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日だまりの花音  作者: 夕月 星夜


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4/4

3


杏の大きな目は、奇妙に凪いでいた。感情の揺らぎもなく、光のない虚ろに近い昏い瞳。


それを見据えつつ、凪はぬいぐるみを抱え直した。


「ほら、日野宮。こっちへ来い」


それでも少女は動かない。ハサミを握ったまま、男に向いたまま。


不味いな、と内心舌打ちする。

前にとある先生がぬいぐるみを取り上げた時もこうなったのだ。


ちなみにその時はシャーペンを思いっきり先生に突き刺しており、怪我こそなかったが冬用の厚いスーツとベストを貫いたのだ。


今回はさらに殺傷能力の高いハサミ。流石に流血沙汰は不味い。


「日野宮……」

「凪、かせっ」


サッと晴彦がぬいぐるみを取り上げ、杏の前にかざす。


「杏ちゃん、もう平気だよ」


晴彦の口から裏声が出た。合わせてぬいぐるみの手をパタパタと動かせば、ゆるゆると杏の瞳に光が戻る。


「……レイチェル?」


どうやら、このぬいぐるみはレイチェルというらしい。

恐る恐る手を伸ばし、杏はぬいぐるみを抱き締めた。


「レイチェル、レイチェル……っ、ごめんね、ごめんねっ」


嗚咽と共に何度も告げられるのは謝罪。

すっかり我を取り戻した杏の手から、カシャンと音を立ててハサミが落ちる。


それを拾って安心したように凪と晴彦は顔を見合わせ。


「……さて、先輩方」

「ちょっとお付き合い頂きましょうか」


ガシッと男子生徒達の襟首をひッつかむと、ズルズルと職員室へ歩き出した。


「日野宮、行くぞ」


まだ泣いている杏に声をかければ、ゴシゴシと目を擦りながらもついてくる。


その様子が実に仔犬そっくりで、凪はほんの少し笑ってしまった。





ちょこまかと歩く杏と、男子生徒を引き摺る凪達は、はっきり言って悪目立ちしていた。


「……良かったのか?」


ボソッと小さく訊ねる晴彦。何が、と言わないのは、凪に遠慮してか、杏に聞かせない為か。


「良くないが、構わない」


対する凪の返事は苦笑。


「こんな俺でも、誰かを救えるなら」

「凪……」


いつだって自分を否定する凪が悲しい、と晴彦は視線を落とす。

確かに自分達は『普通』ではないけれど、幸せになる権利はあるのだ。

凪はその権利さえも求めず、ただひたすら自分を否定し続ける。


親友として、その姿が悲しい。そう思う一方で、その気持ちも理解出来てしまう晴彦には、かける言葉が見つけられないでいた。




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