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10話【二次試験】

ストーリーはゆっくりです。

気長にお付き合いください。

 一次試験が終了し、ベイスさんを含めた七人が訓練場を後にする。

 残念ながら不合格となってしまった三人については、その場で帰されることとなった。


 しょんぼりとギルドを出ていく者、依頼掲示板の前で何か考え込むようにする者、すぐさま依頼書を受付に持って行く者――と、まさに三者三様である。

 健闘を祈ることにしよう。


 そんなわけで残った俺達はというと、ふたたび一階の休憩スペースに集まっている。


 ちなみに、さっきアーノルドさんが試合で用いたのは剣だ。

 いや、正確には剣と格闘術といったところか。


 獣人の身体能力はやはり種族的に優れているらしく、剣技に格闘術を織り交ぜた動きは、どこか美しい剣舞を見ているかのようだった。

 それを器用に短槍で捌いていたベイスさんもさすがといったところか。


 試合後半にもなるとお互いが何発か食らい、俺の時以上に訓練場内が熱気に満ちていたと思われる。

 向かい合っていた二人が同時に軽く笑ったかと思うと、そこで試合は終わりを迎えた。

 ベイスさん曰く『これ以上続けると試験官として逸脱する行動を取ってしまいそう』だそうだ。

 おいおい。

 どうやら眼鏡紳士という表現は間違っていたようだ。S眼鏡に変更しよう。




「――実際驚きました。獣人のお二人、特にアーノルドさんがお強いだろうとは予測していましたが、セイジさんがあそこまで剣の腕をお持ちとは……」


 そ、そんな飴をくれたって、すぐに心を許したりしないんだからねっ。


「次は二次試験です。これについては実際にランクDの依頼を受けてもらうことになります」


 なるほど、本物の依頼を無事に達成することで晴れて昇格となるってことか。


「あなた方三人の力量は十分にランクDに達するものと判断しましたが、この二次試験では僕も一緒に依頼を受けます。基本的には手を貸すことはせず、無事に依頼達成を見届けることが僕の役割です」


 ふむふむ……でも別に一緒に来なくとも、魔物討伐とかであれば討伐証明部位を持ってくることで達成したと証明できるんじゃあ……


「皆さんについては心配無用と思いますが、力量を測った試験官としては、万が一があっては困りますからね」


 まあ、今は仮免許を受けた状態ってところなのかな。


「さて、今回は三人なので、複数人で受けることのできる依頼にしましょう」


 俺は今まで一人で依頼を受けてきたのだが、複数人で受けることができる依頼も勿論ある。

 魔物の討伐においても、強力な相手の場合は冒険者がパーティを組んで討伐することも多いらしい。

 その分報酬は人数分で割られることになるのだろうが。


 ランクアップに必要な依頼達成回数も、そういった依頼についてはパーティを組んだ全員が一回達成したと扱われる。


「皆さんで相談して依頼を決めてもらっても良いですが……」


 ベイスさんの言葉を受けて、俺達三人はお互いを見やる。


「大丈夫そうか? リム」


 そのアーノルドさんの言葉は、父親以外の人間とともに行動することについて問題はないかという確認だろう。

 娘に対する気遣いの一言。 


 もし先程の話を聞いていなければ、俺はその意味を理解することができなかったろうな。


「さっきセイジからお菓子もらったの……すごく美味しかった」

「ほほぅ」


 リムと少しばかり打ち解けた雰囲気を察したのか、アーノルドさんはにやりと笑んでこちらに視線を送ってくる。

 ……完全にエサで釣る形となってしまいましたけど。




「――おや、ひょっとして、セイジさんじゃありませんか?」


 突然の第三者の声に振り向くと、そこには見覚えのある顔が……えーと。


…………


……チラッ


「お久しぶりです――バトさん」


 しっかし、一度しか顔を合わせていない冒険者をちゃんと覚えていてくれるなんて、まさに商人の鑑である。


「ご無沙汰ですね。どうですか、少しは冒険者に慣れましたか?」

「おかげさまで。今ランクDへの昇格試験を受けている途中です」

「そうですか……おや、確かあの時には冒険者に成り立てで……ジグさんから餞別をいただいていたと記憶しているのですが」

「はい、ここ一週間はあの剣で魔物討伐を繰り返してましたから」

「それはまた……驚くほどの速さですね」


 バトさんはアーノルドさんとリムにも軽く挨拶をし、ベイスさんに向き直る。


「いつもお世話になっております」

「いえ、依頼者あってのギルドですから。バトさんは本日もご依頼に来られたのですか?」


 どうやら、この二人もお互い見知った仲らしい。

 ギルド職員と依頼者という関係ってやつか。


「ええ、今日は西にある港町パスクムへと買い付けに行く予定でして。護衛を依頼しにきたんですよ」

「そうですか。パスクム街道を護衛するとなると……ランクD相当でしょうね」

「はい。日暮れまでに着きたいので、できれば午前中に出発したいところです。早く受けてもらえれば嬉しいのですが」


 しばし思案顔で黙りこむベイスさん。


「皆さん、パスクムまでは往復で二日といったところですが……問題のある方はおられますか?」


 それに対して獣人の二人は大丈夫だと頷く。

 俺もまあ……問題はない。

 ――ダリオさん……。



「バトさん。もしよろしければ、その依頼をここにいるメンバーで受けさせてもらえないでしょうか。僕も試験官として一緒に行くことになりますので、万が一にもご迷惑をお掛けすることはないようにします」

「なるほど、試験の一環というわけですか……目の前でこういったことを訊くのは失礼に当たるかもしれませんが……三人の実力はベイスさんから見て、どうなのでしょう?」


 バトさんからすれば、自身の身と運ぶ商品を任せるに足る人材かを判断しなければならないので、当然の質問だろう。


「ええ、実力は申し分ありません。というか……僕もまた冒険者に戻って鍛えようかと思わされた程ですよ」


 その返答に満足気に頷くと、バトさんは俺達へと顔を向ける。


「将来有望な冒険者の方と懇意になれる機会に感謝します。どうか、今後ともよろしくお願いします」


 丁寧なお辞儀。

 ああ、きっとこういったところが……商売人として大事なんだろうな。



 ――ということで、俺達の二次試験の依頼はバトさんの護衛と相成ったわけである。

 報酬は一日につき一人1000ダラ。往復二日の予定であるため2000ダラだ。

 パスクムでの宿屋の費用は依頼者持ち。

 魔物や盗賊などを倒した場合の戦利品は護衛で分配。

 大まかにはそんなところだろうか。


 ……一日で稼げる額としてはちょっと少ない気もするが、依頼の種類にもよるだろうし、ここで駄々をコネて和を乱すほど子供でもない。


 ベイスさんについては、今回は無報酬だ。

 給与はギルドから支給されるし、宿代なども経費で落とせるとかなんとか。

 基本的に手を貸さないにしても、いざとなれば実質ランクB相当のベイスさんが無料で護衛につくのだからお得かもしれない。


「そろそろ八時の鐘が鳴る頃ですね。それでは各自用意を整えていただき、九時に西門前へ集合ということでよろしいですか?」

「はい」「うん」「分かった」



 そこで一時解散となり、俺は満腹オヤジ亭に戻ることにした。


「おや、随分とまあ早かったねぇ。結果はどうだったんだい?」

「おっと、これだと俺が作った昼飯はまだ食べられてないようだな」


 フロワさんだけでなく、ダリオさんも厨房から出てくると俺の帰還を労らってくれる。

 ひょっとすると、俺の昇格試験について何気に心配してくれてたりして……?


「いえ、実は二次試験で西にあるパスクムまで行くことになりまして……今日の夜は向こうで宿泊することになりそうです。明日の夜には帰ってくるはずなので、荷物とかはそのまま置いておきます。なので前払いしていた料金はそのまま貰っておいてください」


 既に一週間分程度を前払いしているし、今さら205号室を一日でも他人に明け渡す気なんてさらさらない。あそこは俺の部屋だ。


 部屋に置いてある着替えや念のための治療薬などを革袋に詰め込んだ。ふたたび一階に下りて井戸に向かい、水筒に井戸水を満たしておくことにする。

 さっき激しく身体を動かしたので、ついでに喉を潤しておこう。


 ぷはっ~……そろそろ、行くか。


 食堂へと戻ると、ダリオさんが珍しくカウンターに立っていた。

 いや、この時間帯は料理をすることがないためフロワさんに代わってここにいるのが普通なのか。


「お、もう行くのか。今日の昼飯にはデザートをつけたろう? あれの感想、帰ったら聞かせてくれ」


 やっべぇ……。


「す、すいません。あれ……試験で一緒だった女の子にあげちゃいました……」

「ん? そうなのか。それでどんな反応だった?」

「目の前で食べている姿を見ていると、あげたことを後悔するぐらいに美味しそうでしたね」

「はっはっ、そうか。なら……」


 機敏な動きで厨房に入り、手に何か包みを持ったダリオさんが戻ってくる。


「これを持っていくといい」


 渡されたのは、同じくフルーツパイが二個。


「え!? いいんですか?」

「俺とフロワで食べようと思っていた分だが構わんよ。今日の夜はウチに泊まらんのに料金だけそのまま貰っておくのは気が引ける。遠慮せずに持って行くといい。試験……頑張ってくるんだぞ」


 ニカリと笑って見送ってくれるダリオさん。

 ああ……なんていうか。


 ――守りたい。この笑顔。


「それじゃ、行ってきます」


ダリオぉぉぉっ

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ヒロイン・ダリオ
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