8話【獣人と竜人の軌跡】
「ほれで? ほれはらろうするふもりなの?」
「うん。村があった場所にもう一度行ってみようと思うの」
「んぐ……むぐ、ぷはっ。リムが育ったっていう村? 確か……」
「ベスティアだよ。もう……誰も居ないけど。もしかしたら何か見つかるかもしれないし」
様々な獣人達が支え合って暮らしていたベスティアは、のどかな村だった。
基本的に狩りや農業によって自給自足が可能だったため、北方にある帝国領土の街とあまり交流を持たなくとも生活するには困らなかったのだ。
ただ、全く交流がなかったわけではなく、嗜好品などの品は村と街を行き来する村人がわずかに仕入れていたのを、リムも覚えている。
亜人だという理由で高圧的な態度を取られることもあると仕入れ役の村人が嘆いていたのは、いつだったか。全ての者が亜人を蔑視する傾向にあるとはいえないが、それでも帝都に近い場所は亜人にとって住み心地が良いとはいえない。
国境を越えてレーべ山脈の麓より旅を続けてきたリムとシャニアは、ベスティアの村から北方にあるグラニアの街の宿で食事を取っている最中である。
小動物のように頬に食べ物を蓄えつつ会話をするシャニアが、ようやく食塊を胃袋へと落とし込んだところで、リムは自分の生まれ育った村を思い出していた。
魔族に襲撃された際、村人は散り散りになって逃げ出し、リムは運良くアーノルドと合流して逃げることができたが、母親であるミレイは魔族の手から逃れることはできなかった。
ミレイと一緒に逃げていた村人の生き残りが教えてくれた話をすぐに信じることはせず、アーノルドは何度も村があった場所を訪れてミレイを捜したが、結局ミレイを見つけることはできなかったのだ。
遺体が見つからないからといって、生きていると楽観できないほどに村は酷い有様だった。
「正直……まだ少し怖いけど」
住み慣れた家が炎に包まれていく熱気……あの時の恐怖は未だにリムの身体に刻まれている。
「そっか……なら、わたしも一緒に行かせてもらうからね」
食後の果実水を飲み干し、当然のようにシャニアは言葉を紡いだ。
「恩返しするって言ったからには、最後まで付き合ってもらわないと」
「ねえ、シャニアは何でこの国に来ようと思ったの? もし他に用事があるんなら、無理に付き合わなくても……」
その言葉に両手で耳を塞いでしまったシャニアは、髪が乱れるほどに左右へ首を振る。
「スト~~ップッ。それ以上は聞きたくありません。ちなみに他に用事もないんだよね~。強いて言えば色々と見聞を広めたかったからかな。まあ、あいつはわたしが一人で行動するのに反対してたみたいだけど」
「あいつって?」
時折シャニアの話に出てくる人物について、リムは興味深げに聞き返した。
「う~ん、ままま、気にしないでよ。こっちの話だからさ」
「そっか」
手をぶんぶんと振りながら、シャニアは席を立つ。
話したくない内容ならばこれ以上は訊かないほうが良いだろうと思ったリムは、食事を終えて宿の受付へと声を掛けた。
「ああ、もう出発するのかい? 亜人を泊めるのには少し抵抗があったが、何も問題を起こさなかったようで安心したよ。まあ、街でも厄介事は起こさないほうが身のためだぞ」
――微妙に棘を含むような言葉で送り出された後、街中を歩いているとシャニアが声を上げる。
「あの宿の人、なんだかちょっと気分悪いなぁ。少しぐらい問題を起こしたほうが良かったかもね~」
やや不機嫌な彼女は、深紅の髪を撫でつけながら自分を落ち着けようとしているようだ。獣人であるリムは外見からすぐに亜人だと判断できるが、シャニアについては背中の鱗などを直接見なければヒューマンと変わりないように映る。
「仕方ないよ。あたしはどこから見ても獣人だもん。でも……やっぱりちょっと腹は立つかな」
「でしょっ? よぅし、客足が離れるような嫌がらせを……そうだっ! 料理が美味しくなかったってイチャモンをつけにいこうよ」
名案を考えついたように手を叩くシャニアに対して、ポカンとした表情を浮かべたリムは、次第に顔を綻ばせて笑い始めた。
細く綺麗な尻尾を軽く丸め、手でお腹を抱えて本当に面白そうに声を出して笑っている。
「そ……そんなにわたし、面白いこと言ったかな?」
「だってシャニアってば、さっきあれだけ美味しそうにご飯を食べてたじゃない。リスみたいに頬っぺたを丸くして」
「ええ~、わたし、そんなだった?」
シャニアが拗ねるようにして、頬を丸く膨らませた。
「うん。まさにそんなだった。シャニアの気持ちは嬉しいけど、こんなのを気にしてたらキリがないから、準備を済ませて出発しようよ」
「うい、りょうかいでありま~す」
街中で携帯食料や回復薬などなどの補充を済ませるべく、二人は歩き回る。
ついつい女の子同士ということで色んな物に目移りしそうになったが、余分な買い物は最小限に抑えることに成功した。
「ねねね、あれって何かな? あの透明で綺麗な色してるやつ」
「え、と……アメ……ザイ、ク? 食べ物みたい」
「あれ買おうよ。甘いものは身体に必要なんだよ」
「今必要なの? うん、でも、きっと必要だね。シャニアは正しいと思う」
こういったやり取りも、最小限のうちである。
――本当に準備が全て整ったと思われる頃、二人の少女へと近寄ろうとする影が一つあった。
「よぉ、姉ちゃん達。どっかに行く準備でもしてるのかい?」
その声に振り返ったリムは、目の前に誰もいないことに不思議な顔をする。
「どうしたのリム? ん~、誰も……いないね」
「ちょっ!? 下だよっ! し~たっ。もっと視線を下げてくれよ。姉ちゃん達っ」
幼さの残った声色であるが、主張の激しい声にリムとシャニアが揃って視線を下げる。
その先には、十歳に満たないほどの少年が背伸びするようにしてリム達を見つめていたのだった。
「ごめんね。小さくて気づかなかった」
「ふっふ~、女性に声を掛けるなら身長を倍にしてから出直しておいでよ~」
二人の少女からなかなかに辛辣な言葉をぶつけられてなお、両足で地面に立っている少年には、リムと同じく獣耳に尻尾が見受けられる。
「お、おれはテッドっていうんだ。姉ちゃん達はこれからどっか行くのかい? 何か色々と買い物してたみたいだけどさ」
「犬の獣人の子供だね。レディの買い物を覗くのはあまり感心しないなぁ」
「ちが……別に覗いてたわけじゃない。たまたま目に入っただけさ。同じ獣人の姉ちゃんを見かけたから、声を掛けたんだよ。この街でヒューマンと獣人が仲良さそうに歩いてるのは珍しい光景だからさ」
「ふぅん。まあ、わたしはヒューマンじゃないけどね。あんまり歓迎されてない亜人の部類に入ると思うよ」
「そうなの? でも姉ちゃんは獣人じゃないし、ドワーフや……ましてエルフでもないよね」
「ううん? なんだか最後の言い方は引っかかるけど、まあ色々あるってことで」
疑問の表情を浮かべたテッドへと、今度はリムがしゃがんで目線を合わせてから質問した。
「ねえ、テッドはこの街に住んでるの?」
「そうだよ。この辺りのことなら何でも知ってるさ。何か情報が得たいのならこのテッド様にどうぞっ、てね」
小さな背丈を精一杯に伸ばし、テッドが胸を張って謳う。
その様子は、メルベイルで友達になった少女にどことなく似ているようで、リムは自然と微笑みを浮かべていた。
つられるようにして、テッドの顔がわずかにだが赤くなる。
「やふ~、この子なんだか赤くなってない?」
「そ、そんなわけないだろ。そっちの姉ちゃんは少し黙っててくれよ」
頭を乱暴に掻いた少年を見つめていたリムの瞳にやや真剣な色が混じり、改めて会話が再開された。
「あたし、人を捜してるの。ミレイっていう名前で……あたしのお母さんなんだけど。外見はあたしとちょっと似てる感じで……もしかしたらこの街で見かけたりとかしてないかな」
もしミレイが生きていれば、ベスティアから最も近いこの街に立ち寄った可能性はかなり高い。
「姉ちゃんの母親……か。さすがに姉ちゃんに似てるってだけですぐには答えられないけど、もしかしたら知ってるかもしれない人のところへ案内することはできるよ」
「本当に!?」
「あ……ああ。たぶん、ね」
「なぁんだ。テッド様にどうぞって言ったわりには、自分にはわからないのか~」
シャニアの横やりに、テッドは顔を俯かせて声を小さくした。
「仕方ないだろ。おれにだって知らないことはあるよ。そういう時は知ってる人に頼ればいいのさ」
「ふぅん。まあ最後の言葉には、わたしも同意見かな~。リムはどうする感じなの?」
尋ねられたリムは何かを考えるようにしてから、ゆっくりと首肯する。
「ありがとうね、テッド。悪いんだけど、その人のところへ連れてってくれないかな」
「え、あ……うん。わかった。おれについてきてくれ。案内するからさ」
テッドは小さな身体をテテテと動かし、人混みを避けながら進んでいく。
「……ごめんね。シャニア。寄り道になっちゃうかもしれないけど」
「ううん。ぜ~んぜん気にしなくていいってば。リムのしたいようにすればいいと思うよ」
◆◆◆
「――ここがそうさ」
テッドが案内してくれた場所は、入口が半地下になっている建物だった。お世辞にも綺麗とはいえない様相で、用事がなければ訪れようと思えない雰囲気を纏っている。
「ここ?」
「そうさ。多少汚そうに見えるかもしれないけど、おれだってここに住んでるんだ。文句は言いっこ無しだぜ」
「そうなんだ。テッドが言ってた人は、中にいるの?」
「ああ……きっと教えてくれるよ」
リムの問いに、テッドがほんの少しだけ間を空けて返事をした。
扉を開けて中に入ると――室内は薄暗い。
ヒューマンよりも夜目が利くリムでさえ、明暗差に慣れるまでにはしばし時間を要した。後ろにいるシャニアも同様のようである。
やっと辺りの様子が窺える程度になった頃、いくつかの人影がリム達の周りを囲んでいるのが見てとれた。
同時に背後の扉が勢いよく閉められる音が響く。
「へへへ……テ~ッドぉ、よくやったじゃねぇか。亜人を二人も連れてくる……ん? おいおい、一人はヒューマンじゃねぇかよ」
隠すことなく舌打ちする音が響くも、テッドが小さな声で反論した。
「ち、違わないよ。そっちの姉ちゃんも亜人だって、自分で言ってたんだから……」
「ほぉ~、まあいい。後でじっくりと調べりゃ済むこった。へへ……どうやら驚きのあまり固まっちまってるようだがな。お前らは……そこのテッドに騙されたんだよ。こんな小さな獣人の坊主が嘘をつくなんて思ってもなかったろ? よく見りゃあそこそこ可愛いじゃねえか。亜人だとしても、これならそういった趣味を持った客に高く――」
男の野太い声が続きの言葉を紡ごうとするも、別の男が発した妙な声によって遮られる。
「……ぎゃひ……ぶえっ」
「なん――だと?」
先程まで嘲笑うかのように愉快な声で喋っていた男の顔が、驚きに変わった。
リム達を囲んで武器を構えていた男の一人が、ゆっくりと身体を沈ませていく。
それを実行したのは、包囲していたはずの少女――リムだった。
鍛えられた獣人の脚力を最大限に活かし、瞬速の踏み込みによって間合いを詰めたリムが、男の一人に拳をめり込ませたのだ。
まだ息はあるようだが、オークの太い首さえ一撃でへし折る膂力は一般的なヒューマンが耐えられるものではない。
「わぉ、リムってばやるぅ~」
軽く口笛を吹いたシャニアは、動かずに様子を見守っているようだ。
「……ね、姉ちゃん……?」
テッドもやや上ずった声でリムの行動に対して言葉を漏らした。
静まった空間に、リムの柔らかくも怒りの混じった声が響く。
「たぶん、何かあるんだろうなって思ってた。テッドの腕……服で隠れてるけど、ところどころに痣があるでしょ? 痛いはずなのに、妙に明るく振る舞ってるし」
テッドは慌てて自分の身体を見回した。
一見すると痣などは見受けられないが、腕を持ち上げると服の隙間から赤黒い痣が顔を覗かせる。
「あ、あの時っ……?」
テッドはシャニアにからかわれ、赤くなって頭を掻いた際のことを思い出した。
「違和感を感じたのはそこからかな。テッドには悪いけど、教えてほしい情報を都合良く持ってる人がいるっていう言葉を信じられるほど、あたしはまだあなたを信じてないから」
「う……」
「でも――」
リムの蜂蜜色の瞳が、険しさを伴って男達へと向けられる。
「あなたが自分から進んでこういうことをやってるんだとは、思わない」
「う…………ぇぇん」
テッドから、くぐもったような泣き声が漏れだし始めた。
「その痣をつけたのは……誰? あたしに教えて」
リムの問いに答えるように一歩前に進み出たのは、さっきまで下卑た嗤いを浮かべながら話していた男である。
「へ、へへへ。歳のわりには結構使えるガキなんだがな。どうにも反抗的な態度を取ることが増えてきたから、教育的指導ってやつだ。飯を食わせてやってんだから当然だろ?」
リムがゆっくりと拳を男の身体へとスライドさせていく。
「へ、随分と威勢のいい嬢ちゃんだな。こりゃあ本当に高く売れそうだ。おい、お前らっ! 油断すんじゃねえぞ。死ぬ気で捕まえろ。ちょっとぐらい傷付いても構やしねぇっ」
周りにいる男達が、返事とともに武器をリム達へと向けた。
「ごめんねシャニア。本当に、寄り道になっちゃった」
「……な~るほど。そういうことかぁ。正直なところ、わたしちょっとだけリムについて思い違いをしてたかもしれないなぁ。勿論、良い意味でだけどさ」
「ありがと」
「お怒りモードみたいだから基本は手を出さないけど、危なそうだったら勝手に動くからね~」
「シャニアのことは信じてる……よっ!」
半地下となっている室内の床は石畳であり、力一杯に蹴りだしても十分な反作用が生まれる。
獣人の少女が足裏に発した力は、しなやかな体躯を瞬時に移動させるに足りうるものであった。
「こ、このっ!」
リムは男の一人が突き出した短剣を危なげなく回避し、顎先を掌底で突き上げる。
軽くないであろう男の身体が、ふわりと宙に舞い上がった。
多対一であれば同時に襲いかかったほうが有利なのは当然。リムの横側から剣を振りかぶった男が迫る。
肉迫した男の剣を、利き腕とは逆の手甲で滑らすようにして軌道を逸らせたリムは、そのまま地面へと接触させた。
石畳に衝突した衝撃で動きを止めた剣の腹に、休む間もなく側方から瞬撃が繰り出される。
魔力変換による強化と身体の捻りを限界まで加えた一撃は、安物であろう粗末な剣の刃を見事に砕き折った。
「そんな、ば、馬鹿なっ」
重心を低くしたリムは空手となった男の足元を払って体勢を崩し、横蹴りを放つことによって、後ろにいた男を巻き込みながら吹き飛ばす。
最後に棍棒を手に持った男が奇声を上げて襲いかかってきたが、これも片脚を大きく振り上げた状態から放たれるカカト落としによって、完全に沈黙させられた。
「……ふぅぅ」
四人の男を地に伏せるまでの動作を無呼吸で行ったリムは、ここで大きく深呼吸することで息を整える。
「……情けねえ野郎どもがっ。獣人とはいえ、そんな小娘に何を手こずってやがるっ!」
さっきまでリムに余裕を見せて話していた男が、悪態をついて斧を手に取った。
「生かして捕らえるのが無理なら、ここで殺しちまうか。へへ……俺はこう見えても過去に冒険者として活動してたこともあるんだ。魔物との戦闘経験だってある。たかが獣人の小娘一人が――あ……」
能書きを垂れていた男の懐へと、リムが一足飛びに距離を詰める。
「何と闘ったの? ……緑イモムシ?」
「ふ、ふざ……けるなぁぁぁ」
男が怒りの声とともに振り上げた斧を、リムへと打ち下ろした。
確かにそこそこの筋力を有する男は斧を振り回せてはいるが、よく観察すると斧の重量に身体を振り回されているようにも見える。
斧は破壊力に優れる武器ではあるが、剣や槍に比べて重量が大きいために身体の重心移動をスムーズに行わなければ、素早い動作での連撃は不可能なのだ。
「くっそ……なんで当たらねぇんだ!?」
「あたしだってまだまだ人のことを言えないけど――」
リムの肘が、正確に男のみぞおちを捉え、次いで流れるような動きで拳の裏側が顔面へとヒットする。
「たぶん……技術不足だよ」
「がへぁ……ぐぇ」
床へと倒れ込んだ男は無様な声を最後に、動かなくなった。
しばしの静寂に満たされた空間で、最初に言葉を発したのは小さな男の子。
――テッドである。
「ご、ごめんよ。姉ちゃん。おれ……嘘ついて、姉ちゃん達を騙して……」
申し訳なさそうにリムのもとに歩いてきたテッドは、まだ少し涙を浮かべている。
「ううん。それより、痣の手当てをしたほうがいいよ。回復薬なら購入したばっかりだから――――」
そう口にしてリムが視線を自らの道具袋へと向けた瞬間、
「こうなった、のも……全部、お前のせいだ……テッドォォォォォッ」
ゆらりと起き上がった男が転がっていた斧を手に取り、テッドに向かって振り下ろした。
「う……ああっ」
叫びつつも硬直してしまったテッドの身体は、襲いくる凶器に対抗する術もなく、ただ斬り裂かれるのを待つのみである。
――斧とテッドの間に、誰もいなければ。
「なっ、姉ちゃん!?」
テッドの身体を咄嗟に抱きかかえるようにして庇ったリムは、完全なる無防備だった。
このまま斧が振り下ろされれば、まず間違いなく首が寸断される。
が、そのような悲惨な結末は訪れない。
なぜなら――
「はいは~い。危なそうなら勝手に動くって言ったよねぇ。わたしの出る幕ないかもと思ってたけど、完全な空気になるかと心配してたけど……いつ動くの? 今でしょう。ふっふ~」
妙にテンションの高いシャニアが、相手の斧による一撃を受け止めているからだ。
しかも、重たい斧の一撃を、何の防具もなしに、素手で防いでいる。
シャニアの肌に触れている斧が一部欠けてしまい、金属の欠片が床へとパラパラとこぼれ落ちていく光景を目に映した男が、信じられないといった表情で口を開いた。
「お、お前……なん、だ?」
「ままま、気にしなくていいよ? あなた達が蔑視の対象としてる亜人の一人だと思ってくれればいいから。ただわたしはちょっと同種族の中でも特別でね。これぐらいの武器じゃあ残念ながら傷一つ付けられないかな」
斧はついに圧力に耐えかねて砕け割れる。
「ヒューマン、か。あんまりさ、わたしをがっかりさせないでほしいなぁ」
「は……? おまえ、何を言って……」
「それもこっちの話。もう……おやすみ」
シャニアが撫でるように男の身体へと触れると、その身体はゆっくりと床へ崩れ落ちたのだった。