6話【イモムシとの戯れ】
強奪をこの調子で十日繰り返すとどうなるか計算したら、主人公恐ろしい成長速度だと思い知りました。
やっとこお金に余裕が出来たので満腹オヤジ亭に向かい、宿泊代二日分を支払った。
さすがに今後もチェックアウトしたのに部屋空けといてもらうのは悪い。
連日分を払っておくべきだと思う。
「これからもよろしくね……って、あ~あ~こんなに汚しちゃって。ちゃんと洗濯しなよ? それに……剣も手入れしとかないと錆びて切れなくなっちまうよ?」
スモールゴブリン(以下スモゴブと呼ぼう)の血で汚れた服と剣を見たフロワさんから指導される。
そういえば、服の替えも用意しないとな。
一張羅を洗濯しちゃったら、それなんてストリーキング状態になっちまうよ。
剣の手入れ方法については、フロワさんが簡単にではあるが教えてくれた。宿には冒険者が泊まることもあるため基本的な知識は持っているとのこと。
――商業区にあるお店で、必要なものを揃える。
替えの服一着、手ぬぐいを二枚、油を一瓶、それに革の水筒……と。
これでまたほぼ無一文になりました。クスン。
ぶっちゃけ、今日は昼に戻ってくるつもりだったのに、スモゴブ狩りに夢中で森の奥を探索してたから、もう午後五時を回っている。
さっき井戸水で喉を潤したけど、遠出するなら水筒や昼飯を携帯しないと大変なことになると思い知ったよ。
ふたたび宿に戻り、洗濯と剣の手入れを晩飯までに終わらせることにする。
水桶で剣に付いた血糊を洗い流し、乾いた手ぬぐいで水分を除去、店で購入した油をもう一枚の手ぬぐいに染み込ませて薄く引き延ばすように塗っていく。
これでいいんだろうか? まあ、フロワさんも専門じゃないからな。
本格的に刃こぼれとかしたらジグさんの店に持って行くことにしよう。
部屋で手入れの作業を終えた頃には、既に六時の鐘が鳴っていた。
食堂で至福の時を過ごしてから、さすがに汗ばんだ身体が気持ち悪かったので、なけなしの10ダラで湯を用意してもらうことにする。
部屋へと布と湯桶が持ってこられ、身体を拭くことで少しは爽快感を味わえた。
だけども、やっぱりちゃんとした風呂に入りたいな……。
フロワさんは他の少し高級な宿には風呂があると言っていたが、お金を払って風呂だけ借りることは可能なんだろうか?
その辺も追々なんとかしていこう。
「ふわぁ~~~」
大きな欠伸が自然に漏れる。
さて、桶を返したら今日はそろそろ寝るかな。
その夜――――手にかけた魔物の無残な姿を思い出し……
なんてのは一切なく、ダリオさんの作った食事をお代わりする夢を見た。
翌日――五月一週の土の日。晴れ。
俺は満腹オヤジ亭で六時に起床した。
朝食を御馳走になってから、ギルドに寄る前に道具屋へと顔を出す。
試してみたいことがあったので尋ねてみた。
「毒って売ってますか?」
お、おう。怪訝な顔をされたぞ?
「い、いえ、ほら。俺冒険者なんです。魔物に毒とか有効かなって」
「……ああ、それならちょっと待っててくれ」
店員さんはやや表情を緩めて奥に引っ込んでから、戻ってくる。
手に持っているのは小瓶のようだが、中身は黒紫色のえげつない色彩をしている。
Theッ! 毒
ですね。分かります。
「今ウチにあるのはこれだけだな。あんたになら売っても問題ないだろう」
さすが、俺って信用あるじゃん。照れるぜ。
「ただし、狩猟や魔物相手以外には使わないでくれよな。まあ、ギルドに登録しているんなら悪用しないだろ。もし悪用すればどうなるか……昔ギルドの顔に泥を塗った奴が世界中の――おっと、話が逸れたな」
続き気になるわっ! 冒険者ギルド怖っ!
「値段は5000ダラだ」
……なぬ?
「そんなに、高いんですか?」
「そりゃな。毒草を大量に煮詰めて凝縮させるらしいから、かなり材料費と手間がかかるんだろう」
そういえば、俺文無しだった。
「すいません。また……今度にします」
駄目だな。少量であれじゃあコスパが悪すぎる。
何か他の手を考えるしかないか。
とぼとぼとギルドに入り、掲示板からスモゴブとイモムシの依頼書を手に取る。
「おはようございます。シエーナさん」
「セイジさんどうかされましたか? 顔色が優れないようですが」
「いえ何でも。そういえば……スモゴブやイモムシってそんなに大量にいるもんなんですか?」
常時依頼ってぐらいだしな。
「スモゴブ……ああ、スモールゴブリンは繁殖力が非常に高く、放っておくとコロニーを形成します。定期的に討伐しなければ近隣の街や村に被害が出る可能性もありますので」
ふむふむ。
「緑イモムシですが、こちらも多量に発生することがあります。異常繁殖した際には森林への被害も懸念されます」
「森林への被害ですか?」
「ええ、非常に食欲旺盛で草木を食べ尽くし、資源豊富な森を枯らします。毒草でさえも好んで食べると言われていますね」
……!?
「毒草ですか!?」
「え、はい。弱い毒素を含んだネビル草というものです。緑イモムシは毒素に耐性があるのかもしれませんね」
「ネビル草について、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?」
シエーナさんがカウンター下から図鑑のようなものを取り出した。
分厚さが数cmある本は角で殴られれば死ねるだろう。
「こちらは採取依頼を受ける冒険者へ説明する際に用いる図鑑です……ネビル草は……こちらになりますね」
示された箇所に描かれているのは葉が丸まったような不思議な草で、特徴的な形をしている。
「今は依頼にないですが、採集依頼にネビル草が出ることもありますよ」
なるほどね。需要があれば供給があるってことだ。何も高い金を出すこともない。
待ってろよ。イモムシちゃん。
た~っぷりエサをあげますからね~。
思わず顔に悪い笑みが浮かぶ。
「……どうかされましたか?」
「い、いえ、なんでもないです、はい」
スモゴブとイモムシの依頼を受けてから、俺は準備を整えてから南の森へと向かった。
今日の第一目標はイモムシである。
図鑑にあったネビル草は南の森でも採れるらしいので、まずはそれからだ。
森に入ってひたすらに採集作業に取りかかる。
たまにイモムシに出くわしたが、基本的に隠れることでやり過ごし、ネビル草の採集を優先する。
《ネビル草》――葉と根の両方に弱い毒を持つ。多量摂取すると致死。
「こんだけありゃ足りるな」
採集したのは十本。スキル使用回数と同量である。
少し歩いて、今日の獲物を確認。
ポテッとした身体が可愛く思えるほどだ。
「ピギュッピギィィッ」
こちらに気付いて近寄って来るが、目の前にネビル草を一本放り投げてやる。
イモムシが動きを止めた。好んで食べるというのは本当らしい。
「ピギュ?」
「ほーら、お食べ。美味しいよ? 遠慮せずに、ね?」
やや警戒しているものの、どうやらご飯タイムを優先するらしい。モクモクとネビル草を食んでいく。
「よーしよし。美味しかったか? しかし凄いね。毒草を食べても平気なんてね? それじゃあ――」
ちょっと、あまり細かく描写すると俺が悪者みたいになりそうなので後は割愛する。
動物愛護……いや、昆虫愛護団体とかに怒られそうだ。
ネビル草は全て使い切った。
「ふぅ……」
まだ時間に余裕があるために、スモゴブもちゃんと五匹狩ってから帰ることにする。
俺は少しばかり体液で汚れた服を木々の葉で拭い、森の奥へと向かって行った。
しばらくはこの狩り場で剣術と並行してスキルレベルを上げていくとするか。
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名前:セイジ・アガツマ
種族:ヒューマン
年齢:18
職業:冒険者(ランクE-)
特殊:識者の心得
スキル
・盗賊の神技Lv1(5/10)
・身体能力強化Lv3(4/150)
・剣術Lv1(8/10)
・状態異常耐性Lv1(4/10)
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読んでいただきありがとうございます。