのかな?

 そうなると……俺は少し不利かもしれない。



 ちなみにシエーナさんに聞いたところ、冒険者の間ではLvアップの現象を『壁を越える』と表現しているらしい。

 普通はLvが認識できないので、そうなるのだろう。

 壁を越えた者と、そうでない者の戦闘力の差はなかなかに覆しづらいものだとか。




 ――さて、思い耽るのはこれぐらいにしておこう。


 ランクE+になってから、昨日で次のランクアップに必要な回数だけ依頼を達成した。

 昇格試験を纏めて行えるよう、受験する冒険者達は日取りを調整されていたらしく、俺はそこに捻じ込んでもらったわけだ。


 それが今日である。


「やっとD-に昇格かぁ」


 他人からすれば、こいつ試験前から何言ってんだと思われるかもしれないが……今ならバルやザックにだって引けを取らないと思うからだ。

 体格差はあるが、身体能力強化でギリギリいけると予想している。

 ……あいつらはあれで確かCとかBだったはずだ。


 さらに言えば、この一週間でお金をかなり稼げたので、約束通りジグさんの店に訪れて装備だって新調している。

 武器のバゼラードは昨日に研ぎ直してもらった。


《ソフトレザーアーマー》――皮をなめして鍛えた革鎧。材質により防御力が大きく異なる。※ギーグヴォルグの皮


 なんでこれを買ったのかは恥ずかしくて言えない。

 濁音最高。


 なんか狼の皮らしい。


 ジグさんの店では最低ランクの鎧だが、それでも金貨一枚――10000ダラもした。

 さすがに一般人が着るような服でずっといるわけにもいかないもんな。

 達人級の鍛冶の腕をしかと拝見……って、あれ? 革をなめすのって鍛冶関係なくね?


 気にしない。気にしない。



「さて……そろそろ行くか」


 用意を整えて食堂に下りると、変わらず良い匂いが立ち込めていた。

 もう病みつきになっているダリオさんの飯を平らげてギルドへ。


 残念なことに、まだダリオさんの料理Lvは4に上がっていない。

 熟練度は(145/150)のままだ。

 本来ならこうも過酷なものなのか……

 何か良い手はないものか。



「――おはようございます」

「あ、セイジさんおはようございます」


 変わらず輝かしい笑顔のシエーナさんである。


 最近はスモゴブ相手にスキルを鍛えていたので、俺は完全にスモゴブハンターとして認識されている。


 寝ても覚めてもスモゴブっ!

 朝もスモゴブっ!

 昼もスモゴブっ!

 夜もスモゴブっ!


 スモゴブっ! スモゴブっ! スモゴブっ! だ。


 一体どれだけの耳をシエーナさんに捧げただろうか。

 嫌われても不思議ではない。


 彼女はビジネスライクな性格なので平気そうではあるが。



 ちなみに、イモムシは状態異常耐性がLv2になった時点で一旦保留。これについては効果を実感する機会はまだない。

 毒薬や麻痺薬でも飲めば実感できるかもしれないが、わざわざ好んでそんなもん飲みたくないからである。


《状態異常耐性》――あらゆる状態異常に対する耐性を上昇させる。


 とりあえずLv2ならそこそこ状態異常には陥らないと安心している。もしLv5になったら状態異常無効になるのかな?

 そこまで上げれば店売りの凝縮された毒薬を試しに飲む勇気も出るかもしれない。



「今日はランクDへの昇格試験ですね。無事に合格できるように祈らせていただきます」

「ありがとうございます。えっと……どこかで待っておけばいいんでしょうか?」

「そうですね。七時の鐘が鳴るまであちらでお待ちください」


 示されたのは、テーブルとイスが置かれている一階の休憩スペースである。

 ……はは、なんかこのテーブルやけに真新しいよね。


 そこには既に三人の冒険者と思われる男達がいた。

 やや緊張した面持ちで、同じく試験を待っているようだ。


 チラッ


 ……うーん。一人はスキルなし。もう一人は《園芸Lv1》、最後の一人は《火魔法Lv1》かぁ。

 それなりに武装はしてるけど、二人は違う道に進んだ方が良いのではと思う。

 まあ、ランクE+の冒険者なんだから、まだ自分が戦闘に向いてるかなんて分からんよな。


 火魔法はいいね。ただLvは1だ。


 ギルド内でたまにピーピングトムをしている俺は、魔法スキルを持っている冒険者をちらほらと見かけている。

 正直羨ましい。

 欲しい。

 剣術と併せて《火炎斬!》とかできないだろうか。

 

 ……どこかに引退した魔法使いとか転がってないかな。

 魔法が使える魔物……っているんだろうか。


 悶々とそんな妄想を続ける俺だったが、こちらへと向かってくる二人に気付く。

 この人達も受験者か。


 街中やギルド内でもたまに見かけることがあった――獣人である。


 獣面のように野性味溢れる顔立ち、頭にピンと立っている耳は片方に傷があり、まさに戦士を彷彿とさせるような姿……の獣人オヤジ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:アーノルド・ファン

種族:獣人(狼)

年齢:38

職業:冒険者(ランクE+)

スキル

・体術Lv2(40/50)

・剣術Lv2(20/50)

・ハウリングムーンLv2(14/50)

・棒術Lv1(5/10)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 あら多才っ。

 なん……と。他の人とは格が違うじゃないの。


 確かに……強い人が必ず冒険者ってわけじゃないだろうから、他の仕事してた人が新しく冒険者を始める場合、ランクDへの昇格試験にだってこんな人が来ることもある……か?


 現に俺もそうだしな。


《ハウリングムーン》――獣人(狼)専用。月明かりの下で士気と身体能力が向上する。


 ふむ。こんなのもあるのか。

 興味はあるけど……俺には盗っても使えそうにないな。

 いきなり人様のものは盗りませんけどね。


 もう一人は……おっ、紅一点。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:リム・ファン

種族:獣人(猫)

年齢:16

職業:冒険者(ランクE+)

スキル

・体術Lv2(16/50)

・料理Lv1(7/10)

・魔力変換Lv1(5/10)

・狂化Lv1(3/10)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 猫の獣人か。

 猫耳とフワフワとした尻尾がいいよね。

 肩へ届く程度に短くカットされた茶褐色の髪に金色の瞳。まさに猫っ気のある女の子を体現しているといえる。

 この世界の獣人は顔が人間に近いから、親しみやすい。


 って……名前が、ファン……?

 もしかして……親子かな?

 似てないっす。


《魔力変換》――マナを変換して物理攻撃力に加算する。

《狂化》――後天的に獲得可能なスキル。獲得した状況により発動条件は異なる。


 うーん、なかなかに癖のあるスキルだな。

 マナ……か。魔力みたいなもんなんだろうか?

 それにスキルは才能みたいなものと言ってたけど、先天的なものだけではないらしい。


 試験が無事平穏に終わりますように、と。


 ふう、もしこれで俺が《一級フラグ建築士》とかいうスキルを獲得したら驚きですな。

計算とか、その考えはおかしいだろうという箇所がある場合は教えてくださればと思います。


作者はそこまで数字に強くないので、あくまでやんわりと。

残りHP1のはぐれメタルに接するぐらいにやんわりとお願いします。

決してトドメをさしてやれ、という感じではなく。


更新が一日ごとは少しキツイです。

なので、二日か、もしくは三日毎の更新にしようかなと思います。

ご了承くださいm(--)m

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