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23話【エピローグ】

 ディノの成れの果てともいえる巨大な身体が十字に斬り裂かれ、光の奔流に呑み込まれていくのを見た。

 無数の触手は高熱で消し飛び、腐食した木々を巻き込んで爆発したあとには、何も残ってはいなかった。


「これで……終わり……だ」


 身体から力が抜けていき、視界に映る地面との距離がだんだんと近くになっていく。


 顔に衝撃を感じてから、自分が倒れたのだと知る。


 瞼が強制的に閉じようとするのに抵抗していたが、それもしだいに難しくなっていく。


 意識は、そこでプツンと途切れた。




 ――暗闇に沈んでいた時間は、一瞬だったように思う。


 どれぐらい……眠っていたのだろう?

 かなり無理をした代償は、全身に及んでいたはずだ。特に右腕などは、下手をすれば千切れるよりも重傷だったように思える。

 そのせいか、瞼を開けるのがちょっと怖い。


 意識は取り戻しているのだが、瞼を閉じたままで自分の身体の感覚をたしかめてみる。


 どうやら無事に動くようで、一番心配だった右腕も少し痺れる感じは残っているものの、痛みなどは残っていなかった。


「……ん、ぁ……」


 瞼を開けると、瞳にさしこんでくる光に若干の痛みを感じて目を細めた。


 ようやく明るさに慣れ、よりくっきりとした映像が視界に飛び込んでくる。


「知ってる天井だ……」


 と、これぐらいの冗談が言えるなら、きっと自分は狂ったままの状態ではないのだろう。


 あのとき、頭のなかに響いた声は誰のものだったのか。

 奪った狂化スキルが変化したのは、盗賊の神技の影響か?

 だとすれば、あの現象は他のスキルでも起こるのだろうか?

 ……などと自分に問いかけてみるが、返事はない。


「よい……しょっ」


 寝たままの状態から、身体を持ち上げる。


 ここは、遺跡内部にある自室だ。レンが器用に木材から切り出してくれたテーブルに、イス、街で気に入って購入した寝台など、使用期間は短いものの見覚えがある。


 やや殺風景な部屋だが、今はそんな室内に花を添える人物がいた。


 寝台の横にあるイスに座り、寝息をたてているリムだ。どうやら寝たままの状態だった俺を看病してくれていたようで、水桶にかけられたタオルや、磨り潰した薬草などが器に盛られている。


「えっと……リム?」


 小声で呼びかけてみると、ふわふわとした毛に覆われた耳がぴくぴくと動き、しばらくして彼女の眼がゆっくりと開かれた。

 ボーッとした感じだったが、こちらに焦点があってから表情が微笑みに変わっていく。


「良かったぁ、目を覚ましたんだね」

「あ、うん。俺、どれぐらい眠ってた?」

「えっと……かれこれ三日かな。全然起きないから心配しちゃった」


 三日、か。あれだけ怪我をしてたわけだし、それぐらい寝込んでもおかしくないな。スキルのおかげで傷の治りがはやいとはいっても、治癒力にも限度ってものがある。


「悪い……今回はちょっと無理しすぎたかもしんない。リムが看病してくれてたのか?」

「うん。でも、だいたいの傷はセイジが連れてたスライムが治してくれたんだよ。あたしは体力がはやく戻るように、薬草を集めたりしたぐらいかな」


 聞けば、ライムはあの戦闘で負傷したみんなの傷も治療して回っていたらしい。

 もっとも、一番の重傷者は俺だったらしいが。


「いや、ありがとう。おかげでなんだか身体の調子もいいみたいだ。というか、リムだってかなり無茶してたけど、大丈夫なのか?」

「あたしはその……セイジが、助けてくれたから」


 わずかに頬を赤らめたリムは、そんな言葉を述べた。

 やだなにこの子、可愛い。


 思い返せば、たしかに……ディノに殴りかかって腕を貫かれたところを助けたし、ディノに殴りかかって拳が壊れて喰われそうになったところを助けたし、狂化で限界まで身体を酷使してボロボロになったところを助けたし…………


 …………


 ……


 助けられてねぇぇぇぇっ。

 これ半分ぐらいアウトじゃねえかぁぁぁぁぁぁっ!!


「そ、そういえば、リムも俺を助けてくれたじゃないか。ほら、前にアーノルドさんが危険だったとき、ブラッドオーガに向かっていったみたいにさ」


 今回は、俺の命の危機に狂化を発動させてくれたのだ。


「あ、あれは……あたしもよく覚えてないんだけど」


 もじもじとしながら、なぜかリムはこちらの肩を軽くパンチしてきた。猫パンチというよりは、優しく肩に手を触れてからグィグィ押してくる感じである。


 よせやいと、俺はそれに抵抗するように身体を傾けた。

 なんだろうこの感じ、新しい何かに目覚めてしまいそうだ。


 しかし、ちょっと待った。色々と大切なことを忘れているような気がしないでもない。

 が……今このとき、この時間を楽しむ以上に大切なことなどあるだろうか? いや、ない。


「――あらあらまあまあ。リムったら、セイジ君が起きたんなら教えてくれなきゃダメじゃないの。イチャイチャするのはそのあとでもいいと思うわ、お母さんは」


 突然部屋に入ってきたのは食事を持ってきたミレイさんだ。看病していたリムのために用意してきたのだろうが、俺が目を覚ましているのを見て嬉しそうな声を上げた。


 リムは瞬時に俺から手を離し、無言でミレイさんから食事の盆を受け取る。


「あらあら、この子ったら照れてるの?」


 ぎゅむぎゅむ、とリムを抱きしめるミレイさんは、優しげな笑みをこちらに向けた。


 えっと、ちょっと状況をすぐに理解できないのだが……おそらくは……


「記憶、戻ったんですね。ミレイさん」


 しかし、なんだかキャラが変わってしまってないか? いや、記憶は人格に大きく影響するものだから、変わるのも当然か。もとがこういう性格だったのかもしれない。


「きっと、セイジ君があの魔族を倒してくれたおかげねぇ。わたしもちゃんとお礼の言葉を伝えておかないと」


 自分の娘にしたように、ミレイさんは俺も抱きしめて「ありがとう」と言ってくれた。

 なんだか、俺までこの人の子供みたいだ。


「さあさ、セイジ君が起きたんなら、みんなにも知らせなきゃね」


 すっかりお母さんが板についているミレイさんは、すたすたと部屋から出ていってしまった。


「リムのお母さんって、前はあんな感じだったの?」


 こちらの質問に対し、リムはこくりと頷いた。

 副団長だったときは、もっとこうクールな感じに思えたのだが。


 ともあれ、心配していた問題の一つはいいほうに転んだようだ。リムとミレイさんが笑いあっている光景を見ていたら、これで良かったんだろうと心底思う。


「みんなは、どうしてるんだ?」

「ここしばらくは、あの戦闘の後片付けかな。地面を埋め戻したり、畑の修繕とか……あ、セシルさんは槍が壊れたから修理のために街に出かけてるよ」


 それは申し訳ないことをした。おそらく一番散らかした犯人は俺である。


「団長さんはお母さんに挨拶したあと、いつのまにかいなくなっちゃった」

「そっか、あの人ほんとに神出鬼没だな。そうだ……アーノルドさんにもミレイさんのことを教えないと」


 これはクロ子にお願いしてみよう。たしかドーレさんと西方群島諸国にいるはずだ。


 ……そういえば、アルバさんはどうなったんだろう? ディノにも加勢しなかったし。

 一度、ちゃんと話をしておくべき――


「こんこんこん。お目覚めですか~? 入るよ~」


 口でノックの真似をしながら来室したのは、陽気な態度を崩さないシャニアだった。

 傍にはベルガも控えており、その手には翡翠色をした宝玉が握られている。綺麗ではあるが、よくみれば宝玉にはヒビが入っていた。


「いや~すごい暴れっぷりだったね」


 ……たしかに、思い出すと自分でも軽く引いてしまうぐらいの戦い方だったからな。リムやミレイさんが普通に接してくれるのは、ひょっとして気遣ってくれているのだろうか。


「起きたばっかりのところ悪いんだけど、ちょっと話しておきたいことがあるんだ。わたしさ、この遺跡に君を連れてきたとき、本当はもう一つ目的があったんだよね~」


 俺に、過去の歴史や七つの大罪を冠する極大スキルについて教えてくれたときのことか。


「あのとき君は遺跡を探検するって言って別行動を取ったけど、実はわたしも遺跡内であるものを回収してたんだよ」


 ごろり、とテーブルに翡翠色をした宝玉が置かれる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。よくわからないけど、そういう話は……」


 極大スキルに関することは、あまり他の人がいるところで話してほしくない。シャニアもそれをわかってくれているからこそ、最初この遺跡には俺だけを連れてきたんじゃなかったか。


 今はすぐ傍に、リムがいるんだぞ。


 焦った俺を見て、シャニアはきょとんとした顔でこっちを見つめていた。


「あれ……まだ気づいてない? そっか、すぐに気絶しちゃったんだもんね」


 納得したという表情をみせるシャニアは、別に病みあがりの俺をびっくりさせるような意図はなかったのだろう。


 しかし、次に彼女から発せられた言葉を聞いて、俺がその意味を理解するまでに、おそらく数秒以上の差異が生まれたはずだ。


「ここにいるのは……もう“関係者”だけだよ?」

現在のセイジのステータス(+は今回上昇した熟練度です)

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

名前:セイジ・アガツマ

種族:ヒューマン

年齢:18

職業:冒険者(ランクA-)※見込み

特殊:盗賊の眼(ライオットアイズ)

スキル

盗賊の神技(ライオットグラスパー)Lv3(47/150)+1

狂戦士化(ベルセルク)Lv2(1/50)+1

・剣術Lv4(6/500)+1

・体術Lv3(16/150)+1

・元魔法Lv3(102/500)+1

・身体能力強化Lv3(129/150)+1

・状態異常耐性Lv3(45/150)+1

・生命力強化Lv2(38/50)+2

・モンスターテイムLv2(22/50)

・チャージLv2(44/50)+1

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


お読みいただき、ありがとうございました。

この話で、5章は終了となります。

楽しんでいただけたなら幸いです(^^)



次章開始までは、またお時間をいただくことになると思います。

書籍化作業やリアルが忙しいなどの理由がありますが、2~3ヶ月はかかりそうです。

申し訳ありませんが、なにとぞ、ご理解いただければ幸いです。

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