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3話【鍛冶師ジグ・サルマン】

なかなか強力なスキルですが、もっと人外なスキルを盗みたい。


でも、結構難しそうです。

「それじゃあ、この資材配送の依頼を受けたいと……」

「分かりました。まあ、さっきのような怪力があるのなら問題なく依頼を達成できると思います。場所は商業区を抜けて東側にある工業区の倉庫ですね。地図で場所をお教えしますので、後は現地での指示に従ってください……それと、一ヵ月以内に1500ダラの返済を忘れないでくださいね」


 ちゃんと弁償代増えてるね、うん、まあ、最終的に壊したのは俺だし。


 それにしても、この身体能力強化のスキルは常時発動型なんだろう。

 明らかに身体が軽いし、力も湧きあがってくる。地面を駆ける速さも段違いである。


 もしやと思い、自分のステータスにあるスキルに意識を集中してみる。


《身体能力強化》――身体能力を強化する。素の肉体への割合補正のため、肉体の鍛錬により相乗効果が期待される。熟練すれば種族間の身体能力差も凌駕するだろう。武芸との相性が良い。


 なんか出た。これ……かなり使い勝手が良いスキルだと思う。

 レアなんだろうか? まあ、スキルは組み合わせとかで有用性が変わるだろうけど。

 要は使う者次第……ってことか。


 あれ、今自分でハードル上げた? 上げちゃった?


 コホン……これは、異世界に転生した主人公が面白可笑しくほのぼのと過ごす生活をまったりとお楽しみいただくためのものです。過度な期待はご遠慮ください。


 ってか、こんなアホなことしてる場合か。東の工業区だったな。


 にしてもあの筋肉風船……バルーン? だっけ? には感謝しなきゃな。

 奴がこのスキルを失ってどれくらい弱体化するのか分からないが、元々筋骨隆々だったんだから……いいよね。


 ってか、素の肉体は明らかに俺のが弱いんだから、あのテーブルが壊れたの最初にアイツが殴ったせいじゃね?


 ――盗賊の神技も数値が(1/10)に変化していた。察するに成功回数ごとに熟練度が増していくってところか。だが今の状態だと成功率が低すぎて話にならない。


 スキルLvをどんどん上げるか、自己保有スキルの総Lv数を底上げする必要がある。総Lv数を上げたいなら、不要なスキルでもLvの高い物を揃えれば良いが、それをするにも成功率が低すぎるな。

 それにスキル枠の上限が10なのに不要なスキルを入れていいものか。

 10を超えれば破棄が可能なのか気になるが……まだ一つなので、そこまで深くは考えなくてもいいかな。


 しばらくは地道に熟練度を上げるのが一番だろう。

 それに、誰から奪うかってのも重要だ。

 魔物がスキルを持ってるかは早急に確認したい。


 別に、スキルがないと全く戦えないわけじゃないだろう。

 あの職員は決して一流にはなれないだろうって言ってただけだ。この身体能力があれば弱い魔物相手で怪我することは……



 ――っと、まあ今は依頼のことを優先的に考えるか。


「ああ、冒険者の方ですか? 良く来てくださいました。私は商人のバトと申します。実はですね。今回これらの荷物を工業区で仕事をしている職人さん達に配達してほしいんですよ」

「どうも、セイジと言います。本日は宜しくお願いします」

「結構な重さですが……その、大丈夫でしょうか?」

「ちょっと試しても良いですか? ……っほ!」


 積まれていた木箱の一つを持ち上げてみる。確かに、重い。

 が……


「これなら二個ぐらい一度に持てます。木箱は……全部で十箱ですね」

「……見かけで判断するとは、私も商人としてまだまだ未熟だったようです。ではこれが職人の工房場所を記した地図です。お願いしますね」

「はい」


 その際に、チラリとだけ商人のステータスを確認してしまう。


 スキルは《商才Lv2》と《剣術Lv1》か。剣術の方はほとんど上がってない。おそらく護身用ってところか。


 商才ってどう視認すればいいんだ? 相手が商売で凄い活躍してるのを見ればいいのか? 

 ……いや、別に盗らないけどさっ。これ、癖になりそうで困る。



 その後、工業区で木箱を抱えての往復を繰り返し、依頼を順調にこなしていった。

 工房と売り場も兼ねている最後の一軒に木箱を運ぶ際、店の外観からそこが武具を作成する鍛冶屋だと悟る。

 だから何かって?


 いや、鍛冶屋ですよ? 熱い鉄を打ち、鋼を鍛造し、何者をも切り裂く最強の剣をっ! 黒い! 硬い! そこにシビれるっアコがれるぅっ!


 ……仕事しなきゃ。


「失礼しまーす。バトさんの使いの者です。ご依頼の荷物持ってきました~」


 返事はない。

 いない、のか?


 売り場になっている部分から少し奥へ――工房と思われる場所へと近づく。


「すいませ――」


 ――途端


「デッけぇ声だすなっ! 聞こえとるわいっ!」


 きたこれっ! 半ば予想してたけど、髭もじゃに俺よりもかなり低い身長、それでいてガチリとした筋肉――ドワーフのご登場です。パチパチパチ


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:ジグ・サルマン

種族:ドワーフ

年齢:57

職業:鍛冶師

スキル

・鍛冶Lv4(54/500)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 Lv4きたぁぁっ! すげぇぇ。かなり優秀な鍛冶屋とみた。


「勝手に工房に入るんじゃないっ! 全く……荷物はそこらに適当に置いておけ」

「すいません、一応売り場の方から呼ばせてもらったんですが……」

「ふん……お前、冒険者か? ガキが粋がってると早死にするぞ」


 ギルドカードは首から提げているので、冒険者であるというのは一目で分かるだろう。

 ちなみにこのカード、俺の指を押し付けると裏面に名前とランクが浮かび上がる。

 何かの魔法か?


「一応これでも18歳ですからね。危険なことに無暗に突っ込みはしませんよ」

「……なぬ? 10歳程度かと思ったわ」


 それ、言い過ぎっ!

 ジグさんだって歳のわりに若く見えるけどなっ! 種族違うからよく分かんないけど。


「冗談だ。にしても……冒険者なら少しは装備を整えたらどうだ。んなこっちゃあ、魔物と戦うなんざ無謀だぞ」

「今日、冒険者になったばかりなんです。これが初めての依頼でして……借金もあるので、しばらくは装備品に贅沢は言えないですよ」

「ふむ……お前、将来魔物と戦うような依頼も受けるつもりなのか?」

「受けてみたいとは思ってます」


 ジグさんは面倒くさそうに立ち上がり、頭をガリガリと掻きながら売り場へと歩いて行く。

 何かしたか、俺? 

 とりあえず、後ろについてく。


「お前ぇ、何か得意な武器とかあんのか?」

「や、残念ながら、まだ何も」

「ふんっ、ならこれをくれてやるよ。使い方は自分で覚えろ。ないよりゃマシだ」


 ジグさんが投げ渡してきたのは、全長が50cmほどの刀身と柄頭が一体になっている剣だった。鞘から抜くと、鈍色の煌めきが俺の瞳に反射する。


《バゼラード》――一般的には短剣だが、全長50cmのものはショートソードともいえる。使い勝手の良さや軽重量であることから、剣に馴染みのない者でも扱いやすい。


「これを俺に……くれるんですか?」

「ひよこ冒険者への餞別だ。だがタダでやったと思うなよっ。お前が一端に成長したら、この店でもっと高価な武器でも買ってくれりゃそれでいい……若いんだから、死ぬんじゃねぇぞ」


 涙腺決壊のお知らせ。


 いや、なんとか堪えたけどね。

 事故死とか、転生とか、荒くれの因縁とか……正直ちょっと疲れてた俺の心が、なんか温まったよ。


 いくらツンデレ成分に飢えていたとしても、さっきのジグさんの言葉を


『べ、別にタダであげるわけじゃないんだからね。ちゃんとあたしのお店で将来高価な品物買いなさいよ。そ、それまで死んだらダメなんだからね』


 と頭の中で翻訳してしまった俺は、土下座して謝罪したい気分でいっぱいだ。


「ありがとうございます」

「ワシはジグだ。まあ、頑張れや」

「俺はセイジっていいます。必ずまた来ます」




 ――ジグさんの店を後にして、バトさんの元へと向かう。

 全ての荷物を運び終え、依頼書に署名をもらえば依頼達成である。


「おや?」


 依頼書に署名しようとしたバトさんが、俺の腰にある剣を見やる。装着するための革のベルトもジグさんから貰ってしまった。

 ここまでされたら、剣術スキルを盗るしかないだろ。

 いや、バトさんからは盗らないよ?


「その剣……もしかしてジグさんの作じゃないですか?」


 見ただけで判別できるのか。さすが商才Lv2。

 全然関係ないだろうけど。


「ええ、駆けだし冒険者に餞別だって貰いました」

「それは良かったですね……セイジさん、これからも冒険者として頑張ってください」




 なんか心温まるわ~。


 やだ、もう~。

 意外とこの街の人って良い人多いじゃんか。


 さてさて、ギルドに戻って依頼達成報告と報酬貰うことにしよう。雑用系の依頼は危険がないかもしれないが、割と時間はかかるものが多いのかも。

 もう日暮れ前である。

 宿屋には陽が沈む前にチェックしてインしたいもんだ。


 軽い足取りで南の商業区まで急ぎ、ギルドの門を開く。


 受付嬢の明るい笑顔、この世界での初めての報酬、そして暖かい寝床。

 ワクワクである。


 が、ギルド一階の室内は喧騒に包まれており、聞き覚えのある野太い声で男が怒鳴っている姿が視界に入ってしまった。


 ――やだ、もう~。

読んでいただき、ありがとうございます。

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