領主就任
「マチルダ・ランドハルト・アイシクリアをワーダル地方領主に任ずる」
式典用に誂えられた会場に響き渡る、父である国王の声。
大臣を初めとする臣下達に見守られる中、妾は静かに任命状を受け取る。
「謹んでお受けします」
片膝をつき、父の署名の入った任命状を受け取る。
「領主任命おめでとう、マチルダ」
第二王子である兄のレイスをはじめ、八人の兄姉が妾の出世を祝う。
「ありがとうございます、兄上姉上」
頭を下げ、兄姉にそう返す。
腹違いの兄姉ではあるが、妹の妾には優しくしてくれる。
任命式を一通り終え、控室に戻る。
儀礼用の帽子を外し、一息つくと、壁に立て掛けていた剣を手に取り、鞘から引き抜く。
曇り一つない刀身に顔を映す。
「は~あ、狩りに行きたいのう」
室内にため息を響かせながら、一枚のカードを懐から取り出す。
『上位ハンター マチルダ・ランドハルト・アイシクリア』
人の身の何倍もあるモンスターと呼ばれる生物から人々を守る専門職業、ハンター。
国政を担う王女の身でありながら、強すぎる冒険心を抑えきれず、父の反対を押し切ってハンターになった。
王城内では決して見る事も叶わない動植物。
平民のハンターと肩を並べて共にモンスターを狩り、身分の差を超えて勝利の喜びを分かち合う。
王女という隔絶された環境にいた妾にとって、それらの体験はすべてが刺激的でまばゆいものであり、民たちも王女自らが国民のために命を賭して刃を振るう姿に感銘を受け、副次的に王室への支持が集まることとなった。
そして先日、数々の実績からハンターの中でも選りすぐりの精鋭である上位ハンターに昇格した。
その矢先にこれである。
考えなくてもわかる、領主にすることで国民を納得させつつ危険なハンター業から遠ざけるつもりだろう。
今まではハンター業の片手間にこなせる程度の仕事量ではあったが、領主になれば大きな責任を負うことになり、仕事量も当然ながら激増する。
当然、職務を放棄して勝手に狩りに行くことは許されない。
「父め、妾の狩りを邪魔をするつもりじゃろうが、思い通りには行かぬからな…」
心中に湧き上がる父への怒りを抑えながらも、従者の用意した牽引車両に乗る。
大きな車輪がゆっくりと回り、景色がゆっくりと動く。