すーぱぁお母さんとピクニック(4)
(10)
草一本生えていない空き地の真ん中に、その建物はぽつんと建っていた。その代わりと言っては何だけれど、地面には赤茶けた落葉が一面に積もって絨毯のようになっていた。
写真を撮って誰かに見せれば、全ての人が『秋』を連想するだろう。そんな佇まいだった。
僕達は、落葉を踏み越えて、中心の建物に向かった。今朝までの大雨で湿気っている所為か、地面からは幾分異臭が放たれている。遠めにも貧相なプレハブの平屋は、あちこちに錆びが浮き出していたけれど、近づいてみたら、そんな見掛けよりは結構頑丈に作られているらしかった。数少ない窓にもシャッターが下りており、内部の様子なんかは僕には分からなかった。僕等のいるところから右手方向に出入り口があるはずだけれど、ここからは死角になっていてよく分からない。
耳を澄ますと、かすかにブンッという音が鳴っているのが分かるけど、妙な事に、僕には音源がこの建物の中じゃないように聞こえた。輝兄ちゃんは、何とかシャッターの奥を覗き見ようと四苦八苦していたけれど、僕には、それが何度も受験失敗を繰り返す輝兄ちゃんを象徴しているようで、何だか哀れに感じた。
父さんとお祖父ちゃんは、何だかぼそぼそと内緒話をしていたようだけど、僕には上手く聞き取れなかった。時々、地面を指差したりしているのは、例の汚染の事かも知れなかい。
「そろそろかのう……」
おじいちゃんが呟くように言うと、父さんはそれに目で応えた。輝兄ちゃんが窓から飛びのくと、扉があるだろう方向に身構えた。それで僕も、何か起こるんだなっていうのがわかった。僕は輝兄ちゃんの背中から、ここからは見えないドアを睨んでいた。
10秒……30秒……1分。……何も起こらない。
いい加減、緊張の糸が切れ掛けていた時、不意に後ろから父さんが輝兄ちゃんの背中をつついた。
「へっ?」
僕達は、惚けたように父さんの方を振り向いた。父さんは握り拳に立てた親指で自分の背後──つまり僕等が見ていたのと反対側を指差していた。ちょっと仏頂面をしている。
「はは、まいったなぁ」
輝兄ちゃんが振り向いて頭を描いた。
それもその筈。父さんの肩越しに、数人の男達が立っているのが見えたからだ。
ドアある方とは反対の側から出てくるなんて卑怯だよな。一見知能的な行動とは裏腹に、男達は揃いも揃ってチンピラの制服ともいえるような出で立ちをしていた。
中でも一番頭の悪そうなやつが、腰から特殊警棒を引き抜くと、
「よう、兄ちゃんたちぃ。あんたらぁ、ここで一体なにやってんだぁ。ここぁ、ガキやジジイの来るとこじゃぁないぜい」
と、ガムをくっちゃくっちゃさせながら言うと、こちらにしゃしゃり出ようとした。それを、先頭のサングラスが軽く左手を挙げて制した。
多分、こいつがリーダーだろう。カーキ色の綿シャツに濃いグレーのジャケットを羽織っている。短髪にサングラスのこの男は、チンピラを卒業してヤクザの仲間入りをしたばかりと言った風情だ。もっとも、どっちも五十歩百歩だけど。
「すんませんなぁ。ここは、私有地なんですわぁ。一般の方は出て行ってもらえんでしょうか」
なんだかバカ丁寧にしようと努力している様が、妙におかしくさえ思える。
「私有地ですか?」
父さんが応えた。
「はぁ、そうなんですわ」
「それは知らなかったなぁ。標識も何もなかったもんですので、てっきり公共のものだと思いましたよ。県か何かのねぇ」
最後の言葉に、サングラスが一瞬眉をひそめるのがわかった。
「どっちにしても、ここは立ち入り禁止なんですわ。はよう出てってくれませんかのう」
「それなら仕方ないですが……。我々は道に迷って仕舞いまして、ようやくここに出てきたところなんですよ。一体どっちに行けばいいのやら、途方に暮れていたところです。それに、もう歩き疲れてしまって。出て行くのはいいですから、しばらく休ませてもらえないでしょうか? 子供や老人もいる事ですし」
父さんは以上を如何にも棒読みといった調子でサングラス達に言った。その後ろで、おじいちゃんがわざとらしく尻餅をつくと、「いやもう、くたびれてくたびれて」と言いながら、水筒のお茶をちびりちびりとやり始めた。
遠目にもサングラスの頬が引きつってるのがわかる。気持ちは充分すぎるほどわかるけど、こんなんで切れちゃうのは、まだまだ小物の証拠だね。
「てめぇら、下手に出てりゃぁ付け上がりゃがって!」
最初のガム男の方が、先に切れた。
「おめぇは、ひっこんでろ! 何度言ったら分かるんだっ」
サングラスは一喝すると、
「すんません、御見苦しいところを。……ですがねぇ、決まりは決まりなんですわ。お疲れのところ、申し訳ないんですが。あぁと、ほれ、あっちが出口なんで」
そう言って、道路とは反対方向へ顎をしゃくった。
「あっちには道なんてないですけどぉ」
父さんは、少し怯えた調子で応えた。まぁ、演技ってのはわかってるけどね。
「心配はありゃぁしません。ちょびっとだけ歩いて貰えれば、直に登山道に出ますんで。……なんだったら、うちの若いモンに案内させましょうか?」
そう言うサングラスの後ろで、チンピラ達がニタニタしていた。
「まぁ、うちの連中は、ちぃっとガサツなんばっかですんで、丁寧な道案内はでけんでしょうが。まぁ、この辺の地理は詳しいんで、安心はできますよぉ。のう」
サングラスもにぃっと口の端で笑うと、そう付け加えた。
「へっへっ、迷わず送ってやるぜぃ」
「どことは言わねぇがよぉ」
「なんだったら、荷物も持ってってやろうかい」
さらに、野次がとんでくる。どうしてこういった類の奴等はこうも品性下劣なんだろう。保健所で捕まえて、ちゃんと駆除しておくようにいっとかなきゃな。
「ああ言ってますが、どうします」
父さんは、その気もないくせに、わざとらしく脅えたようにして、お祖父ちゃんに訊いた。
「やじゃよ。わしゃもう疲れたんじゃ。一歩も歩けんわい。あそこで休ませてもらわんと、動けんわい」
お祖父ちゃんもお祖父ちゃんで、我儘な老人よろしく、駄々をこねてみせた。
「なんだぁ、ジジイ。なんだったら、ジジイだけ置いてってもいいんだぜ」
「老いぼれがいなくなって、せいせいするだろうなぁ」
またも野次が飛んだ。
「年寄りを粗末にすると、バチがあたるぞぉ」
おじいちゃんが低い声でいうと、奴等の何人かの顔色が変わった。
「ばっ、バチって何だよ」
「老いぼれのいうことなんざ、こ、恐くねえぞ」
野次る声がやや震えていた。
「身に覚えのあるのもおるようじゃ。クックックッ、……恐いのかのう」
お祖父ちゃんの言葉に、チンピラ達もシンと静まった。事情を知らない筈のサングラスの顔にすら、冷や汗が浮かんでいる。
「……あ、あんましゴタゴタぬかしてると、痛い目をみるぞ。五体満足なまま帰りたかったら、とっとと出ていきな」
虚勢を張るように、サングラスが吐き捨てるように言った。ここに来て、地が出てきてしまったようだ。どこまで行っても、チンピラはやっぱりチンピラだ。
「出て行くのは別に構いませんが、そうまで言われると逆に何だか妙に聞こえますねぇ。人に見られちゃ困るモンでもあるんですかねぇ」
父さん、またも棒読みだ。サングラスのこめかみに血管が浮き出ている。あっ、切れるかな。
「さっき、ここは私有地との事でしたけれど、確かここは県の所有地の筈ですよ。そこに勝手にこんな建物を設えるのは違法じゃないんですかね」
「…………」
お、耐えてる耐えてる。結構、芯は強いのかな?
「しかも、違法建築だ。消防法じゃ、こんな部屋は許されてない筈ですがね」
そういうと、父さんは左足で軽く地面を2・3回叩いた。
「……てめぇら、やっぱり、あん爺ぃのまわしもんだなぁ」
サングラスが、声を絞り出すように言った。
「さぁて、何の事でしょうかぁ」
「とぼけるんじゃねぇ。ここへ向かってる時から妙だと思ってたんだ」
「ふぅん、「ここへ向かってる時から」ねぇ。どうやってどこから見てたんですかね? 不思議ですねぇ」
「う、うるさい、そんな事はどうだっていい! さっさと、出て行け」
「ほらほら、そんな言葉遣いじゃ、また叱られますよ。……ほら、言わんこっちゃない。行儀良くしないから、怒られた。怒鳴り声がこっちにまで、聞こえてきましたよ」
父さんは人差し指で耳をほじりながら、そう言った。しかし、サングラスの男は勿論、誰も怒鳴った人なんていなかった。
「人が叱られるのを横で見てるのは、あんまり気分のいいもんじゃないですね。ねっ、羽山くん」
最後のは、きっとサングラスの本名だろう。
「あのサングラスに、スピーカーとマイクが仕込んであるんだよ、きっと」
輝兄ちゃんが、そっと僕の耳元に近寄って小声で教えてくれた。まぁ、言われなくても、焦ってしきりにサングラスをいじってる『羽山くん』の様子を見れば、普通わかるもんだよ。
でも、羽山の連れは、まだ飲み込めていない様子だ。きょとんとして、焦っている羽山を不思議そうに見ているだけだ。う〜ん、そこまで頭悪いかぁ。もしかして、脳味噌つまってないんじゃないのかな。
「まぁまぁ。ソレは壊れてないから。……おやおや、そんなに急がせるところを見ると、何か差し迫った用事があるようですね。例えば、『大事な人がやってくる』とか」
父さんは、もう既に眼前の羽山とは話していなかった。
「図星ですか。さぁて、ならどうするんでしょうか?」
父さんの質問に応えたのは、羽山なのか? それともその向こうで指示している誰かだったんだろうか。
「……や、やっちまえ。おめぇたち、こいつらを生かして帰すんじゃねぇ!」
あまりにテンプレ通りの台詞を合図に、チンピラ達は僕等に襲いかかってきた。
(11)
「オレぁ、さっきからうずうずしてたんだ」
こう言ったのは、この暑いのにダブダブの黒い皮ジャンを着込んだ男だった。その不自然な服の膨らみから、何かしら隠し持っているらしい事が判る。
「おとなしく帰ってりゃ、痛い目をみなんだのにな。今更、後悔しても駄目だぜい」
これは、最初にしゃしゃり出てきたガム男だ。やつは、そう言うなり、噛んでいたガムを地面に吐き出す。他の男達も、ニタつきながら僕等の方にゆっくり歩いて来る。連中は、リーダー格の羽山を除いて、7人。取り敢えずは素手だ。サングラスの羽山は、連中の後ろで傍観している。情報を伝える必要からだろう。
こっちの戦力は、老人1人と子供1人を含む4人。傍目には圧倒的に不利だ。奴等も当然そう思っていたに違いない。
「やれやれ、しようがないな。……輝久くん、ちょっと手伝ってくれないかな」
父さんは、さもうんざりした様子で輝兄ちゃんに話しかけた。
「えっ、いいんですか!」
「何だったら、全部任せてもいいよ」
「わしも、手伝おうかい?」
「遠慮しときます。かえって不自然でしょう」
本当なら、父さん一人でおつりがくるのだろうけれど、輝兄ちゃんに助太刀を頼んだのは、適当なところで手加減をするのが面倒だからだろう。
極端に圧倒的な強さを見せてしまうと、サングラスの背後の誰だかを警戒させて仕舞うと言うこともあるに違いない。かといって、適度な強さに加減をするのは、高層ビル解体用の巨大鉄球で生玉子をつぶさずに殻にヒビだけを入れようとするようなものだ。父さんには辛くて面倒なことだろう。
残念ながら、今回はお祖父ちゃんは見学だ。喧嘩の強い老人と言うのも目立ってしょうがないものね。僕も戦力外だからパス。
と言うことで、父さんと輝兄ちゃんが、僕達の代表と言うことで前に出た。
「庄クン、ちょっとこれ持っててよ」
輝兄ちゃんが上着を脱いで僕に渡した。
「輝兄ちゃん、やる気万々だね」
「うん。たまには、いいところを見せないとね」
「そうだね。見てるから頑張ってね」
「おう、任せとき」
そう言って、輝兄ちゃんは肩を回しながら進み出た。
輝兄ちゃんの強さは、以前のコンビニ強盗事件で実証済みだ。残念ながら相手が人間じゃなかったから勝負には負けちゃったけれど。でも、その辺のチンピラなら、何人でかかってこようと相手になるはずがない。もっとも、素手でという条件付きだろうけどね。
「へへっ。後悔すんなよぉ」
「お手柔らかに」
父さんが言ったのはチンピラ達ではなくて、ひょっとすると輝兄ちゃんにだったかも知れない。『やりすぎるなよ』って事だろう。
まず、合図もなしに、先頭の二人が父さん達に殴りかかってきた。全員で来ないのは、ナメている証拠だ。彼等が拳を繰り出そうとした次の瞬間、二人は地面に這いつくばっていた。実際には、殴りかかろうとしたところを、父さんに『軽く』はたき落とされただけなのだが。それがあまりにも一瞬の出来事なので、傍目には彼等が空気にでも踏みつぶされたように見えるのだ。当事者にしても、何が起こったのか分からなかったに違いない。
「? て、てめぇ、……よ、よくも、やりやがったな」
一人は落葉の切れ端を、顎にぶら下げながら立ち上がろうとしていた。もう一人は、そのまま地面の上でうめいている。
一方の父さんは、『しまった』と言う顔をしていた。本当は一発ぐらい殴らせるつもりだったらしい。ちょっと肩をすくめると、
「後は任せていいかな?」
と、輝兄ちゃんに言った。
「いいともっ」
そう言うなり、輝兄ちゃんは起き上がり掛けたのを踏みつけざま、残り5人の集団の中に飛び込んで行った。
「てんめぇ、よっくもやりゃぁがったなぁ!」
罵声をあげて、5人のチンピラが迎え撃った。
「とおっ」バキッ
「たぁ」ボグ★
「どりゃっ」メシ
「おりゃ」ドカ☆
流石輝兄ちゃんだ。一人に一発ずつ、合計4発で4人がその場に沈んだ。
「き、きっさまぁ、よくも……」
最後に残った皮ジャンが、懐から何か取り出そうとするより速く、
「喰らえ! 今っ、必殺のをっ、ナックル・バスター!」
が、決まった。と言っても、結局はただの右ストレートなんだけどな。どうにかなんないかね、あれ。
「わーはーはー。どうだぁ、参ったかぁ」
普段は下っ端として虐げられている所為か、はたまた久々にストレスを発散させられた為なのか、輝兄ちゃんは右手を高々とあげてVサインをしていた。
「どう、どう、庄クン。格好良かっただろう?」
誇らしげな輝兄ちゃんに合わせるため、僕とおじいちゃんは「うんうん」と相槌を打ってあげた。
「あのなぁ、……もちっと手加減してやれよ、かわいそうに」
父さんが、額を掌で押さえながら言った。
「ちゃんと手加減してますよぉ。行動不能にしただけで、意識は残してるじゃないですかぁ」
そう言えば、最初に踏みつぶされたのも含めて6人とも地面の上でうめいていた。
「いてーよ、いてーよ」
「あ、あにきぃ、たすけてくれよぉ……」
「うえ、いてー」
うん、確かに気絶するほど殴った訳じゃないけど……。
「だから、それがかわいそうなんじゃないか。君なら、ちょっと当身を入れるだけで、簡単に気絶させられたろうに」
父さんの言う通りかもしれない。いつまでも痛い思いをさせるよりも、気絶させる方が親切なのかもしれないな。
「こいつらにそこまでしてやるなんて、まっぴらですよ」
輝兄ちゃんは、今朝の奴等の態度も含めて、よっぽど頭に来ていたらしいな。でもねぇ。
「でも輝兄ちゃん、それじゃあ弱い者虐めだよ」
「ええっー。庄クンまでそんな言い方するのかい。ひどいなぁ」
「まぁまぁ、いいんでないかい。それよりも、いつまでもあやつをほったかしにしといては、それこそ『かわいそう』じゃないかい」
あっ、そうだった。うっかり羽山くんの事を忘れるところだった。
「そうそう、こいつね。……ねえ、どうします?」
輝兄ちゃんは、羽山くんの方をチラチラ見ながら父さんに訊いた。
当の羽山くんは、さっきから何も言えずに立ちすくんだままだった。冷汗まで滴らせているのは、彼我の力の差を思い知ったためだろうか?
「道具があれば何とかなる、と思ってたかい?」
お祖父ちゃんが言ったのは、今、羽山の口の端からボロボロとこぼれ落ちている銃弾の事なのかもしれない。
「胃袋の中に直接突っ込んでやってもよかったんじゃがのう。クックックッ、それじゃぁあんまり『かわいそう』だしな。わしも『弱い者虐め』はしたくないし。……のう、庄坊や」
そうは言われても、お祖父ちゃんのやってる事も、輝兄ちゃんに負けず劣らずの弱いものいじめだと思うぞ。僕の考えを知ってか知らずか、お祖父ちゃんはつかつかと羽山に近寄ると、奴を下から見上げながらこう言った。
「さあて、わしの言いたい事は分かっとるかな」
羽山は応える事が出来なかったが、必死の形相で首を縦に振っていた。
「わしはなぁ、もう歩き疲れとんのじゃ。休ませて欲しいんじゃが。……よろしいか?」
お祖父ちゃんは、飽く迄も優しく言っていたが、羽山にとっては拷問にも等しかったろう。自分の常識の範疇を越えた何かに立ち向かうには、彼はあまりに無力だった。虎の威を借りて乱暴狼藉を働くしか能のない奴には、そんな気さえ起きなかったに違いない。
「どうせ、中の奴にはバレバレなんですから、こんなのはササッと始末して、押し入っちゃいましょうよ」
輝兄ちゃんが物騒な事を言った。羽山の顔色が変わる。
「輝兄ちゃん、それじゃあ、どっちが『ヤ』の付く人か、わかんなくなっちゃうじゃないか。もうちょっと、穏やかに出来ないかなぁ」
「ま、そりゃそうだわな」
「え〜。そりゃないですよ。いっつも俺ばっか悪者にされるんだから……」
僕やお祖父ちゃんに言われて、輝兄ちゃんはとうとういじけてしまった。ちょっとかわいそうかな。
「まぁまぁ、今回は輝久君も頑張ったんだし」
父さんがとりなしたが、輝兄ちゃんは、やっぱり未だいじけている。
「……ま、少なくとも、そこの彼が用無しなのは間違いないな」
「え? どういう事」
僕が父さんに訊いた瞬間、幾つもの銃声が鳴り響いた。
「つまり、こう言うことさ」
事も無げに答える父さんの左手の先には、ついさっきまで羽山だった肉のカタマリがぶら下がっていた。