神業!伝説の解体ショー
小学生の頃に寿司屋で解体ショーを見たの懐かしいわ。
「ここか?」
冒険者の男が店の前で立ち止まる。
「ああ、ついに見れるぞ」
入口の前には、客がぎっしりと押し寄せていた。
「早く食べさせてくれ!」
「食事するってレベルじゃねえぞ、おい!!」
まだ開店していない。けれど、熱気だけは、この場を覆い尽くしていた。
「皆さん、もう少しで始まります!しばらくお待ちください」
「そこの方、押し合わないでください!」
スタッフの声が人波に飲まれる。誰も耳を貸さない。
群衆は店の入口を取り囲み、一歩も動かず立ちつくす。
入口の前で、女性の店員が眉を寄せる。
「店長、このままだと武蔵さんが出られません」
「そう言われてもなあ」
店長が苦笑いしていると、店内の空気が変わった。扉が勢いよく開く。
巨大な魚を乗せた台が、ゴロゴロと転がり出てくる。
その背後から、一人の男が歩み出た。
侍姿の男。その足取りに、誰もが息を止めた。ちょんまげを結い、腰に刀を差し、無言で群衆を見渡す。
男の名は武蔵。
動かない。喋らない。だが、確かにそこに立っている。
圧倒的な気配に、場の空気が一瞬で変わった。
ざわめきが、歓声に変わる。
「この日のために、家を捨てたんだ!」
「武蔵、俺の魂も捌いてくれ!」
「武蔵の料理を食べられるなら、私は王を辞めてもいい!!」
武蔵は日本刀を手に取り、静かに巨大な魚を見据えた。
その目線だけで空気が張り詰めていく。
息をするのも忘れる。
観ている人達まで、斬られそうで震えた。だが、その震えさえ心地いい。
武蔵が一歩、踏み出す。
「カーーーツ!!」
一閃。
刀が振り抜かれた瞬間、巨大な魚は音もなく三枚におろされていた。
「おおおおお!!!」
割れんばかりの歓声が沸き起こる。
さっきまでの静寂が、まるで幻だったかのように。
熱狂が場を飲み込んでいく。
だが武蔵は騒ぎに目もくれず、すぐさま動いた。
武蔵は日本刀を静かに拭い、鞘へと収め、台の引き出しから小さな包丁を取り出す。
切り分けられた身から、赤身、中トロ、大トロを瞬時に見極め、迷いなく手際よく分けていく。
切り出された刺身は、手のひらの上でわずかに震えるほどに薄く、美しく輝いていた。
その光景に、観衆の一人が耐えきれなくなる。最前列にいた男が、地面に膝をつく。震える声で天を仰ぎ、手を組んだ。
「なんて素晴らしい。これを芸術と言わずして、何と言えばいい!」
涙をこぼしながら、神に祈るように頭を垂れる。
ただの料理のはずだった。だが、武蔵の手にかかれば、それは祈りとなり奇跡となる。
静まり返る群衆の中、誰かがかすかに声を漏らした。
「神だ。神が降臨なされた。」
人々は、その調理の中で神の姿を見た。
「この人たち、大丈夫なんですかね?」
女性の店員が店長に小声で尋ねる。
「まあ、見ていなさい。いずれ君にもわかる時が来るさ」
店長は目尻をぬぐい、かすかに笑みを浮かべた。しかし、その頬には涙の跡が残っていた。
(もうやめようかな、この店)
ため息まじりに武蔵の手元へ視線を戻した
湯気の立つ桶に、炊きたての白米。そこへ酢を回しかける。
木べらが、米をなぞるように動く。腕をひと振りするたび、立ちのぼる湯気に酢の香りが混じっていく。
それは甘くもなく、辛くもない。だが鼻を抜けた瞬間、誰もが言葉を失った。
だが、1人の男がその沈黙を破る。
「この香り、もしかして。」
別の観衆が、息をのむ。
「まさか、“幻の香”!?」
さらに別の者が叫ぶ。
「五百年前に絶えたとされる、伝説の香りじゃないのか!」
それは、かつて”天下の台所”と呼ばれた幻の調理場で、ただ一度だけ漂ったという、神にすら届いたとされる奇跡の香りだった。
「今すぐ王国の調理人を呼び寄せよ!」
カイザー・ヴァレンスはその声に力を込め、騎士たちを急がせた。
「これは後世にまで語り継ぐべきものだ!」
観来たちは王の存在に気づきざわついた。
しかし、そのざわめきもすぐに消えた。
誰もが、静かに木べらを動かす武蔵の手元に見入っていたからだ。
手を水で濡らす。米をひとつかみ、わずかに力を込めて楕円に整える。
無駄がない。
まるで型で抜いたように、完璧なシャリが次々と生まれていく。
「なんだ、あの形は。」
群衆のひとりが、新たな発見に心打たれたように声を漏らす。
「静かにしろ!神の調理を邪魔するな!」
すぐさま別の観客が食い気味に制した。
武蔵はわさびを指先ですくい、切り身のに忍ばせる。
赤く透き通る切り身を、そっとシャリの上にのせた。
寿司が完成した。
誰も言葉を発しない。
その一貫を前に客たちは、ただ見つけたままだった
それは、もはや料理ではなない。
斬られた一太刀のように、無駄が一切ない
"技”だった。
「完成でござる。これば"マグロ寿司”と申して、拙者の国ではよく食されておったものでござる」
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