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1話【馴染みの工房】

4章をゆるりと開始します。

どうぞ^^

 ――メルベイルにて。


「ねえってばさ、どこに行くのさ」

「やっと街に着いたばかりだっていうのに、忙しないわね」

「もうすぐだから」


 背後からこちらへと声を掛ける二人への返事もおざなりに、見慣れた街の工業区の大通りをすたすたと躊躇うことなく歩く。


 通行人の視線が時折こちらに……ではなく、後ろを歩く二人に向けられるのには、もう慣れた。そりゃあ、顔立ちが整っている容姿端麗な男が身奇麗な格好で歩いていたら女性も振り返るだろうさ。


 黙っていれば可愛い、もしくは美人という評価を受けるであろう女が、ライトパープルの生地で作られた一風変わった服に身を包んでいれば、注目もされるだろうさ。


 でもそんなの関係ない。

 今の俺にとってはどうでもいい。


 無意味に速度を上げて路地を曲がり、建ち並ぶ工房から黒く汚れた煙突がひょこりと顔を出しているのを見ると、心なしか気分が高揚してくる。

 金属を叩く硬質な音が周囲から響くたびに心臓がドクンと脈打つ俺は、半分病気かもしれないと自分で心配になってくるほどだ。


「ここだ」


 いくつもの工房を素通りし、目的の場所にたどり着いて足を止めた。

 他の工房と同じく煤けた煙突が突き出した屋根、工房で作成した武具を置いておく店舗スペースと一体になっている建物。


「なんだか古い感じの工房だね。もっと立派な工房を構えたほうが良いモノ造れそうな気がするけど――」

「……レン、少し黙れよ」

「え、な」


 行動をともにしていたうちの一人、男性のほうのレン・シャオへと言葉を放つ。

 その制止の声があまりに普段と異なる冷徹な口調だったため、少しばかり驚いてしまったようだ。

 心から尊敬(リスペクト)している人物の工房に文句を言うやつは、誰が許そうとも俺が許さん。


「ど、どうしたのさ? いきなり怖い顔しちゃって。ほら、レイ姉もなんとか言ってよ」


 もう一方の女性――レイ・シャオは弟の言葉には同調せず、


「こういう年季の入った工房って、わりと好きよ? 長年に渡って使い込んだ工房のほうが、こだわりのある仕事ができるだろうし」


 と弟を切り捨てた。


「そ、そんなぁ。うう……オイラが悪かったよ。外観で判断したのは軽率でした」


 双子の姉弟――レイ・シャオにレン・シャオ。

 双子とはいえ、意見が一致することのほうが珍しい。


 ……にしても、わかってる。わかってるじゃないか! レイッ!


「な……なによ。その手は?」


 レイは不思議そうな表情でこちらが伸ばした手を見つめる。

 微笑みを浮かべながら握手を求めた俺の掌は、怪訝な顔をした彼女にパシリッと払われてしまった。


 ……意見が一致した喜びで我を忘れていたが、レイはこういった馴れ合いを好むタイプではない。


 さらにいえば立場上、敵だった相手――しかも自分達を捕らえた人物と仲良く旅をするなんてのは難易度が高いってもんだろう。

 殺意に至るまでの悪感情を向けられているわけではないが、俺に対してあくまで旅の同行者という立ち位置を崩すつもりはないようだ。

 今のような軽い冗談にしても、やや顔を赤くして怒るぐらいには嫌われている。


 まあいい。こちらに関しては旅を続けるうちに変化も起こるだろう。


 ――さて! 気を取り直して、今は夢あふれる工房へと一歩を踏み出そうじゃないか。


 扉を押し開けると、独特な匂いが鼻腔を刺激する。

 鉄の匂いだけでなく、様々な金属や魔物の素材を熱した時に発せられる匂いがハーモニーを奏でているといえば伝わるだろうか。決して悪いものではない。

 壁には剣や斧、槍や槌といった武器が飾られている。相も変わらずこのような美しい品々を造り出す技術は素直に憧れる。


 そうだ。

 俺、鍛冶屋になろう。

 ……いや、なにも今すぐにというわけじゃない。世界中を巡って歳を取ったら、所持しているスキルを整理して鍛冶スキルを入手し、自分の好きなように武具を造るのも心躍るものがあると考えてしまっただけだ。


「なにボーッとしてんのよ」

「あ、いや、ちょっとね」


 レイが妄想の世界から俺を引っ張り上げてくれ、改めて室内を見回すと、目的の人物の姿が見当たらない。奥の工房にいるのだろうか?

 作業を中断させるのは申し訳ないが、仕方なくカウンターテーブルにある呼び鈴を一度鳴らす。


 …………


 返事がない。


 二度目。


 …………


 まだだ。


 三度目――


「やかましいっ!! そんなに何度も鳴らさんでも聞こえとるわい!」


 身体がギュッと震えた。懐かしい。この感覚。


 奥の工房からズンズンと姿を現したのは、立派なヒゲで顔の輪郭がわからなくなってしまっているドワーフだった。身長は低いが筋肉質な身体は、金属を打ち叩くために十分に鍛えられている。ボサボサの黒髪は腰あたりまで伸び、こちらを見据える茶褐色の眼光は鋭い。

 (ハンマー)に特製の前掛けを着けた格好は、この人のスタンダードスタイルだ。


 ――ジグ・サルマン。


 それがこのドワーフの名前である。

 厳つい頑固オヤジといった相貌だが、鍛冶の腕は一級品。鍛冶スキルはなんとLv4にまで達している。

 しかも乱暴な口調とは裏腹に、こちらを思いやる心遣いが見え隠れするギャップの破壊力は凄まじい。


「……おお? セイジじゃねえか。王都に行くって挨拶に来やがったから、しばらくは顔を会わさないで済むと思ってたんだがな。随分と早くに戻ってきたもんだ。元気にやってんのか? ああん?」


 ちなみに、ジグさんの言葉を俺の脳内で変換するとこうなる。


『急に王都にいくって言い出すから、もう会えないと思ってた。こんなに早くに会えて嬉しい。元気にやってるか心配だったん、だ・ぞ☆』


 うむ。平常運転だ。相手の真意を正確に読み取っているといえるだろう。

 しかし、こんな脳内変換をしているのがジグさんにバレたらどうなるのだろう。きっと熱い炉の中へとダイブさせられるのは間違いない。


 さて。楽しむのはこれぐらいにして、話を本題に戻そう。


 ゴトリ、と。

 道具袋から取り出した物体をテーブルの上に置いた。

 淡く発光する白銀の牙――燐竜晶がドワーフである彼の目に映りこむ。


「んん? ……これをどこで手に入れやがった?」

「え、と。ある人物からいただいたものでして」


 ジグさんが声音を低くして静かに尋ねてくる。


「ちょっくら見させてもらうぞ」


 伝説の金属――実際には竜骨が形質変化した希少なものだが――を前にして真剣な面持ちで鑑定を開始したジグさんは、表面をなぞるように触れたり、小さな槌で軽く叩いた反響音を慎重に聞き取っている。


「……形状は牙みたいだが、こりゃあ魔物のもんか? 尋常じゃない硬度だぞ」


 ボサボサの髪を掻くようにして、ブラウンの瞳がこちらにギョロリと向けられた。


「燐竜晶っていうらしいです。なんでも竜の骨が年月を経て変化したものをそう呼ぶらしく、これは骨じゃなくて牙の部分みたいですけど」

「ふぅむ。竜の牙や鱗を扱ったことぐらいあるが、こりゃあ鱗竜や飛竜(ワイバーン)のような小さな竜に生えてるサイズじゃねえな」


 言われてみれば、こんな巨大な牙を生やす竜本体はどれほどの大きさなのか。騎獣のルークが生やしている牙なんて、俺の指ぐらいのサイズでしかない。

 比べて燐竜晶の大きさは、腕の一本ぐらいもあるのだ。


「年月を経て形質が変化するってのもあんまり聞かねえ。誰から聞いた?」


 え……そういうものなの?


「王都で知り合ったドラゴニュートの人が言ってたんですが」


 不安げに呟くと、ジグさんはわずかに眼を見開いて燐竜晶から俺へと視線を移す。


竜人(ドラゴニュート)とはまた、随分と珍しい種族と知り合ったもんだな。それなら信憑性に欠けるってこともねぇか」

「というと?」

「あいつらは過去にあった魔族大戦時に、悪しき魔族を焼き払ったとされる賢竜の子孫だといわれてるからな。あんまりにも昔の話で実際のところ嘘か本当かはわからねえが、竜と関係性の深い種族であるのは確かだ。ワシらより知識は豊富だろうよ」


 ふたたび燐竜晶を眺めながら言葉を続けていたジグさんは、面白そうに笑った。


「それで、わざわざワシんところにこれを持ってきたんだ。どうしてほしいんだ? ああん?」


 わかってらっしゃる。

 心なしかジグさんも答えを待っているように感じられる。

 希少な素材を前にして、鍛冶師としての根底にある気持ちを揺さぶられたのかもしれない。


 すなわち、自らの腕でどれだけ優れたモノを生み出せるのか、だ。

 もちろん、答えなんて一つに決まってるじゃないか。


「――この燐竜晶で剣をもう一本、打ってほしいんです」


 明快な返事に、老練な鍛冶師は眼を弓なりにして首肯した。


「いいだろう。ところで――」


 と同時に、俺が腰に装備している剣に視線を飛ばす。


漆黒に潜伏する赤脈(ノワール・メルトルージュ)》――変異したブラッドオーガの角から造られたジグさんが手がけた逸品。


 装備者が同種族を斬り殺す度に切れ味が上昇するという、ちょっと怖い魔剣である。


「ワシが前に打った剣の具合はどうだ? 新しいのを欲しがるってことは、まさかとは思うが……」

「折れてませんよ!?」


 鞘から出せばポッキリ、なんてことはない。

 一度餞別でいただいたバゼラードを砕き折ってしまった前科があるため、念のために否定しておく。


「なら、どうするつもりだ。どっちかは予備として持っておくつもりなのか?」

「二本とも使うのは、駄目でしょうか……?」

「ああ? もしかして二刀流ってやつか?」

「はい。でも扱いが難しいかもしれないから、ちょっと不安で……どう思います?」


 おずおずと質問する俺に対して、ジグさんが一喝する。


「そんなもん知るかっ!」

「す、すみません」


 そうだよな……こんなのは鍛冶師であるジグさんに尋ねるべきことじゃない。


「こちとら鍛冶師だぞ!? ワシは注文されたものを精魂込めて叩き上げるだけだ。それに、お前なら自分にできることぐらいもうわかるだろう……言わせんじゃねえ」


 はい。決定しました。

 俺、二刀流にします。

 後悔しません。


◆◆◆


 ――早速ながら、俺はジグさんに詰め寄って剣のデザインを相談する。


「あのですね。可能ならこんなふう…………で、ここを…………して――……ます?」

「ああ、それなら少し工夫すりゃあ問題ない。なかなか面白そうじゃねえか」


 傍から見ても上機嫌なドワーフは、肩を揺らしながら工房の方へと歩いていこうとする。


「ついてこい。珍しい素材を持ち込んできやがった褒美に、今からご所望の剣を鍛え上げてやろうじゃねえか」


 まさか、工房を見学させてもらえるのか!?

 初めての工房見学に興奮を隠せない俺は、ジグさんの後ろにビタリと追従する。


「ちょ、オイラ達はどうすりゃいいのさ。適当にどっかブラブラしてていいの?」


 ……しまったな。完全に双子の存在を忘れていた。

 レンの問いに振り向いたジグさんは、二人の顔を見比べながらヒゲを何度か擦った。


「そういや、後ろの二人は見ない面だな。セイジの冒険者仲間か?」

「冒険者ではないですけど、旅の連れといった感じですね」

「よく似てやがらぁ」


 双子の姉弟に対する感想は、俺が初めて受けたものと同じだ。


「暇なんだったら、ウチの店番でもしといてくれりゃあ助かるんだがな。なぁに、小さな店だから商品の数も少ねえし、客なんてほとんど来ねえからよ」

「店番かあ。まあ他にやることもないし、オイラは別にいいけど」

「悪い。レイもしばらくお願いしていいかな?」


 俺からも一言、頼んでみた。


「なんでワタシがそんなことしなくちゃいけないの? あんたの武器を作成するのに付き合わされる身になってみなさいよ」


 案の定の反応だ。こうなることはわかってました。


「いいじゃねえか。まあ、これだけ売り子がべっぴんなら客も増えるかもしれねえがな。そうなりゃ、セイジがお礼に何か買ってくれるかもしんねえぞ? がっはっはっはっ」


 豪快に笑うドワーフは、さらりと気恥ずかしい台詞を言ってみせる。

 しかし、待て。


「いやいや、そこはジグさんが店番の代金を払ってあげてくださいよ」


 ちゃっかりと俺に振らないでいただきたい。


「ふん……別にいいけどね」


 ……あれ? レイにしては、なんだかやけにしおらしい返事だな。

 いつもなら意見を簡単に曲げないのに。まさか……!?

 もしかして……レイ、お前、



 ――――オヤジ趣味なのか!?



 態度がおかしいのは、さっきジグさんにべっぴんと褒められたからだろう。

 ぐぬぅ……たしかにジグさんが魅力的なのは認めよう。俺だって何度か抱かれてもいいと思ったほどだからな。

 だがしかし、いくらなんでも早すぎないだろうか?


 ……まあいい。そういった気持ちに他人が口を挟むのは野暮ってもんだからな。こちらとしては生温かい視線で見守らせてもらうばかりである。


 さて、気持ちを切り替える時だ。

 双子に店番を任すかたちで、俺とジグさんは工房へと足を踏み入れた。


 まず目に入ったのは、大きな炉だ。

 真っ赤に染まった内部の温度は、素人の自分には窺い知れない。鍛冶に使用するであろう道具や設備がところ狭しと並ぶ光景に興奮を抑えきれず、今すぐにでも炉の内部へダイブしたいぐらいだ……というのは冗談だが、道具で知っているのは鋳鋼製の台――鉄床(アンビル)――ぐらいか。


 真っ赤に焼けた金属を鉄床の上に置き、槌で叩き上げる。

 まさに男のロマンである。


「前にも一度測ったが、念のために測っとくか」


 身体の寸法を測るのは、背丈や腕の長さに合う最適な剣を作成するための前準備だ。


 寸法の測定を終えてから、ジグさんは腰に吊っていた赤銅色の袋を手に取り、炉へと液体のようなものを流し入れた。

 突如、炉から発せられる熱気が倍増するかのように勢いよく燃え上がる。


「それって、なんなんですか?」

「これは炎蛇(フレイムナーガ)の火袋ってんだ。中に詰まってる液体は燃焼剤として有用でな。鍛冶師の間では炉の温度を上げるのに重宝されてる」


 鉄なんかよりも融点が高い素材だと、こういったアイテムが必要となってくるのだろう。

 そうして躊躇うことなく、燐竜晶が真っ赤に口を開けた炉の中へと放り込まれた。


「でも……すごいですね」

「なにがだ?」


 窓を全開にしているにもかかわらず熱気が凄まじい室内で、邪魔にならぬよう端っこの壁に背中をあずけるかたちで声を掛ける。


「だって、初めて扱う素材ですよね? どうすればいいか知ってるみたいなので」

「この前お前に打った剣は……たしかブラッドオーガの角が材料だったな。熱を加えることで金属に似た性質を帯びるってのは知ってるか?」

「はい。それは聞きました」

「竜種の魔物から獲れる素材も似た傾向にある。竜鱗や牙、爪なんかは鍛造せずにそのまま加工する場合もあるが、この燐竜晶ってのは硬すぎるからな」


 鍛造というのは金属内部にある微細な空気の隙間を潰し、不純物を叩き出し、強度を高めつつ目的の形状にする技術だが、熱して軟らかくする必要がある。

 むしろ燐竜晶は軟らかくしなければ、手を加えることすら難しいのだろう。


「心配いらねえよ。竜の素材ってのは熱に強いもんが多いからな。こまめに確認しながら作業していけば素材を駄目にしちまうヘマなんかしやしねえ」


 頼もしい限りだ。

 炉に空気を送り込みつつも、ジグさんは真っ赤に焼ける炉から決して目を離そうとしなかった。




 ――熱い。

 ……どれぐらい経っただろうか。

 俺が炉の中に放り込まれていれば骨すら残っていないぐらいの時間が経過した頃、


「……そろそろ、か」


 専用の鋏で炉から白熱した燐竜晶が取り出され、鉄床へと場所を移された。

 前掛けに吊り下げられている工具入れから(ハンマー)を握り締め、ゆっくりと振り上げられる。


 ――カァァァァァァンッ!


 と、始まりの合図といわんばかりに小気味良い音が響いた。


「しかし、お前も不思議なやつだな」


 こちらへと言葉を投げかけつつも、ジグさんは一定のリズムを崩すことなく熱い衝撃を室内に轟かせる。


「ワシも長いこと鍛冶師としてやってきたが、こんな素材は初めて見る。老練な冒険者が持ち込むなら理解もできるが……いや、余計な話だったな」


 ジグさんはそこで言葉を切り、黙々と叩き続けていく。


「――槌を一振りするごとに命が吹き込まれ、形を変えていく……この瞬間がいいんだ。無骨な金属の塊が生まれ変わる瞬間ってのを、目の前で見れるんだからな」


 ぽつりと、独り言のように呟いた。

 ――やっべぇ。

 格好良い。

 尊敬の眼差しが可視化できれば、間違いなくジグさんは俺に貫かれていることだろう。



 その後も槌を振り下ろしていく姿を見つめていた――のだが、ふと動きが止まった。

 ……なんだろう?

 邪魔するのも申し訳なかったが、あまりに動く気配が見られないため、興味が先行してジグさんの傍へと歩み寄る。


「どうしたんですか? もう生まれ変わっちゃいました?」


 さすがに早過ぎるだろうことはわかっているが、軽い冗談を交えて訊いてみた。


「――――――せぇっ」

「……え?」


 聞き取れなかった声を拾おうとして、耳を近づける。


「うるせえぞ!! 少し黙ってやがれっ!」


 ブゥンッと振るわれた槌の一撃は、俺の頭部の間近を通過していった。

 もし当たれば頭蓋骨の形が変わってしまうほどの風圧である。


「な、ななななにをするんですかジグさん!? 下手したら俺が生まれ変わることになっちゃいますよ!?」

「面白えこと言うじゃねえかっ!」


 ジグさんが鼻息を荒くしている原因は何か?

 それは鉄床の上に載せられている燐竜晶を観察すれば察しがついた。

 硬い素材だろうと、熱して何回も叩けば変形するだろう。

 が、置かれている燐竜晶に変化が全く見られないのだ。


 槌が振るわれたと思われる箇所に歪み一つなく、竜の牙という美しく綺麗な曲線を保持したまま輝いている。


「やり方は間違ってねえはずだ。が……もっと高温で熱する必要があるみてえだな。しかし炎蛇(フレイムナーガ)の火袋で無理となると……」


 少しばかり落ち着きを取り戻したジグさんは、色々と呟いている。



「――おい。お前も一端の冒険者に成長したんだろう? ちょいと用意してほしいもんがある。まさか嫌とは……言わねえだろうな?」

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