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日だまりの花音  作者: 夕月 星夜


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1



一般常識の外に生きる者に愛を願う資格はあるのだろうか?


小野凪は時々己に問いかける。


彼は古より冥官を勤める小野家の末裔にして、現在の冥官である。


冥官、それは迷いし魂の導き手にして、異形を狩る者。いわゆる死神や拝み屋と似たような仕事に感じるが、ひとつだけ大きく違う点がある。


それは、冥府から直々に官吏としての要請があるという事。


だから凪は望むなら三途の川を生身のまま渡り、地獄を歩き回る事が出来る。


そんな凪にとっては、鬼や妖より生きた人間の方がよくわからない。


人間は嘘をつき、ささやかな事で価値観を変えてしまう。心の機微を読み取るというのは、慣れないと難しいものだ。


それに自分の仕事……冥官には危険も伴う。悪霊と対峙し、戦う事もあるのだ。

近づいてきた誰かが巻き込まれた事など、何度もあった。


そんな事が繰り返されれば、かつて友人と呼んだ人々は、そのうち離れてしまう。


わかっていても、それは傷つく行為で。


必要以上に人と関わりたくないと、中学時代から他人と関わるまいとしていた。


前髪で顔を隠し、成績も運動も出来るがあえて目立たない程度に抑える。

制服も着崩しはしないし、部活も委員会も特にはやらない。


それこそ空気のようにひっそりと、凪は生きていた。


「よ、凪」


そんな凪にとって、ただ一人と言っていい友人がいる。今声をかけてきた、安倍晴樹だ。


安倍晴明の子孫である晴樹も、鬼や妖と戦う陰陽師である。

立場こそ若干違うが、共通する部分も多い。


なにより、巻き込まれたとしても晴樹は自分で身が守れるのだ。それゆえ安心して友達付き合いが出来ていた。


「おはよう、晴樹」


ふっと一瞬だけ口元を緩め、すぐ無表情になる。


余計な感情は冥官の邪魔になるからだ。心が揺れては正しい事が出来なくなる。


けれど、晴樹は楽しげに笑う。感情を素直に顔に出せる晴樹を、ほんの少し羨ましく、そして尊敬していた。


「なぁなぁ、聞いてくれよ凪ー」


ふにゃりと顔をにやけさせる晴樹に、またかと苦笑する。


晴樹には幼なじみの許嫁がいる。奈美というひとつ年下の少女で、晴樹とは相思相愛だ。


ノロケ話をいつも聞かされて、けれど凪には不思議で仕方がない。


どうして彼女はイレギュラーを愛せるのだろう?


何度か会った事がある少女の顔を思い浮かべながら何度も問いかける。


ごく普通の、何の力もない少女だ。危険と隣り合わせの陰陽師である晴樹はいわゆる非常識なイレギュラーの存在、なのに何故に愛せるのだろう?


本人達に直接投げかけない疑問。


答えはとても簡単なのかもしれないし、なにより凪にはわからないのだ。


――恋とは、いったいなんだろう?


かつて凪に、愛する人と幸せにと微笑みかけた乙女がいた。


けれど、人だとも言えないような自分を愛する人などいるのだろうか?


そんな不確かなものに期待をしても仕方がないのではないか?


それなのに、乙女の声は三年経った今も色褪せず耳に残っている。


奈美の話をする晴樹の顔は幸せそうに輝いていて、あまりにも眩しすぎて目を細めた。





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