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5話【街の外へ】

盗賊の神技の設定を一部変更しています。


変更前:

※(自己保有スキルの総Lv数-相手の保有スキルの総Lv数)×2%が成功率に加算される。

変更後:

※(自己保有スキルの総Lv数-強奪対象スキルのLv数)×1%が成功率に加算される。(値が負になる場合は変化なし)


さてさて……ここまで来て、ヒロイン的存在が未登場……だと?


ストーリー進行は遅めです。

気長に読んでやってください。

 以前なら、目ざまし時計を殴りつけることで二度寝の快感を味わえていたのだが、手の届かない場所から鳴り響く鐘は殴って止めることができないのだと知った。


 朝六時に街中に響き渡る鐘音。

 その回数、六回。


 起きました。

 まあ、寝たのが早かったから丁度良いのかも。


 一階に下りると、既にフロワさんがカウンター奥にいらっしゃった。

 ってことは、鐘が鳴るより早くに起きてるってことか。

 しゅごい……。


「おはようございます。顔とか洗いたい場合って……」

「ああ、おはようさん。水ならそこの扉を出たところの中庭に井戸がある。洗濯とかもそこでするといいよ。ウチの宿は風呂はないけど、もし身体を拭くための湯が必要な場合は言いな。10ダラで用意するよ」


 そういえば、昨日風呂に入ってない。

 が、そこまで汚れてないから別にいいか。


 もう少し高級な宿には風呂があるということなんだろうが、ダリオさんの飯は既に俺の胃袋を掴んでいる。


 ダリオからは、逃げられない。

 

 井戸から引き揚げた冷水で意識を完全に覚醒させ、食堂に戻る。

 そのまま、席に着いて朝食を食べることにした。


 燻製させた芳醇な香りと脂を焦がした良い匂いを漂わせている肉は、俺の胃袋を遠慮なく叩き起こす。

 それを焼き立てのパンに挟み、肉汁を利用した特製ソースと野菜をミックスしたサンドは正に絶品だった。


 ……満腹だぜ、ダリオのオヤジさんよぉ。



 俺はそんな言葉を頭に浮かべつつ、一度部屋に戻った。


 壁に立てかけてある剣を装備して、今日の予定について考えることにする。

 できれば今日もこの宿屋に泊まりたいのだが、お金が足りない。


 金を稼ぐには、やはり依頼を受けるしかないだろう。

 雑用系の依頼を受けるのもいいが、せっかくジグさんから剣を貰ったのだから使ってみたい。


 暗くなると危険だから、午前中に討伐の依頼を終わらせ、午後は雑用系の依頼を受けることにしようか。

 結構ハードかもしれないが、それぐらいしないと借金返せないし。



「――じゃあ、行ってきます」

「ああ、行っといで。あんたの分の部屋は空けとくからね」


 俺がダリオさんの料理を褒めるのはフロワさんにとっても嬉しいらしく、俺が金を稼げる確証はないのだが、部屋を空けといてくれるそうだ。

 やる気も湧くってもんですよ。


 ギルドに着くと、まだ早朝であるのに関わらず既に賑わいをみせていた。

 この世界では皆朝が早いのか?

 そこまで夜更かしできないもんね。


 掲示板の前に立ち、ランクE-の依頼を見る。

 しかし、魔物の討伐依頼というのはない。


 ちなみにランクE-であっても、E、E+の依頼を受けることはできる。

 依頼はギルドによって綿密な細分化がされているが、必ずしもそれが万人に共通する難易度とはいえないからだ。

 要はE-~E+の依頼を自己裁量で(職員に相談の上)、達成できると思うなら受けてもいいってことだ。

 これはDやCといった上位ランクでも同じらしい。


 ただしランクアップに必要な達成カウント数は、ランクE-の者がランクE+の依頼を受けようと、一回は一回である。


 難易度が大きく変化するのは、EからD、DからCへと昇格するような場合だ。

 だからこそ、そこを境に試験が定められているのだろう。


 というわけで、E、E+の依頼も覗いてみる。

 ちらほらとあるようだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

メルベイルの南にある森で多量発生中の緑イモムシを五匹退治。

報酬は500ダラ。過剰分は一匹につき100ダラを追加報酬とする。

依頼主:メルベイル警備隊

期限:なし

討伐証明部位:触角

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ランクEでこんなん出ました。

 イモムシなんて踏みつぶしてやらぁっ。


 意気揚々と依頼書を受付に持っていく。

 対応してくれるのはお馴染みシエーナさんである。

 他の職員さんもいるのだが……べ、別に狙って行ってるわけじゃないんだからねっ。


「――あ、セイジさん。おはようございます。今日は魔物の討伐ですか? 魔物との戦闘は追々と言っておられましたが……」

「イモムシ相手ならいけるかなって思いまして」

「そうですね。武器も持っておられますし、力もお強いので大丈夫だと思います。ただ……意外と大きいですよ?」


『力も強い』辺りのくだりで、早く弁償代を払えと催促されているのではと被害妄想をしつつ、依頼手続きを済ませて一路南の森へ向かうことにする。


 その前に、商業区にある適当な店で革製の袋と小袋を一つずつ購入しておいた。


 小袋はベルトに提げて財布袋に、革の袋は討伐証明部位を入れるためのものである。

 おかげでほぼ文無しになった。


 南門付近には、見知った顔のニコラスさんがいたので挨拶だけしておくことにする。


「おう、セイジじゃねえか。どこ行くんだ?」

「南の森で緑イモムシを退治しに行くんです」

「あー、結構大量に発生してるらしいからな。っていうかお前、魔物と戦えるのか?」

「え、イモムシですよね?」

「イモムシだ。まあ、数が多いだけで弱いから武器がありゃ大丈夫だろう……ただし、結構でかいぞ?」


 ……皆、フラグ立てるの好きだねぇ。


 歩くこと数十分。

 しばらく街道に沿って進むと、やや街道から外れたところに森が見えた。

 ギルドで教えてもらった場所と一致する。


 気候は穏やかなものだ。この世界に四季はあるんだろうか?

 淡い緑が生い茂る森の中は、微かに湿り気がある。

 大きく息を吸い込むと青臭い匂いが肺いっぱいに広がり、心地良い。

 これがフィトンチッドってやつか。沁みるぜ。


 しばらく森の中を散策する。


「ピギィィィィッ」


 なんか出た。


 うん、なんていうか……皆がやたらとフラグを立てるので、心の準備が出来ていたことが幸いした。


 でっけぇっ!


 俺の身体の半分ぐらいあるんだけどっ。

 これなんてイモムシ? ってか、成長したら何になるんだ?


 などと考えてると、緑の身体をフルフルと震わせた後に全身をバネのようにして空中へと跳躍しやがった。


 フライングボディアタックを敢行するイモムシ……シュールである。


 一応ながら相手のステータスを確認するが、こいつが緑イモムシなのは確定で、スキルを持っていないかも確認する。


《状態異常耐性Lv1(2/10)》


 あるじゃないですかっ。

 やったね。魔物がスキルを持つということの発見は大きい。


 そういえば、一日に何回盗賊の神技を発動させられるかを試していないな。

 こいつから盗むにしても状態異常にするような行為をとれない以上、相手のスキルを視認できないので盗めない。


 今日のところは諦めるか。


 相手の跳躍攻撃をバックステップすることで躱す。

 やはり動きは遅い。これなら十分に対処可能だ。

 地面へと弾んだ身体を見る限り、そこまで重たい一撃でもない。


 ふたたびフライング――


「――フッ!」


 剣を抜くまでもなかった。相手の跳躍に合わせて全力で蹴りを放つ。


 ぶにゃりっ! 


 という感触を脚に感じたかと思うと、イモムシは身体をくの字……というよりもさらに鋭角に折り曲げられてすっ飛び、樹の幹に打ちつけられた。


 ぶしゃあっ――と体液が撒き散らかされるスプラッタな現場で、俺はふと思いを馳せる。


 子供の頃って蛙を爆発させたり、蟻の巣を水没させたり……酷いこといっぱいするよね?

 だから、これも……うん、そんなに……酷くは……ない? かな?


 実際のところ、そんなに忌避感はない。

 これが人間に近い姿の魔物なら少し抵抗があったかもしれないが、所詮は虫だ。

 が……もしかすると、これも転生による心の変化かもしれない。


 とりあえず、グチャミソになってしまったイモムシから頭に生えてた触角を回収する。

 剣でサクっとね。


 その後も順調に惨劇を森の中で繰り広げ、目標の五匹を狩り終わった。

 時間にすればほんの一時間ほどである。

 最弱の魔物を相手にして調子に乗るのは良くないが、この身体能力強化のスキルってかなりすごいね。


 これならば雑用系の依頼より余程効率良く金を稼げるだろう。


 もう少し奥まで行ってみるか――



 それがいけなかった。

 そこで俺は最強の魔物に出会うことになる――なんてことはない。



 ただ、イモムシじゃない奴が出現した。

 それだけだ。


 緑色の体躯は子供ほどの大きさでしかないが、骨ばった身体に浮き出ている筋肉はかなり発達している。不気味に尖った耳、濁ったような黄色い瞳、曲がった鷲鼻に不揃いになっている乱ぐい歯。その手には短剣を構えている。


 威嚇するような声を上げているのは――スモールゴブリンちゃんだ。

 確か、こいつも掲示板にランクE+で依頼書が出てた。討伐証明部位は耳だったはず。


 順番が前後するが、別に依頼を受ける前に倒しても問題ないだろう。

 ギルドに戻って依頼を正式に受けてからすぐその場で証明部位を提出すればいいだろう。


 しかしまあ、相手を『ちゃん』付けするほど俺のテンションが高まってるのには理由がある。


《剣術Lv1(4/10)》


 きたぁぁぁっ。

 盗るぜぇ~、盗っちゃうぜぇ~。


 緑イモムシはあっけなかったし、E+の相手でも大丈夫……だろう。


「ギャギィィィィっ」


 奇声を上げながらこちらへと駆けてくる相手の速度は、やはり遅い。

 俺は鞘から抜き放った剣を油断なく構えた。

 いくら遅いとしても短剣は立派な刃物だ。


 スモールゴブリンが剣を突き刺そうとする一撃を半身ずらして回避し、間合いをとる。

 これで相手の剣術は視認した。


「ハッ――」


 勢いよく地面を蹴り放って一気に間合いを詰める。その速度に醜悪な顔を歪めて驚愕の表情を浮かべた相手だったが、それでも俺が袈裟斬りにしようとした一閃を器用に受け止めた。


 これは俺が剣の扱いに慣れていないために無様な剣筋だったことと、向こうが剣術スキルを持っていることから当然の帰結といえる。


 が、力は圧倒的に俺の方に分がある。

 鍔迫り合いの最中に、空いている方の手で軽く相手にタッチしてから押し飛ばす。

 確率としては、13%。

 まだまだ少ない。


 しかし、どうやら俺は幸運値が高いのではないかとニヤけてしまいそうになった。



「――お前……もう終わりだよ」

「ギャギグイ……ピャッ」



 今度は、随分とマシな剣閃だったと思う。

 断たれたスモールゴブリンの頭がゴロンと地面に転がり、虚ろな眼が宙空を見つめたままで静止する。


 不思議な感覚だ。

 なんていうか、自然と剣を振るう際にどう動けばいいか頭に浸透してくるみたいな。



 剣術Lv1……美味しくいただきました。




 さて、どうするべきか迷う。

 当初の依頼を果たしのだから、帰るべきだろうか。

 でもせっかくだから、盗賊の神技の一日使用限度回数を調べてみたいな。


 奪える可能性があるスキルを持っているのが今のところスモールゴブリンだけなので、重点的に奴らを探すことにしよう。

 でも、既に持っているスキルを再度盗んでも意味がなさそうな気がしないでもない。



 その後、森を探索して数匹のスモールゴブリン相手と戦闘を行ったが、失敗が続く。

 まあいい。

 これは限度回数を知るためなのだ。



 が、六匹目を相手にしている最中に強奪成功の感覚を味わう。

 ふーん、既に持ってるスキルでも盗れるっちゃ盗れるのか?


 そう考え、自分のステータスを確認する。

 なん……だと?


《剣術Lv1(8/10)》


 となっている。

 おかしい、ついさっきまでは(4/10)だったはずだ。

 今倒した相手のスキルも(4/10)……



 もしかして……同じスキルを盗んだ場合って、熟練度がプラスされるのか!?

 それにしてもいきなり倍とか。



 さっきから魔物相手に随分と剣を振るっているが、俺自身は剣術スキルの熟練度を一つも上げることは出来ていない。


《身体能力強化Lv3(4/150)》


 ほらぁ、こっちのスキルもあれだけ動いてるのに、全く変わりないよ。

 この熟練度ってのはおそらくすごく上がりにくいものなんだろう。


 これはもしかすると、上手くすれば凄いことになるかも……。



 厨二的な妄想を一頻り頭に展開させ、実験を再開した。


 結局、その後は盗むことに成功こそしなかったが、限度回数はLv1だと十回であることを確認した。


 今の場合だと自己保有スキルの総Lv数は5となる。

 成功確率が14%とすれば一日に一、二回ぐらい成功する計算だ。

 勿論スモールゴブリン相手であれば、だけども。


 やったるぜよっ。



 まあ今日のところは街に帰って休むことにしよう。

 結構疲れた。


 ~~♪


 な~んて、とても明るい気分でメルベイルの街へと戻る。

 まだ陽が沈むには少し早い時間だ。


「おっ! 無事に生きてやがったな。どうだ? 成果は?」

「いえいえ、もう最高ですよ」

「ふーん、良かったじゃねえか。イモムシでっかかったろ?」

「そうですね。それ以上に収穫は大きかったです」


 さてと、これだけ討伐すればかなりのお金になる。

 ひょっとすれば借金だって一気に返せるかもしれないぞ。


 ホクホク顔でギルドに向かい、シエーナさんの下へ。


「――セイジさん、お疲れ様です。緑イモムシの触角が合計で十個ですね」

「シエーナさん」

「はい?」

「実はスモールゴブリンも倒して耳を取ってきたんです。掲示板から依頼書を持ってくるんで、一緒に処理してもらっても良いですか?」

「え? その、依頼を受けずに倒されたんですか……?」


 あれ? この反応はなんかヤバいかも。


「あ、いえ、証明部位の状態は念入りに確認致しますが、結論から申しますと報酬はお支払いできますよ」


 お、おう。良かった~。


「申し訳ありません。セイジさんが魔物との戦闘は控えると当初に言っておられたので、説明を失念しておりました」


 言って、シエーナさんは手元から一枚の依頼書を差し出す。

 これって……スモールゴブリンの討伐依頼書? あれ、掲示板にあるんじゃ……


「緑イモムシもそうでしたが、この依頼は期限がないのです。多くの冒険者が受けることのできる――常時依頼というものになります。森で無数確認される魔物のため、証明部位の状態が近日の物であれば後付けでも依頼達成を認めることができます」


 なる……ほど?


「ただし、常時依頼ではないもの――手強い魔物を討伐される場合は、必ず依頼を受けてから倒すようにしてください」

「……えーと、なんでですか?」

「依頼者が討伐を望んだ個体以外を討伐したとしても、意味がありませんので」


 理解しました。

 つまりアレですね。

 ある村を襲った凶悪な魔物Aを討伐依頼に出したら、全く関係のない場所で同種類の魔物Bを倒した冒険者がおり、タナボタで依頼達成されてしまうと困る、と。


「さすがに依頼を受けてからだと、わざわざ別個体を探すのは意味がないことだから間違いはほぼ起こらないってことですね」

「はい。そのため常時依頼以外は必ず先に受付を済ませていただくよう、お願いします。ではこちらのスモールゴブリンの耳もお預かりしますね。少々お待ちください」



 ――結局、触角と耳が十個ずつ。

 緑イモムシ十匹が1000ダラ。

 スモールゴブリン十匹が1500ダラの報酬である。

 しかも依頼は五匹討伐が条件のため、二回ずつ達成した扱いとなり、合計依頼達成回数は五回となったのだ。


 こちらの方が断然実入りが良い。

 早速ながらギルドへの借金を返済し、残りの額を受け取ることにした。


「それにしても、セイジさんは魔物との戦闘経験があったのですね。一人でこの戦果はランクDに匹敵するかと思いますよ」

「まあ、剣を握ったのは今日が初めてなんですけどね」

「ふふ、あまり大人をからかわないでくださいね」


 大人のお姉さん的な笑みで完全にスルーされました。悔しいですっ!


「あ、もしセイジさんが今後も魔物の討伐を行うのでしたら、あちらにある素材買取カウンターもご利用くださいね」


 手で示されたのは、一階部分の突き当たりにある場所だ。

 へ~、あそこで素材売れるんだ。どんなものが素材として有用なのかを後で聞いておこうかな。


「それでは、セイジさんが良き冒険者になられるよう」

「はは、十日後には上級剣士ですよ?」

「楽しみにしていますね」


 ――クスリと微笑むシエーナさんには悪いが、俺はかなり大真面目であった。


確率計算はそこまで厳密にはしていません。

が、概算はするつもりです。数%は運もありますので。

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― 新着の感想 ―
※失敗時、同対象の同スキルには永続的に発動不能。 の同対象の部分を読み飛ばしていたことに気づきました。モンスター相手なら気軽に試せて同スキルを盗むと熟練度が手に入るのがワクワクします。軽く読めて設定…
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