最強!拳一つで国を作った男
世界最強ってかっこいいですねぇ
武蔵も千鶴の行動に苛立ち、今にも刀を抜きそうな気配を見せていた。
店長が涙を拭い、言葉を続けようとしたそのとき、料理人のような服装をした者たちと兵士の一団が現れた。
「やっと来たか」
ヴァレンスは寿司を置いて店長に優しい笑みを浮かべる。
「彼らを店に入れても構わないか?」
王の言葉に客たちは気を遣い、静かに席を立とうとする。
だが、武蔵の低く重い声が空気を裂いた。
「ならぬ。」
店長は気まずそうにヴァレンスと武蔵を交互に見つめる。
「ならば、一緒に外で話をしよう」
ヴァレンスは静かに武蔵に歩み寄り、軽く頭を下げた。
その光景に客たちはどよめいた。
王が頭を下げる。そんな光景は誰も見たことがなかった。
無言のまま武蔵は席を立ち、店の外へと歩み出る。
「話というのは何でござるか」
料理人たちも兵士たちも、武蔵の圧に飲まれ言葉を失っていた。
ヴァレンスが一歩前に出て、まっすぐ武蔵を見据えた。
「頼む。この店を辞め、我が国の専属料理人になってくれぬか」
その場の空気が一変した。周囲の人々が息を呑み、静寂が広がる。
しかし、武蔵の目には冷たさが宿っていた。
「お主は王なのか?」
ヴァレンスは胸を張り、ゆっくりと周囲を見渡した。その顔には確かな誇りがあるように見える。
「ああ。この国は、今や世界一の国だ」
一呼吸置いて、声の熱がわずかに増す
「だが、私は満足していない。もっと良い国にしたい。そのために、武蔵殿の力が必要なんだ。」
周囲がざわつき始める。王の熱意に、誰もが心を動かされたようだった。
しかし、武蔵はゆっくりと背を向けた。
「今のお主に、王の資格はない」
その場が凍りつく。
「なんだと?」
一瞬で距離が詰まり、ヴァレンスが目の前に立ちはだかる。
「今の言葉、いかに武蔵殿といえど、見過ごすことは出来ないぞ」
視線がぶつかり合う
ヴァレンスの目が鋭さを増す。周囲は緊張に凍りつき、誰も動けない。
武蔵の足は止まったまま。視線だけを向ける。
「もう一度言おう。今の様に、王の資格はない」
その瞬間、ヴァレンスの身体から莫大な闘気があふれた。ただ立っているだけなのに、周囲の空気が圧でゆがんでいく。
「やめてください!!」
店長が割って入る。全身が震えていた。ヴァレンスの視線が、ほんのわずかに揺れる。
やがて、肩の力が抜け、闘気がすっと引いていく。
「もう一度、話をしよう。」
ヴァレンスは兵士たちと共に去っていった。
足音が遠ざかるあいだ、誰一人として声を発さない。ただ、人々の視線が静かにその背を追い続けていた。
「武蔵さん、王様ににそんなこと言っちゃダメですよ」
店長は困ったように注意した。
「すまぬ」
武蔵は素直に頭を下げる。店長は小さく頷いた。
「分かってるなら大丈夫ですけど。」
そこへ、ルージェが割って入る。
「武蔵さん、あの人が誰か分かってますか?」
その口調には、わずかな焦りがにじんでいた。
武蔵は首をかしげる。
「あまり知らぬでござる」
ルージェは深いため息をついた。
「あの人は、この世界で一番強い人ですよ。どんなことも拳ひとつで解決してきた、"最強の人間”です」
カイザー・ヴァレンスの伝説は数多い。国を一瞬で滅ぼすドラゴンを一撃で葬り、空に潜む雲の巨人の角を吹き飛ばしたという話もある。
その拳は、あらゆるものを貫く。だからこそ、世界の人々は彼をこう呼ぶ。
「伝説の拳」とー
武蔵は店内を見つめたまま、じっと話を聞いていた。
ルージェは腕を組みながら言葉を続ける。
「たぶん、あの人に喧嘩を売ったの武蔵さんが初めてですよ」
「みんなに迷惑をかけたな。すまぬ」
武蔵はもう一度、丁寧に頭を下げた。ルージェは無言でその姿を見つめる。
「私は別にいいですけど困るのは、武蔵さんの方ですよ」
武蔵はわずかに微笑を浮かべる。
「あの男は、王として未熟。ゆえに心配は無用」
それだけ言い残し、武蔵は厨房へと戻った。レシピに目を落とし、静かに包丁を握る。まな板の上で刻まれる音だけが、店内に静かに響いていた。
ルージェは、その姿から目を離せずにいた。
「あの人の強さは想像できないくらいやばいんですよ」
翌朝、店の外には騎士団が列をなしていた。
その中央で堂々と馬にまたがるのは騎士団長のグレイ・ヴァルク。
店長は慌てて駆け寄る。
「もしかして、武蔵さんの件でしょうか?」
騎士団長は、気まずそうに頷いた。
「ああ。王に対して無礼な発言をしたと聞いた。」
店長は額の汗を拭いながら、視線を逸らす。
「はい。王に向かって、”貴様に王の資格はない”と。」
団長はふっと笑みを漏らす。
「そうか。やはり武蔵殿は気づいておられたか。」
店長は眉をひそめた。
「なにか、ご存知なんですか?」
「いや、何も。ただ、もしかしたら武蔵殿にしかできぬことかもしれんな。」
店長はその曖昧な言葉に何とも言えぬ表情で団長を見つめた
読んでいただきありがとうございます!!いいねと感想待ってます!!