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7話【決着の行方】

賛否両論ありそうな話ですが、

投下しますb

 ――イメージしたのは、全てを断ち切る虹の剣閃。

 大気を切り裂く衝撃波。


「――――ぅ……おぉぉぉっ!!」


 傷めた横腹が悲鳴を上げるのを無視し、俺は剣を最後まで振り切った。

 放たれた三日月状の剣閃が、魔族の練り上げた大火球と激突する。


 時間にすればほんの数秒――せめぎ合いが続いた。

 炎が空気を舐めるような音とともに荒れ狂い、火球から漏れ出た火の粉が地面へと飛び散る。


 いけ――――そのまま、いってくれっ……!!


「馬鹿な……私が押され――る――……」


 微かにそんな声が聞こえた思った瞬間――相手の火球が二つに割れた。

 轟音を伴って弾け飛んだ炎塊の残骸が、辺りに撒き散らされる。


 虹の剣閃の威力はかなり殺されてしまったようだが、まだ消滅していない。

 火球を切り裂き、魔族へと突き進んでいく。


 同時に、俺は残った力を振り絞って地を蹴り放った。


「――っく!!」


 後は仕留めるだけと思っていた獲物から予想外の反撃を受けた驚愕か、それとも自らの魔法を破られたことに対する屈辱か――魔族が身体をわずかに硬直させる。


 空を裂く六色の斬撃が相手の肩から反対側の腹に走り、次の瞬間には一色のみ――赤色の液体が空中にほとばしった。


 それでもなお、俺は走る足を止めない。

 これで倒せたと思わない方がいい。

 油断などしていい相手では、ないのだから。


「ふ……ざける、なっ――こんな……ことが」


 地面へと伏すことなく、魔族は地に突き刺していた槍を片手で掴み取ると、追撃をかける俺へと向き直って構える。


 ……どれだけ頑丈なんだよ。


 だが、その動きにさっきまでの俊敏さは感じられない。


「これで――――」


 突き出された槍の穂先を回避すると同時に、俺は全力で逆袈裟に剣撃を放った。


「――――終わりだぁぁぁぁぁっ」


 金属同士が擦れ合う、鈍く重たい音とともに……魔族の持っていた槍が大きく宙に舞う。

 それは回転しながら俺達から離れた位置に突きたち、湿原のオブジェの一つと化した。


 俺の剣は相手の喉元寸前で……いや、微かに剣先が喉に刺さっている状態で止まっている。

 魔族の喉から赤い血液が一筋垂れ、血に染まった上半身に混じっていく。


 この距離であれば弓での抵抗は勿論、体術に優れようと逃れ得るものではない。近接した状態での魔法も言わずもがなだ。



 ――勝負は、決した。



 時が停止したかのような静寂。


「……負けたか。それもいいだろう……殺すといい」


 魔族の口から、そんな言葉が漏れた。

 先程までの威圧感は薄れ、空虚な瞳がこちらを見据えている。

 相手の心情など、正直俺には分からない。


 だが、どうすべきかなんて決まっている。

 殺すべきだ。


 この勝利は、俺の実力からして奇跡ともいえる結果である。

 他を劣等種族として見る魔族……実際に相対してそれが真実なのだと確信した。

 生かしておくのは……危険すぎる。


 突き付けている剣を、もう半歩ほど押し込めば命を奪うことができるだろう。

 それだけで済む。

 だけど……



 ――今まで、魔物の命は数多く奪ってきた。

 そこに罪悪感を感じたことはない。

 スモゴブのような割と人間に近い形を持つ奴らについてもだ。

 しかし、目の前の魔族は……あまりに人型に近過ぎる。


 言葉を交わしたのも……いただけない。

 知性があるというだけで、ここまで躊躇う気持ちが湧きあがってくるなんて……


 そんな俺の逡巡を察したのか、魔族がこちらへ言葉を投げかけてきた。


「どうした? 殺さないのか? ……まさか人間が魔族を殺すことに躊躇しているということはあるまい」

「……訊きたいことがあります」

「なんだ?」

「なんで、魔族は他種族に攻撃を仕掛けるんですか?」

「……逆に訊こう。なぜ他種族は魔族とみれば攻撃してくる」

「それは……過去に魔族が世界を征服しようとして……他種族を蹂躙したから、でしょう」

「そうだな。だが憎き竜どもに阻まれ、今は過去の栄華を取り戻そうとしている。魔族の大部分はそれにあたるな」

「……あなたは違うとでも?」


 相手は、目を閉じることでそれを否定する。


「先程の質問が『魔族』ではなく、私個人に対してのものだったとしても……違うとはいえないな。むしろ栄華を取り戻すための礎として、貢献させられる身の上だ」


 わずかに自嘲が混じったかのような口調で、そんな言葉が紡がれた。


「人間を殺すことについても、躊躇する気持ちなど持ち合わせてはいない。もっとも、先に攻撃してくるのは大抵が相手側だがな」

「確かに今回は先にこちらが手を出しましたが……その後、俺は何度か交渉しようと試みたじゃないですか」

「……話が逸れたな。私が言いたいのは、遭遇すれば戦うのが普通だということだ。これで先程の質問の答えになったか?」


 さも当然のように、そんな言葉が放たれる。

 俺は一体、何をしている……?

 この剣を押し込む切っ掛けが必要なのか、それとも剣を引く言い訳を探しているのか……


「もう一つ。なんでこんなところに落下してきたんですか? 魔族が住む地域ってもっと南でしょう」

「……そう、だな。今回に関しては私の方が攻撃を仕掛けたといえるか」

「どういう……意味ですか」

「ここより南の方角に、人間どもが建てた砦の一つがあるだろう。そこを襲撃したのだ」


 なん……だと!?

 王国と未開拓地域との境目に建てられている砦が、襲撃された……?

 まさか、魔族の集団が北上してくるのか!?


「だが私一人では多勢に無勢でな。返り討ちにされた挙げ句、傷を負ったルナが上手く飛べずにこんなところへ墜落したわけだ」

「え、一人で……?」


 いくら魔族でも、単騎で砦に突っ込むなんて……何考えてんだ?


「その理由を言うつもりはない。もういいだろう。殺すといい」


 そう……殺すべきだ。

 何を躊躇うことがある。



 この魔族の持っている武芸スキルと魔法スキルは全て視認した。

 俺が元魔法を所持していることを踏まえると、武芸スキルを優先して奪っていくことが望ましい。

 特に盗賊の神技は直接相手に触れることで発動するため、体術の必要性をこの戦闘で強く思い知らされた。先ず盗るのなら体術――



 ――そんな考えが、完全に今の俺の頭の中からは抜け落ちていた。


 頭に渦巻くのは、剣を押し込むか、否か。

 心臓の鼓動が、早鐘を打つかのように身体に響き渡る。


 ――剣を握る腕に力を込めた。


 ここで、この世界で生きていくのが楽しいと思ったのは、周りにいた皆のおかげだと今でも感じている。

 皆に危害を与えるかもしれない危険分子は、減らすべきなんだ。


 俺は――そのまま相手の喉に深く剣を突き刺すように――



「クォォォッ!」



 瞬間、静謐に満たされた湿原に、懇願するかのような鳴き声が響いた。

 ――魔族の乗っていた騎獣によるものだ。


 矢が刺さったままの身体を引きずるようにして、こちらへと近づいてくる。

 この魔族を守ろうとしているのだろうが……その力が残っているとは思えない。

 ほとんど地面を這っているような状態だ。


 その歩みはしばらく続き、俺と魔族が向かい合っている近くで止まった。

 ゆっくりと腹が動いて息をしてるのを見ると、死んではいないのだろうが……さすがにもう動けないようだ。


「一つ、頼みがある」

「……なんですか?」

「私を殺した後、ルナにもトドメを刺してやってくれ。長く苦しむのは……可哀想だから」


 …………止めろよ、俺。


 ……なに考えてるんだよ。



「私の我儘に付き合ってくれて……ありがとう、ルナ」



 くそっ……。

 だが、これだけは確かめておく必要がある。


「最後にもう一つだけ訊きたいことがあります。スーヴェン帝国の南――ここからだと、あのレーべ山脈を越えて南に下っていった辺りに獣人の村があったはずです。そこが魔族に襲撃されたんですが……あなたはそれに加わっていましたか?」

「スーヴェン帝国の南……か。私は知らないな」


 ――アーノルドさんに後で聞いたのだが、村を襲った魔族は残酷極まりない奴らだったという。まるで殺しを楽しむかのように蹂躙していったそうだ。


「私は……人間を殺すことに躊躇いはないが、そのように楽しむ趣味はない。が……そういったことをしそうな奴に心当たりがなくもないな」

「それって……」

「言っても分かるまい? ……まあ、その獣人の村から南へ進めば嫌でも会えるだろうがな」


「――分かりました。じゃあ、二択に答えてください」

「どういう、意味だ?」


 訝しむようにこちらを見やる魔族の視線を受け、俺は横に転がっている騎獣を顎で示す。


「まず、そこの騎獣を殺すというのは無理です。俺はあなたと約束しましたよね? ……騎獣には絶対手を出さない。その代わり、あなたもこっちの連れに手出しをしない」

「なっ……」

「大火球で俺を殺そうとした時、約束は守ってやると言ってくれてましたし、実際に手を出さなかった。俺だけ約束を破るわけにもいきません」

「ふざ――「……けてなんかいませんよ? 至極真面目に言っています」


 そう、相手が約束を守ったのだ。こちらも守らねばなるまい。


「ですので、このままだと……えーと……ルナちゃん? は苦しんで苦しんで死ぬことになります」

「お前っ……!!」


 激昂する魔族を正面から見据え、俺は言葉を続ける。


「施しはお断りなんでしたっけ? なら対価をきちんと払ってください」

「なん……だと?」

「そこの騎獣を治療する代わりに、対価を払ってくださいと言っているんです。それに……元気になったら暴れそうなのであなたが責任を持って連れ帰ってください。なんなら、あなたの傷だって治療してあげますよ」


 魔族が呆けた顔をする瞬間というのは、貴重かもしれない。


「正気か……? 傷が癒えた瞬間、お前にふたたび危害を加えるかもしれんぞ」

「状況は異なりますが、これは俺が最初にあなたへ提案した内容ですよ? それを蹴った上で勝負した挙げ句、敗北して相手の提案を呑む……これ以上は恥の上塗りだと思いますが」


 歯噛みするようにしてから、相手が笑った。


「なかなか……言うものだな」


 ……これでもし万全の状態で襲われたら死ねそうだが、その場合は甘すぎた俺の命で清算することになるだろう。


「とまあ、それが二択の内の一択です。もう一つの選択肢についてですが……」


 俺は突き付けている剣をわずかに動かし、精一杯の不敵な笑みとともに言葉を紡ぐ。


 ――それとも死ぬか? なんてことを言えれば格好良いのかもしれないが。



「――――それとも俺のペットになるか、です」



「ふ……はは、あはっははは――――……本当に、おかしな人間ね」


 ――気のせいだろうが……その一言だけは、どこか冷たい印象を受けないものだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ゴトッと音を立てて、大型の弓が地面へと投げ捨てられる。

 一応だが、治療中は魔族に武装解除をしてもらうことにした。

 体術だけでも危険だが……そこは相手が抵抗しないと信じるしかない。



 ――魔族が選んだのは、当然ながら一つ目の選択の方である。

 実際、言ってみたかっただけの二つ目をもし選択されたなら、戸惑うだけだったろう。


「これでいいか? 裸になれと言うのならばそれに従うが……」

「ぇ!? や……そこまではいいです。逆に治療に集中できなくなりそうなので」

「そうか」


 そんなやり取りの間には『やだ恥ずかしいっ、キャッ』みたいなアレは勿論ない。魔族はあくまで武装解除の一環としてそんなことを言っただけのようだ。


 リムには後で事情を説明するからと伝え、もうしばらく待機するようにお願いし、早速ながら騎獣の治療を開始した。


 ちなみに、俺の横腹はもう自分で治療を終わらせている。

 魔族は傍らで大人しく様子を窺っているが、あちらの治療は後回しだ。


 身体に突き刺さっている矢を引き抜くと同時に、片手で《治癒光(ライトヒーリング)》をかけては傷口を塞いでいく。


 ――何度もそれを繰り返し、最後に残ったのは弩から放たれた大型の矢だった。

 深々と身体を貫いているので、片手で引き抜くのは苦労しそうだ。


「ちょっと手伝ってもらえますか?」


 俺の言葉に、魔族は素直に頷きを返す。


「ああ、分かった」


 ゆっくりと矢が引き抜かれていく傷口へと、両手で《治癒光(ライトヒーリング)》をかける。

 騎獣はやや苦しそうな呻き声を上げたが、ジッと耐えていた。


「――ふぅ、これで騎獣の治療は完了ですね」


 結構な時間を要したが、なんとか治療を無事済ませることができた。

 ここで俺は改めて騎獣の姿を凝視する。


 ルナ、か……種族はグリフォン。鷲の上半身に獅子の下半身……かな?


 所持しているスキルは《爪術Lv3》に《風魔法Lv2》――《知覚鋭敏Lv3》……?

 もしかして、これのせいで俺の光学迷彩が見破られたのだろうか。


 今は大人しくしているところを見ると、この魔族の意を汲んでいるのだろう。

 デキた騎獣である。


「……さて、じゃあ次はあなたの番ですね」


 続いて、魔族の治療も開始する。

 まずは俺が放った斬撃で裂けた肩から腹にかけて、だ。

 といっても、火球とせめぎ合って威力が弱まっていたために、傷は深くない。

 掌をかざすようにして、肩から胸、そして腹を順番に癒していくことにする。


 互いの身体の距離は近く、女性らしい起伏のあるラインに沿って手を動かしていくのだが……けしからん気持ちなどはあまり浮かんでこない。

 油断していれば首が180度反転するかもしれない危険を孕んだこの状態で、興奮できるほど俺は勇者にはなれないからだ。




 ――無事に魔族の治療も終わったところで、俺は一息吐き出した。

 視界の端で魔族が腰に着けている袋に手をやったのを見て、少しばかり警戒する。


「……安心しろ。ほら――」


 ――投げ渡されたのは、小さな卵型をした白輝する透明な宝……玉?


「……対価を払えと言っただろう。生憎と人間の使う硬貨というのは持ち合わせがない。その白魔水晶を換金すれば、それなりの金額にはなろう」

「……じゃあ、有難く」


 そういえば対価のことを何も考えてなかったと思い出し、それを財布袋に突っ込む。


「それはルナの分だ。あいつの対価も私が支払う……が、金になりそうなものはそれで最後なのだ。私の分の対価は……何で支払えばいい?」


 あー……と、どうしようかな。


「あちらに転がっている槍や弓を置いていけというのなら、それでもいい」


 うーむ。

 とりあえず思いつくのは、スキルなんだけどね。

 魔族からは体術、グリフォンからは知覚鋭敏をもらいたかった。

 が、グリフォンの分の対価は宝玉で受け取ってしまったので、しょうがないか。


 にしても、仮にこの魔族からなんらかのスキルをもらってから無事に帰すのはどうなのだろうか。

 盗賊の神技について話すつもりなどないが、不審に思った魔族が俺を疑い、今後魔族達から狙われる事態になることを想像しただけで胃が破裂しそうになる。


「まずは今日の事ですが……無かったことにしましょう」

「どういうことだ?」

「あなたがここパウダル湿地帯に墜落したのはイレギュラーなわけでしょう? ですから、俺は街に戻ってもこの事を報告するつもりはありません。あなたも今日のことは忘れてください。後で魔族達に復讐されるのとかはご免こうむります」


 この魔族がどういう位置づけの人物かは分からないが、偉いさんのご令嬢だったりとかしたら洒落にならない。総出でお礼参りとか、マジで泣く。


 こいつの強さから察するに、決して低い位置にいる魔族ではないと思うのだ。

 相手は了承するように頷いてくれた。


「対価については今すぐ思いつかないので……決まった時に、お願いを一つ聞いてもらうというのはどうでしょうか」

「……いいだろう」


 それだけ言うと、魔族はグリフォンの背に跨って宙に浮く。

 低空飛行で地面に落ちている弓と槍を器用に回収すると、最後にこちらへと戻ってきて何かを投げ渡してきた。


 ――その物体は何かの骨……? で作られた小さな縦長笛だった。


「願いが決まればそれを吹くといい。ルナは感覚が鋭い。ここより南の……人間が未開拓地域と称している辺りで吹けば、どこにいようと出向いてやる」


 ですよね。

 どうやって願いを伝えるつもりだったんだ、俺は。


「ちなみに、お願いの範囲ってどれぐらいですか?」

「私ができる範囲なら応じてやるさ……例えばこの身を差し出せと言われてもな」

「それって……あの、どういう意味で……?」


 妖艶ともいえるその表情は、恐ろしくも美しい。

 俺の今の心情は、肉食獣を前にした子羊のようにガクブルである。


「くっく、冗談を本気にするな……だが聞くのは一度だけだ。それ以降に馴れ合うつもりはない……私を殺さなかった事を後悔するようなつまらない男でないことを祈るぞ」

「とんでもなく恐ろしいことをサラっと言わないでください……ところで、一つ伺いたいことがあるんですが」


 これは既に俺が知り得ている情報ではあるが、本人の口から聞くことに意味がある……かもしれない。


「まだ何かあるのか」

「……あなたの名前は?」

「聞いてどうする。意味がないだろう」

「名前を知ってると、情が移るっていいますからね。正直、あなたともう一度戦うのは勘弁です……他愛もない予防策と思ってください。ちなみに俺の名前はセイジ・アガツマです」


 憮然とした顔でこちらを見やる相手が、しばしの時を経て重たい口を開いた。


「アルバ……アルバ・ミュート」


 それだけ言うと、アルバは落ちてきた勢いを逆再生にしたかのような速度で遠ざかっていく。

 しばらくすると、黒い点が見えるだけとなってしまった。




 ――本当に……嵐のような人物だったな。


「疲れた~~、もう無理」


 そのまま体を大の字にして後ろへと倒れ込む。

 湿り気を帯びた地面は、柔らかく俺を受け止めてくれた。


 ……スキルは盗れなかったけど、まあいっか。


 そんな俺に駆け寄ってきたリムの表情は、俺が無事だったことの喜びと、事情を聞きたいという色がない交ぜになってはいるが、笑顔である。

 アルバを逃がしたことを責められるかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。


 リムの笑顔は、戦闘で疲れた俺の心を癒してくれるものだった。




「――――というわけで……」

「そう、なんだ」


 俺は、先程のアルバとの会話内容をリムに説明した。

 アルバ自身が村を襲った張本人ではないとしても、簡単に納得できるものではないと思う。

 だが、リムが次に発した言葉は少しばかり俺を驚かすものだった。


「それがセイジの判断ならそれでいいと思う。あたしは魔族を……許せないけど、あたしだけだったら殺されて終わりだったもん。上手く言えないけど、あの場でセイジがそうしたかったのなら、あたしが怒る筋合いじゃないよ、きっと」

「リム……」

「それよりあたしもセイジに助けられたんだから、ちゃんとお礼するね……ありがとう」


 ああ……頑張った甲斐あったよ、俺。

 ちゃんと、守ることができたんだから。


 俺はリムの頭を一頻り撫でてから、ルークの首元もポンポンと叩いて褒めてやった。

 硬い鱗に覆われているが、ルークはどこか気持ち良さそうに鳴き声を上げて喜ぶ。


 ――さて、時間的にはまだ早いが、今日はもう帰ることにしようかな。

 今からスライムを狩る気も起きないし、景色は十分に堪能した。

 なにより疲れた。


「……なぁリム。帰りにルークに乗る際――今度は後ろ側に座ってみないか?」


「ぇ、別にいいけど……なんで?」


「そう……特に深い意味はないけど、俺へのお礼の一環といえなくもない」


 不思議そうな顔をするリムであったが、それに素直に頷いてくれた。




 ――いざ帰らんっ。メルベイルの街へ。

読んでいただきありがとうございます。


2章の折り返し地点まで、いかがだったでしょうか。

サブタイトルを付けるとしたら、ここまでは『南の悪魔』という感じです。

2章後半はあちらの悪魔も併せてどのような話に発展するのか……

セイジの決断はいかに!?


ご期待ください。




さて、年内の更新は今回で最後となるやもしれません。


年末年始は皆さまもお忙しいこととは存じますが、何卒お身体だけは壊さぬよう、祈らせていただきます。


来年も更新する予定ですので、変わらぬご愛読をよろしくお願い申し上げますm(^^)m

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