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2話【実験】

「――ギャピァッ!」


 メルベイルの街より南に存在する森の中で、スモゴブの断末魔の叫びが響き渡った。

 日課のように通っているこの森は、もはや俺のホームグラウンドと成りつつある。


「……にしても、やっぱりLvが上がると達成感があるね」


 スモゴブの血液が付着している愛剣ノワール(※正式名称を知るのは俺だけで良い)を一振りすると、ピピッと足元の草に赤い水滴が弧を描いて飛び散った。

 それだけで新品のような輝きを取り戻す曇りなき刀身を、感心するようにしばし眺める。



 剣を受け取って活動を再開してから今日で五日目――五月の三週、闇の日である。


 基本的に午前中はこの南の森で修行、午後はランクD範囲の仕事を請け負う毎日だった。

 たまにネビル草を見つけるとイモムシとも遊んだが、第一目標はスモゴブである。


 その甲斐あって本日ようやく剣術がLv3に上がり、浮かれて試し斬りをしていたというわけだ。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクD-)

特殊:識者の心得

スキル

盗賊の神技(ライオットグラスパー)Lv2(18/50)

・身体能力強化Lv3(5/150)

・剣術Lv3(3/150)

・状態異常耐性Lv2(6/50)

・生命力強化Lv2(32/50)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 スモゴブやイモムシの討伐はランクE範囲に該当する依頼なので、達成してもランクD-の冒険者である俺の依頼達成回数に加算されることはない。

 ただ、依頼を受けて報酬を貰うことは問題なく行えるので、無駄ではない。



 俺は森を抜けて街道まで戻り、午後に依頼をこなす予定であるブロッサムの村へと向かう。

 名前の通り美しい花畑に囲まれた村のようで、それらからミツバチが集める蜂蜜が村の特産品の一つだという話だ。


 ところが《ミリタリー・ワスプ》なる大型の蜂の魔物がミツバチを巣ごと食い荒らしているということで、ギルドへ依頼することになったらしい。


 空中を飛び回る敵には苦労しそうだが、ランクD+の依頼だし、剣術Lvも上がったのでなんとかなるだろう。



 街道を歩きながら、いつも通りに美味しい昼飯を食べて水筒を傾ける。

 ちなみに……アーノルドさんとリムはあのまま満腹オヤジ亭の固定客となった。

 料理をいたく気に入ったアーノルドさんは、オヤジ同士でダリオさんとも気が合っているようだ。

 リムはといえば、時々であるがダリオさんの手が空いた際に料理を教えてもらっている。

 リベンジを考えているのだろうか……?

 俺としては美味しい料理が食えるよう、ひたすら応援したい。


 が、獣人親子も冒険者として活動は勿論している。

 俺と行動を共にすることはあまりないが、一緒に食事をすることもあるし、誘われれば複数人依頼を一緒に受ける。

 まだ今のところはそんな関係だ。


 基本的に、俺が能力を磨く現場は一人でないと都合が悪い。

 対スモゴブ戦なら不自然な動きをまだ言い訳もできるだろうが、イモムシにネビル草を微笑み(※必須ではない)ながら与えた後、殺害する現場など傍から見れば常軌を逸しているとしか思えないだろう。


 それと……最近は緊迫した何がしかもなく落ち着いていたので、気になっていたことを実験してみた。

 こないだ受けたランクDの依頼で、メルベイルの街周辺にある村に出没したオークを討伐した時のことだ。


 試してみたいことがあったので、スモゴブとの修行は後回しにして盗賊の神技を発動した。首尾よく棒術スキルを盗ることに成功した個体をノワールで殴りつけて気絶させ、木の蔦でグルグル巻きに縛り上げたのだ。


 棍棒も取り上げ、一切動けない状態にしてからスキルの返還を試みた。

 やはりスキルの返還は問題なく行なえる。

 ほんの少しの返還も、全てを返還することも可能。

 全返還は譲渡にも思えるが、元々そのスキルを所持していない者に渡すことはできないので、返還の範囲なのだろう。


 ブラッドオーガ戦の後でアーノルドさんにスキルを返還する際、剣術Lv3を丸っと返還できなかったのは……おそらく盗賊の神技のLvが2であることが原因と予想を立てている。

 これだとLv2までの範囲でしか配分できないことも説明がつく。

 まあ、実際に盗賊の神技がLv3になれば証明できるだろう。


 もう一つ知りたかったのは、スキルを全返還した際に俺が持っていたスキルはどうなるのか? についてだ。


 Lv1の状態で熟練度が(0/10)としてスキル自体は残るのか。

 それとも消えてなくなるのか。


 結果は後者だった。

 オークに棒術スキルを全返還すると、俺の棒術スキル自体が失われたのだ。


 これについては、俺はちょっと安心した。

 スキル枠が半分以上まで埋まってきていたからだ。

 棒術スキルは無駄になるスキルではないが、盗賊の神技を発動させる際に合計成功確率を上昇させる役割しか担っていなかった。


 ところてん方式に、スキルを10保有した状態で新たなスキルを盗った場合、いらないスキルを破棄できると考えているが、その保証はない。

 もし結果が後者ではなく前者だったなら、ちょっと焦ったところである。


 が、これで気兼ねなく何でも盗れるというものだ。

 保有数が限界を迎えた後にスキル替えを行いたいのであれば、手放したい対象スキルを所持していた者へ全返還すればいいのである。

 ただ捨てたいスキルを破棄するということも可能なのかもしれないが。



 とまあ、気になっていたことが少しは理解できたところで、俺はオークから棒術スキルを返してもらおうとした。


 なんたって二匹分――Lv2の棒術スキルである。確率に2%もプラスされるのだ。


 が、結果は失敗。

 別に返還した相手からふたたび盗ることが不可能だったわけではなく、ただ失敗。


 少しばかり憤慨した俺が縛られているオークをどうしたか……あまり言うべきではないだろう。

 いや、まあ、強化オークを野に放つわけにもいきませんし?




 ――ブロッサムの村へと辿り着き、住民からミリタリー・ワスプが目撃された場所を教えてもらった。


 美しい花畑を通り過ぎ、木立の中を進んでいく。

 足元には、破壊されたミツバチの巣が散乱していた。

 事前に得ている情報は、どでかい蜂。肉食。毒針と毒噴射に注意。


 上空からの耳触りな羽音を感じ取り、見上げると――


 ――いました。


 人間の拳大ほどもある黄色と黒のストライプボディ、左右に開閉する強靭そうな顎。

 スキルは……特になし、か。

 毒持ちのためにランクが高めなのだろうか……?


 ちょっと怖いが……飛行速度はそこまで速くない。

 上方から一直線に急降下してくる姿をしっかりと視界に捉え、焦らずに横っ跳びして回避する。


 刺す瞬間に腹部から鋭利な針が飛び出して眼を狙ってきやがった。


 特攻が躱されたと知るや、威嚇するように顎をカチカチと鳴らしてから肉を喰いちぎろうと飛びかかってくる。

 顎の一撃を避け様に相手の身体へとスイッと剣を通した。

 ノワールの切れ味は凄まじく、ほぼ抵抗を感じることなしにミリタリー・ワスプを頭と胸部、腹部の三つに分断する。


 地面へと転がる三つの内の頭部へと、一拍おくことなく剣を突き立てた。

 さて……と。

 こいつらの毒液には仲間を呼び寄せる効果もあるって村の人が言っていたので、悪いが囮になってもらおうか。

 俺は転がっている腹部を蹴飛ばし、毒液を辺りに撒き散らす。


 ……そうすることしばらく――複数の羽音が耳に入ってきた。


 一匹、二匹――――……全部で五匹か。報告にあった数と一致するな。

 一際大きい個体もいる……あれがボスだろうか。


「お前らに一言だけ伝えておくことがある。てめーらがミツバチの巣をぶち壊したことでなぁ……もしダリオさんの蜂蜜漬けフルーツパイが食えなくなったりしたらどうしてくれんだぁぁぁぁっ!」


 飛行する敵を薙ぎ払いながら、俺が叫んだのはそんな言葉だった。




「――おぉ、セイジか……ん? その蜂蜜の瓶はどうしたんだ」

「ええ、今日受けた依頼でブロッサムの村に行ってきたんですよ。そしたら、お礼にこの蜂蜜も貰ったわけでして……いりますか?」

「いいのか? ブロッサムの蜂蜜は質が良いからウチとしては嬉しいがな。よしっ、今日は晩飯に蜂蜜を使用した焼き菓子でも皆に振る舞うことにするか」



「――ふぅ、美味い料理の後のスイーツはたまりませんな」


 ベッドの上でひとりごちながら、満腹になった腹をさする。



 さてさて、明日から魔法を習得(盗る)することを主眼において活動することにしよう。

 できれば魔物がいいのだが……。


 俺ってば魔物相手に盗賊みたいなことをしてるが、本当の盗賊達がいれば懲らしめるついでにスキルを奪うんだけどなぁ。

 まあ、そう都合良く魔法を扱える人間が盗賊になってることもないだろうし、引退した余生短い魔法使いの老人からスキルを奪うとかも……ちょっとね。


 ――とりあえず、明日ギルドで訊いてみることにしよう。

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