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5話【南の悪魔】

どぞ。


前半は視点がセイジではありません。

見る小説間違ったかなと思われるかもしれませんが、これは『異世界で盗賊やってます』です。

 ガラス玉のような黄金色の瞳、頭部は鷲のように鋭い嘴を有し、前脚にはかぎ爪、と猛禽類の特徴を持っている。背中に翼があるものの、決して鷲そのものではない。下半身は鳥類とかけ離れた獣のもの――獅子のそれとよく似ている。


 その生物――グリフォンがキョロキョロと辺りを見回していた。

 時折通り過ぎる人影はわずかに驚きの表情を浮かべるが、何かに納得したようにすぐに歩みを再開する。


 やがて一人の男がグリフォンの前に立ち、声を漏らした。


「本当にグリフォンを従えやがったのか……勘弁しろよな、全く」


 そう呟いた男は、長大な岩壁をくり抜いたような形状をしている洞窟の中へと足を踏み入れた。

 奥へ進むとそこがただの洞窟でないことがすぐに分かる。明らかに人工的なものだ。

 人型の生物が住むのに適した造りとなっているその場所は、陽の当たらぬ穴の中だというのに、ほのかに明るい。

 壁に飾られた石から発せられる燐光のような不思議な光が、室内を照らしていた。


 男は遠慮なく室内にいる人物に声をかけるが、それに振り向いた者の表情は決して喜びを含んだものではなかった。


「なんだディノか。何か用事か?」

「おいおい、許嫁を訪ねるのに用事が必要か? 顔を見に来ただけだ」

「そうか。ならばもう見た。帰ってくれ」


 ディノと呼ばれた男は、相手が勧めもしないのに椅子へどっかりと腰かけた。

 その身体は筋肉に覆われており、何かの毛皮を利用してあつらえた服装が、更に野性味を増すかのように錯覚させる。

 座ったとしても決して小さくは映らない。


 浅黒い肌に、血のように真っ赤な紅眼、紅髪からは小さな二本の角が見え隠れしている。

 ディノに相対している女性は、眼や肌の色こそ似通っているものの、髪の色は美しい銀色であった。角も見受けられない。


「おい……ふざけるなよ。ちっとは嬉しそうな顔でもしてみろ」

「生憎と、自分が決めたわけでもない許嫁に愛想良くするほど暇ではない」


 銀髪の女性――アルバは、冷たく言い放つ。

 ディノの機嫌を伺うような素振りは一切見られない。


「まあいい。どうせもう決まっていることだ。せいぜい可愛がってやるから、その時までに男を喜ばせる方法を一つでも覚えておくんだな」


 ディノとアルバは――魔族だ。

 二人が許嫁というのは親が決定したことであり、力ある魔族同士の婚姻によって優秀な子孫を残し、かつての栄華を取り戻そうという思惑がある。


 事実、ディノとアルバの魔族としての能力は非常に高い。

 ここアーシャ大陸の南端に位置する魔族が住まう地域には、複数のグループがあるのだが、この二人はそれぞれグループの長である魔族を親に持っていた。


「にしても……表にいたのはグリフォンだな? 厄介な相手だから必要なら捕ってきてやるといったろう。女ならもっと可愛気を見せてみろ」

「お前に頼んだのでは、ここに持ってくる頃に死んでいるだろう。それにあれは捕えたのではない。友達になったのだ」

「へいへい、よかったな」

「……正直言って私はお前が嫌いだ。もし北に住んでいる人間共の一人だったなら、真っ先に殺してやりたいぐらいにな」


 そんな言葉に、ディノは嗤いながら返答する。


「そりゃどーも。だが俺は魔族でお前も魔族だ。お前は俺の子供を産む。これは決定事項だ」

「……ルナに、お前をここに入れるなと命じておくべきだったと後悔している」


 ディノの声に微かに怒りの色が混じった。


「ルナ……? それがあいつの名前か? なら、今からでもそうしてみろよ。出て行く時に襲いかかるよう言付けてこい。まあ……その場合は遠慮なくぶち殺してやるがな」

「ほう……なら私も怒りに任せてお前を殺す切っ掛けになるかもな」


 二人の視線が交錯し、数瞬の静寂。

 静謐に満たされた空間で、先に声を発したのはディノの方だった。


「……わかった。今日は帰るとする。ったく……外見だけ綺麗でも中身はとんでもねえな」

「褒めてくれてありがとう」

「ま、そんなに嫌なら親に泣きついてみたらどうだ? 北のゴミ共を殲滅すれば、我儘を聞いてくれるかもしれないぞ」


 片手をヒラヒラとさせながら、ディノはその場を後にした。

 無論、それは冗談である。

 いくらアルバの能力が高くとも、一人で突っ込んで殲滅できるのなら苦労はないのだ。




「――ふぅ……」


 部屋に残ったアルバが溜息を一つ、それが空虚な室内に木霊する。


 しばらくの間、身動きせずに何かを考えている様子だったが、途端に機敏な動きで壁に立てかけてあった槍を手に取った。

 背中には大型の弓を背負い、かなりの重量であろうはずなのだが、軽々とした足取りで外へと向かう。


「クォォ」


 武装したアルバの姿をつぶらな瞳で見るグリフォン――ルナが、首元を撫でられることで気持ちよさそうな声を上げた。


「――ごめんね、ルナ。私のお願い……聞いてくれる?」



‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐◆◆◆



「――うわぁぁ……本当に綺麗だね」


 パウダル湿地帯の景色を見て、リムは幼さを残した子供のようにそんな感想を述べた。

 ルークの背から降りた後、はしゃぎながら両手を広げて深呼吸なんてしている。

 目の前にあるレーべ山脈の向こう側――正確にはもっと南だろうが、故郷のような自然溢れる空気に触れたことで上機嫌なのかもしれない。


 ……随分と、明るい表情をするようになってきたな。



 ここまでの道のりはルークのお世話になった。

 計画通り、いや必然的に二人乗りすることになったのだが『背中にギュッ』はなかった。

 いや別に期待してたわけではないけども。

 リムがさっさとルークに飛び乗ったことで、俺が後ろ側になってしまったのだ。

 分かってない。分かってないよ、リム。


 だが、手綱を持つ俺の腕にフワフワな尻尾が当たる感触を楽しんでいたとは、リムは夢にも思うまい。

 いや、ほんとフワフワだったんです。

 手綱を握る拳が緩み、あらぬ方向に舵をきりそうになったのは秘密である。


 そんなわけで無事に着いたんだが……


「あっ……」

「お、おい大丈夫か?」


 水草が浮かぶ沼の部分に足を踏み入れたリムの身体がわずかに傾いた。

 そのまま水に浸かり、びしょ濡れになった姿で『テヘ☆』みたいな仕草を――――


 ……リムがするわけもなく、素早い身のこなしで体勢を直してその場から飛び退く。

 猫の獣人とはいえ猫そのものではないので、別に水を嫌っているわけではないが、濡れるのは誰だって嫌だろう。


「湿地帯を動き回るのもルークの方が便利だから、乗ったらいい」

「ううん、ちょっと歩きたいかも」


 少し考えるようにしてから、リムはそんなことを言った。

 ずっとルークに乗っていたのだから、自分の足で歩きたいのだろう。

 ……まさか、ね。


「そっか、じゃあ疲れたら言ってくれな」

「ありがとう」




 ――その後、俺達は適当にスライムを狩りつつ(盗みつつ)、のんびりとパウダル湿地帯の自然を楽しみながら時を過ごした。期限が設定されていない依頼は気軽でいい。


 時刻が真昼に近づいた頃、飯を食べれるような見晴らしの良い場所を探すことにした。

 昼食タイムをスライムに邪魔されるのはよろしくない。


 開けた場所に生えている灌木の下で向かい合って座り、死角を作らぬようにして昼飯を革袋から取り出した。


 今日の昼飯は、実はダリオさん作でないことを俺は知っている。

 その情報をくれたのは、ダリオさん自身だ。


 ……今度は失敗するなよ――と念を押された。

 ダリオさんGJ。

 どうやらリムはこの前のリベンジをしたいらしい。


 俺が今日ルークを借りることは普段通りなので、その金は俺が出した。

 その代わりに、リムは昼飯を用意しておくと言ったのだ。

 別に「あたしが作るから」というものではなく、さも満腹オヤジ亭で購入しておくというようなニュアンスだった。


 もしこっそり教えてもらってなかったら、俺はまた身体を張った地雷処理をすることになっていただろう。

 その雰囲気のまま、帰り道でルークに二人乗りはご免こうむる。

 俺の心がギュッとなりそうである。


 ふふ、同じ轍を踏む俺ではないのだよ。

 ダリオさんのおかげだけど。


 ゆっくり包みを開けると、良い香りが漂ってきた。

 ってか、料理スキルがどのように上昇していくのかは知らないが、リムは順調にスキルを伸ばしている。

 料理スキルがLv2に上がる日も遠くはないだろう。

 だからして、普通に美味しいはずなのだ。

 加えてこの美しい景色の下で食べる飯ともなれば、気分的なスパイスも十分。


「お、美味そうだな」


 これは本心からの言葉である。


 基本的にこの世界はパン食が中心だが、米の飯がないわけではない。

 麦があれば稲だってある。


 いつだったか、俺がおにぎり的なものをダリオさんに所望したのだが、もしやリムはダリオさん経由でそれを聞いていたのだろうか。


 包みの中にあったのは、おにぎりと様々な具だった。

 中に握りこむには少々具が多いので、別々にしたのだろう。


 具は、パスクム産のサルモ魚を佃煮にしたもの、アルマ鶏の卵を使った玉子焼き、アルマ鶏の唐揚などなどである。


 むぅ……ただのおにぎりとはいえ、内部に空気を含ますように丁寧に握られたこの食感、絶妙な塩加減といい……こやつ、できる。

 具の味付けも普通に美味しい。


「うん、本当に美味いや」

「……ほんとに?」

「お、おう」


 演技ではない。本当だ。


「――よかった」


 胸を撫で下ろすような仕草の後、リムが満面の笑顔を見せる。

 えーと、一応知らないフリをした方がいいんだろうか。


「ぇと、なんでリムが喜ぶんだ? これって、満腹オヤジ亭で買ったものじゃ……」

「いいのっ」


 いいらしい。

 もしかするとリベンジ先は俺ではなく、ダリオさんだったのかもしれない。

 だとすると――いや、言うまい。


 とまあ、このような感じで俺達は昼飯をキャッキャウフフと楽しみつつ、満腹感に浸っていた。

 のだが、平和な一時はここまでだった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「――ん? あれは……何だ?」


 それが目に入ったのは、偶然である。

 たまたま晴れ渡る青空を見上げていたら、青一色の視界に黒い点のような物が見えたのだ。

 段々と点は大きくなっていく上、それは安定した動きをしていない。


 ジグザグの軌跡を描くように動いているのだ。


「リム……気をつけろ。何か来る」

「え……?」


 ――ようやく、近づいてくる物体の形が顕わになってきた。

 あれは……鳥……? いや獣か?


 見慣れぬ生物の背に、人影も見える。

 となると、あれは騎獣か?

 メルベイルで聞いた話だと、空を飛ぶような騎獣は恐ろしく高価であり、王族や貴族……余程裕福な者ぐらいしか縁がないと言われたが……


「――っ! リム、伏せろっ」


 その飛行騎獣は、一切速度を緩めることなく、地面――いや沼地へと激突した。

 大量の水飛沫を上げながら、盛大にだ。

 背中に乗っていた人物は、勢いよく放り出されて身体を地面に打ちつけられた。

 あれは……死んだのじゃないか?


 あの騎獣……身体に何本も矢が刺さっている。

 しかも一本は普通の弓から放たれるようなものではなく、砦などに設置する対空用の弩のものじゃないか?


 が、今は騎乗していた人物の方を優先すべきだろう。

 俺は地面へと叩きつけられた人物へと駆け寄る。リムもそれに続いた。

 下が水分を多く含んだ地面だったので、まだ息があるかもしれない。

 治療を――


「――――っ!!」


 だが、リムが何故か警戒の意を示し、叫び声を上げた。


「セイジっ! 待ってっ」

「な、なんだよ……?」


 リムに理由を問おうとしたが、それよりも眼前の光景に目を奪われた。

 下手をすれば死んでいた衝撃だったはずなのに、地面へと横たわっていた人物がゆらりと身体を起こしたのだ。

 どれだけ頑丈な身体なのか。

 転がっている槍と弓はこの人の物だろう。拾い上げて具合を確かめているようだ。


 しかし、外見はゴツくない……華奢ではないが、女性特有の線の細さというものが窺える。

 浅黒い肌に、綺麗な銀の髪、少しばかり尖った耳はヒューマンのものとは異なっている。

 美しい顔立ちだが、何か……冷たい印象だな。

 そして、もっとも印象深いのは――こちらを見据える血のように赤い紅眼。


「ま……ぞく……」


 リムが掠れるような声で、そんな言葉を身体の内から絞り出した。


「――っ痛……やはり無茶だったな……ルナは……?」


 こちらを一瞥した相手は、自分の身体に刺さっていた矢を平然と抜いた後、辺りを窺う。

 どうやら騎獣を探しているようだ。

 リムが発した魔族という言葉を聞き、俺は油断なく構えて相手へと意識を集中させる。


 ――馬鹿、な……そんな……。

 これは……不味い。


 戦慄が走った俺の横を駆けていく影――リムだ。


「よくもっ……よくも村をっ――」

「ばっ……よせっ! リム!」


 おそらくは俺が見た中で最大最速であろうリムの憤激。

 魔力変換スキルによる攻撃力も加算されていることだろう。


 だがその拳の一撃は、相手に防がれてしまった。

 それも片手で、だ。


「ほう……小虫かと思ったが、多少はやるようだな」


 感情の起伏というものを感じさせぬ冷たい声。


「――死ね」


 片手に持った槍が容赦なくリムへと――――


「――って、俺の連れに何する気だ……?」


 鳴り響く金属音。

 俺の剣と相手の槍が軋みを上げて……弾き合う。

 手を伝う衝撃……やや俺が押されたか……?


 これが種族間の身体能力差ってやつか。冗談じゃない。

 こっちはスキル使ってやっとなのによ。


 相手の視線が一瞬で険しさを増し、周囲の温度が一段下がったような錯覚を覚えた。


「……リムはルークと一緒に下がってろ。正直、レベルが違いすぎる」


 返事はないが、どうやら理解してくれたようだ。

 先程の一撃で実力差を思い知らされたのだろう。


「お前を殺すのは……少々骨が折れそうだ」

「待って下さい。あなたが魔族だとしても、あなたも騎獣も怪我をしてるじゃないですか。俺は少しですが治癒魔法を使えます。ですので、傷の治療を終えたら大人しく帰ってもらえませんか?」

「……先に危害を加えてきたのはそちらだろう」

「そ、それは……」

「まあ、そうでなくとも人間を前にして背を向けることはないだろうがな。施しを受けるつもりも毛頭ない」


 やるしか、ないか。

 くそっ、アドバンテージは相手が少しばかり怪我してるってぐらいだ。

 魔族、か。

 これは洒落にならないぞ。


 ふたたび相手を見据え、俺は愛剣ノワールの柄を力の限り握りしめた。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:アルバ・ミュート

種族:魔族

年齢:20

職業:進撃の再征服者アタケレコンキスタ

特殊:大器早成

スキル

従者への福音サーヴァントリインフォースLv3(77/150)

・モンスターテイムLv4(23/500)

・弓術Lv3(135/150)

・槍術Lv3(112/150)

・体術Lv3(98/150)

・火魔法Lv3(113/150)

・風魔法Lv3(105/150)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

次回は戦闘回の予定。必殺技炸裂なるか!?

『起死回生の一撃』お楽しみにっ


魔法やスキルの仮名について一言だけ。

仮名は語呂やフィーリングで付けています。

なので正しいやくではありませんが、ご理解ください。


スペル自体が一字間違っているとか抜けているという指摘は有難いですb


※追記

アルバの職業を『進撃のレコンキスタ』に変更

様々な候補名を寄せていただいた皆様に感謝です^^

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