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16話【暖かな宴】

ついに一章終了です。

疲れた……でもなんか満足感が。

 ――五月二週の光の日。晴れ。

 時刻は日暮れ前。


 無事にメルベイルの街へと到着した俺達はバトさんに別れを告げ、ギルドで正式に昇格の手続きを受けた。


 結果としては、三人とも全員合格。

 護衛の依頼自体はバトさんがもろもろ含めて問題ないとしてくれたし、力量については「これで文句をつければランクB以下の冒険者は全員ランクEに降格でしょう」とベイスさんが漏らしていた。




「――で、ワシのやったバゼラードをこんなにしやがったわけだ」

「……申し訳ございません」


 そんなわけで今、俺の目の前にいるのは髭を生やした厳ついドワーフ――もといジグさんである。

 根元から砕け散った刀身を眺めた後、そんな一言をいただいた。

 ガクブルである。


「それで、ワシにどうしろってんだ?」

「あの……これを……」


 恐る恐る、取りだしたブラッドオーガの黒角を置く。


「これで新しい剣を作ってもらえたら、嬉しいなと思ってまして」

「材料持ち込みのオーダーメイドってか。駆け出し冒険者が生意気言うじゃねぇか。ついこないだバゼラードをくれてやった時は、碌に武器を使ったことがないみたいなこと言ってなかったか? 嘘ついてやがったのか、あぁん?」

「それはその……い、一応ランクD-に昇格……」

「ぁあ?」


 売り物の剣を買わせてもらいます。生意気言ってすいませんした。


「だが……こりゃあ本物のブラッドオーガの角だな。しかも材質が妙な変化を起こしてやがる。ブラッドオーガとやり合ったってぇ話、本当なんだろうな」

「……はい」

「なら、ちょっと手ぇ見せてみろ」


 がしりと腕を掴まれ、掌を眺めることしばらく。

 ようやく解放されたと思ったら、次は店にあった適当な剣をこちらへと投げ渡してきた。


 反抗は許されない雰囲気のため、俺は大人しく素振りを行う。

 今の俺に可能な動きで、力一杯に振りきった。


「……ふぅむ……まあ、いいだろう」

「え、いいんですかっ?」

「勘違いすんじゃねぇっ! まだまだひよっこだっ。今後に期待する意味で剣を作ってやるって言ってんだっ。調子に乗るんじゃねぇぞ!」

「あ、ありがとうございます」


 頭の中で『か、カンちがいしないでよね。まだまだこれからなんだから、調子に乗っちゃダメなんだからね☆』と変換された言葉を、テーブルに頭を叩きつけることでデリートする。


「……何やってんだ。それで……どんな剣を作ってほしいんだ?」

「黒くて硬い剣をお願いしますっ!」

「なん……だと?」

「黒くて硬く、格好良い剣をお願いしますっ!」

「そういうんじゃねぇよっ! 既に素材が黒くて硬いだろうがっ! もっとこう……片手剣とか両手剣とか、片刃とか両刃とか、刀身の長さとかあるだろっ」


 昂ぶった気持ちを落ち着かせ、自分が何を口走っていたかを理解して頭の中で悶え苦しむこと数秒。


「す、すいません。ぇっと、普段は片手で扱う予定ですけど、両手用としても使えれば有難いです。刃は……片刃にしてください。刀身は……俺の身長に見合う長さでお願いします」


 片刃については、今後もし人間と戦闘することになった際に役立つかと思ったからである。


 一通りの注文を済ませ、ジグさんが俺の身体の寸法などを測り終えた後、もっとも大切な話を忘却していたことを思い出した。


「あの、ジグさん……代金っていくらに……」

「ああ、そういやその話がまだだったな……逆に訊いてやるよ。お前ぇ、ワシに幾ら払うつもりなんだ?」


 質問に質問で返すのは反則です先生っ!

 ここで変な回答をすれば、やっぱり作るのナシとかになるかもしれない。

 どうする? どうすりゃいいんだ?


 えぇいっ! 迷ってる暇はない。どうとでもなれっ!


 どんっ! とテーブルの上に置いたのは、俺の財布袋そのものだ。

 つまりは――


「――俺の全財産でお願いします。それでも、全然足りないかもしれませんが……」


 実際足りないかもしれない。中に入ってるのは30000ダラと少し。

 いくら材料持ち込みとはいえ、ジグさんの店に置いてある商品はそれを遥かに上回る値段の物が多いのだから。

 また、借金かな……


 そんな回答に、ジグさんがずんずんと俺に歩み寄ってくる。


「随分とまぁ、ワシの腕を高く買ってくれたもんだな……」


 まだ財布の中身の金額を見てもいないのに、ジグさんはそんな言葉とともに満足気に笑ったのだった。

 財布袋から代金を受け取った後、ジグさんが金貨を一枚こちらへと弾いて渡す。


「――あの、これって……?」

「ワシからの祝いだ。取っとけ……ランクD-に昇格したんだろ?」



 はい、泣かされました~。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 ――半べそ状態で満腹オヤジ亭に戻り、一階の食堂で椅子に座る。

 

 ちなみに、ダリオさん達にはさっき一度顔を見せている。

 帰るのが予定より一日遅れたため、心配しているのではないかという自意識過剰気味な行動を――というのは冗談で、ここの食堂でささやかなお祝いを皆でしようと思ったからだ。


 メンバーは俺を含めて昇格した三人だが、その旨を伝えるとダリオさんは腕によりをかけると張りきっていた。

 かなり楽しみである。


「あれ、アーノルドさんだけですか? リムは?」

「ああ、ちょっと席を外している。すぐに来るだろうから先に始めるとしよう」

「ぁ、はい」


 しばらくして、ダリオさんとフロワさんが次々に料理を運んできてくれた。




 ダリオさんがこれまでに作ってくれた食事は、そのどれもが素晴らしい逸品だった。

 だが、今夜の晩餐で並べられていく品々はそれらを上回るほどに豪華であり、リムには申し訳ないが箸を止めることは出来そうにない。


 剣術スキルを全開にして、手に持ったナイフを肉に突き入れる。一口大にカットした後、すぐさま次の料理へと意識を向けた。


 チーズと野菜がふんだんに盛られ、さらにそこへ油で揚げることで香ばしい匂いと食感を楽しめるようフレーク状にされたパンがまぶされているサラダ皿へと、フォークを振り払う。


「くはっ! 美味いっ。オヤジ、酒もお代わりだ」


 俺とアーノルドさんが暴食を続けていく中、甘味物として見たことがあるようなデザートも一緒に出されてきた。

 覚えがあるぞ……これはあの時のフルーツパイじゃないか。


 デザートは食後、などという概念をすぐさま捨て去り、それを口の中に放り込む。



 ……ん? 不味くは……ない。

 しかし……どうしたことだ。

 ダリオさんにも失敗はあるということなのか。


「どうだ?」


 ダリオさんが笑みとともに感想を求めたので、俺は隠すことなく正直な意見を口にした。


「いや、なんか……いつものダリオさんのじゃないっていうか……まあ、たまには失敗することもありますよね」


 その反応に、ダリオさんがやや戸惑った表情を浮かべた。

 まさか、硝子のハートの持ち主だったのだろうか。ならすぐに謝ら――


 スイッとダリオさんが身体をずらすと……そこに居たのは――リムだ。

 何故か身体を少し震わせるようにして、立っている。


「お、おう。リム、どこにいたんだ? 座って一緒に食べないか」

「それ……あたしが作ったの……」

「……ぇ?」


 すまん。何を言っているのか分からない。


「そのフルーツパイ。美味しかったから……ダリオさんに教えてもらってあたしが作ったの」


 なん……だとっ。


 俯いてしまっているリムの表情は、ここから窺うことはできない。

 ちょっと、ちょっと待てっ。さっき俺は何て言った!?


 ダリオさんから感想を求められて……それで確か――



 ――失敗って誰にでもあるよね。テヘペロ☆



 うおあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


「いや、違っ! というか、あれはダリオさんが作ったモンだと思って言った感想なわけで、普通に食べれば美味しいという評価がですね……」


 俺は慌てふためく様を見せながら弁解する。

 カタリっと何かの音が聞こえたため、そちらへと視線を向けると……対面に座っていたはずのアーノルドさんが剣を片手に立ち上がっているじゃありませんか。


「セイジ……表に出ろ。月がある夜なら、オレの本気を見せてやれる」


「いやっ! いやいやいやっ! アーノルドさんも知ってたなら、リムが一生懸命何かを作ってるぐらい教えてくださいよ。ドッキリとかそういうのナシでっ!」


 食堂内が喧騒に包まれ、一触即発状態の中――扉が開く音にそちらを見やる。


「おや、祝いの言葉だけ伝えようと思って来てみれば……また随分と騒がしいものですね」

「セイジさんも皆様も、昇格おめでとうございます」


 ベイスさんに……シエーナさんまでっ!?


「ちょうど交代の時間だったので、少し寄らせてもらったのですが……」

「いえ、ありがとうございます。二人とも座ってください。ダリオさん、今日の支払いは俺が持ちます。料理も追加でジャンジャンお願いします」


 まだ立ったままの状態であるリムの腕を掴み、強引に座らせる。


「ほら、リムも好きなだけ食べろって。大丈夫……リムはきっとすんごい料理を作れるようになるから」


 料理スキルは持っているのだから、それは嘘じゃない。


「……うん」


「アーノルドさんも座ってください。もうかなり酔ってるとは思いますけど、お酒どんどん飲んでいいですから」


 どうやら場が落ち着いてきたところで、ようやく俺は一息ついて辺りを見回す。


 ふう……びっくりしたホント。



 ――しかしまあ、皆には本当に世話になったもんだ。


 ダリオさん夫妻は言わずもがな、ギルド職員の二人に、獣人親子、ここにはいないバトさんや、剣を作ってくれているであろうジグさん……


 まだこの世界で短い時間しか過ごしていないけど……俺がこんな気持ちになれているのは、この人達が周りにいたからだろう。


 うん。悪くない。


 悪くないよ――この世界も。


 俺は、皆が騒ぐ姿を見ながらそんなことを思い耽る。


 運ばれてくる料理を胃袋へとたんまり詰め込みながら、幸せな時間は夜遅くまで続いたのだった。


読んでいただき、ありがとうございました。

どうだったでしょうか。

もし良かったら↓でポチっとなをしていただければ嬉しいです^^


2章については、構成を練るために一週間から二週間もらうことになると思います。

続きが読みたいと思われる方がいれば、燃料に致します。

チラッ壁|・_・)


それでは寒くなってまいりましたので、皆様も体調にお気をつけてお過ごしください。


最後に、読んでいただいた方に重ねて感謝をっ!

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