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15話【談笑】

ちょっと長くなったので分割します。

一章のラストを今まさに書き中でございます。


ちなみに、14話でスキル返還の際の描写を少し改稿しました。


そして、アーノルドさんが所有していた料理スキルが死に設定になりそうだったので、リムへと移動させました。物語の本筋には全く影響はございません。申し訳ないです。

 ――五月二週の闇の日。晴れ。


 時刻は真昼間という頃合いだろう。

 パスクムの港町は来航する船によって喧騒に包まれており、人で賑わっていた。

 ついさっきまで森の中で死闘を繰り広げていたのが嘘のように平和に満ちた光景である。


 町の入口付近でギルドへ報告に戻った二人の冒険者が心配そうな顔で待っており、俺達に同行する女性の姿を見ると破顔して走り寄ってきた。

 感動の再会ってやつだ。

 が、抱きしめ合うのかと思いきや、身体が密着する寸前でリバーブローが放たれる。


「あんた達、よくも私を置いてってくれたわねっ。覚悟はできてんの?」

「ん、んなこと言っても、知らねえうちにお前いなくなってんだ――モベラァッ!」

「俺らだって必死だったんだ――ゼップリャッ!」


 ……照れ隠し? だろうコミュニケーションを温かい目で見守りながら、俺達はパスクムへと入る。

 別れの挨拶を述べると、三人とも深く頭を下げていた。……なんだかんだで仲が良いのだろう。 



 さて、先程ア―ノルドさんには予定通り剣術スキルを返還したが、怪我は依然として治りきっていない。

 宿の一室を借りて横になってもらい、治癒術師を手配することになった。

 俺は世話になったことがないが、魔法で傷を癒すことを商売としている者がいるらしい。どのような魔法スキルを所持しているのか興味が尽きないところだ。

 ニギニギと掌が反射的に動く。


「それでは僕はギルドに報告へ行くことにします。よければセイジさんにはご一緒してほしいのですが」

「ぇ、あ、はい」


 リムはといえば既に目を覚まし、身体も無事に動くようで何よりだが、アーノルドさんの傍に付いていたいそうだ。

 結局、ギルドに行くのは俺とベイスさんの二人となったのだった。




 ――冒険者ギルドに入ると、港町を包む喧騒とはまた異なる雰囲気が漂っていた。

 ザワザワ、といった表現がふさわしいかもしれない。



 そんな中、ベイスさんは受付に進んで男性職員に声を掛ける。


「失礼、僕はメルベイルのギルド職員のベイスといいます。ブラッドオーガがパスクム街道付近に出没したという情報は伝わっていますか?」

「はい。パスクム警備隊にも連絡を取り、ランクB以上の冒険者に緊急依頼を出そうとしています。何か新たな情報でもありますでしょうか?」


 どうやら、ブラッドオーガがパスクム街道近くに出没するというのはかなり異例の事態だったようだ。大森林を抜けたずっと先にあるカラム荒野に生息するとされるブラッドオーガであるが、稀に番いで住処を移動することがあるらしい。


 迷惑極まりない新居への引っ越しは控えてほしいものだが、新天地にやって来ていきなり死ぬことになるとは……南無。


 ……とりあえず、ベイスさんと職員が話す内容を聞いて俺が理解を深めたのはそんなところだ。



「――それでは、本当にブラッドオーガは討伐されたのですね」

「ええ、セイジさん……オーガの角を出してもらえますか?」


 ああ、それで俺を一緒に連れてきたのか。

 この角は素材としても、討伐証明部位としても使えるんだろう。

 革袋に入れていた大きな角を二本、カウンターの上に取り置いた。


「一本は変色しているようですが……これは確かにブラッドオーガの角ですね。失礼かと思いますが……」


 やや言葉を濁すようにこちらを窺う男性職員さんに、ベイスさんが笑顔で応える。


「それらは間違いなく、報告にあったブラッドオーガの角です。ギルド職員として責任を持って保証しますよ」

「分かりました。それでは、報酬をお支払い致します」


 例によって、依頼を受けて倒したわけではないために報酬などは貰えないと思っていた。

 しかも、本来はまだ受けることの出来ない高ランク依頼だ。

 まあ、依頼を受託する際のランク制限ってのは、そもそもギルド側が確かな力量を持った冒険者に受託してほしいという意向から設定されたものなので、実際に倒しちゃった後なら問題はないのかもしれない。


 ギルドカードを提示して確認を受ける。


「ランク……E+……!?」


 ……問題あったようだ。


「み、皆で力を合わせて倒したんですよ?」

「そう……いうこともあり得ますね、確かに」


 やや訝しむような顔をされたが、きちんと討伐したことを証明できている冒険者にこれ以上の詮索はしないようである。

 俺の見た目がアーノルドさんみたいな感じだったら、対応も違ったんだろうかね。


 依頼者はパスクム警備隊。

 報酬はブラッドオーガ一匹につき金貨一枚――合計で20000ダラだ。

 かなりの高額である。


 ベイスさんはいらないそうなので、後で獣人親子と半分ずつ分けることにしよう。


「ブラッドオーガの角はギルドで買取も行っています。よろしければそちらの素材買取カウンターにお持ちください」


 これにて、俺の役目は終了である。

 素材買取カウンターに向かう俺の後ろで、まだベイスさんと職員は何かを相談していた。


 どうやら、番いの二匹以外にブラッドオーガがいる可能性は極めて低いだの、それでも街道付近の森を一度探索して安全を確保する必要があるだの、警備隊と協力してパスクム街道を通る人に注意喚起するだの……色々と大変そうだ。



「すいません。この角っていくらで買い取ってもらえますか?」

「先程報告されていたブラッドオーガの角ですね。状態も……問題ないようなので、一つ15000ダラで買取させていただきます。あら……でもこちらの角は色合いが……」


 しばし黒い角の方を調べていた職員のお姉さんは、俺の方を見やる。


「こちらの黒い角は……通常のブラッドオーガの物と比べて硬度が高いようです。20000ダラでいかがでしょう」


 うーむ。高額ではあるけど、あんだけ苦労したのに5000ダラしか値段に差がないとは。


「……あの、ブラッドオーガの角ってどんな用途があるんです?」

「こちらは主に鍛冶を営む方がご購入されますね。なんでも、熱することで金属に似た性質が得られるとかで、武器や防具にも利用されるようです」


 なるほど……ね。

 なら黒角はここで売らずに取っておこう。

 メルベイルに帰ったら、試しに持って行きたい場所がある。

 とりあえず今は通常の赤い角だけを売却することにしておくか。




 その後、俺とベイスさんは商館へと足を向けた。

 バトさんに事の顛末を伝えるためである。


 商館で顔を合わせたバトさんは、やはり俺達の行動を咎める気はないようだった。

 将来有望な冒険者と今後とも仲良くしておくことの方が、余程有益だと笑っていたぐらいだ。

 俺は一言だけ謝罪の言葉を述べ、今後の予定を話し合うことにする。


 ベイスさん曰く、念のために今日一杯をかけて街道付近の森が探索されるらしく、出発は明日にすべきだろうとのことだ。

 バトさんもそれに同意してくれた。



 ――宿に戻り、アーノルドさんの容体を確認するために部屋の扉を開ける。

 ちょうど治癒術師による治療がなされている最中だったらしく、俺は壁際にもたれかかって邪魔しないように心掛けた。


 脚の怪我は既に治療済みなようで、今は折れた右腕を治療中である。

 治癒術師の掌が柔らかな光に包まれ、折れた箇所を照らしている。

 ふむふむ……《光魔法Lv2》か。魔法についてはまだほとんど知識はないけども、こんなことも出来るんだな。


 今後の予定としては……剣術Lvが2に戻ったので、これをLv3まで上げておきたい。そうすればある程度の厄介事からは身を守れることだろう。

 そして、今の身体能力だとLv3が丁度良いぐらいだ。

 Lv4以上の技術を満足に使いこなすには、やはり身体能力強化のスキルも並行して上げる必要があると思われる。

 どこかにバルみたいな魔物(※バルは人間)が生息していないだろうか。

 これもメルベイルに戻ったら探してみたい。


 そして、何といっても、ここは剣と魔法の世界――イーリスなのだ。

 剣ばかりというのも、面白くない。

 今、まさに、目の前で行使されているような魔法も扱って世界を掌握……んんっ、ゆるりと世界を旅したいもんだよね。

 魔法についても、今後スキルを習得(強奪)していきたい。


 俺がそんなことをつらつらと考えていると、どうやら治療も終わったようだ。

 折れていたはずの腕を問題なさそうに動かすアーノルドさん。


 魔法どんだけ~


 と心の中で叫んだが、生命力強化のスキルで自動回復する俺に言われたくはないだろうな。


 リムが治癒術師に礼を言って財布から少なくない支払いを済ませた。

 財布の中身が寂しい状態になってしまったのか、やや不安そうな表情を浮かべる。


 俺はそのタイミングを逃さず、財布袋から金貨を一枚取り出して握り拳を縦にした状態の親指の上にセットした。


「リム。ブラッドオーガを倒した報酬が出たから半分渡しておく」


 それだけ言って、親指で弾く。

 一度……こんな渡し方をしてみたかった。それだけだったんだ。


 弾いた金貨は見当外れの方角へ飛んで行き、虚しい音が床に木霊した。


 …………


 ……


 今、俺の顔はブラッドオーガと対峙した時以上に赤く染まっているんじゃないだろうか。

 無言で転がっている金貨を拾い上げ、リムへと手渡す。


「あの、ありがとう。父さんと……あたしも助けてくれて」


 ……ん? 狂化していた時の記憶ってあるんだろうか?


「ブラッドオーガに向かってった時のこと、覚えてるのか?」

「うん、ボンヤリだけど」

「そっか。俺、リムに殴られそうになったもんな~、あれは怖かったわ~」


 リムの白い肌が上気して赤く染まる。耳はしおれるようにペタンと横になり、尻尾は床に擦れそうなほど高度を下げていく。

 ……ちょっと悪フザケが過ぎただろうか。


「あの時は……なんでか頭が真っ白になって……それで……」


 ああ、自分で狂化のことを自覚してるわけじゃないんだよな。

 俺は、しおれたリムの猫耳を撫でるように手をポスンと頭にのせて、ワシワシと動かす。


「まあ、いいんじゃないか。リムがあそこで時間を稼いでくれたからこそ準備が……俺の心の準備が整ったんだからな。皆無事だったんだから、万事OKということで」


 瞳に輝きを取り戻したリムが、嬉しそうな顔をこちらに向けた。

 綺麗な黄金色の瞳がおさまっている目は、最初に出会った頃に比べて随分と柔らかな暖かみを宿しているように思える。


 俺は、この少女に対して何か手助けすることが出来ただろうか。

 できることなら、少女が辛い過去を背負う前の笑顔を見てみたいと思ったのかもしれない。


 だからこそ、こんな言葉が漏れたのか……いや、他愛もない仮定の話だけどさ。


「俺がアーノルドさんみたいに危険な状態になったら、リムは同じように暴れてくれたかな?」

「えと……それってどういう意味なの?」

「さて、どういう意味でしょう」


 まだ、無理だろうな。


「さてっ、話はここで終わりっと。出発は明日の朝に決定したので、それまではゆっくりと各自過ごすようにとの、バト司令官のお達しです」


 冗談っぽく皆に連絡事項を伝え、港町を見学でもするかと扉に向き直ろうとした。

 すると、リムは自分の頭の上に置かれていた俺の手を掴み取り、ジッと見つめる。

 その後、何か真剣な目つきで俺に視線を送ってきた。


 ゃ、え? なんか照れるんですが。


「セイジって……なんだか……」


「…………」



「お母さんみたい」



「――いや、お母さんじゃねーし」


 静かにその場を見守っていたアーノルドさんは、そこで大きく笑い声を上げたのだった。


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[良い点] かっこつかねぇーw
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